いつか誤字ゼロになる日がくるのだろうか(遠い目)
「お、お前ら・・・逃げろ」
イビルアイが言った瞬間、悪魔の姿が消えた。いや、消えたように見えただけで実際は高速で動いただけだが。
「んきゃ!」
短い悲鳴が聞こえた方を向くと、エントマの腹部に手を当てた悪魔が魔法か何かを使ったのか、衝撃波でエントマが斜め後方に吹き飛ばされた。
いかなる効果があったのか、そのまま王都の街を飛び越え、遥か彼方まで飛んで行ってしまう。
「な!?」
あまりの速さに驚愕の声が漏れる。
すぐさまこちらに攻撃が来るかと思い身構えたが、悪魔はこちらの警戒に興味を示していないように口を開く。
「あのメイドが一番面倒そうだったので退場してもらった。残った君達は俺を楽しませてくれるかな?」
「く・・・お前らは先に逃げろ」
「先にって、おめえはどうすんだよ?」
「イビルアイ一人じゃ無理」
「心配するな。私一人なら転移魔法で逃げれる。その間の時間稼ぎぐらいはしてみせるさ。・・・だから早く行け!」
逡巡しながらもイビルアイの意を汲んだ二人が屋敷の出口へ向かう。
「ふむ。このまま逃げられてもつまらんな」
「させるか!
二人に意識を向けた悪魔に最強化した第五位階魔法を放つ。
のたうつ雷龍が直撃したにも関わらずなんのダメージも受けていないような様子で背中を向けている二人に右手を翳し。
「や、やめろおおお!」
イビルアイの静止も虚しく、悪魔から黒い魔力の塊が放たれる。
足元に着弾した爆発で吹き飛ばされ塀にぶつかりそのまま動かなくなったガガーランとティア。
込められた魔力と威力を目の当たりにしたイビルアイは怒りで頭がおかしくなりそうだった。生きているか死んでいるかも分からない。
「貴様ああああああ!」
『蒼の薔薇』に半ば無理やり加入させられた経緯があるイビルアイだが、自分の人生でいえば短いながらも共に過ごしいくつも冒険してきた間柄。既に仲間のためなら命を賭けられるぐらいの仲になった二人への仕打ちに激高してしまう。
だがイビルアイの放つ魔法の数々はどれも効果が無かった。
最強化しても、魔法抵抗突破で強化しても、
(強さに差があれば魔法が無効化されたりするが、まさかここまでとは。くっ・・・どうする?)
二人が無力化されたため転移魔法で逃げる選択肢は取れない。イビルアイが使える転移魔法は単独用。より高位には集団転移も可能だと聞くがイビルアイは習得していない。悪魔はそのあたりを見越して、先に二人を無力化したのだろう。
今のイビルアイに取れる行動は悪魔をこの場から離れるように戦線を移動させ、後に来る冒険者なり衛兵なりに二人を救出してもらうぐらいしかなかった。
有効な攻撃手段がなく、無効化されにくい、拳に魔力を込めて直接殴りかかっても、悪魔は魔力の渦を飛ばしてこちらの手段を封じてくる。
「くっ!
