唐辛子の基礎知識を学ぼう村山さんとお母さんが世話をしている農園を見学させてもらいつつ、唐辛子に関する基礎知識を教えてもらったのだが、これが知らないことばかりだったのだ。
■1:私を含めて『唐辛子=鷹の爪』という認識の人が多いけど、本来の鷹の爪は、あくまで唐辛子の品種のひとつ。へー。 これが生の鷹の爪。日本の唐辛子にも、種類はいろいろある。
■2:唐辛子の実は、上を向いたり、下を向いたり、上を向いていたけれど成長して重くなると下を向いたり、品種によってつき方が違う。上記の鷹の爪は上向き。
■3:多くの唐辛子は緑から赤へと変化し、辛味成分であるカプサイシンが増えるが、熟すことで甘さも増す。品種によって収穫のタイミングは違い、メキシコなどでは緑の状態で食べることが多い。また最初から赤や黄色だったり、熟しても緑のままの品種もある。 これはピクルスやサルサに使われるセラーノというメキシコの品種で、緑の状態で収穫をすることが多い。
■4:唐辛子は暑いところで育てると辛くなり、寒いところで育てると甘くなるという俗説があるけれど、それは育てている品種が違うから。寒い国では辛くないもの、熱い国では辛いが好まれるので、需要にあった品種が育てられている。粉唐辛子の甘口とか辛口も品種の違い。
■5:唐辛子は大きくて身が厚いものは甘く、その逆は辛い傾向にある。ただし例外も多々ある。 ■6:唐辛子はナス科トウガラシ属であり、栽培種には5つの分類がある。そのうちのカプシカム・アニュームには、辛くない唐辛子として品種改良されたピーマンやパプリカが含まれる。 ■7:この農園の収穫時期は7月の頭から霜が降りる11月の中頃まで。特に9~10月は収獲できる品種が多いため、様々な生の唐辛子を楽しめる。 ■8:唐辛子は部位によって辛さは全然違う。一番辛いのは胎座という種ができる部分。ここで辛味の元となるカプサイシンが生成され、身の方に移っていく。種は本来辛くないのだが、胎座がつくことで辛くなる。 ■9:辛味は慣れるし、唐辛子はうまい。これは後ほど体感することとなる。 「辛い品種の唐辛子でも先っぽだけ齧れば、そこまで辛くないです」と、表情を変えずにバリバリと食べまくる村山さん。
試しにセラーノを齧ってみたが、確かに激辛という感じではない。赤く熟しているため、味の濃いパプリカみたいな甘味を感じる。
種ができる胎座こそが辛いそうです。ピーマンでいうところのワタの部分だ。これはブータンのシャエマ。
「ちょっと試しになめてみますか」と、聖火リレーのトーチみたいに渡された胎座部分。
「あああぁぁぁ!あああああぁぁぁぁぁ!あぁーー!」
久しぶりに大きな声が出た。なるほど、胎座は辛い。 このように、まるで知らなかった唐辛子の豆知識を体で知ることができたのは、100種類以上も育てている唐辛子農園へ一番忙しい収穫期にやってきたからこそ。
今思い返すと、とても貴重な体験をさせていただいている。 辛い唐辛子はこれだ!村山さんに見せてもらった様々な唐辛子を、辛いもの、辛くないもの、変わった形のものに分けて紹介していく。
まずは辛いものから。生でそのまま食べるのはオススメしないということなので、試食はほとんどしていない。 島唐辛子などと同じくカプシカム・フルテッセンス種のチャワ。原種に近いもので、実の色は緑→黒(なったりならなかったり)→赤と成長していく。激辛だが鳥は辛さを感じないと言われており、食べて種を運んでもらうためにポロリととれやすくなっている。哺乳類よりも鳥類に食べてもらいたいチャワの知恵なのだ。
こちらは激辛でお馴染みのハバネロと同じカプシカム・シネンセ種のピメンタ・ディオマー。ぷっくりしたフォルムがかわいい。
「味はもちろん、赤く熟すと香りが良いんですよ」と嗅ぐ村山さん。
確かにフレッシュな唐辛子ならではの華やかな香りがする。この香りに慣れて嗅ぎわけができるようになると楽しいんだろうな。
タイ料理などでおなじのプリッキーヌ。直訳すると『ネズミの糞』で、味ではなく見た目からのネーミング。オオイヌノフグリと並ぶひどい名前だ。
タバスコを作るための品種、その名もタバスコ。これの熟したものを岩塩などと発酵させたものが本来のタバスコ。現在は違う品種で作ることも多いとか。
ショート・イエロー・タバスコ。短くて黄色いタバスコですね。
このように数ある辛い唐辛子の中でも、この畑で一番辛いのが、キャロライナ・リーパーである。最近の激辛トレンドではシワシワしたタイプなのだ。
激辛で有名なハバネロが30万スコビル(辛さの単位)程なのだが、この6倍以上となる200万スコビルとも言われてるとか。そんなの誰が食べるんだ。 この畑で一番の辛さを誇るキャロライナ・リーパー。見るからにやばい。
そんな辛い唐辛子に罰ゲーム以外の使い道があるのかと思ってしまうが、辛いソースを作る時などに少量で足りるため、辛い程経済的という合理性もあるのだ。
もちろん辛党の人からの、もっと辛いものを!という要望もあるのだろう。世の中には、辛い品種を作ってやろうというグループやコミュニティがあり、どんどんと開発が進んでいるのだとか。 キャロライナ・リーパーをガブリと齧る村山さんと、恐る恐るなめる私。外側を舐めてもあまり味はしなかった。
やばいかなと思いつつ、せっかくなのでキャロライナ・リーパーの胎座を舐めてみた。辛いというか、舌にスタンガンを当てられたのかという衝撃がドーン。今年一番大きな声が出た。あー!
ウイスキーのチェイサーとしてビールを飲むように、キャロライナ・リーパーを舐めながら甘めの唐辛子(といってもそれなりに辛い)を齧る。だんだん辛さが楽しめるようになってきたんですよ。
他にも辛い唐辛子はまだまだたくさん存在する。それぞれの味を確かめる気にはならないけれど、村山さんの淡々とした解説付きで見て周るのがおもしろい。
なんだか『世界のプロレスラー大図鑑』とか、『これが毒の強い生き物だ!』みたいな本を読んでいるようなドキドキ感がこみあげてみた。 唐辛子、栽培をすることによるコレクション性がとても高いようだ。 かわいい見た目だけど激辛のイエロー・セブンポット・プリモ。
ピーマンですよとウソをついて食べさせると大喧嘩になりそうなマスタード・ブート・ジョロキア。
これから赤くなるジェイズ・ゴーストスコーピオン・レッド。ペンシルバニア州のジェイズさんが栽培している赤いサソリのオバケという名の唐辛子だ。
|
|
▲デイリーポータルZトップへ |