魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム
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 明らかに原作と異なる要素がありますので、ご注意ください
 また、時系列は、四章・五章・一章・二章・三章とバラバラになっています。



外伝、イースターにサクラ咲く

●四章、神様転生?

『目覚めよ』

 力強い声が聞こえる。

『目覚めよ●●●●●●、いやイチロー・スズキよ』

 再び力強い声が聞こえる。

 私はこの声を何度も聴いた様な気がするし、初めてである様な気がした。

 

「あなたはどなたなのでしょうか? 神とお呼びすれば良いのでしょうか?」

『名前など便宜上のモノ。存在AでもミスターMでも、もっと別の名前でも好きに呼ぶが良い』

 圧倒的な存在感と、敵対した場合には何をしても対抗でき無さそうな悪寒がする。

 だが今は親しげな声で語って来ている事もあり、受け入れるべきだと私のカンが告げていた。

 

「…先ほどの名前は私の名前なのですか?」

『そうだ。電脳死したため、記憶の大部分が消失しているようだな。鈴木一郎よ』

 電脳死…。

 確か、ネットに接続中に肉体が死に、ネットゴーストに成っていずれは消えてしまうことだったろうか?

 

(鈴木・一郎…そうだ、それが私の名前だ)

 段々と思い出してきた。

 双子の兄弟である鈴木・悟が唯一の肉親。母親は私達を学校に入れるため、過労で何年も前に死んでしまった。

 その影響もあってか、孤児の子供達の元へ顔を出しささやかな援助を送ることもあったと思う。

 他の記憶が感じられないので、電脳死してしまったと言うのは本当なのだろう。

 

「ということは私はこのまま消えてしまうのですか…」

 まともに外を出歩く事もできない末期的な社会であり、いつか死ぬ可能性も考えていたが…。

 随分とあっけなく死んでしまったものだ。

 身に覚えが無いくらいに苦痛の無いのだから、幸せな部類なのかもしれない。

『いや。お前の死は予定外であるため、別の体に転生することとなる』

 そう思って居ると、温情のような労役の様な運命が待って居た。

 

『異世界にちょうど、社会的にも精神的にも死んでしまった者が居る。お前はその者に成り変わり、生き直すのだ』

「企業に仕えて先の無い未来ですから、兄弟である悟のこと以外に未練はありませんが…。いえ生返れるだけマシと思うべきですかね」

 不思議なことに存在Aは悟のことを口に出した時、少しだけプレッシャーが和らいだ気がした。

 そして意外なことを申し出て来たのだ。

『少しだけ援助をしてやろう。いわゆる神様転生と言うやつだな。何が欲しい?』

「特に欲しい物はありませんが…。そうだ、子供達に援助しても問題無い程度のナニカをいただけたらと思います」

 私はあやふやな記憶の中で考え抜いた答えに、存在Aは満足そうな反応を返してきた。

『そう言うと思っていた。金の斧も銀の斧も望まない者には、持てないだけの助力をしろと言うからな』

 愉しみにしているが良い…。

 そういうと存在Aの気配が消え、私は目をゆっくりと覚まして行った。

 

「この男の記憶はあまり残って無いのか…。だが確りと鍛えられて居るし…聖印? 神聖魔法に適正が在るのかな」

 頑健な肉体に強靭な精神、白兵に魔法の才能。

 良く見ればマジックアイテムらしき輝きと、生活に困らないだけの金貨、そして常識の書かれたメモ貼があった。

 どうやら存在Aは気前よく色んな物をくれたようだ。

 この異世界で新しい生活を送るのも悪くないのかもしれない…。

 

●五章、リタンナー

「パラダイン様。手短にお願いしますね」

「うむ」

 帝国魔法省の裏口から、三人の魔術師が入って行った。

 先頭を進むのは帝国にその人ありと言われていた、フールーダ・パラダイン。

 一部の人間には残念ながら、その権勢は過去形である。

 

「かつては正面から堂々と入れたものを…」

「構わん。呪文を1つ試せば終わりなのじゃからな」

「……」

 フードを被った魔術師が、憤懣やるかたないと漏らす。

 その言葉に偽りはないのだろうが、彼自身、フ-ルーダと関わりを知られない様にしている段階で、あまり人の事は言えないだろう。

 三人目の小さな魔術師は、素顔を晒したまま歩いているのだから。

 

