【必見】議事録を使って組織を動かす方法
- 2018/09/24
- 11:59
議事録のツイートへ沢山の反響を頂きましたので、ブログにまとめてみたいと思います。
大企業では(別に大企業でなくてもですが)、普通物事は簡単に決まりません。というのも、所有と経営が分離している非オーナー企業では、特定個人の意見を押し通すようなことができないためで、良く言えばこれがガバナンスというヤツなのですが、筆者の個人的な経験では、ビジネスの世界に唯一の正解はないとは言うものの、多くの場合「正しい方向性(Direction)」という広さでは概ね1つに定まっており、それは皆で話し合ったからといって見つかるというものではありません。
正しい方向性については、気づく人は気づいており、定義から言って、気づく人の方が少ないからそのビジネスは成功するのですから、会議に10人参加したら、気づかない(もしくは気づけない)人の方が多数派になることの方が圧倒的に多いわけです。
ソフトバンクの孫さんなどは、正しい方向性に賭ける(Direction Bet)センスが凄くて、間違いなく投資先の技術の細かいことなど分かってないと思いますが、次の世界の大まかなイメージのなかで、この会社は外さないという勘所が圧倒的に冴えているように感じます。
しかし、ガバナンスという必要悪がある以上、たとえ自分には全てが見えていたとしても、意思決定権者には全員首を縦に振らせ、全員で意思決定を行ったという体裁が必要になります。これは、資本主義のパラドクスで、財産処分に自己決定権があること(何に投資するも個人の自由ということ)が資本主義の根幹ではあるものの、会社というフィクションを通して意思決定が行われる過程は、限りなく共産主義的になります。
そして、共同体での意思決定では必ず文書が必要となり、最終的には取締役会議決議という形の議事録が作成されるのですが、当然そこに行きつくまでに、幾重にも小さな意思決定は行われており、理屈上はその都度議事録が残されても良いわけです。
勝者が歴史を作ると言いますが、即ち史書を編纂できるのは権力闘争に勝った者だけに許される特権だということです。しかし、企業での意思決定において議事録の重要性はそこまで意識されておらず、会議参加者の一番の下っ端に「議事録書いといて」というようなぞんざいさで丸投げされることさえあります。その会議の勝者でなくとも、議事録を作成する栄誉にあずかることができるのです。
これは、強く通したい案件があるアナタにとっては天恵です。アナタの独創的な(と多くの人が考える)主張を最初から組織が良しとすることはないかもしれません。しかし、組織は必ず会議を要するということを逆手に取れば、会議のファシリテーションと議事録を握ることで、少しずつ、しかし確実に、会議の結論を自分の都合の良い方向に導くことは可能なんです。そう、滴る水の一滴が石を穿つように。
孫さんは投資家としての大胆な意思決定が可能ですが、一般ピープルは“通し家”として、稟議を通していくことで大胆な意思決定が可能になります。それでは、具体的なテクニックを交えて、“通し家”の仕事をご紹介してゆきたいと思います。
書くべきこと/書く必要のないこと
会議の場では、声の大きい人の意見が通りがちです。特に日本では、意見の否定=人格の否定のように思われ、間違った方向の議論になっても修正が効きにくいといった問題がよく起こります。
その点、議事録には声の大きさは反映されませんから、大きな声の誤った意見を封殺しつつ、小声でちょっとだけ言ったことを残すことも可能で、これがテクニックの根幹となります。
議事録は、大きく3つのパートで構成すると外しません。最初が会議の目的の共有。次が出た意見。最後に結論(次のアクション)です。そして、通し家にとっては、会議の目的と結論は会議の前からほとんど決まっています。
目的のところで、各パーティーの思惑を忖度しつつ前提に関するコンセンサスを取り、出た意見は一通り列記しつつ、結論は次のアクションという形で衆人監視の下、必要な人に必要なタスクをコミットさせるのが基本形です。
例えば、売上の下がっている創業1号店を閉めなければならないが、保守派はレピュテーションや社員の士気などフワッとした理由を盾に反対している(実は、社長の顔色を窺っていて、上にトスアップしたくない)ケースを想定しましょう。
この時ファシリテーターが必ず行わなければならないのは、ファクトの共有です。事実として、「1号店の業績は下がっており、様子見は現状を悪化させるだけ」ということは、冒頭で全員のコンセンサスを取る必要があります。つまり、何をするかは別として、何かはしなければならない、という憲法を制定します。
会議自体は、それぞれの立場から、活発な意見が出るでしょう。時には怒号も交じるかもしれません。それらは全て、意見として承るものの、それだけです。次のアクション(対案)のない意見は全て残しただけで封殺することを狙います。
