魔導国の日常【完結】 作:ノイラーテム
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●威力偵察に向けて
それから暫くした夜のこと、帝国経由でワーカーからの詳細情報が送られて来た。
遺跡目当ての独断専行や失敗を問題にせず、少しでも意味のありそうな情報を買い取ったところ少しだけ判ったことがある。
強いモンスターである幽霊船・幽体群・青銅巨人のうち、一つの情報が埋まったのだ。
酒場に集まった冒険者たちは次々に口を開いた。
「最初にレギオンと聞いた時は驚いたが、これで一息吐けるな」
「モモンさんでもそう思う相手が居るんですか?」
「ばーか、俺たちを巻き込む心配だよ」
幽体群の正体がレギオンと判明し、詳細を確認する事で大凡の難度が判明したからだ。
「他人の命を預かるというのはそういうことだ。リーダーというモノは自分だけ強くても困る」
「そう持ち上げないでくれ。気が楽になったという意味では同じだからな」
アインズは口にすると指を折って説明した。
冒険者たちは酒の肴に英雄譚を聞こうと熱心に耳を傾けている。
「同じ名前ではあるが霊が寄り集まった
もう一つ伝説級の魔獣もそう呼ばれることがあるが…。
この辺りでは魔獣もドラゴンもアンデッドも様々なモンスターが一括りになって、ドラゴンロードと呼ぶらしいなと付け加える。
「かつての勇者とはいえ残り滓じゃないんですか?」
「知性や技を使えるのが問題だ。こういう強さを持って居る筈だという噂を元に、『場』の力で再設計されるから本人より厄介な事もある」
カッツエ平原全体の気配を利用した英雄など、戦うだけでも厄介だろう。
まだ若い冒険者にアインズがそう説明して居ると、近くに居たティアが真顔で冗談を口にした。
「…女勇者ガガーランは狙った獲物を決して逃さない…」
「ちょっと待て。なんか悪意がある例えだな。おい」
自分の名前をダシにされただけでなく、性癖までオマケにつけられて流石のガガーランも酒を呑む手を止めた。
それというのも、彼女には重要な目的があったからだ。
「せっかくモモンを酔い潰してオモチカエリしようとしたのによ。全部ばらしちまいやがって」
(えー!? ナイワー)
アインズは心の底から震えあがり、この時ばかりは飲食不可能な自分の体に感謝したと言う。
だが、驚いたのはそこからだ。
「それは無理。さっきから袖かどこかに流し込んでる」
「…良く判ったな。明日から早速動こうと思って禁酒しておいたんだ。悪く思わないでくれ」
「さ、流石ですモモンさん!」
忍者であるティアにとって匂いの種類が発散中のモノか、飲み物のままかを判断するのはそう難しくないのだろう。
アインズは冷や汗をかきながら、次回から冒険者の前では出来るだけ酒を呑むフリは止めておこうと心に誓った。
「まったく、貴女を見ていると我身の余裕の無さが良く判るわ」
「本当に佳い女なら外見を気にしない相手くらい直ぐに見つかるさ」
そこへやってきたレイナースが呆れたような溜息をつくと、ガガーランはあくまで自分の事だと言うフリをして酒を注いでやった。
レイナースが大きな悩みを抱えていることを知った上で、軽く流したのである。
「そうだこいつで良ければどうだ? 女だけどよ」
「なんなら一週間くらい、抱き枕になったりされたりしても良い」
「遠慮しておくわ。あ、貴女が嫌なんじゃなくてそっちに走るなら、身を捧げたい人が居ないでもないし…」
声を落として冗談を言い合うガガーランとティアに、レイナースも冗談に笑って付き合った。
彼女の悩みを知る者なら驚くべき心境の変化だが…。
なお、この冗談を言った時、どこかのメイドがくしゃみをしたかは定かではない。
「とにかくこれで一つの難問が片付きそうだな。…おめえがこっちに来たって事は、配置が決定したのか?」
「そう言っても最終確認が終わったくらいだけどね。亜人の班に右翼を任せて前面に出した斜線陣で、中央に魔導国の冒険者を置いて左翼を帝国系で占めることになるわ」
この布陣になったのは単純だ。
エ・ランテルから南下するから帝国を左側とし、亜人が街の役に立って居ると評判を立てるために最前線へ。
とはいえ良く知らない帝国士官と亜人を合わせるのは、余計な問題が起きる可能性がある。だから中央に魔導国の冒険者が仲立ちになるというだけの話だ。
烏合の衆をなんとかまとめる為に、軍へ所属したことのある者たちが話し合っただけの簡易陣型ではある。
だがメリットは確かに存在した。
