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【社説】

中国の強国路線 「のど元過ぎれば」憂う

 中国トップの習近平氏が再び言論統制を強め強国路線を打ち出した。米中貿易摩擦による経済への打撃に批判が強く、謙虚な姿勢への変化に期待があったが、一時しのぎにすぎなかったようだ。

 北京で八月下旬に開かれた「全国宣伝思想工作会議」で、習氏は「党中央の思想工作は完全に正確で、宣伝思想戦線にある幹部は信頼に値することを実践が証明した」と演説し、言論統制を柱にした従来の強権統治を正当化した。

 息苦しいような管理社会に不満を募らせていた中国の民衆はむろん、過剰な「強国路線」に中国の脅威を感じていた国際社会も、習演説に落胆したに違いない。

 経済に多大な悪影響を与えた米中貿易摩擦への対応や、独裁的ともいえる統治姿勢に、中国ではこの夏、習氏への抗議の動きさえ表面化し、ネットで広まった。

 これに対し、政権側の自重と映る反応もあった。街頭やビル外壁に掲示されていた習氏の写真や政治スローガンが撤去され、国威発揚の宣伝映画のタイトルだった「すごいぞ、わが国」という標語が中国メディアから姿を消した。

 強硬路線復活の背景には、長老らも出席した夏の北戴河会議を乗り切ったとの習氏の自信があるのかもしれない。会議では習氏に対する個人崇拝批判が提起されるとの観測があった。しかし、会議閉幕後、人民日報は習氏への「絶対忠誠」を強調した。

 習政権は今春、国家監察委員会を新設し、共産党員以外のメディア、教育機関幹部などにも監視網を広げた。街頭におびただしい監視カメラを設け、ネットでの市民のやりとりも監視している。

 貿易摩擦は習体制批判のきっかけにすぎず、マグマのようにたまっていた民の不満が噴き出したものだ。それだけに、いったん自重したように見えた習氏が「忠誠」を振りかざし、すぐに強権路線に戻すのは「のど元過ぎれば熱さを忘れる」ような態度に映る。

 広東省では、待遇改善を求めた工場労働者を支援するため、習氏宛ての公開書簡を出した大学生ら五十人余が拘束された。

 異論を許さず、民主的な行動を強引に封じ込めるようなやり方こそ最大の問題である。

 習氏を研究する日本の学者は「毛沢東回帰の政治スタイル」と指摘する。だが、強国路線で建国の父に並ぶ威信を自ら演出するのではなく、政治的評価は後世の民にこそ委ねるべきものであろう。

 

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