「デスナイト…。何度見ても恐ろしい…」

「…お前は師の軍勢を見て居らぬのだったな。恐れるにあたわず、ただ油断は禁物とだけ覚えておくが良い」

 フードを被った魔術師は伝説のアンデッドを垣間見るだけで振るえあがったが、残り二人は平然としたものだ。

 フールーダも顔を晒している者も、共に究極のアンデッドである魔導王と出会っており、デスナイトなど恐れるほどではないと知っている。

 もちろん油断して斬り殺されてはたまらないので、即座に飛行の呪文を唱えるだけの心構えはあるのだが。

 

 そしてフールーダはおもむろに呪文を唱えると、以前にこの場所に来た魔法の改良版を行使した。

「ふむ。まだか、師よりたまわった知識で補強したつもりなのだが…」

 だが反応は変わらず、デスナイトは恐ろしげな唸り声を止めようとはしなかった。

 あえて前回と違う点を上げるのならば、フールーダに焦りも怒りもないことである。

 

「前回は冒険者を参考に数値を考えてみようと言うところであったな。師は専門性を考慮してみよとおっしゃったが、どう思う?」

「確かに難易度:百と思っていた対象が、実は百二十だったということもありえます」

 十三英雄のリグリットという魔術師とフールーダは、ほぼ同じ実力ではないかと思われている。

 だから彼女が使役したデスナイトを実力的にはフールーダも可能だと思っていたのだが、専門によってアンデッドにのみ強大な支配力を持って居たのかもしれない。

 そう言われてみると、ストンと腑に落ちるものがあった。

 

「こうもアッサリ答えが見つかるとはな。これがより強大な先達に導かれる素晴らしさよ。…お前はどう思う?」

「は、はい。強大な支配力の件で思い出したのですが…」

 フールーダはここで三人目の魔術師に声を掛けた。

 フードを被らず素顔をさらした小さな姿は、まだ年若い少女だ。

 それでいて修羅場を潜ってきた様な意思力が感じられることから、フールーダが同席させた理由も判ろうと言うものだ。

 

「カッツェ平原の霧は、強大なアンデッドの一部だと言う説があったと思います。上級アンデッドの一部、ないし直属個体という扱いなのではないかと思います」

「そういう考えもあるな。いかに強力な呪文を用意しても、師の一部を支配する事も、直属兵を奪うことが出来るとも思えぬ」

 女の子と言っても差し支えない年齢の少女は、よどみなくカッツェ平原と言う魔所の名前を上げた。

 その言葉は不案内な場所の伝承を口にしたようには見えず、この若さで赴いたことがあるに違いあるまい。

 あるいは既に、冒険者として名を上げているのやもしれぬ。

 

「素晴らしいぞアルシェ。それでこそ師よりお前の命を賜った甲斐があるというものよ」

「ありがとうございます。我が師にも、大師たる魔導王陛下にも絶対の忠誠を捧げさせていただきます」

 少女の名前はアルシェ・イーブ・リイル・フルト。

 この間まで死亡…していた、現在ではフールーダ付きの冒険者であり弟子の一人である。

 

 彼女はフールーダとの関連を隠さないのではない、隠せないのだ。

 何しろ、彼女の危い立場を守っているのは、フールーダであり魔導王なのだから…。

 そして探している人物を見付ける為にも、彼らとの縁を最大限に利用必要があったのである。

 

●一章、復活祭(イースター)おめでとう!

 

(これが芸術品? …ナイワー)

 全てはナザリックに飾られていた『調度品』をアインズとフールーダが見た時から始まる。

 突如として押し黙り、やや陰鬱な声を上げた。

 

「アルシェよ、死んでしまうとは情けない…」

(たしかアレって、ナザリックにやって来た冒険者だっけ。親しい相手だったのか?)

 珍しく悲しそうな顔をした老魔術師に、アインズは記憶を辿っていく。

 

 そうすると、やがてあの時に感じた男性冒険者への激しい怒りと、調度品の元になった少女は死をもって許したことをなんとか思い出していた。

 

「お前でも見知った顔が死んでいれば後悔するのか…」

「いえ別に? 惜しいとは思いますし、知って居れば別の者を派遣したかもしれませんが…」

 思わず口から出た言葉をフールーダはキョトンとした顔で首を傾げた。

 良い年こいたじーさんがそんな仕草をしても可愛くないというか、回答込みでドン引きである。

「しかし、魔の深奥を覗くことに比べれば我が生命ですら軽い物! むしろ師との絆に成ってくれたのかと感謝しております」

「そ…、そうか。ならば良い」

 どんだけー!?

