2018年9月25日 06:15
建設機械メーカーの株式会社小松製作所(コマツ)が、「CEATEC JAPAN」に初めて出展する。同社は2015年2月から、建設現場向けICTソリューション「スマートコンストラクション」の提供を開始。3DデータとICT建機の組み合わせや現場から発信されるデータの活用によって、建設業界が抱える労働力不足やオペレーターの高齢化、安全やコスト、工期に関わる課題の解決に取り組んでいる。
スマートコンストラクションは、政府が推進する「i-Construction」を具現化するツールとしても建設業界から高い評価を得ており、すでに約6000現場で導入実績を持つ。
「CEATEC JAPAN 2018」のコマツブースでは、スマートコンストラクションの未来の姿を見せることになるという。そして、それは単にスマートコンストラクションの新たな機能を紹介するだけでなく、より多くの人たちに「建設業界の未来」を知ってもらう狙いもあるという。
同社スマートコンストラクション推進本部主幹の村上数哉氏に、スマートコンストラクションの取り組みと、CEATEC JAPAN 2018への出展の狙い、そして、CEATEC JAPAN 2018のテーマでもある「Society 5.0」の実現に向けた役割などについて聞いた。
ICT建機でトータルコスト3~4割削減、最終的には建設現場から人がいなくなる!?
――コマツは、2015年2月にスタートした「スマートコンストラクション」によって、建設業界のデジタル化をリードしてきました。それによって、業界全体にどんな影響を与えたと考えていますか。
コマツが提供するスマートコンストラクションは、建設現場のあらゆる情報をICTでつなぎ、安全で、生産性の高い「未来の建設現場」を実現するソリューションです。
それ以前から、情報化施工の流れのなかで、ICT建機を活用し、図面通りに稼働させるマシンガイダンスや、データをもとに自動的に建機を制御する「マシンコントロール」を行い、現場のコスト削減や効率化、安全強化といったことに取り組んできました。しかし、それだけでは不十分なところも多く、現場の状況を判断して生産性を向上させるという点において、まだまだ改善する余地がありました。
スマートコンストラクションは、建機のデータのみならず、環境、地形、資材、スタッフといった建設生産に関わるすべての「モノ」データを集め、それらを現場で利用可能な「コト」データに加工して、生産性を上げ、利益を最大化することができるソリューションです。
そして、スマートコンストラクションをベースに、調査、測量、設計、施行、メンテナンスといった建設プロセス全般のデータを収集し、それらのデータを理解可能な形式に加工して提供を行うオープンなIoTプラットフォームが、コマツなどが出資する株式会社ランドログで行っている「LANDLOG」になります。ICT建機から発信されるデータや建設現場に設置された作業員向けの飲料自動販売機のデータまで、建設生産プロセス全体に関わる「コト」のデータを収集し、そのデータを基に最適な工事の作業量や作業員の人数、建機の台数などに反映し、現場業務の効率化につなげることができます。
国土交通省は2016年に、ICT技術を活用することで技能労働者1人あたりの生産性を5割向上させる「i-Construction」を推進することを発表し、3Dデータの活用などを前提とする、いわゆる「i-Construction工事」の発注を開始しましたが、スマートコンストラクションの仕組みを活用することで、建設業者はi-Construction工事にもスムーズに対応できるようになります。
また、スマートコンストラクションは、これまでの工事のやり方を大きく変え、それによって、効率化やコスト削減につなげるメリットがあります。
例えば、堤防ののり面工事では、斜面に沿って一定の深さで油圧ショベルで削る場合に、まずは杭に糸を張ってどれぐらい削るのかを示す「丁張り」の作業が必要だったり、斜面を正確に掘るために油圧ショベルを操縦する熟練の技術が必要だったりしましたが、スマートコンストラクションを利用すれば、データをもとにICT建機で掘ることができますから、丁張りの作業のための時間や人手がすべて不要になり、大幅にコストが削減できるほか、熟練の操作技術がなくても作業を行えるようになります。
ICT建機のレンタル価格は一般的な建機に比べてかなり高価なので、最初に「高い」と言われることが多いのですが(笑)、トータルコストが多いときで3~4割削減できたり、工期を最大で半分にすることができたりといった成果があり、一度利用した方々からは必ずといっていいほど「次の仕事も、これを使わせてほしい」という声をいただきます。
すでに約6000現場で利用、利用件数も急激に増加中
――スマートコンストラクションは、どれぐらいの利用実績があるのですか。
スマートコンストラクションはこれまでに国内約6000現場で利用された実績があり、特にこの1年で急激に利用件数が増加しています。先にも触れたように、施工に関わる建設生産プロセス全体を効率化することができるのがスマートコンストラクションの特徴です。
