生の唐辛子が美味しいものだと、生まれて初めて知りました。
私と唐辛子との付き合い方は、鷹の爪という名前で売られている乾燥したやつを料理にちょっと使ったり、立ち食いそばに一味を掛けたりする程度。激辛料理への興味は皆無で、辛さへの耐久もおそらく普通レベルだろう。
このように辛味の優先度が低い人生を送ってきた訳だが、友人の案内で世界中の唐辛子を栽培しているマニアの元へと訪れたことで、自分が唐辛子の魅力をまったくわかっていないということに気が付いたのだ。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。
前の記事:「カンピョウを作ってその正体を知りたい」 人気記事:「一番安い寝台車のシート、ノビノビ座席で寝てきた」 > 個人サイト 私的標本 趣味の製麺 フレッシュな唐辛子を求めて群馬の奥地へとやってきた「生の唐辛子をちゃんと食べたことがないんだったら、ここの農園は絶対に行った方がいいよ!」
そんな友人の熱い推薦を受けてやってきたのは、群馬県安中市にある「PEPPERS.JP」という家族経営の小さな農園。昔はこのあたりにも集落があったけど、今も人が住んでいるのはこの一軒だけという、ものすごい山の中だ。 正直なところ、現時点で唐辛子に対する思い入れはそれほどない。果物や野菜だったら収穫したてを試食する楽しみがあるけれど、唐辛子だとその場で食べられないのでは。そもそも唐辛子って、辛さのレベル以外に味の違いってあるのだろうか。 2匹の番犬から気持ち良いくらいに吠えられた。
出迎えてくれたPEPPERS.JP代表の村山晋作さんは、平日は東京都内でコンピューターのエンジニアとして生活をしており、週末になるとこの農園にきて唐辛子の世話をするという二重生活。
元々辛いものが好きだった村山さんが唐辛子の栽培に目覚めたのは10数年ほど前。最初は自宅に置かれた小さなプランターからスタートし、いくつかの偶然が重なって現在に至ったようだ。 「周囲に人は住んでいませんが、クマなら昨日もそこに出ました。イノシシもたくさんいますよ」と、冷静な口調で教えてくれる村山さん。
「もともとは激辛唐辛子として話題になったハバネロの栽培キットをネットで取り寄せて、自宅のプランターで育て始めたんです。その種にハラペーニョという別の品種が混ざっていて、全然違うものが育って、食べてみると香りも辛さも全然違う。同じ唐辛子でもこんなに違いがあるものかと驚きました」
一見するとプチトマトみたいだけれど激辛なハバネロ。
そして偶然出会ったというハラペーニョ。形がぜんぜん違ってピーマンみたいだ。
「それをきっかけにいろいろと栽培するようになったのですが、ちょうどその頃、東京に住んでいた母がここ群馬に一人で引っ越したんです。それで畑も近くにあるし、もっと本格的に作ってみたらおもしろいんじゃないかと、10年前から唐辛子農園を始めました。だから趣味の延長なんです。趣味と実益……いや実益にはなってないかな」
ハバネロに混ざったハラペーニョの種、そして群馬の山奥に引っ越した母。この二つの偶然が村山さんを週末唐辛子農家へと変えていった。
「畑の広さは大体千坪くらいで、今年は120~130種類の唐辛子と、トマティーヨというメキシコ原産の食用ホオズキを少し育てています。唐辛子はすぐに品種が混ざってしまうので、種は基本的に毎年種苗業者から取り寄せます」
淡々と質問に答えてくれる村山さんは、農業に関してはまったくの素人だったのに、この畑を整備しなおして、手間暇をかけて唐辛子を育てている。どれだけ唐辛子が好きなんだ。 「今まで購入した品種ごとに連番をつけて管理しているのですが、今年で1100くらいまでいっています。ただ海外から取り寄せた種は発芽しないものも多く、実際に育ったのは600~700種でしょうか。唐辛子は適応性の高い植物なので、ここ群馬で世界中の品種が育てられるんです。味も辛さも結構違うし、香りがかなり違いますよ」 唐辛子に辛味以外の香り成分があるというのは、今まで気にしたことがないかも。唐辛子は現在もどんどん品種改良が進んでおり、世の中に何種類あるのかは村山さんでも把握できていないそうだ。
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