リポート:国枝拓(科学・文化部)
『友だち幻想』より
“『みんな仲良く』。
そうした発想から解放されなければならない。”
「友だち幻想」。
作者は、宮城教育大学の教授だった菅野仁(かんの・ひとし)さんです。
2年前、56歳の若さで他界しました。
本を書いたきっかけは、小学生だった長女がクラスメートとの関係に悩んでいたことでした。
難解な表現を避け、時にイラストを使いながら、「仲良くしようと無理に距離を縮めなくてもいい」と呼びかけます。
『友だち幻想』より
“『自分というものをすべて受け入れてくれる友だち』は幻想なんだ。
わかりあえないなと思ったときは、やはり距離をとればいい。”
出版から10年たった今、この本はなぜ受け入れられているのか。
今年(2018年)初めて課題図書にした、東京都内の中学校を取材しました。
担当した岡本拓也先生です。
今年6月、3年生280人にこの本を薦め、読書感想文を書いてもらいました。
成城中学校教諭 岡本拓也さん
「僕らは“仲良くしなさい”というふうに教わってきた年代だと思う。
“共に生きなさい”という言葉のほうが、今の彼らにはしっくりくるのかなと思う。
じゃあ、共に生きていく上でどうしていけばいいのかと悩み始める時期だと思う。
(学生にとっては)よい本だなと思う。」
生徒たちの感想文です。
“相手に反応をすぐ返さないといけないと思い、スマホを持ってしまう。”
“LINEの返信やら、本当はやりたくないこともやったりしていた。”
現代の若者ならではの悩みがつづられていました。
そうしたつきあいを重荷に感じていたと書いた生徒がいます。
佐々木高寛(ささき・たかひろ)くんです。
入学当時、すぐに友だちの輪に入ろうと、クラスで流行っていたスマホのゲームを始めました。
やり取りしながら遊ぶゲームだったため、グループで決められた時間にスマホを操作しなければならないことに、次第に息苦しさを感じるようになりました。
成城中学校3年生 佐々木高寛くん
「グループから外されそうになると、本当に不安になる。
不安になった夜は、(次の日の)朝、すごい友だちに優しくする。
奉仕をして、友だちとの関係をうまく無理やりにでもつなごうとやっていた。
疲れる、いつの間にか疲労がたまっていた。」
一時は登校したくなくなるほど悩んだという佐々木くん。
「友だち幻想」の、ある言葉にはっとさせられました。
『友だち幻想』より
“友だちが大切、でも友だちとの関係を重苦しく感じてしまう。”
成城中学校3年生 佐々木高寛くん
「あれ、俺じゃね、と思った。
“親友”とは、ずっと楽しくて、一緒に肩取り合いながら泣いて笑うみたいなものかと思っていた。
この本を読むと、“親友というのもいろいろな形がある。親友の理想像は幻想なんだ”と(本が)言ってくれて、本当に驚がくさせられた。
距離が近いわけでもなく、いつのまにか自分たちの距離になっているのが本当の友だちなのかな。」
自分が心地よいと思える距離感をとっていいんだと気づいたあと、友人関係の悩みはなくなったといいます。