避け切れずに喰らった肉体ダメージを魔力ダメージに変換して致命傷を避けているが、替わりにイビルアイの魔力がカラになっていく。
イビルアイが絶望しかけた時。悪魔との間に空から黒い塊が落ちてきた。
石畳を砕き。土煙が風に流され。ゆっくりとした動作で起き上がる何者か。
それは月明かりを反射し、漆黒に金と紫の模様をあしらった見事な全身鎧に真紅のマント、背丈程もある二本のグレートソードを両手に持った偉丈夫だった。
先日、『蒼の薔薇』が利用している最高級宿屋の酒場でガガーランとクライム相手に話していたエ・ランテルに新しく生まれた、王国三番目のアダマンタイト級冒険者『漆黒』。
僅か二ヶ月ほどで成し遂げた偉業を聞き集め知っていたイビルアイは呼びかける。
「漆黒の英雄!私は冒険者チーム『蒼の薔薇』のイビルアイ!あの悪魔を倒すのに協力してくれ!」
声をかけたイビルアイは「しまった」と後悔した。あの悪魔は自分でも手も足も出ないほどの存在。同じアダマンタイト級の彼が加わったとしてもどうにもならないと。
「了解した」
イビルアイの要請を受け、気負う様子もなく受けた漆黒の戦士が悪魔から守るようにイビルアイの前に立つ。
その瞬間。イビルアイはまるで巨大な城に守られているように感じた。
(え?・・・なんて頼もしい背中なんだ)
静寂が包む空間で、悪魔から息を飲む音が聞こえてきた。吸血鬼として人間より優れた身体能力がそれを可能にした。
「私は冒険者モモン。お前は何ゆえ王都を荒らす。目的はなんだ?」
「これはご丁寧に。俺は魔王・・・魔王ヤルダバオト。ある男に召還されてね、そいつの望みである復讐を頼まれただけさ」
「何だと!」
悪魔の応えにイビルアイは思わず声を上げてしまう。
うろたえる自分とは対象的にモモンは冷静に相手の情報を聞きだそうとする。
「ほう。悪魔が契約内容を漏らすとはな。その召喚者は何者だ?誰に復讐しようとしている?」
「はっはっはっ。あの八本指の男は正式な手順で俺を呼んだ訳ではないからな。契約に完全に縛られてはいないのさ。俺を召喚するマジックアイテムを偶然手に入れただけで知識の無い矮小な者に俺が縛れるものか。復讐に手を貸してやっているのも俺が楽しむためさ」
(八本指の仕業だったのか)
今まさに壊滅させるために行動していたが、もっと早くに起こせていればと後悔する。
「そうか。ではお前達の企みを潰させてもらうぞ!」
目の前に居た漆黒の戦士が踏み込んだかと思うとすでにヤルダバオトに肉薄していた。
二本の大剣を小枝を振るうように操り、無数の剣線が煌きのように光って見えた。ヤルダバオトがいつの間に出したのか、鎌を手にし激しく打ち合っている。
(す、すごい)
陳腐な感想だが、250年生きたイビルアイをして、幾人も一流や英雄と謳われる剣士をみてきたが、モモンほどの超級の剣士は見たことが無かった。
(がんばれ。モモン様・・・)
やがて少しずつ押していたモモンから距離を離したヤルダバオトが羽を広げ、鋭利に逆立たせて振るう。
目標はモモンではなくイビルアイ。魔力がカラになったため防ぐことも回避することも出来ず、その場に蹲り、目を瞑ることしか出来ない。
「カキンキンキン」と、硬質な音がして目を開けると。
「モモン様!」
イビルアイを守るため身を挺して助けてくれた漆黒の戦士が居た。
「無事でなによりだ」
その瞬間イビルアイの股間から脳天にかけて電流が流れたようだった。
200年以上止まったままの心臓が「ドキンドキン」と高鳴っている錯覚を覚える。
弱肉強食のこの世界では女は強い男に引かれる傾向にある。だが、そんなものは弱い者の理屈だと鼻で笑い、守ってもらう必要がないくらい強ければいいと思っていたが。
目の前の超級の戦士に心奪われていた。顔は熱くなり耳まで赤くなっているのが分かる。仮面をしていて良かった。
もし仮面がなければだらしない顔を晒していただろうから。
「見事だな。そこの女性を傷一つなく守りきるとは」
「ふっ。世辞はいい。それより何故離れて行くんだ?」
モモンが剣を地面に突き刺し、ヤルダバオトに問いながらイビルアイを空いた片手で抱え上げる。
俗に言う『御姫様抱っこ』の片手バージョンである。
(うわあ、うわあ、何これ?すごい恥ずかしい)
またもやうるさく鳴っている気がする心臓に手を当ててみるが、やはりというか止まっている。
