『エ・ランテル』『モモン(アインズ)』『ハムスケにご褒美がてらブラッシングする』
を元に作成されました。
読むときはしもん様に向けて拝みましょうっ
「おぉ、モモン君。久しぶりだねぇ!」
久方ぶりにエ・ランテルに到着すると、どこから聞きつけてきたのか冒険者組合長──プルトン・アインザックが走り寄ってきた。
相変わらず人を食ったような、嘘を付きそうな笑顔ではあるが少なくとも悪い人間ではないことは分かっているため、無視することは控えねばならない。
何よりエ・ランテル支部とはいえ冒険者組合の長なのだ。冒険者になりたての時は色々と世話になっているのだし、縁を切るわけにもいかない。
「アインザックか」
「王都での活躍は耳にしているよ。随分と頑張っているみたいじゃないか」
豪快に笑いながら自然な動きで俺の行く先を誘導していく。無理に動けば問題ない程度であるのが憎らしい。行先は組合の方か。ついでに色々と情報を得たかったので問題はないのだが、どうも操られている気分になって良い気分とはいかない。
しかしその俺の雰囲気を察したのか少し歩みを止める辺り、伊達では生きて居ないということなのだろう。
「そういえば、エ・ランテルには何用かな。私に出来る事ならば大概の事は手伝えると思うが」
「ふむ──」
確かに冒険者を纏める立場にあるこの男ならば様々な情報を持っているだろう。しかしそう簡単に分かるのだろうか、という疑問もあるのだ。
──およそ数時間前
「ハムスケに褒美ですか、アインズ様」
いつものナザリック。いつもの執務室。外の様相は見えないが、時間からすれば日が昇り始めたころだろう。
俺は書類を片付けながら、ふとアルベドに漏らしていた。
「そうだ。あれも何かとナザリックのためにと頑張っているからな」
「アインズ様より頂ける物でしたら、何でも喜ぶと思います」
(その『何でもいいよ』が一番困るんだよなぁ──)
この前冗談で、手を拭いて汚れたハンカチをアルベドに渡したことがあった。そうしたら突然涙を流し『一生大事にします!』とその汚れたハンカチに頬擦りし始めたのだ。流石に汚いからと取り上げたのだが、まるで我が子を取り上げられた母親のように絶望に染まった顔は流石に居た堪れなくなったのである。
そんなこともあり配下たちへの褒美は、俺にとって非常に神経を使う案件となっていた。
「デミウルゴスはどう思う」
「私もアルベドと同意見──と言いたいところですが、アインズ様はそういった答えをお求めになられていないのでしょう」
流石デミウルゴス。さすデミ!俺の気持ちを察してくれる辺り、良い子である。ウルベルトさんも何だかんだと言いながらも皆の事を考えてくれる人だった。そういう部分も受け継いでくれているのだろう。
「では、色々前提から始めましょう。まず、ハムスケは言葉を解せますが、人型ではありません。そのため一般的な食糧・アイテムなどはあまり喜ばないのではないかと愚考します」
なるほど。確かにハムスケはステーキのようなものも食べるが、どちらかというと木の実や種と言ったものの方が好んでいた。この辺りもハムスターに似ているといえるだろう。
また、アイテムにしてもそうだろう。死の宝珠を渡した時も、躊躇なく頬袋に詰め込んだのだし。
「そうですね。最近はアインズ様のために強くなろうとしているのですから、その辺りを考えてみてはどうでしょうか」
確かにハムスケは俺のため、ナザリックのために強くなろうとしてくれている。そのためこの前は武技を習得するという快挙を成し遂げてくれたのだ。
しかしハムスケにはハムスケのペースというものがあるだろう。前にコキュートスに修行を頼んだのだが、あまりにハイペースすぎてハムスケには付いていくことが出来なかったらしい。
最近はゼンベルたちリザードマンや死の騎士<デス・ナイト>と一緒に修行していて良いペースで頑張れているという話は聞いている。折角良いペースでいけているのだったら、俺が無理に変えるというのもハムスケに悪いだろう。
「ふぅむ──」
ペンの動きを止め、逡巡する。ふと感じる温かい視線。ちらりと周囲を見ると、何とも言えぬ暖かい笑顔でアルベドとデミウルゴスが俺の事を見て居た。
「そのように、取るに足らぬ配下であろうとも真摯に向き合うその優しき御心。見習いたく存じます」
大量のヒマワリの種をあげようか、などと適当に考えていたなどいう訳にもいかない。二人の暖かい視線に挟まれながら、何となく居た堪れない気分になってしまうのだった。
「なるほど、従魔に褒美をなぁ──」
冒険者組合の客間に通された俺は、出された飲めぬ茶に視線を落としながら先ほどの話──ハムスケへの褒美について話していた。
そんなの適当でいいのではないか、と言われるかもしれないと思って居たが、良い意味で俺の予想を外して──いや、予想以上に真剣に考えてくれていた。
「これが馬など人語を介さない、知能の低い奴なら──そいつの好物でも上げると良いんだがなぁ」
すみません、真っ先にそれが思い浮かびました。なんて言える訳もなく。
一発目で当てられて思わずびくりと震えてしまいそうになるのを必死に止める。肉の身体を持っていたら、恐らく今頃汗でぐっしょりと濡れていたのではないだろうか。
「ところで、あの魔獣は何を食うんだ?」
「大体雑食だが、主に木の実を好んで食べるな」