工事前の現況測量にドローンを使うことで、1週間かかっていた測量が数十分で終了したり、3次元データで作った完成図面と施工前の測量データを重ね合わせることで施工規模を判断し、3次元の完成図面をICT建機にインプットするだけで高度に自動化された作業を行うことができます。
さらに、完成図面とドローンで測量した完成状態を比べることで、工事が予定通りに完了しているかどうかを検査することもできます。この検査のやり方はi-Constructionでは認められているやり方で、検査時間の大幅な短縮につながっています。
この1年でスマートコンストラクションを活用する現場が急増しているのは、i-Construction工事において国が発注する工事だけでなく自治体が発注する工事にまで拡大したため、件数が増加していることが挙げられます。また、一度スマートコンストラクションを活用した施工業者がまたこのソリューションを使いたいということが増え、利用件数が急増している点も見逃せません。
現場の生産性向上、安全性の確保を実現するのがスマートコンストラクションの特徴であり、最終的には人がいない建設現場の実現を目指すことになります。
「未来の建設現場」はこうなる!初出展の「CEATEC JAPAN 2018」で披露
――今回、「CEATEC JAPAN 2018」に初出展となるコマツブースの展示内容はどうなりますか。
建設関連イベントや日常的なセミナーではスマートコンストラクションの「いま」をご紹介しているのですが、今回のCEATEC JAPAN 2018のコマツブースでは、スマートコンストラクションの「未来」をお見せしたいと思っています。
ここでお見せする1つの提案が、未来の「現場」の姿です。
例えば、現場に移動することなく1つのテーブルの上で、新潟と鳥取の現場のICT建機を同時操作できるわけです。また、仮想現実を使って現場の様子を共有し、進捗状況を確認したり、遠隔地から指示したり、現場との打ち合わせを行うといったことを提案したいと思っています。
スマートコンストラクションは、「生産性が高く、安全で、スマートな未来の現場を実現する」ことを目指していますが、CEATEC JAPAN 2018のコマツブースのテーマは「もっと生産性が高く、もっと安全で、もっとスマートな未来の現場を実現する」ことになります。
さらにコマツブースでは、ランドログのコーナーを用意したり、ランドログに出資をしている株式会社オプティムのブースでもランドログの展示を行ったり、協業しているマゼランシステムズジャパン株式会社が出展している「IoTタウン」のブースなどでも、コマツが目指す「未来の建設現場」の一部をご紹介する予定です。
これまでのCEATEC JAPANでは、「KOMATSU」のロゴが掲示されたことは一度もありませんでしたが、今回のCEATEC JAPAN 2018では、きっとKOMATSUのロゴをあちこちで見ることができると思いますよ(笑)。
こうした展示によって、コマツの「未来への挑戦」をお見せしたいと考えています。
建設業界の新たな3K「給料」「休日」「希望」の改善・実現にも、「スマートコンストラクション」が重要に
――CEATEC JAPAN 2018への出展によって、どんな効果を見込んでいますか。
CEATEC JAPAN 2018では、コマツが取り組んでいるスマートコンストラクションの未来をお伝えしたいという狙いもありますが、それとは別に、より多くの方々に建設業界を知っていただきたいと思っています。
建設業界では現在、労働力不足が大きな課題となっています。
今後、高齢化の進展とともに、多くの人たちが離職することが予測されていますし、もともと「きつい」「汚い」「危険」という3K職場のイメージを持った業界だということもあり、若い人たちが集まりにくいといった課題もあります。国土交通省では、新たな3Kとして「給料」「休日」「希望」の3つのKを掲げ、建設業界全体でもそれを実現する労働環境の改善に取り組んでいます。
その点でも、ICTの活用は重要です。データを活用した建設現場における生産性向上、ドローンなどを使って3次元化した図面データやICT建機などから送信されたデータの可視化などで、建設現場全体を定量的に把握することで建設業界全体のデジタル化を推進し、労働環境を改善できると考えています。コマツは、未来のスマートコンストラクションの展示を通じて、より具体的な提案をしたいと思っています。
デジタル化の波は、全ての産業を巻き込んでいくことになるのは間違いありません。しかし、建設業界というと、デジタル化からは縁遠いという印象を多くの人が持っているでしょう。コマツでは、スマートコンストラクションによって、建設業界が抱える労働力不足やオペレーターの高齢化、安全やコスト、工期に関わる課題解決に取り組んでいます。
若い人たちが、建設業界の未来の一端を見ていただき、魅力のある業界であるということを、CEATEC JAPAN 2018の展示を通じて感じていただけたらと思っています。
そして、もう1つの狙いが、異なる業界を我々がもっと知るきっかけにしたいということです。
――そこには、どんな意図がありますか。
政府が提唱する「Society 5.0」時代の到来は、言い換えれば、さまざまな業界にゲームチェンジをもたらす時代の到来だといえます。
