4 輪操舵とダンパー・イン・ダンパーによるしなやかな走り
アクセルをひと踏みしただけで「ああ、そういう感じなんだ」とうれしくなった。先代のメガーヌR.S. トロフィーRは、近年各メーカーがスポーツカーの自信作を持ち込みその周回タイムを競うことで有名なドイツ北西部のサーキット、ニュルブルクリンクにおいてFF市販車最速を記録。その血統を継ぐモデルと聞き、相当ハードだろうと覚悟したのだが、最初のコーナーで杞憂だと思い知らされた。
走行モードを最強の“Race”にしたとて、4輪操舵とダンパー・イン・ダンパーによって、しなやかさは保たれる。それでいてタイヤはしっかりアスファルトを捉え続け、路面の荒れをも懐柔。そのあたりはいかにもフランス車だ。
F1で戦い続けるルノーの遺伝子
R.S.はロードスターの略ではなく、ルノー・スポールの意。
279PSの最高出力を誇るエンジンは先に復活して人気を博しているアルピーヌA110にも搭載されているもの。R.S.はデフォルトのメガーヌに比べフロントで60mm、リアで45mm、トレッド(左右タイヤ間の幅)を拡大。膨らんだフロントフェンダー後部に設けられたエアインテークは、ルノー・スポールが F1で戦い続けていることを思い出させるデザインだ。
快く速い、大人向けの超フランス車
ヌバック調のシートはレーシーだが、見た目とは裏腹に座り心地も良好。そのテイストはメガーヌ R.S.全体に通底している。アクセルやブレーキをベタ踏みしても、やや強引にステアリングを切っても、運転しながら普通に助手席と会話が続けられた。その日は箱根界隈で試乗。大観山から湯河原へと至る、ややタイトな椿ラインの下りでペースを上げても、車内に緊張が走ることはない。FFのネガすらルノー・スポールの美学をもって抑えられている。
ル・マンやボルドールでの24hや、パリ-ダカール ラリーなど、耐久レースはフランス人の大好物。生粋のロング・ディスタンス・ラバーなのだ。
私見を挟めば、フランス人ドライバーはえてしてブレーキが遅い。オートルートのカーブでもぎりぎりまで車速を落とさない。刹那的なその瞬間ではなく、目的地までの早さ(と燃費)を重視する。そんな文法上にこのメガーヌ R.S.もあり、紛うかたなき超フランス車だ。瞬速ではなく快速(快適で速い)で、その速さはクルマ遍歴を重ねた大人向け、いかにも玄人好みである。
開発で取り入れられた日本のロード・コンディション
聞けばこのモデル、仕様を煮詰めるにあたり欧州以外では日本が唯一フォーカスされたとのこと。そのためニュル(ブルクリンク)レコードを持つ名うてのドライバーや、そのレコードに肉薄する腕のスーパーエンジニアが、日本各地でステアリングを握った。
「四日市(三重県)の先の伊勢自動車道に路面がうねっている箇所があり、そのバンプの連続でもダンパー・イン・ダンパーのおかげで素晴らしく衝撃が吸収できた。普通のハードサスだったら底付きして、乗員にもダメージを与えていただろう」といったコメントを残したりしたそうだ。次回はぜひそこを走ってみたい。伊勢自動車道のその先には、シマカン(志摩観光ホテル)もあり、あのオーセンティックなリゾートでいただくとびきりのフレンチは、このクルマで訪ねるのにいかにもふさわしい。
そうすればフランス人ではない自分も、たぶんロング・ディスタン・ラバーになってしまうことだろう。
ルノー メガーヌ R.S. 131
革新的コーナリングレスポンスをもたらす独自の4輪操舵システム「4コントロール」をはじめ、数々のレーシングテクノロジーが注ぎ込まれた、ルノーならではの C セグメントGT。5ドアボディは伊達ではなく、快適な乗り心地と速さのバランスを高次元で実現している。1.8Lターボエンジンは 279PS/6000rpmを発揮する。
440万円~
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Henri Kuga=写真 瀧 昌史=文