最後のアクションで、次回までにそれぞれにタスクを与えます。これは、通し家サイドが多くのタスクを引き受けることで、結果的に通し家の意見が前進するという効果を与えます。多くの場合反対派は、口は出すものの自分の手を動かすことはありません。従って、会議では「意見」欄をにぎやかにするだけで、次のアクションには関わらせないことで、次第に力を削いでいくことが可能です。逆に、傍観者の巻き込みが必要な場合は、積極的に作業を押し込む手も非常に有効です。
以上を踏まえ、簡単なサンプル議事録を作るとすると次のような感じです。
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【冒頭の確認事項】
・1号店の業績低迷は今後も継続する見込み
・早急に対策を講じる必要があることを確認
【議事事項】
・1号店は象徴的存在、数字だけでないマイナスの効果も推し量るべき
・従業員の士気にも関わる
・中期経営計画の売上目標は必達。1号店撤退の影響は少なくない
【次回までのアクション】
・競合の事例などを踏まえて、旗艦店閉鎖のインパクトを測定(By 通し家)
・従業員の処遇については人事部の意見をヒアリング(By 通し家)
・中計のリカバリー案は経営企画に相談。場合によっては予想修正も視野
(⇒次回会議で議論させて頂きたい)
・次回は来週水曜日で設定
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会議での会話ポゼッションはほとんど反対派にあったような場合でも、こんな風にまとめると、反対派の主張をアドバイスであるかのように見せ、着実に前進している雰囲気に仕上げることができます。こういう積み重ねと、できれば根回しも活用して、徐々に外堀を埋めていくのが、デキるビジネスマンの仕事術と言えます。
ムダなことを書かない
通し家の議事録に欠かせないのは、ムダなことを書かないというセンスです。議事録を長くするのは簡単ですが、削るとなると、会議全体の機微を漏れなく把握していないとできません。そういう意味で、部下のセンスを見極めるため、議事録を取らせるというのは有効で、彼がその会議にどういう視点で臨んでいたか、何が理解できていないのか、といったことが瞭然となります。
ムダな議事とは、例えばこういうものです。
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1号店店長「~でありますから、苦渋の選択を行う他ないと(オドオド」
社長「で、(1号店は)いつ(営業を)辞めるんだ?」
店長「え!?い、いや、私まだ子供が高校生ですから、責任は感じておりますが、その・・」
社長「お前の話じゃないよ、店の営業の話だよ」
一同「ドッ(笑)」
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言うまでもなく、何のアクションにもつながらない会話ですが、「社長の発言なので残さなきゃ(使命感)」みたいな意識で議事録に入れちゃう人は結構いるものです。
フレーミング
議事録では、認知バイアスを活用した印象操作も非常に有効です。
・80%の確率で成功するが、失敗する可能性も2割はある
・20%程度失敗のリスクがあるが、8割方成功は固い
という2つの文はほぼ同じ内容を伝えているのですが、自分が推進派・反対派のいずれかで、議事録で採用する表現は変わってきます。この辺は朝日新聞の報道姿勢などが非常に勉強になると思います(笑)。
事実誤認や不規則発言への対処
よく問題になるのが、ポジションの高い人の間違った事実認識です。電車の吊り革広告で目にした誤った知識で会議をかき乱してくれる人なんかは非常に迷惑です。同様に、「本件について自分は専門外なのだが」と断りながらも、しっかり「指示」を出してくる不規則発言の手合いも厄介極まりありません。(専門外なら黙ってろ、と言いたい)
こういう時は、会議の場で議論しても結論が出ませんので、現場ではサラッとスルーして、議事録の中で事実だけを指摘するのが実務で求められる対応力と言えます。
本部長「同業の幸〇苑は不採算店をいきなりス〇ーキにして伸びてるだろ、あれやってみろよ」
通し家「(もうサチって来てるのを知っているけど)それはあるかもしれませんね。検討してみます」
⇒議事録では欄外に※印で、「いきなりス〇ーキは昨対マイナスに転落の模様」みたいなノートを残しておく
★★★
議事録を制する者は組織を制す。共産圏の書記長が偉い理由は、ここにあるんです。実際にはいかなる議論が行われていようと、結論を総括する権限は書記長にあり、結果的に皆で話し合って決めたかのような独裁が完成するんでしょう。
これだけ見ても、議事録作成権を握ることが如何に重要か分かります。ファシリテーションと議事録コントロールのセンスはなかなか言語化して伝えることが難しいのですが、知らないと知っているとでは、取り組み姿勢の面で大きな差が出ることは間違いありません。
さあ目指せ、カリスマ通し家。
そんじゃねー。
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