スルガ銀行の第三者委員会の公表がなされ、経営陣も入れ替えとなりました。
金融庁はスルガ銀行への行政処分について検討していると報じられています。
今回は、スルガ銀行へどのような行政処分が下される可能性があるのか、過去の事例を踏まえながら考察してみましょう。
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行政処分
スルガ銀行へは業務停止命令が出される可能性があると一部のメディアでは報じられています。そもそも業務停止命令とはどのようなものでしょうか。
以下で簡単に確認しましょう。
【業務停止命令】
金融庁が金融機関に対して行う行政処分の一つ。金融機関の法令違反が著しい場合や、財務内容の悪化が深刻な場合などに、期限付きで業務の一部または全部を停止することを命じる。業務改善命令も併せて出される。銀行法・保険業法・金融商品取引法等が根拠。(出典:デジタル大辞泉)
【銀行法】
(業務の停止等)
第二十六条 内閣総理大臣は、銀行の業務若しくは財産又は銀行及びその子会社等の財産の状況に照らして、当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認めるときは、当該銀行に対し、措置を講ずべき事項及び期限を示して、当該銀行の経営の健全性を確保するための改善計画の提出を求め、若しくは提出された改善計画の変更を命じ、又はその必要の限度において、期限を付して当該銀行の業務の全部若しくは一部の停止を命じ、若しくは当該銀行の財産の供託その他監督上必要な措置を命ずることができる。2 前項の規定による命令(改善計画の提出を求めることを含む。)であつて、銀行又は銀行及びその子会社等の自己資本の充実の状況によつて必要があると認めるときにするものは、内閣府令・財務省令で定める銀行又は銀行及びその子会社等の自己資本の充実の状況に係る区分に応じ、それぞれ内閣府令・財務省令で定めるものでなければならない。(免許の取消し等)第二十七条 内閣総理大臣は、銀行が法令、定款若しくは法令に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき又は公益を害する行為をしたときは、当該銀行に対し、その業務の全部若しくは一部の停止若しくは取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは会計監査人の解任を命じ、又は第四条第一項の免許を取り消すことができる。第二十八条 内閣総理大臣は、前二条の規定により、銀行に対し、その業務の全部又は一部の停止を命じた場合において、その整理の状況に照らして必要があると認めるときは、第四条第一項の免許を取り消すことができる。
これがスルガ銀行に下される可能性のある行政処分に関係する銀行法の条文です。
この業務停止命令を含む行政処分を金融庁が行うにはどのような基準でなされているのでしょうか。
金融庁は行政処分の基準について公開しています。以下抜粋します。
(1)当該行為の重大性・悪質性
◎公益侵害の程度
金融機関が、例えば、顧客の財務内容の適切な開示という観点から著しく不適切な商品を組成・提供し、金融市場に対する信頼性を損なうなど公益を著しく侵害していないか。◎利用者被害の程度
広範囲にわたって多数の利用者が被害を受けたかどうか。個々の利用者が受けた被害がどの程度深刻か。◎行為自体の悪質性
例えば、利用者から多数の苦情を受けているのにもかかわらず、引き続き同様の商品を販売し続けるなど、金融機関の行為が悪質であったか。◎当該行為が行われた期間や反復性
当該行為が長期間にわたって行われたのか、短期間のものだったのか。反復・継続して行われたものか、一回限りのものか。また、過去に同様の違反行為が行われたことがあるか。◎故意性の有無
当該行為が違法・不適切であることを認識しつつ故意に行われたのか、過失によるものか。◎組織性の有無
当該行為が現場の営業担当者個人の判断で行われたものか、あるいは管理者も関わっていたのか。更に経営陣の関与があったのか。◎隠蔽の有無
問題を認識した後に隠蔽行為はなかったか。隠蔽がある場合には、それが組織的なものであったか。◎反社会的勢力との関与の有無
反社会的勢力との関与はなかったか。関与がある場合には、どの程度か。(2)当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性