 アインズは思わず人前と言うのを忘れて絶叫しそうになった。

 精神の均衡にこれほど感謝をしたことは無い。

 

(待てよ? これってチャンスなんじゃないか?)

 気分が悪くなったので話を打ち切ろうとしたが、まだフールーダからの質問を終えて居ない。

 そして、新しいアイデアが脳裏に浮かんだのだ。

(部下からの贈り物をお蔵入りにせずに、無かったことに出来るんじゃないか? しかもコイツの対応までやってくれそう)

 思い付いた瞬間に、関連する記憶を少しずつ掘り進めていく。

 最初にこの少女、続いてあの腹立たしい男性冒険者、脇に居た女冒険者に、貴重な実験台になってくれた神官戦士。

 そして神官戦士の記憶を辿って居た時に見付けた、印象深い幾つかの光景…。

 

(確か、妹の為に危険な冒険したんだっけ? ならタレント込みで学校の件にも使えるっぽい? 一石三鳥じゃないか…)

 死を持って決着の着いた敵対者には、別に復活以降は気にしないのがプレイヤー精神と言うモノである。

 ならばこの少女もまた、死を持って許した以上は復活しても良いだろう。

 この少女の縁者にその能力が無い以上は、一つ貸しにする代わりにアインズがやっても良い。

(…でも俺じゃあ復活を望まない可能性があるな。ならもう一つの『実験』もやってしまうか)

 そして蘇生用のワンドを幾つか取り出すと、その中でも回数の少ない物を選ぶ。

 沢山ある物でも惜しくなって使うのを躊躇ってしまうが、今回は理由が沢山あるので踏ん切りが付き易い。

 

「フールーダよ。実験に協力してくれるならばこのワンドをやろう。それとこの少女の生命もだな」

「師よ? いかなる実験でありましょう。それにアルシェの生命を使うアンデッドとはいかなる能力を…」

 恐ろしいことに老魔術師は目をランランと輝かせて居た。

 どう見ても少女を蘇生することを念頭に入れておらず、新しいアンデッドの能力に期待しているようだ。

「デュラハンや飛頭蛮でしょうか? それとも…」

「勘違いするな。蘇生してお前付きの冒険者にするだけだ。素材や実験用に直属の部下が居た方が良いだろう」

 こいつ頭大丈夫かな…と思う反面、アルシェと言う少女に期待してしまうアインズであった。

 これ以上マッドと会話がしたくないのは仕方があるまい。

 

「おぉ…。闘技場で武王を蘇らせたお力ですな。この目で見られるとは眼福であります」

「ふっ、復活させるのはお前だ。以前に別の者を蘇生させた時は拒否されてな。親しい者がやれば拒否を回避できるかどうかを実験したい」

 うまくいけばフロストドラゴンの親玉でも同じことが出来るからな…一石四鳥じゃないか。

 そう考え得てしまう辺り、アインズのゲーム脳もフールーダを笑えない。

 

 その事に気が付かないままに、二人は嬉々として蘇生実験を始めたのである。

「ペストーニャ。フールーダがワンドを使用した時に合わせて、肉体の損耗を修復する魔法を使用せよ」

「承知しました。女の子の様ですし服を用意しておきます。…わん」

 記録を取りながら、アインズはメイド長に指示を出す。

 タイミングがシビアであれば、タイムストップを有効活用できないかと呟き始める。

「なんと! そのように高度な神聖系魔法があるとは! 流石は師の直臣ですな!!」

 フールーダのほうも興奮冷めやらぬと行った風情で、タイムストップとは一体!?

 と今から蘇生するかもしれないアルシェのことをそっちのけで鼻息が荒くなる。

 変態じゃないよ、マッドという名の紳士だよ! とでも言うところだろうか。

 

 そしてワンドの魔力を行使する僅かな沈黙の後、ペストーニャの魔力が迸った。

 まるでシャルティアを蘇生した時のように、一糸まとわぬ少女の姿が顕現したのである。

「…あっ? お師…さ…ま?」

「アルシェよ~!!」

 目を開け、混乱した様子の少女に対して老魔術師が駆け寄った。

 ペストーニャの掛けるシーツごしに抱き締めるかのようだ。

 

 この期に及んでアインズはフールーダのことを誤解していた。

(お、流石に復活したら体の調子が心配になって来たのかな)

 そんなことを考えるはずもないのに、好々爺になって昔話を語ったり…。

 すまなかったと謝るなど、人間らしい態度を想像してしまったのだ。

 

