「アインズ・ウール・ゴウン?」
その人物の名前はモモンが先程エンリから聞いた名前であった。
カルネ村を助けた恩人。エンリ=エモットが言ったことが事実なら電撃<ライトニング>ではなくその上位に位置する第5位階魔法の龍雷<ドラゴンライトニング>を使用した可能性が高い。しかも騎士の一人に放った所を考えるとそれ以上の位階魔法を使用できる可能性が高い。
(まず間違いなくナーベより上の位階魔法を使用できるだろうな。)
また装備しているローブや指輪を見て瞬時に悟った。
(俺のこの装備よりも質が上なのは確かだな。質としては師匠の純銀の装備と同等なのだろう。)
モモンはそう確信する。
「あぁ。そうだ。私こそがアインズ・ウール・ゴウンだ。」
「ではゴウン殿と呼ばせてもらってもいいですか?」
「あぁ。構わない。そちらの名前は?」
「私の名前はモモンです。つい最近エ・ランテルで冒険者になったばかりです。」
そう言ってモモンは銅級のプレートを見せつける。
「君が銅級?冗談だろう。」
「いえ事実ですよ。」
アインズは手を顎に当てて何やら考え事をし始めた。
「王国戦士長であるガゼフ殿から聞いた話ではアダマンタイト級はガゼフ殿と同格だと聞いていたのだが・・・ガゼフ殿以上の実力を持つ君が銅級か・・」
「・・まぁ成り立てですので。」
「冒険者というのはやはり言葉通り、冒険をする者たちのことなのか?」
「私も最初はそう思っていました。ですが・・」
モモンは冒険者について語り始めた。
・・・・
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・・・・
「成程・・・冒険をする旅人というよりはモンスター退治専門の傭兵の様なものか。」
「えぇ。そんな所ですね。」
「ふむ・・・何というか夢の無い仕事だな。」
「その通りですね。ゴウン殿は『冒険者』にどのようなイメージを持たれていたのですか?」
(俺は世界を旅するようなものだと思っていたが・・)
「うむ。私は『未知』を求めて探索・・旅をするようなイメージを持っていたな。」
「『未知』?それは一体どのようなものですか?」
「そうか・・では聞こう。モモン。『魔神』については知っているか?」
「えぇ。知っていますよ。『十三英雄』に出てくる悪魔の王の様な存在のことでしょう?」
200年前・・・この大陸に『魔神』と呼ばれる者が突如出現した。その者たちが何を求めてかは知らないが混乱と災厄をまき散らした。それを退治する為に多くの者が立ち上がった。それが後に十三英雄と呼ばれることになる。
『魔神』の中には『蟲の魔神』などもいた。
「英雄譚<サーガ>については知っているようだな。ではそれ以外についてはどれくらい知っている?」
「?どういう意味ですか?」
「魔神は十三英雄の手によって『本当に』全滅したのか?」
「それは・・」
(間違いない・・・などとは言えなかった。俺は十三英雄に会った訳でもなければ、当時を生きていた訳でも無い。そんな俺が確信を持って間違いないと言うことなど出来なかった。)
「これは『未知』の一つでしかない。もう一つ挙げるとすれば『魔神』はどのようにして生まれたのだ?」
「恐らくそれを知っているのは『十三英雄』か、あるいは十三英雄と関わりがあった者だけでしょう。しかし何故そこに疑問を持ったのですか?」
「もしこれを知っていたら悪意ある者が『魔神』を誕生させることを阻止できるだろう。自然発生で生まれるとしたらその条件は?それらを知れば『魔神』の脅威を事前に防ぐことが可能だろう。」
そこでアインズは一つ間を置く。
「何かを守るには『未知』を知ることは必要不可欠だ。」
「!っ・・」
それはモモンにとって衝撃を受ける言葉であった。
(もし・・・あの時、俺がギガントバジリスクについて何か知っていたら何かが変わったかもしれない。少なくとも全滅は防げたかもしれない。)
そんな思いがモモンの胸の内に現れる。
「ゴウン殿・・」
「うん?」
「もし宜しければもっと話を聞かせてくれませんか?」
「いいだろう。話相手が欲しかった所だ。」
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それからモモンはアインズから色々な話を聞いた。
アンデッドを労働力として使う話・・・
建築や鍛冶に特化したドワーフに都市開発させる話・・・
冷気を使うフロストドラゴンを使っての物資輸送の話・・・
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・・・・
「モモンさん。彼らの準備は出来ました。出発しますよ。」
呼びに来たナーベにより話が中断される。
(もうそんな時間になったのか・・)
「あぁ。分かった。」
「そちらの方は?」
「こちらはアインズ・ウール・ゴウン殿だ。先程エンリ=エモットから話は聞いただろう。」
「初めましてアインズ・ウール・ゴウンだ。名前を聞いても?」
「ナーベです。モモンさんと共に冒険者をしています。」
「そうか君もか。成程・・・」
「?」
その問いにモモンは理解した。
(恐らく銅級であることを言っているのだろうな。)
「あぁ。すまないな。どうやら少し話過ぎたようだな。話相手になってくれて感謝する。」
「いえ。こちらこそ。ゴウン殿、今日はありがとうございました。行くぞ、ナーベ。」
「はい。」
2人が去っていく。その背中を見たアインズは一言呟く。
「あの者が『英雄』と呼ばれるのはそう遠くないだろうな。」
・・・・
・・・・
・・・・
『漆黒の剣』とンフィーレアの元にモモンたちは歩いていた。
(どこを見ても村人たちの顔は力強く、子供たちが笑っていた。それが意味することは・・あの人を信頼しているのだろうな。)
去っていくモモンは無意識に言っていた。ナーベは確かに聞いたのだ。
「アインズ・ウール・ゴウン殿。あの方は必ず『王』と呼ばれる日が来る。」
こうして後に『漆黒の英雄』と呼ばれるモモンと後に『魔導王』及び『神王』と呼ばれるアインズ・ウール・ゴウンの初めての邂逅であった。二人は初めて出会った時から互いに理解し尊敬しあっていた。
『英雄』と『王』・・・
『剣』と『魔法』・・・
この二人の出会いはやがて世界の運命を大きく変えることになるのだが・・・
それは随分先の話である。