この男を逃せばもう二度と満足出来る男には出会えないだろう。
長い時を生きてきたが、色恋に興味も湧かず、酒場でそういった話題になると席を離し知識を得てこなかったことを後悔する。今からでも間に合うだろうか。
アンデッドである身でモモンと子供を作ることは出来ないし、間違いなく先に人間であるモモンが寿命で居なくなってしまうだろうが、ずっとこの男の傍に居たいと思ってしまう。
(なあに。子供は別の誰かに生んでもらっても構わない。妾の一人や二人ぐらいで騒ぐような狭量な心でもないしな。灰色だった人生に一度ぐらい桃色の期間があってもいいじゃないか。それにしても・・・
まだ敵がいるのに短い時間に色々妄想してしまうイビルアイ。
「一度引かせてもらう。せっかく俺が望む強い相手が居るのだ、舞台を整えてやろうと思ってな。この後王都の一部を炎で覆う、その中心で待つとしよう」
そう言いヤルダバオトは空高く飛び立って行った。
「ああ!モモン様、奴が逃げる。追わないと」
「いや、今は追わない方が良い。それよりあちらに倒れているのは君の仲間じゃないのか?」
「あ・・・そうだった。ガガーラン!ティア!」
名残惜しいがモモンの腕から下ろしてもらい二人の元へ駆け寄る。
「良かった。負傷してはいるが気を失っているだけだ」
「大丈夫ですか?良ければ手持ちのポーションを譲りますが」
「ありがとう御座います。ですがそれには及びません。私の手持ちに少しありますし、思ったより怪我は大した事ないようで時期に目が覚めるでしょう。それにもうすぐ仲間がここに着くでしょう。リーダーのラキュースは蘇生魔法が使える神官でもありますから」
「ほう。蘇生魔法ですか。・・・それは会って見たいですね」
「ええ!・・・な、なんでラキュースに会いたいなどと?」
「い、いえ。ただ、蘇生魔法に興味があって、詳しく聞いてみたいと思っただけですが」
初めて芽生えた感情に慣れず、つい取り乱してしまった自分を恥じる。
あまり嫉妬深いのも束縛する女も嫌われると聞いたことがあり、深呼吸をして落ち着きを取り戻そうと努める。
「モモンさん。遅れてしまい、申し訳ありません」
空から黒髪をポニーテールにした美女が降りて来る。
知っている。彼女はモモンの相棒の魔法詠唱者『美姫』ナーベ。
そんな二つ名でよく恥ずかしくないものだと思っていたが、王国の『黄金』にも匹敵するその美しさを見てしまうと納得してしまう。
先程嫉妬は良くないと戒めたところだが、これはどうしても嫉妬してしまう。
自分の容姿は12才あたりで止まっている。胸は膨れかけで小さく、男の劣情を煽ることが出来ない。
一部の特殊な者であれば逆に喜ぶらしいがモモンがそうとは限らない。
色々考えてへこんでくるが、無い物はしょうがないと、前向きに頑張ろうと気持ちを新たに上を向くと、王都の一区画が炎で照らされていた。
「モモン様!あれを」
「あれは・・・ゲヘナの炎」
***
時は少しさかのぼり────
アインズはエ・ランテル冒険者組合で依頼を受けていた。
依頼主は王国六大貴族の一人レエブン候。
表向きは身辺警護となっているが、それは偽装で本当は犯罪組織『八本指』を襲撃するために手が足りず手を貸して欲しいという内容だ。冒険者は組合に国との関わりを禁じているためにこういった根回しが必要だったりする。
レエブン候が手配した魔法詠唱者が
アインズは運ばれながら今回のゲヘナの内容を頭の中で復習していく。
まず、王国側より先に八本指『全て』を襲撃して、犯罪者、金品などの物資を攫う。
ドッペルゲンガーを人間に化けさせ悪魔が現れたと叫ばせ一般市民を非難させる。
悪魔を放ち、市民に紛れて暮らしている八本指関係者を市民を襲っているように周りに見せ付ける。さらに一般人に化けたドッペルゲンガーが攫われる様子も見せる。これは八本指をピンポイントで狙ったこちらの狙いを紛らわせ、悪魔の習性を晒す意味がある。
一体だけ放ったLv50超の悪魔はプレアデスの成長を促すためだ。ザイトルクワエ戦で守護者が見せた連携はアインズとしては酷いモノで「満足に足る」と言ったのは予想通りNPCには戦闘経験が圧倒的に不足しているのが分かった結果からだった。もっとも、あの時は勘違いやレベルの差があり、どの程度手加減しなければならないか理解出来ていない感があり、連携の練習には難易度が高かったかも知れないが。