単純に亜人冒険者の班は肉体面で精強だし、下手な人間より賢いキュクーがリーダー、武王が前衛と言うかなり贅沢な構成だ。
これが市民権を得たいだけの雑魚なら別として、冒険者としての訓練も積んで居るので成果を期待出来る。
「そういえば青銅の巨人の方は何か御存じですか?」
「居る…とだけ聞いている。ブロンズゴーレムならば高が知れているが、
なんとか英雄と話を続けようとした若者たちは、上手く話題が見つからずに心得を聞く程度で尋ねたつもりだった。
だが返って来たのは想定外の答えだ。
「
「私の知っている賢者は、街を守る為に造られた泥人形のことをゴーレムと読んで居たな。…まあ、そのクラスになると素材は強度では無く属性が問題になって来る」
「強度では無く属性?」
もしこの場にラケシルが居たら、朝までアインズを離さなかっただろう。
それほどまでにミスリル級までの冒険者には初耳な話題も多かった。
流石にガガーランくらいになると知っているが、若者たちの興奮を止めるような野暮はしない(今晩の相手を物色はしていたが)。
「低級なゴーレムの場合は、作業用や戦闘用に最大データ量…込められる魔力次第で能力が上昇する。しかし上位になると祭礼した素材次第で様々な特殊能力を付与するそうだ」
「た、例えば先ほどの泥人形と青銅の差は…」
呑んで居ないはずなのに、アインズは口が軽くなったようだ。
酒場の雰囲気に当てられたというか、久々に良い気分になった。
徐々に盛り上がる話題なので、いつもの鎮静化が無いのもありがたい。
「泥を祭礼して使うと強化素材の供給面…要するに治癒力と大型化が楽になる。青銅は我らを守り給えと捧げる為の金属…どちらも防衛用だな」
街を守るための泥人形は幾ら攻撃されても無事なように、泥で造られたと言う。
あるいは泥しか材料が無いほどに追い詰められただけかもしれないが、巨大化したり自動治癒したので結果は同じらしい。
同様に青銅巨人の多くは神…上位者やその代行者の姿を持ち、守り手として要所に設置されたので補助機能も多いとか。
(ナーベには悪いがこの場に居なくて良かった。居たらいつものノリでタブラさんの事を口に出したんだろうな…)
アインズはかつての仲間達の知識を披露する事で、久しぶりに愉快な気持ちでその日を終えた。
●地下への入口を探せ!
まずは低級アンデッドの露払いとして不気味な霧の中を、魔法武器の数を揃えて居ないミスリル級の冒険者が中心となって進む。
カッツエ平原は広く、最初から主力が動くと本命と戦う前に疲弊してしまうからだ。
彼らは本命が見つかる前に交代し、負傷者を回収する班に変更される。
「露払いはともかく、負傷者を回収する専門の班なんて考えてもみませんでした」
「それだけ帝国が長く戦って来たということよ。興味があるなら教えてあげても良いけどね」
アルシェが冒険者だと交代要員の確保で精いっぱいでしたと語ると、レイナースは頷いて色々レクチャーしてくれる。
特に口へ出したわけでもないが、共に帝国出身で暗い過去を調べようと思えば直ぐである。打ち解けるのは早かった。
これが男女の組み合わせであったり、同性趣味でもあればカップルになるのかもしれないが…。
生憎と二人にそんな性癖も余裕も無い。ティアが居ればハッスルしたのかもしれないが、亜人に理解のある彼女は反対側に居る。
「レイナース様、そろそろ廃屋です!」
「みなさんは後退してください。…それと帝国ではないので様は遠慮してくださいね」
彼女のことを良く知る帝国兵は、思わず本当に本人かと疑ってしまった。
しかしいつか呪いが解除できると知って、元の性格に近くなればこんなものかもしれない。
もちろん余裕が無ければそうでもないが、今は十分な余裕がある。
やがてかつての犠牲者が造ったらしき休憩所…廃屋が見えて来た。
一軒一軒は小さなものだが、多数が休めるようにテント用の材料で屋根同士をつないでいるために、割と大きく見える。
周囲は薄暗いので何も知らずに近寄ったワーカーや冒険者が、もしや遺跡か何かと誤解しても仕方が無いだろう。
「
「そういえば広範囲化で幽体にも効くようになるんだっけ…。貴女使えたの?」
アルシェはフルフルと首を振り、貸し与えられたアイテムを取り出した。
それは人・蛙・猫の顔が彫られた禍々しい短剣で、彼女としては捨てたいくらいだ。しかし借り物であるうえに、魔導国に所属する一部の連中(ナザリックの面々)が羨ましそうにしていたので捨てるわけにもいかない。
そして本命の一つ。
