スタートアップが実践する、ITエンジニア不足の解決策を聞いてきた

hrnabi

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Roddy Keetch

ITエンジニア不足が深刻だ。せっかく優れたアイディアがあっても、それを実現するにはエンジニアの力が不可欠。大手企業もさることながら、特にスタートアップにとって、優秀なエンジニアの獲得は容易ではない。

報酬面で大手に勝てないスタートアップはどうすればエンジニアの共感を得られるのか? 非エンジニアがエンジニアを採用する難しさは? こうしたスタートアップ共通の課題をテーマにしたイベントが10月1日、渋谷KDDI∞Labo(ムゲンラボ)で開催された。

スタートアップのエンジニア三重苦をいかに解消するか?

イベント冒頭、スタートアップには、エンジニア獲得にあたって、「会社が知られていない」「おカネがない」「(エンジニアが見つからない、あるいは定着しないため)事業が進まない」という3つの課題があると指摘したのは、ソフトフロント取締役の佐藤健太郎氏だ。

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ソフトフロントはスタートアップ向けにコワーキングスペースを提供しているが、技術やおカネがないスタートアップの開発を請け負うケースも。その対価は、株式を受け取って行っているのが特徴の1つだ。まさに、スタートアップが直面する課題と日々向き合っていると言えるだろう。

佐藤氏に続いて、サービスのプレゼンテーションを行ったのが、クラウドワークスの開発担当取締役の野村真一氏だ。

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会員数22万、クライアント数4万、仕事依頼総額150億円以上、など既に日本を代表するクラウドソーシングサービスとなったクラウドワークス。そこでのエンジニア不足解消のヒントになる特徴的な事例とポイントが紹介された。

モバイルサイトの構築にあたって、時給制で遠隔地のWebエンジニアに発注するという、いかにもクラウドソーシング的な例から、「1人当たり週10時間」と稼働時間を決めて、スキルの高いエンジニアの空き時間を有効活用できた例など、継続的にエンジニアのリソースを確保した例も示された。

キーワードは「雇用+クラウドソーシング」だと野村氏。発注や品質管理などはやはり社内に常駐するエンジニアが行った方が良い反面、従来のSIerでは機動的な対応が難しいプロジェクトでも、クラウドソーシングならば実現できる。それは、スタートアップでも有効に活用できる手法なのではないか、という訳だ。

報酬ではなく共感に訴えよ

続いてプレゼンテーションを行ったのは、ウォンテッドリー取締役CTOの川崎禎紀氏。氏が強調するのはスタートアップがエンジニア採用を行う際には、チームやビジョンへの共感が重要だという点だ。

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「Wantedly(ウォンテッドリー)」は、会社(現在利用企業数はスタートアップや中小企業を中心に約4000社)と働く人をマッチングするサービス。おカネ(給与や職歴)ではなくビジョンによってマッチングを行うのが特徴だ。月間千人以上が興味を持ったオフィスを訪問(これをウォンテッドリーでは「遊びにいく」と表現している)。また、エントリーの際、Facebookを利用しているのも大きな特徴で、エントリーする側だけではなく、される側もソーシャルグラフを通じて互いの事を知り、交流することになる。

どうすればスタートアップはエンジニアの共感を得られるのか? 川崎氏は一例として、「たとえプログラム経験がなくても、自分でコードを書いてみる」という提案をする。創業者の仲暁子氏がまさにそうで、「何故動いているのか分からない不思議なコードだった」と振り返りつつ、自身もその姿勢に共感を覚えたと語った。報酬面では敵わないグーグル出身のエンジニアも参画することになったという。

スタートアップのエンジニア採用はこうすれば上手く行く

イベント最後のパートでは、上記3社(ソリューション提供側)に加えて、現在スタートアップとして事業を展開している2社の代表(ライブ中継型の学習塾アプリ「アオイゼミ」を展開する葵代表取締役塾長の石井貴基氏<写真上>と、販売・PRなどミュージシャンの音楽活動を支援するプラットフォーム「Frekul」(フリクル)を展開するワールドスケープ代表取締役社長の海保けんたろー氏<写真下>)も参加し、パネルセッションが行われた。