 もちろん、実は180度異なる。

 血走った眼でフールーダは、今しか聞けない情報を聞くことにした。

「アルシェよ、良く聴くのだ。お主は今まさに蘇ったばかり! その体験を報告せよ。死後の世界は? 思考力は残っていたか? 蘇った後の体の硬直具合はどうだ!?」

(えー!? こいつ…大丈夫か? 人間として問題があるだろー)

 アインズは自分を棚に上げて、老魔術師の人格に疑いを抱いてしまうのであった。

 

●二章、取引

「蘇がえ…る? 私は、し…んで、いた、のですか?」

「そうじゃ。偉大なるナザリック地下大墳墓を侵してしまい、死んでしまった」

 ぼーっとしたまま言葉を紡ぐ私に対し、フールーダ師は少しだけ冷静になったようだ。

 揺すっていた首元から手を離してくれたので、ようやく息が落ち付いてくる。

「だが安心するが良い、我が師はお前の罪をお許しに成ったのだ!」

「ナザリック? 我が師? …それは一体…」

 止せば良いのに、私は視線を巡らせてしまった。

 とある場所で視線が止まると、途切れていた記憶が怒涛の様に蘇って来る!

 

 あれは、あれは!?

「き、危険です師よ。あ、あれは化け物!! お、おげえええ…!!」

「まったく…。あの時と同じ対応か。忘れていたのを思い出したぞ」

 そこに居たのはあの化け物、アインズ・ウール・ゴウンだ。

 私達を闘技場に移動させ、なぶるように戦士として戦いを挑んで来た。

 だがその正体は、恐るべきマジックキャスター!!

 

「申し訳ありません。我が弟子の不徳をお詫びいたします」

「まあ仕方無いな。私もうっかりして居た…指輪を付けたぞ。これで良いか」

 お師様があの化け物に対し、恭しく頭を下げていたのが信じられない。

 洗脳されたのか、それとも誰か人質に取られているのだろうか?

 

「信じられんのも無理は無いが、フ-ルーダは私に弟子入りした。そして良いキっカケがあったので、死をもって許したお前の蘇生を許可したのだ」

「そ、そんなバカみたいなこと可能な筈が…無い」

 何を言っているのだろうか、この化け物は?

 信じられないと言う気持ちがある半面、最後の時に確かめた『偽物の空』が思い出される。

 あんなモノを作り出せる存在であるならば、人間を蘇生させるなど簡単なことだろう。

 師ほどの強大な魔法使いであっても、…いや強大だからこそ魅入られたのだろうか。

 

「嘘では無い、全て本当のことじゃ」

「まだ疑うのであれば、お前とこの娘しか知らぬことを言ってやれば良いのではないか?」

「……」

 あまりにも呑気な話題に、私は戸惑いを覚え、次第に納得するしかなかった。

 この場を騙すにしては大袈裟過ぎるからだ。

 

「…蘇生したのは判りました。でも何故、私なんですか?」

「ん? 一つはさっきも言ったがキッカケだな。二つ目は同レベルの中で、お前の点数が高かったことだな」

 敵対したが、死を持って罪を許された。

 そう言われても今一ピンと来ない。

 

 すると、この化け物たちは師を超越して居るので、死んだら恨みを残さない、誰かが蘇生しても許可するという見解なのだと説明を続けた。

 正直、雲の上過ぎて付いて行けないが、至高の存在と言うモノは良く判らない考え方をすると思う。

 

 暫くして私が落ち付いたところで、話題がガラリと切り替わる。

「さて、アルシェよ。物は相談だが、私と取引しないか? 断っても何もしないが…」

「どんな取引でしょう?」

 ソレは私が決して嫌だとは言えない、まさに悪魔との取引だった。

 受けるかどうかは自由だと口にしているが、あの悪徳高利貸しなどよりよっぽど危険な商談を持ちかけて来る。

 

「冒険をしながら、偶に子供達の様子を見に学校に行ってくれれば良い」

「がっ…こう? 帝国に在る魔法学院のような学校ですか?」

 戸惑う私にこの化け物は運命の宣告を落とした。

 その言葉を聞いた瞬間に、断る気持ちも逃げ出そうと言う気持ちも全てが霧散してしまった。

「そういうのがあるらしいな。今は目指している段階なんだが、流用できる良いアイデアがあったら報奨も出そう。ああ…もちろんお前の妹たちを連れてきても構わないぞ」

「いもっ…!? なんでウレイとクーデのことを!? 今はどのくらい経ったの!?」

 私は混乱した。

 何故、この化け物が妹たちのことを知っているのだろうか?