三体居るモンスターの中で、もっとも弱いとされる
戦士の魂が幾つもの折り重なった姿は、ネクロ・スオームジャイアントのスピリット版と言えなくもない。
しかし幽体ゆえに通常攻撃が効かず、魔法攻撃も効き難いと倒し難い相手でもある。
「抜刀!! でも迂闊に飛び着いたら駄目よ。フォーサイトの魔法攻撃の後で二人一組で戦いなさいっ」
「「了解です!」」
先ほどのやり取りは何処へやら、レイナースと帝国兵は元の調子に戻って居た。
この状況で取り繕う余裕はないし、誰かが率先した方が上手く連携出来るからだ。
視界の悪い中で魔法の刃だけがキラリと揺らめき、あるいは仲間に付与してもらって戦線を整えた。
二人一組で三チームがレイナースの前後左右に。
更に後方にアルシェの壁役として二チームが展開する。
「聞け、もろもろの精霊たちよ。アインズ・ウール・ゴウンと災厄の大魔術師ウルベルト・アレイン・オードルの名において、我は精霊に命ずる」
アルシェの長い前置きが始まった。
持ち主に
実の所、前置きは何でも良いのだが…。
アインズは作成者の名前をキーワードに設定し、アルシェに必須呪文と伝えていたのである。
「雷精よ雷精よ雷精よ! そは収穫祭に降る稲妻、地上に堕ちたる暗き雷鳴」
実に厨二臭い言葉の連呼が周囲に木霊する。
普通に聞いたら笑い出しそうな言葉かもしれないが、高まるボルテージに伴って掲げられた短剣が怪しく輝いて行くではないか!
「我に仇なす愚かなる者よ神鳴るイカヅチを受けるが良い、落ちよ怒槌!」
一拍の溜めの後、迸る様にして放たれるソレは本来の使い道からすれば物足りないほどだ。
眼前全てを埋め尽くす筈の効果は、併用された電撃のサイズを数倍にして見せるだけだ。
だがそれで十分。
上位魔法を見た事も無い帝国兵達が畏れおののき、
「前列突撃! 隊列を乱すな!」
しばしの沈黙の後、最初にレイナースが声を発したのは流石の肝力だ。
「複数に見えても本体はあくまで一体! 首が無数にあるモンスターだと思え!」
「了解!」
レイナースが切り込んで行くのに合わせて、まず左右の二組が歩を進める。
この場における最強は彼女であり、その力が十全に振るえる様にサポートする形で始まった。
何しろ敵は多頭のヒドラと同じ様な性質であり、目の前の個体が倒されても意味は無く、同時に複数視野で一つの判断が出来るからである。
「フォーサイト様。我々はどうしましょう?」
「このまま」
レイナースの後ろを固めた組が前に出たこともあり、護衛がアルシェに作戦変更があるかを尋ねて来た。
「周囲から他のアンデッドが良く来るし、アンデッドは疲れないから」
軍の指揮を任されたら貴族としての教育が薄いアルシェの事、慌てたかもしれないが冒険は豊富にしている。
カッツエ平原でもアンデッド狩りをした経験も多く、その判断は間違って居なかった。
「私は
「この後でレイナース様の組が疲れたら交代ですね? 了解しました」
兵士たちの方も同じ様な経験をした者を中心に送り込まれている。亜人に対して偏見を持たない柔軟な者に絞ったから数こそ少ないが、判断力は優れている。
アルシェの言葉を良く聞いて、彼女が電撃で援護するのを見守っていたのである。
●地下へと続く孔
帝国組が危なげなく戦い始めて居た頃…。
他の組はそれぞれ異なった様相を呈していた。
「どんな状況になるのか期待したが…一番つまらない展開になったな」
アインズは冒険者チームと後退した後、無人の野を進んで居た。
幽霊船がモックナックら『虹』を退けたと聞いて駆け付けたが、どこにも居ないのだ。
(対アンデッド探知と生命力の偽装は上手く言っている。…これは対戦を避けられたな)
時折やって来るスピリットやスケルトンが居ることから、自分が死者であることは気が付かれていない筈だ。
だが、幽霊船は影も形も見えない。
漆黒の英雄モモンが格上と知って、戦わず他を狙いに行ったのである。
「さて、これはどっちだろうな?」
幽霊船の行動は明らかに思考力を残した動きだ。
強制的に支配するというのはそれほど都合が良い能力ではない。
この周囲を守れと命令したら頑なに守ろうとするし、戦闘にしても最適解にこだわるあまり長期的なミスをすることもある。
元が知的生物のはずなのに、ゴーレムやアンデッド並みの行動しか取れない場合だってある。
それを考えれば、今回の動きには思考できる者の意図を感じた。
(一つ目の考え方は、幽霊船を地下のボスが直接コントロールして居る。二つ目の考え方は、与えられた命令の範囲でしか動けないだけ)