例えば、自動車メーカーのライバルはこれまでは自動車メーカーでしたが、電動化や自動運転化に伴ってGoogleのような自動車メーカー以外の企業がライバルになろうとしています。建設業界もそれは同じで、デジタル化が進めば、コマツのライバルはコマツと同じ建機メーカーだけでなく、これまで想像していなかったような業界から登場する可能性もあります。そうした動向を、CEATEC JAPAN 2018の各社の展示から読み取りたいと思っています。
そして、さまざまな企業との協業のきっかけも作りたいと思っています。コマツは、お客さまにスマートコンストラクションによる新たなソリューションを提供している会社ですが、これを実現する上で、技術面で協業できるパートナーとの出会いにも期待しています。
スマートコンストラクションの未来を見ていただき、他の出展企業や来場した企業の方々から「コマツはこんなことをやっているんだ」ということを知っていただき、「もしかしたら、こんなところで協業できそうだ」といった提案もいただけたらと思っています。そこは、今回の初出展において大いに期待しているところです。
「ドローン測量」なら測量データが30分で災害復旧にも大きな効果
――CEATEC JAPAN 2018は、超スマート社会「Society 5.0」の実現に向けた展示会と位置付けられています。コマツでは、Society 5.0に対して、どんな取り組みを行っていますか。
Society 5.0では、必要なモノやサービスを、必要な人に、必要なときに、必要なだけ提供する世界の実現が盛り込まれています。コマツが提供するスマートコンストラクションは、その実現を支援するものになるといえます。
CEATEC JAPAN 2018のコマツブースでお見せするスマートコンストラクションの未来の姿の1つに、建設現場にあるICT建機を遠隔操作する新たな提案があります。
これは、現場の仕事をするのに、場所を選ばず、「どこにいても、現場の作業ができる」という世界を実現するものになります。例えば、「あと1人、オペレーターが欲しい」という場合にも、そのときに家にいたり、時間が空いていたりする人がその仕事を受注するといったことも可能になります。
ICT建機と3Dデータなどを活用すれば、高度な技術を持っている人に限定せずに、これまでに建機の操作をした経験があるなど一定のスキルを持った人が仕事をすることができます。また、事前に登録をしていれば、どんな場所に住んでいても、どんな離れた現場の仕事でも、自宅やオフィスから仕事ができるようになります。雇用のハードルを大きく下げることができ、仕事のシェアも可能になる。ひとりひとりが持つ可能性を高めていくことにもつながると考えています。労働者不足に悩む建設業界にとっても、多くの方々に就労していただくチャンスが広がるのではないでしょうか。
Society 5.0と連携する「科学技術イノベーション総合戦略2015」では、11のシステムを特定し、それをブラッシュアップし、価値を生み出すことに取り組んでいますが、このなかで掲げられている「自然災害に対する強靭な社会の実現」において、コマツが貢献できる部分は極めて大きいといえます。
2018年は、台風の被害や豪雨、地震などにより日本全体に多くの被害をもたらしました。土砂崩れなどの自然被害が起こった際には、まずは重機を出して復旧作業を行うことになります。この際に、ドローンを飛ばして土砂崩れが発生した現場の測量を短時間に行って取得したデータと、これまでに蓄積していたデータとを比較すると、どんな崩れ方をしているかが分かり、直ちに復旧工事を開始できます。自然災害に対する早期復旧という点でも、コマツが取り組むデジタル化の成果を活用できます。
コマツでは、ドローンを使って毎日の土の変化を測量できる「EverydayDrone」の提供を2018年5月から開始し、これまで丸一日かかっていた現場の3D現況測量データ生成を30分間で完成させることができます。これまでドローンによる測量では、対空標識が必要などいくつかの制約があったのですが、EverydayDroneでは、タブレットで測量するエリアを設定すれば、自動的に測量し、短時間に3Dデータ化できます。
この仕組みを使えば、災害現場の迅速な復旧作業に大きな効果が見込めます。2018年6月に発生した西日本豪雨で被災した自治体に対して、すでに9月からEverydayDroneを無償で提供しています。自動運航する専用ドローン「Explore1」と、現場で高速にデータ処理ができるGNSSベースステーション「EdgeBox」を使うことで、3D現況測量データ生成を約30分で完了させます。
将来的には、収集したデータを活用して、危険な場所であっても、ICT建機を利用して、遠隔操作によって安全に復旧作業を行うことが可能になります。
スマートコンストラクションは、建設生産プロセスを大幅に改革し、建設業界が抱える労働力不足やオペレーターの高齢化、安全やコスト、工期に関わる課題を解決するだけでなく、災害発生時にも、迅速で、安全な復旧作業の実現にも貢献できると考えています。スマートコンストラクションを通じて、現場から「価値」を創出していきたいですね。