そのための同レベル同士の戦闘。しかも事前情報のない現地人との連携をさせるために、戦力として期待できるであろうアダマンタイト級冒険者を引き付けるように悪魔を向かわせた。
プレアデスの誰がその役目を果たすかは冒険者の動き次第で、事前にこちらも分かっていないが、プレアデスはこれを承諾。「全力であたらせて頂く」との意気込みだった。
八本指の情報や所在地。一般人との見極めは、恐怖候の眷属に隠密に長けた僕を大量投入しデミウルゴスとアルベドが全力で当たったことにより丸裸となった。
そちらを最優先したため、強者である『蒼の薔薇』についてはセバスが集めた情報ぐらいしかなかったが、特に問題ないだろう。
そしてアインズのワガママ。
今回の作戦を機にどうしても試しておきたかったこと。
アインズが大きくダメージを受けなければならないということ。
アンデッドには痛覚がない。以前陽光聖典が召喚した天使から受けたダメージは弱く、ジリジリするような感触で苦痛は無かった。シャルティア戦では確かに痛いと感じるダメージはあったが、それも耐えられるレベル。
だが人間になったことで痛覚も当たり前にある。未知の世界でプレイヤーや同格の強者と戦った時に腕を切り飛ばされたり、痛みで戦えなかったりしたら目も当てられない。
そのためアインズは自分がどれだけ痛みに耐えられるか、耐える訓練が必要だと守護者に説明した。
当然の如く反対されたが、これは譲れないところ。
話し合った結果。
ギルメンが直接創造した者ではなくともアインズは大事に思っており、死なせるつもりは無い。
守護者達同様に絶対の忠誠心を持っている
アインズが知っているのは大まかな流れだけで、細かい部分はデミウルゴスに「後はお任せを。御身は英雄モモンとして立ち回って頂ければ」とハブられてしまった。
大筋が決まり、後はデミウルゴスとアルベドに任せておけば問題ないと思いパンドラと訓練し、今に至る。
王都が見えてきた。そして離れた場所で爆発が見える。
「ナーベ。私をあの場所に投げろ」
「畏まりました」
そうしてアインズは思ってもいなかった戦闘を終わらせ
(それにしても、こんな小さな子供がアダマンタイト級の強さとは、この世界はどうなっているんだ)
***
ゲヘナの炎を確認した後。王城にある一室に集められていた。今ここには王都に在籍している全冒険者が集められていた。
モモンはナーベと部屋の隅で腕を組んで静かに佇んでいた。
モモン等冒険者がいる位置より一段高い壇上で、第三王女ラナーが何度200以上とされている対ヤルダバオトの作戦を説明していおり。同じ壇上には、冒険者組合長の妙齢な女性。白銀の鎧を着た少年。『蒼の薔薇』リーダーのラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。先程会ったばかりのイビルアイ。────そして今の状態で会えばマズイ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフがいる。
カルネ村で会った時から約二ヶ月経っており、交わした会話も僅かだったからアインズの声などもう忘れているだろうが、念のためにガゼフと会話が必要な事体があればナーベに対応してもらう手筈になっている。
(万が一の時は鈴木悟の素の声で乗り切ろう)
モモンが居る位置の反対側に、ユリ。ルプスレギナ。シズ。エントマが綺麗な姿勢で立っている。
代表でユリが冒険者組合長に────自分達四人は主であるアインズ・ウール・ゴウンの命により王国民を助けるために来たのであり、悪魔討伐には手を貸さず、あくまで一般人を助けるだけだと。その際、必要があれば悪魔とも戦う。と、先に釘を刺している。
ガゼフの口添えがあったらしく一応の信用は得られたが、監視の意味を含むのか一般人の非難の手助けとして衛兵が数人付くことになった。
冒険者への説明が終わり、別室で作戦の要になる者達による話し合いを開くこととなった。
ガゼフは王を守るためこの場にはいない。アインズは安心から胸をなでおろした。
別室にてモモン。ナーベ。『蒼の薔薇』の五人。プレアデスの四人。クライムとブレインが椅子に座って作戦について話会っている。────いや、ガガーランとティアはエントマのところにいた。
