中華圏を代表する大女優にして、監督、脚本家、プロデューサーとしても長らく活躍しているシルヴィア・チャン。彼女の最新主演・監督作『妻の愛、娘の時』が、9月1日より公開される。主人公役のシルヴィアの名演もさることながら、本作にはもうひとつ見逃せないトピックがある。それが、主人公の娘を演じるラン・ユエティンだ。
スチール写真でどれだけ伝わるかわからないが、劇中で動いている姿は、上戸彩を彷彿とさせるキュートさがある。じっと見つめていると、そのどこか涼しげなまなざしは山口百恵の面影さえ感じられる。わたしたち日本人もどこか親近感を覚え、同時にあこがれることができる中国人女優。その稀有な存在感をご紹介したい。
ポジティヴィティと揺らぎの融合
(C) 2017 Beijing Hairun Pictures Co.,Ltd.
本作の主人公フイインは、亡くなった母を父と同じ墓に入れるために、田舎にある父の墓を自宅のそばに移そうとする。しかし、父の最初の妻であるツォンや、彼女に同情した村人たちの抵抗に遭い、うまくいかない。フイインは学校教師として定年間近ということもあり、自身のよりどころを見失いつつある。
フイインは強情だが、ラン・ユエティンが演じる彼女の娘ウェイウェイは、フラットで伸びやかな聡明さがある。テレビ局で働くウェイウェイは、フイインとツォンのいさかいに興味を持ったテレビ局のために取材を開始。ツォンの昔話に耳を傾けるうち、ほんとうの祖母と孫娘のような関係を育んでいく。
(C) 2017 Beijing Hairun Pictures Co.,Ltd.
ウェイウェイには、売れないミュージシャンの恋人、アダーがいる。フイインに較べれば情緒が安定しているように映るウェイウェイも、こと恋人とのこれからを考えると、ままならない気持ちになってしまう。
ラン・ユエティンは、ウェイウェイの揺れを絶妙な肌合いで体現している。上戸彩に似ているのはルックスばかりではない。上戸の、一本筋の通った前向きさ。あの爽やかなポジティヴィティが共通している。
一方、アダーとのシーンでは、思わず抱きしめたくなるような憂いの表情を浮かべる。その顔には、媚びたところのない気品があり、それが感情をあからさまには出さない抑制とも相まって、なんとも言えない風情を醸し出す。
はやく両親のもとから自立したいという希求と、ほんとうに今の恋人と新生活を歩めるのだろうかという戸惑い。その混じり合いに、ラン・ユエティンだけがかたちにできるグラデーションがある。
香港映画史的な血筋の良さ
(C) 2017 Beijing Hairun Pictures Co.,Ltd.
ラン・ユエティンは1985年生まれ。奇しくも上戸彩と同い年である。中国・大連市生まれで、中央音楽院に入学、ピアニストとして活動していたという。
2013年、香港映画界の雄、ジョニー・トー監督に見出され、『名探偵ゴッド・アイ』で女優デビューした。彼女を気に入ったトー監督は続く『香港、華麗なるオフィス・ライフ』(2015年)で再び起用。そこでの役どころは、香港の映画俳優であるチョウ・ユンファの娘。そして、この作品でシルヴィア・チャンと共演し、その縁が『妻の愛、娘の時』へとつながった。
アクションのイメージが強いチョウ・ユンファだが、彼には泣ける名作も数多くあり、中でも香港映画ファンにこよなく愛されているのが、1989年の『過ぎゆく時の中で』である。これはジョニー・トー監督作品であり、ここでユンファと共演したシルヴィア・チャンは、なんとユンファとともに原案も手がけている。
不思議な縁というしかない。やがてシルヴィアとユンファという大スター中の大スターの娘役を演じることになるユエティンが、ジョニー・トーに抜擢されたのは単なる偶然ではないだろう。
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きっと、大輪の花を咲かせる「運命」の下に、ラン・ユエティンは生まれている。山口百恵や上戸彩に比べれば、遅咲きかもしれないが、数年後、シルヴィア・チャンの後継者となるような大女優の道を歩んでいるのではないか。大きな期待とともに見守りたい。
(文/相田冬二@アドバンスワークス)