前者であれば明らかに罠だ。
このまま進んで時間を浪費した後に青銅巨人を発見。その間に援護が全て撃破され、両方から挟み討ちに合う。
後者であれば流れは同じだが、戦闘意欲が異なる。
モモンであれば青銅巨人も地下のボスも倒せると踏んで、他の冒険者を足止めするという理屈を付けて時間を稼いでいるのだ。
もちろん放っておけば、モモン(アインズ)が地下に辿りついた段階で強制的に呼び戻される筈だが…。
「どちらにせよこの周囲に目的地はなさそうだ。あの忍者とナーベに偵察を任せるとしてモックナックを呼び戻すか」
アインズとしては前者が望ましい。
どのみち幽霊船は足止めするから後で交渉できるのだし、手強い敵と対戦する方が面白いし…この時間を長くとることができる。
後者であれば戦えたとしてもお茶を濁されてしまい、最短の時間で解決してしまって欲求不満が起きるだけだ。
アインズが儚い希望を持ってモックナック達を呼びに行ったころ、予想通り右翼では大混乱が起きていた。
幽霊船が突っ込んで来て戦闘に陥ったからである。
そして戦闘レベルと意思の問題に対しては、どちらでもなくあえて言うならば中間であったと言えるだろう。
「
「まさか幽霊船に同乗しているとは思いもしませんでしたね」
ゼンベル・ググーとキュクー・ズーズーは苦笑しながら戦線を立て直して居た。
現在のチームはバラバラで、かろうじて士気を保っているに過ぎない。
そして建て直そうとすると、
特にこの班で最大の戦闘力を持つ武王を真っ先に跳ね飛ばして居るので、回復まで時間が掛るのが痛かった。
「ちっ。武王の旦那が復帰するのを待つっきゃねーな」
ゼンベルは表皮を硬化させ骨の矢を跳ね返すと、爪に生命力を充実させて
斧よりも手軽な分だけ威力は無いが、そこは装甲など無いアンデッドのこと。
容易く切り割いて数度振るうだけで蹴散らせる。だが集まっている総量が大き過ぎて、それほど効果的では無いようにも思えた。
しかし必要なのは武王が復帰するまでの時間稼ぎだ。
トロールとしての生命力に仲間の回復魔法が加われば、瀕死の重傷であろうとそれほど時間を掛けずに復帰できる筈だ。
亜人の冒険者たちは帝国組とは逆に窮地にあった。
そんな状況を救ったのは予め定めた作戦に基づく援軍…そう、あの漢である!
「ようっ。愉しんで居るところを悪ぃが邪魔するぜ!」
ガガーランは鉄槌を掲げて飛び込むと、幽霊船のパーツのうち矢を撃ち出すカタパルトを歪ませる。
ただの船ならそれだけで粉砕するのであろうが、凄まじい威力であり大した耐久力だ。
「いかんな…あの厳つい奴が女神に見えて来た」
「リザードマンだけには言われたくないと思ってやすぜ。まっ、救いの女神さまにしちゃゴツイってのは同感ですがね」
骨の矢による牽制が止まったことで、ゴブリン達が戦線を立て直した。
魔法の剣や槍で
こうして亜人班も巻き返しを始め、紆余曲折はあったものの威力偵察は成功しつつあった。
と言う訳で状況が徐々に判明していきます。
アインズ(モモン)の相手が逃げるので役割は知識担当になってますが、次回くらいには真面目に戦う予定。
呪いで強制されている幽霊船はやる気がないのですが、憑依現象によりコントールされてる感じ。
当然ながら、死霊使いがいるので幽体群である
後半で登場して無いナーベとティアは、それぞれ地下への入り口を探索中で、広いカッツエ平原の移動で手間取っている感じになります。
この後の展開は、三話で青銅巨人を撃破して地下洞穴まで。
四話で地下を確認してキャンプ地まで戻るか相談くらい。と全体的には短めにまとめて、予定して居たスケジュールよりは早く入れて行く気でおります。
(3000~4000字、7000字、1万字くらいでペースが変わるので、試験的に中間の7000字くらいで行っています)
マジックアイテム
『ベールの細剣』形状:短剣、効果:ワイデンマジックの使用
人間の顔、カエルの顔、猫の顔が彫り込まれた短剣で、キーワードを唱えるとワイデンマジックが使用出来る。
比較的初期にウルベルトが作成したもので、他に機能は無く成長するにつれて使わなくなった頃にモモンガに送られたという設定。
後にペアで悪魔を呼ぶ赤本が製作されタブラさんから送られたそうだが、モチーフを利用しただけなので判らず、お蔵入りになったと言う。
ちなみにアインズ様が渡したのは名前を広めて『もし居たら』という事態に備える為だが、最初に考えたキーワードは『ウルベルト・サンダー』であったそうな。