「木の実かぁ──そいつは難しいな」
「──難しい?」
「魔獣ってのはな、基本的に人と味覚が違うんだ。甘味を強く感じる奴も居れば苦みを強く感じる奴も居る。俺たちが美味いと思うもんでも不味いと思ってしまうこともあるのさ。特に木の実は顕著でな。そいつが好みとなると、食う木の実以外には一切興味すら示さない。なんてこともあるからな」
そうなのか。と思わず感心してしまった。やはり長をやっているのは伊達ではないのだろう。
確かに同じ日本人でも、地域によって濃い味が好きだったり薄味が好きだったりする。種族すら違うとなれば味覚が大きく違ってもおかしくないだろう。
ハムスケの食事に関しては普段は適当に自分でとらせているし、ナザリックではペストーニャに一任していた。よくよく考えたら俺はハムスケの好物すら知らないわけだ。
「ハハッ!従魔の食事は適当にやってたって顔だな。その顔だと好物も知らないんだろう?」
「ぬぐっ──」
「漆黒の英雄殿もそういうことには無頓着ってな。いや別に責めているわけじゃないぜ。それが普通なんだ。むしろ、頑張ってくれているから何かをって考えてくれるだけマシってもんだ」
そう笑いながら、窓から外を見て居る。と、視線が止まった。何かを見つけたのか。無言で俺を呼ぶ。
近くに寄り指さされた方を見ると、丁度馬がブラッシングをされているところだった。
「なるほど、ブラッシングか──」
「よくよく考えればお前さんの従魔はあの図体だ。自分で毛繕いするのも大変なんじゃねえかって思ってな」
物を与える事ばかり考えていたが、確かにこれは良いかもしれない。
思わず彼の手を握る。彼の笑顔は五月蠅い位に眩しかった。
「はぁ、ぶらっしんぐ──で、ござるか」
それからハムスケをエ・ランテルの広場に呼び、伝えたのは良いのだが──反応はいまいちのようだ。
ブラッシングは駄目なのだろうか。
「あまり好まぬか?」
「いえ、そもそも拙者は毛繕いすらしないでござる。そのぶらっしんぐというものをされているのを見たことはあるでござるが、何が楽しいのかよく分からないでござるよ」
なんと、ハムスターは毛繕いをしないのか。折角おすすめのブラシをアウラから貰ってきたというのに。
「とはいえ、何事も経験でござる。殿自らしていただくというのは非常に恐縮でござるが──」
「それは気にするな。お前への褒美なのだからな」
腰を落とし、うつ伏せになったハムスケにブラシを通していく。背に乗った時はたいして気にしていなかったが毛繕いをしていないらしいその毛は、予想以上にさらさらしている。然程抵抗がかかる様子もなく、すっとブラシが通っていく。
「お?──おぉ──これは──」
さっさ──すっす──あまりの通りの良さだ。確かにこれならば毛繕いの必要はないだろう。しかし殊の外気持ちが良いのだろうか。目を細め、脱力しているようだ。
「はぅんっ!!」
「っ!?」
思わずびくりと震えてしまった。なんて声を出しているのだ。
「なんか電気が走ったでござる。思わず変な声が出てしまったでござるよ──申し訳ないでござる」
「お、おぉ──」
内心の動揺を隠しながら、続ける──つづけ──
「はぁう────」
何故悶える。
「殿はてくにしゃんでござるなぁ──気持ちよくて身体がぷるぷる震えてしまうでござるよ」
ごろりと今度は仰向けに転がる。くたりと全身を弛緩させる。
「殿の、好きにしてほしいでござるよぅ──」
(無心──無心だ!)
無心で声を聞かず、無心で手を動かし続ける。
気付けば周囲には人だかりができていた。確かに人の言葉で大声で何かを叫んでいれば気になって集まるというもの。
何しろハムスケは周囲を気にすることなく大声で叫んでいるのだから。
「殿ぉ、もっとしてほしいでござるよぉー!」
「はいはい、じっとしていろ。な?」
それから数時間にわたり、エ・ランテル中にハムスケの叫び声は響き続けたという──
「アインズ様!アインズ様はブラッシングが非常にテクニ──お上手であると聞きました。是非褒美の中に入れて頂きたく思いますっ!」
「入れるわけが無いだろう──」
それから数日後、漆黒の英雄モモンはブラッシング一つで魔獣すらも悶えさせるテクニシャンであるという噂が広まっており、なぜかナザリックにもその噂は伝搬してしまっていた。
お陰で体毛を持つ者たちの俺を見る視線が妙に熱い。やる気を出してくれるのは構わないのだが──
しかもどう曲解したのかは知らないが、アルベドより正式に褒美の一つにと具申があったほどである。
「で、でもアインズ様に髪を透いてもらえるって、すっ凄いご褒美だと思うんです!」
「マーレ、お前もか──」
それから、体毛のみならず髪のあるナザリック女性陣プラスマーレの熱い要望により、褒美の一つとなったのであった。
──ちなみに
「──終わりだ」
「はぁう──はふぅ──」
この褒美を最初に受けたのはマーレだった。
というわけで、ブラッシング話でした。
気分的には大型犬をブラッシングしている感じで。
うちにいたわんこにブラッシングしている時も同じでした。ぷるぷるしてぐったりと身を任せるのです。
人語を解せるハムスケを町の広場でやってしまい大惨事になってしましまた。
私はわるくぬぇ!
って、逃げておきましょう。
3人目の方、L田深愚様のお題目
『カルネ村』『フェイ達』『日常』は月末一般公開となります。
お楽しみに!