◎代表取締役や取締役会の法令等遵守に関する認識や取組みは十分か。
◎内部監査部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。
◎コンプライアンス部門やリスク管理部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。
◎業務担当者の法令等遵守に関する認識は十分か、また、社内教育が十分になされているか。
上記の諸要因を勘案するとともに、それ以外に考慮すべき要素がないかどうかを吟味した上で、
(1)改善に向けた取組みを金融機関の自主性に委ねることが適当かどうか、
(2)改善に相当の取組みを要し、一定期間業務改善に専念・集中させる必要があるか、
(3)業務を継続させることが適当かどうか、
等の点について検討を行い、最終的な行政処分の内容を決定している。(出典:金融庁ホームページ)
金融庁は、銀行法に基づき、以上のような基準・観点で行政処分を検討します。
今回のスルガ銀行の問題についても、この基準・観点から業務停止命令等が検討されることになります。
業務停止命令事例
金融庁が2002年以降で国内銀行向けに業務停止命令を出した事例は10件あります。
- H16.10.7 UFJ銀行:法令違反/検査忌避等
- H18.4.26 新生信託銀行:法令違反、法令等遵守にかかる内部管理態勢の不備/不動産受託審査体制の不備
- H18.4.27 三井住友銀行:法令違反、法令等遵守にかかる内部管理態勢の不備/優越的地位の濫用
- H19.2.15 三菱東京UFJ銀行:法令等遵守にかかる内部管理態勢の不備/支社における極めて異例な取引の長期継続
- H21.6.26 シティバンク銀行:法令違反、法令遵守等にかかる内部管理態勢の不備/疑わしい取引の届出義務を的確に履行する態勢の未整備
- H23.12.16 シティバンク銀行:法令違反、法令等遵守にかかる内部管理態勢の不備/顧客保護等管理態勢、経営管理態勢等
- H25.12.26 みずほ銀行:内部管理態勢及び経営管理態勢の不備/内部管理態勢及び経営管理態勢の不備
- H16.4.1 新銀行東京:預金者等の保護及び開業に向けた円滑且つ適切な準備体制の確保等/開業準備
- H22.5.27 日本振興銀行:法令違反、業務運営態勢上の重大な問題/検査忌避等
- H22.9.10 日本振興銀行:資産の劣化の防止や預金者間の公平を図り、預金者等の保護に万全を期する必要/預金保険法第74条第5項に基づく「その財産をもつて債務を完済することができない」状況にある旨の申出
(ご参考:行政処分事例集/金融庁)
大きな話題となった事例としては、UFJ銀行の検査忌避(金融庁への資料隠蔽等、新規顧客への融資停止6ヵ月等)、三井住友銀行の優越的地位の濫用(金利スワップ販売、金利系デリバティブ販売停止6ヵ月等)、三菱東京UFJ銀行の反社会的勢力との取引(飛鳥会事件、新規顧客への融資停止3ヵ月等)、みずほ銀行の反社会的勢力との取引(オリコ提携ローン問題、提携ローン業務1ヵ月停止等) が挙げられるでしょう。
この業務停止命令事例は、「検査忌避」「優越的地位の濫用」「反社対応・マネロン等内部管理体制の不備」が主です。
すなわち、今回のスルガ銀行のようなケースは過去の事例としては「ない」と言えます。
所見
では、スルガ銀行に対して金融庁はどのような処分を下すのでしょうか。
そもそも、ここまで国民的関心事となってしまった以上、「行政処分を下さない」という選択肢はないでしょう。同様に「業務改善命令」で留めるとも考えにくい状況にあります。
行員の私文書偽造、カードローン等の抱き合わせ販売(優越的地位の濫用)、検査忌避(行員の退職)、ガバナンス・内部管理体制の欠如等、スルガ銀行には問題事象が多数発生しています。
様々な問題が「組織的」である以上、業務停止命令が出される可能性は高いと考えます。
その上で、どのような業務停止命令が下されるかということですが、過去の事例に照らせば、基本的には以下となるのではないでしょうか。
- 不動産融資業務における新規融資の6ヵ月程度の停止
- 新拠点の開設の1年程度の停止
- 内部管理体制構築、行員向け研修の実施、顧客本位の営業体制構築、業務改善計画の策定