「いやあ、無事で良かったぜ。怪我の方は大丈夫なのか?」
「問題ないわぁ。回復してもらったしぃ」
「ちゃんとお礼言えてなかった。助けてくれてありがとう」
「どう致しましてぇ」
イビルアイも三人の下へ礼を言いに行きそのままいくらか話しこんでいるのが聞こえてきて、エントマが当たり?を引きヤルダバオトに退場させられたことを知った。
(エントマはしっかり出来たようだな。詳しくは全てが終わってから聞くとして、様子を見る限りナザリック外の人間とも友好的に話しているし、後で褒美をやらないとな。────エントマってなにをやったら喜ぶんだ?)
四人の話が終わり改めて全員で煮詰めていく。イビルアイがやたらと持ち上げてくる。確かに危ないところを助けたがずっとこちらを見上げてくるため少々居心地が悪い。仮面で表情は見えないからハッキリとは分からんが好印象なようだが。
だが、アインズがこの場で一番興味が湧くのが『蒼の薔薇』リーダーのラキュースだ。
王国唯一の蘇生魔法の使い手の神官戦士。第五位階の信仰系魔法を行使して、さらに戦士としても一流。自らに強化魔法を掛ければあのガゼフにも勝てそうだと思った。
装備品もこの世界基準で最上で、中でも彼女の持つ両手剣────魔剣キリネイラム。
『漆黒の剣』から聞いた十三英雄の暗黒騎士が持っていた四本の内の一本。
彼女の仲間曰く。全てのエネルギーを解放すれば国ごと吹き飛ばせるほどの力があるが本人にも危険があり、日夜魔剣に精神を乗っ取られないように頑張っているらしい。
(呪われた剣なのか?)
詳しく聞こうとしたが、「だ、だ、大丈夫です。そのような事は起こさせません」と、真っ赤になり両手を顔の前で振りまくってきたのでそれ以上踏み込めなかった。神官でもあるから呪い系には耐性があるのかな。
(それにしても)
すごい美人だ。『黄金』と呼ばれるラナー王女も美しいと思ったが。
髪は綺麗な金を巻いており、エメラルドの瞳は力強く、ずっと見ていると引き込まれそうな気がする。
整った顔立ちに薄い桃色の唇。スタイルも良く、出ているところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
まるで『太陽』のような美女だった。
打ち合わせが終わり、複数の班に分かれ進行する。
ヤルダバオトと戦えるのはモモンだけという現状から、ゲヘナの炎の中心にいるであろう場所までの補佐に、支援魔法と回復が使えるラキュース。モモンを除けば最強のイビルアイの二人が付く。最短距離の大通りを通るため、他の冒険者の中から精鋭と、他の班より多めの衛兵を揃えることとなった。
モモンはレエブン候に雇われた身で、八本指襲撃から悪魔退治へと内容が変わったが、いわば助っ人という立場から作戦内容や人員の振り分けには特に口を挟まなかった。ナザリックの計画でもモモンがやるべき事はこれで最後でヤルダバオトと戦うだけ。
ナーベが離れて行動するのに不満顔だが、我慢して欲しい。
作戦開始までまだ時間がある内にラキュースから蘇生魔法<
モモン、ラキュース、イビルアイが先頭で戦いながら包囲を縮めていく。
円で囲まれた炎を周囲から一斉に中心に向かって進めていく。
プレアデスは別働隊として行動し一般人の救出。これはいわば出来レースで、さすがにドッペルゲンガーの誘導だけで全ての市民が避難出来る訳もなく、逃げ遅れた一般人はある倉庫に集められて閉じ込められている。、連れている衛兵を誤魔化すよう適等に探し回って門番代わりの強めの悪魔を倒す手筈になっている。
モモンが飛び出して来た
視界に収まる悪魔は
この程度の悪魔だと中級冒険者ならば油断せず連携を取っていればそうそうやられたりしない。衛兵には荷が重いがそちらは冒険者の後ろでバリケードを築きながら前進しているので特に問題は起こっていない。
「
ラキュースの背に浮いていた六本の黄金の剣が声とともに突き進み、飛んでいる悪魔を串刺しにした。
空を飛ぶ
(おお!なんだあれ?ユグドラシルには無い攻撃手段だな。王国のアダマンタイト級の強さを知る良い機会と思ったが、あれはかっこいいなあ)
すでに卒業したはずの中二病がムクリと起き上がってきた気がした。
「モモン様の邪魔はさせん!
