米グーグルが祖業の検索事業を始めてから20年がたつ。同社は24日に関連イベントを開き、人工知能(AI)や動画を駆使した新たな検索サービスを公表した。変わらぬ技術進化がこの日のテーマだが、政界を中心に、同社にデータが集中する懸念を問う声もあがる。斬新だったインターネットが生活インフラになった今、その立役者は苦い「成人式」に直面している。
「検索語とネット上の言葉を一致させるところから始まり、同義語、さらには異なる言葉の社会的なつながりも探して……」。この日、サンフランシスコでのイベントに登壇したベン・ゴメス副社長が強調したのが20年たった今も続く検索技術の進化だった。蓄積されたノウハウとAIの発展が同社の検索を日々改善させているという。
新たに発表したサービスは現時点での、その集大成だ。例えばユーザーの好みをAIが学び、検索語を入力しなくても済む「ディスカバー」。特定の野球チームのファンならば試合の結果が自動的にグーグルのサイトに表れる。旅行先のレストランも新旧問わずにユーザーに見合った記事をAIが表示する。
動画や画像の高度な利用も進む。有名女優の名前を検索すると写真やニュース記事だけでなくAIが自動で作成した関連動画が出てくる。写真検索の場合は、偶然ネットみつけた家具の写真から、その販売店を見つけてネットで買い物をすることも可能だ。
いずれのサービスもユーザーによる検索の手間を省きつつ、見つける情報を的確に絞り込む狙いが込められている。ゴメス副社長は「今後も検索はユーザーのことを考えていく」と述べさらなる進化に自信を見せた。一方でこの日、グーグルが一言も触れなかったのが検索ビジネスを収益面から支える広告ビジネスだ。
「検索で集まる大量の個人データを使ってネット広告を出す。インターネットのマネタイズはここから始まった。それは革命ともいえる」。グーグル日本法人の立ち上げ責任者で、今はネット広告会社アタラの会長をつとめる佐藤康夫氏はこう語る。検索とネット広告は、使う側からは関連性が見えないが、実際は表裏一体というのが広告関係者の間の共通見解だ。
グーグルの2018年4~6月期の売上高のうち、9割弱を占めるのが広告収入。これが、年間160億ドル超もの研究開発費をつぎ込んでAIで世界をリードできる理由でもある。ただ、この「広告モデル」は一方でプライバシー問題のリスクをはらむ。同じモデルを採用するフェイスブックの不祥事はその懸念を一気に強めた。
グーグルがデータを悪用していなくても、同社がデータを大量に持つことへの脅威を感じる人も増えている。「グーグルはデータで広告の質を高めようとしていたと思う。一方で金もうけ主義に走った広告会社もいた。そのツケがいま、データを扱う企業全体に回ってきている」(佐藤氏)
さらにグーグルの場合、1日の検索件数が35億件にのぼるというデータもあるほど、社会における役割が大きくなっている。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は先週、グーグルの社員がトランプ大統領の移民政策に反して移民支援サイトに誘導するように検索システムに「手心を加えていた」と報道した。こうした「世論操作」が可能になるほどの同社にデータが集中していることへの危惧が高まってもいる。
責任は増すばかりだが、一方で同社やインターネットがもたらす効用への期待も高い。サンフランシスコで働くある米IT(情報技術)企業の日本人役員は「今につながる世界が開けたのは、20年前にネット検索で米国から買った1冊のプログラミングの本だった」と話す。インドで育ったゴメス副社長も「情報へのアクセスは人生を変える」と話す。
20年前のようにインターネットがなかったら、世界がどうなっていたか想像しがたい。一方インターネットが当たり前の時代をどうつくっていくか、企業もユーザーもまだこれからだ。検索はインターネットとある意味同義であり、成人式を迎えたグーグルの宿題は、グーグルだけに突きつけられたものではない。
(サンフランシスコ=中西豊紀)
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