 そして、今はどのくらいの期間が立ってしまったのだろうか?

 

 数日ならば問題が無いが、そんなはずがない。

 数か月? それともまさか何年も? そんな事になったら致命的だ。

 良くて貴族の血を求める商人の婚約者として送り込まれ、悪ければ奴隷商人に売られてしまっているだろう。

 屋敷と両親などに未練は無いが、妹達だけはなんとしても救いたい。

 

「順番に話そうか。お前の事はロバーデイクという神官の記憶を探って垣間見た」

「家族のためという、印象深い記憶は妹の為にというものだから良く覚えていた」

「ロバーデイクが知らないので妹の名前やその後は知らないし、知る気も無い」

 三本ほど指を立てられ、それが折れるのを食い入る様に見つめながら聞き入った。

 そして最後に残ったのは絶望でしかない。

「時間は一年、いや二年ほどかな? 私はその間にエ・ランテルに魔導国を建設し、さっき言った学校は今から大きいのを立てるつもりだ」

「に、二年…そんな…」

 絶望的だ。

 もう絶望しかない。

 あまりにも絶望が深いと、涙すら出てこないのだと初めて知った。

 

 もう、ウレイとクーデが生きていることが奇跡の様な偶然しかないのだと思い知らされる。

 そんな時に頭に閃いたのは、化け物が口にした『報奨』と言う言葉。

 そして、死んだはずの私が蘇えったという事実だった。

 

「協力します! 協力しますから妹を助けてくださいっ! 死んでいるかもしれないんです!」

「ふむ。別に蘇生くらいは構わんが…。ただ注意をしておくぞ、普通の蘇生だとおそらく灰になってしまう。そして上級蘇生には幾つか問題がある」

「おお! 蘇生に際して一切の問題が無いと言う、最高位の蘇生魔法ですな! すばらっしししいいい!!」

 力が抜けそうだった…。

 化け物がアッサリを頷き、それと同時に絶望的な事を告げた時。

 そして、その懸念を師が情報の補足を持って教えてくれた時。

 この化け物の顔が、これまで出会った誰よりも力強く尊いモノに感じられた。

 

「何でもします! 私に出来ることならなんでもしますからお願いします」

「今、なんでもすると言ったな?」

 私は動かない体を引きずって、何度も何度も頭を下げた。

 体に掛けられたシーツがずり落ちるが気になどしていられない。

 夜の相手をしろと言われたら、おそろしくはあるが喜んで体を開くだろうし、モンスターと戦えと言われたらどんな強敵であっても倒して見せる。

 

 だが、そんな懇願を嘲笑うように、差し出された条件は拍子する抜けするほど簡単なものだった。

「良いだろう。お前を蘇生したついでにロバーデイクのサルベージ実験をするから、忘れている常識を教えてやってくれ」

「ロバーデイクも助けてくれるんですか? ヘッケラン達は?」

 化け物は奇妙な顔をして首を傾げていたが、ヘッケランの名前を出した瞬間に恐ろしい気配が再び漂い始めた。

 その恐ろしさを打ち破ってくれたのは、またもや師のフォロー(?)だった。

「サルベージ? それは肉体ではなく記憶や魂が損耗するタイプの蘇生なのですかな?」

「いや。あの男は死んだのではなくて記憶が消えてしまったのだ。少し思い付いた手法があるので試してみようと思う」

 実験に付き会ってくれたから、最後の方では許してやっても良いと思っていたので助ける。…と不可思議な言葉が躍る。

 うって変わって、にこやかな態度で化け物と師は言葉を重ねていた。

 吐き気がする傲慢な態度と同時に、困難な魔法に挑むのだと紳士ぶった態度で貸し借りを返そうと口にしていた。

 

 いっそのこと、『よくぞ捨てずに取っておいた』くらいの悪党ぶりを見せてくれたら、信用などしないで居られるのに…。

 この様子ならばこちらが役に立っている内は、決して裏切らないのだと容易に想像が出来る。

 神というモノの中には、厳格な者も邪悪な者も、どちらでもない災害の様なモノも居たのだと聞いたことがある。

 この化け物が神だと言うなら、まさしくお似合いではないだろうか?