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以下、ソフトフロント佐藤氏や会場からの問いかけに対する、登壇者のコメントを紹介する。

――エンジニアの雇用はなぜ必須?(佐藤氏)

海保氏「サービスを作って終わりじゃないので必須で、スピードの観点から社内にいなければいけない」

野村氏「スピードだけならクラウドソーシングに軍配も。ただ長期的な安定サービスを提供するためには雇用された人材が必要だと思う」

石井氏「自分はもともとデザイナー。デザインから仕様を起こすことが多いので、フィーリングがあうエンジニアが必要。アウトソーシングできる部分もあるが、展開するプラットフォームごとに一人ずつは雇用が必要だと考える」

――エンジニアではない人間がエンジニア採用する難しさとは?(佐藤氏)

海保氏「(元ドラマーの)自分自身に全くエンジニアとしての素養がなく、実力の見極めは難しかった。職歴や経歴をなんとなく信じるしかなかった。2人目が入って、ようやく『あ、この人の方がすごい』ってなることも(笑)」

石井氏「最初に雇用した3人が偶然『天才』だった。自分は幸運だった」

野村氏「基本的にはエンジニアが判断すべきだが、知り合い・友だちに見極めを頼むという手もある」

川崎氏「人づてというのは確かに大事。ある程度のリファレンスがそこで確認できる」

海保氏「おカネをスキルに応じた、正当な額を支払わないと、立場が逆転してしまう。最初はそれで失敗した」

――品質のレビューや見積金額が妥当かどうかの評価はいかに行うか?(会場)

海保氏「僕は要件定義が甘くて当初苦労したが、資金調達後はエンジニアを雇い、きちんと行えるようになった。雇用した人は『こちら側』の人間として、相場感や業界の常識なども教えてくれた。それが物差しとなった」

野村氏「宣伝になってしまうが、そういう時にクラウドワークスは便利(笑)。おおよその相場感を集まってくる見積もりで把握することはできる」

――人材獲得では報酬や開発環境の良さが重要では?(会場)

海保氏「スタートアップは大企業・成長企業には、そういった条件面ではどうやっても勝てない。やはり、ビジョンとか思いへの共感が大事で、そこで一点突破を図るしかない」

川崎氏「僕もウォンテッドリーに移る際、報酬は前職の3分の1になった。開発環境も大企業にはかなわない。そして、ビジョンへの共感が大事だというのは強調したい。プロダクトやサービスはスタートアップでは得てして変化していくものだから」

野村氏「クラウドワークスに参加したのは代表の営業力をリスペクトしたから。一緒にやったら上手く行くと思った。そして、おカネはケチらない方がいい。できればエンジニアが提示した言い値は値切らない方がいい」

石井氏「ハングリーさがないとこの業界に来ちゃだめだと思う。その上で、根幹のところで共感できるかが問われると思う」

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――最後に一言ずつ(佐藤氏)

海保氏「繰り返しになるがビジョンが大事。そのビジョンが独りよがりではなく、世界にアウトプットできるかどうかを常に問い続けたい」

石井氏「自分はまだもがいているところ。たとえ外注であっても、自分の仕事としてやってくれるように持っていくことが大事だと思っている」

川崎氏「ビジョン・共感以外のところだと、互いのリスペクトが重要。入社前に1週間くらい一緒にプロジェクトに参加してもらうといった活動を通じて、それを培っていくという手法もとっている」

野村氏「思いを打ち出して行くのが大事。スタートアップはそれが唯一の武器であることも。そして、採用のための手段を選ばないことも大事。自分の場合はTwitter経由の採用だった。エージェントやメディアにこだわらなくても雇用の機会はある」

1時間半のイベントは、エンジニア採用やそのリソース獲得のためのヒントに溢れていた。KDDI∞Laboでは、今後もスタートアップ支援をテーマに様々な催しを行っていくという。関心を持った読者は、公式ホームページや、Facebookファンページをチェックして欲しい。