イビルアイも負けじと張り切って魔法を放ち、複数の悪魔が無数の水晶の弾丸により、消滅していく。
通常のモンスターであれば死体が残るが、召喚されたモンスターはその命が尽きれば何も残さず消えていく。例外もあるかもしれないが、少なくとも
(あれに後ろの連中が襲われれば危険だな)
そう考えたモモンは背負っていたもう一本を左手で抜き払い、槍投げのように投擲。腹の出た悪魔に突き刺さり消滅していく。
周りから「オオオオォ!」と歓声に対し軽く手を上げて応え、投げ放った剣を拾い、再び背に装着する。そのまま立ち塞がる悪魔を切りながら突き進む。
ゲヘナの炎の中央。十分に拓けた広場の中心にヤルダバオトが腕を組み、こちらを見据えるように立っている。
「待っていたぞ冒険者モモン。ここが我等の雌雄を決する場だ、些か観客が少ないがね」
「ふっ、招待されたからには来るのは当然さ」
待っていた悪魔に対してモモンは特に気負うことなく答える。その堂々とした態度に憧れの眼差しを向けるイビルアイとラキュース。
「ヤルダバオト!お前を召喚した男の復讐には興味が無いのでしょう!?お前は何を望んでいる!?」
事前の打ち合わせでモモンとヤルダバオトとのやり取りを聞いたラキュースが、悪魔が放つ恐ろしい気配に気圧されながらも相手の目的を聞く。
「愚かな質問だな。・・・まぁいい。俺の望みは命を賭けた胸躍る戦いだ。一対一に拘りもない、三人がかりでも舞わんぞ」
イビルアイは、悪魔は基本人間を苦しめるのが趣味のような存在だと思っていたが。戦闘狂になってしまう悪魔もいるのか?と感じていた。しかし、これほど強大な力を持つと満足に戦える相手も殆どいないだろう。超級の戦士『モモン』を知ればほっとけないのはなんとなく分かる。モモンがどう思っているかは分からないが、ヤルダバオトを逃がす訳にはいかない。大して役に立てないが援護ぐらいさせてもらう、ラキュースもそのつもりでここまで来た。向こうも三人がかりで良いと言っているし、前もってそういう段取りで話し合っている。
ラキュースと顔を合わせお互い頷きあう。
ラキュースが全体支援魔法を掛けていく。
「アインドラさん。イビルアイさん。援護を頼みます。ただ・・・無理はしないで下さい」
モモンが二人を心配して声を掛けてくれる。
「行くぞ!ヤルダバオト!」
モモンが二本のグレートソードを構え強大な悪魔に向かっていく。
・モモンの鎧────
アインズ様の肉体が変質したことにより鎧状態でも普通に全魔法使用可能にしてます(あまり重要じゃない)。
・
これは完全なネタ魔法ですね。ユグドラシル世界を考えると、
アインズ様みたいに引退したプレイヤーの最強装備があればワンチャンあるかも。・・・ただ、やっぱりユグドラシルではねえ・・・
そんな解釈により