正社員への道はむしろ狭まったのではないか。

 改正労働者派遣法の施行から3年を前に、「派遣切り」や「雇い止め」への不安が高まっている。

 2015年9月30日に施行された改正法は、派遣労働者が同じ職場で働ける期間を最長3年に制限するものだった。それまで受け入れ期間に制限がなかった秘書や通訳など26専門業務でもルールを統一したのだ。

 他方、派遣会社に対しては雇用安定措置を義務付けた。同じ職場で3年を迎えた労働者の正社員化など直接雇用を派遣先企業に依頼するほか、派遣会社自らが無期雇用するなどの対応である。派遣元と派遣先は、10月1日以降、この雇用安定措置をとらなければならない。

 ところが3年の経過を前に、派遣切りが指摘されている。

 市民団体「非正規労働者の権利実現全国会議」が昨年来続ける労働相談にも深刻な事例が数多く寄せられている。

 15年以上継続勤務してきた女性が直接雇用されることなく派遣を打ち切られた、派遣元が派遣先に求めた高額の紹介料が壁となって直接雇用が頓挫した、派遣元で無期雇用となった場合、時給が下がると言われた-などである。

 3年前の法案審議で安倍晋三首相は、「正社員を希望する人にはその道を開き、派遣を選択する人には処遇の改善を図る」と意義を繰り返した。

 希望者の正社員化どころか、現状は雇用の安定とは逆の方向に進む。

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 そもそも派遣法改正は、労働分野の規制改革を掲げる安倍政権が経済界の意向をくんで進めた規制緩和策である。

 改正法の最大のポイントは、企業の派遣労働者受け入れ期間の制限をなくしたことだ。働く個人でみると同じ職場にいられるのは3年に限られるが、3年ごとに人を入れ替え、労働組合の意見を聞くといった手続きを踏めば、企業は派遣労働者に同じ仕事を任せられる。

 そのため当時から「不安定な雇用が拡大する」との懸念が強かった。 

 頼みの綱の雇用安定措置も、派遣元は直接雇用の依頼義務を負うが、派遣先が断るのを拒めない。派遣先が見つからない間も給与を保障する派遣元での無期雇用には高い壁がある。

 政府は雇用安定措置の実効性や、派遣切りの実態を調査すべきだ。

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 改正労働契約法により4月から始まった「無期転換ルール」で、開始直前の雇い止めが問題となったばかりだ。法の「抜け道」を利用したルール逃れである。

 改正派遣法も同様に「抜け道」による悪影響が目立ってきている。

 派遣で働く人は、昨年6月時点で約156万人。リーマン・ショック後、雇い止めが横行したピーク時からは減っているものの、ここ数年増える傾向にある。 

 企業のやる気やモラルに頼るだけでは待遇改善は図れない。法の再改正を含む見直しが必要だ。