 

「協力します。…だから妹達とロバーデイクをお願いします」

 私は他に言葉が見つからなかった。

 何を言えば良いのか判らなかったし、今から始まる実験に従うことはロバーデイクの為でもあるのだ。

 つまり、どうやっても嫌ということのできないということだ。

 記憶が無くなったと言うことなので、せめて元の記憶が少しでも戻るのが彼の為。私に出来る罪滅ぼしは彼の社会復帰に協力する事だろう。

 

「この娘のことはお前付きの冒険者として、役に立った範囲で協力してやると良い。それと、もし必要ならば功績に応じて幾らでも手を貸そう」

「なんという温情でしょうか。アルシェも果報者にございましょう」

「は…い。ゴウン様の慈悲には言う言葉もありません…」

 こうして私は化け物たちの共犯者となり、故郷である帝国にスパイとして戻ることになった。

 冒険者として行動しながら、妹達の情報を求め奔走することになる。

 

●三章、サルベージ

 そして最後に視点は、魔導王の元に戻る。

(前回はただ記憶を戻しても駄目だったんだよな。まずは人格を創らないといけないから…)

 元に戻すなんてアインズとしても不可能ではあったが、似て異なることなら可能だと言うギルメンの記憶を頼りに何度も重ね掛けて行く。

 軽く弄るだけでも膨大なmpが飛ぶのに、詳細まで弄る気は無いので大雑把に調整して行った。

 

 アインズはかつて鈴木・悟だったころの知識と情報、そして認識の一部をコピーすることで作業を簡略化させたのだ。

(ここは神様転生ということにして、偽物の記憶から新しく考え方を自分で作らせよう。俺の兄弟ってことにすれば似ててもおかしくないよな)

 母親が過労で死んだこと、ユグドラシルの思い出…。そして自分の考え方だ。

 

(とはいえ完全に俺と同じ考え方だと気色悪いだけだし、その辺は元の記憶をベースにっと)

 それらを少し希釈して薄くした後で、覚えている範囲でロバーデイクの認識を付け加えていく。

 忘れてはならないのは、子供達の面倒を見ると言うことだ。

 せっかくなので母親の事を理由にして、孤児院に顔を出していたと言う記憶は重要だ。

 

(くっそー、コピーして付け加えてるだけなのに、スッゴイ消費だな。上手く行かなかったら次にまた上書きするか)

 途中で投げ出しそうになりながらも、あと少しが上手く調整できないだけなので、仕方無く挑戦を続行。

 このまま投げ出したら、フールーダ達の手前、また同じことをやる必要があるだろう。

(考えの方は簡単にコピーできたのに、記憶の方が上手く行かないんだよな…。まあいいや、電脳死で記憶が飛んだことにしよっと)

 最後の最後で小さくまとめる調整理由を思い付き、精神魔法で語りかけて強引に終わらせることにした。

 

 どうして認識の方が簡単に行ったのかなど、不思議に思わないままに作業を終わらせて行く。

 そう、精神魔法は互いの心を混ぜ合わせる危険な魔法でもある。

 総体としてアインズの方が影響力が強いのは当然であるが、元の強さを考えればロバーデイクがアインズに与えた影響は決して小さくないだろう。

 もしかしたら、ガゼフに匹敵するだけの影響を与えたかもしれなかった。

 

「さあ、目を覚ませ。ロバーデイクよ。子供達の様子を見る為にな…」

 だがその事にアインズが気が付くことは無いままに、この日の実験を終えた。

 何しろこれからフロストドラゴン達を蘇らせて、素材を剥ぎ取る楽しい実験が待って居るのだから…。




と言う訳で、続きなのですが外伝をお届けいたします。
外伝なのは、見ての通り神様転生詐欺を思い付いたからで、最初はハンターXハンターでやろうかと思ったのですが、書くだけの余裕が無かったのでオバロ物で試してみました。
交流のあった現地の人たちを蘇らせることは簡単な筈なのに、やってないのはそれなりにこだわりがあると思われたのと、フォーサイトはどうあがいてもロクなことになりそうになかったので、逆に実験という理由を付けて蘇生してみました。
 共に学校関連で冒険者が寄った方が良いというネタを前回に仕込み、今回でアルシェとロバーデイクが理由の一環として扱われます。
それでも理由が薄かったので、アルシェはフールーダ対策と特殊な蘇生実験、ロバーデイクは神様転生をやってみたかったとアインズ様が思い付いたと繋げた感じになります。
 流石に脱線が過ぎることと、本編のストーリー進行にあんまり関係ないことから、蘇生を考えても居なさそうな人が蘇生するの込みで、外伝としました(出てこなくとも問題無いので)。

 と言う訳で今回はネタに走った外伝でしたが、次回は本編の純粋な続きで、学校に行くためにアルフレッド先生が八本指のところに挨拶に行く感じになる予定です。







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