BLOGOS編集部
そんな棚橋選手の初主演映画「パパはわるものチャンピオン」が9月21日(金)に公開。プロレスラーとして、父として、スクリーンから何を伝えるのか。男・棚橋弘至に話を聞いた。【取材:田野幸伸・蓬莱藤乃 撮影:弘田充】
棚橋:どうも、100年に一人の逸材!棚橋弘至です!
—まずはG1クライマックス優勝、おめでとうございます。
棚橋:あ、そこからですか(笑) ありがとうございます。
—初主演映画の公開を控えたこのタイミングで3年ぶりのG1優勝。本当に棚橋さんは持っているなと思いました。
棚橋:責任感ですね。いい意味でプレッシャーになりました。プロレスでちゃんと結果を残して、さらに主演映画も控えていて…、これってサイコーにカッコよくないですか?
—現実がそれこそ映画のようです。
棚橋:本当に一番いい流れで来ているなと思いました。今から映画のタイトルを『パパはG1チャンピオン』に変えてもいいですね。G1のGは僕が演じた悪役レスラー・ゴキブリマスクのG!って、こんなこと言ってると、いつか怒られます(笑)
—映画公開が控えている中、G1でカッコ悪い負け方はできないという思いはありましたか。
棚橋:プロレス以外の仕事が増えていく中、イベントに来てくれたファンの方に「プロレスも頑張ってくれ」と言われたことがあって、それがグサッと胸に刺さっていました。
ファンの方が会場に応援に来てくれるのは、棚橋に活躍してほしいし、勝ってほしいから。今回は映画の仕事が忙しかったこともあるけど、それを言い訳にしちゃだめだと思ったことがG1の優勝につながったんだと思います。
いつの時代にもある世代交代の波
(c)2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会
棚橋:川田利明さんがマスクのヒモを解いてね、実況席が「何やってんだ!」って慌てて。
—棚橋さんは2004年に三沢さんとGHCタッグ王座のベルトをかけて対戦しています。
棚橋:日本武道館でした。三沢・小川組、こっちは永田・棚橋組。
—ちょうどあの時の三沢さんと今の棚橋さん、41歳で同じ年になられているんです。まさにレスラーとして脂がのった年代になってきましたね。
棚橋:世代間の闘争は、いつの時代にもある。今はオカダの台頭があって内藤(哲也)の人気が出てきて、外国人選手のケニー(・オメガ)も上に上がってきて、それは新日本プロレスにとってはすごくいいことです。
(c)2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会
棚橋:主人公の大村孝志はエースと呼ばれてきましたが、ケガを負ってマスクマンをやることになりました。でもエースの記憶というのは強い。どうしても今の自分を受け入れられない。時代が変わっていく中で、今の自分を受け入れられるかどうか、というのが実はこの映画の隠れたテーマだと思うんです。
いつまでもいい時の記憶(=自分)に引っ張られていると、次に進めない。大きくは父と子、家族の物語ですが、僕らの世代が見ると、今の自分を受け入れて、次に進めるのか?という裏テーマも大村という男の姿を通して感じることができると思います。
今の自分には捨ててきたものしかない
BLOGOS編集部
棚橋:捨ててきたものしかないです。捨てることによって変わってきたと思っています。僕は昔、藤波辰爾さんのファンで、クラシックなレスリングのスタイルが好きだったのですが、それでは万人受けしないと思ったので、誰にでも分かるようなプロレスをやってきたつもりです。自分の好きだったプロレススタイルを捨てたことがまずひとつ。
それから練習・試合・プロモーションでここ10年くらいほぼ無休でやってきたので、家族との時間を犠牲にしてきました。久しぶりに家に帰ると、子どもが小さい頃はもう立っていたとか、もう話すんだとか、びっくりすることだらけ。もっと写真やビデオをいっぱい撮っておけばよかったなと後悔しています。
—映画のようにお子さんの運動会や学校行事に参加する機会は?
棚橋:学校の旗持ち当番や絵本の読み聞かせをやりました。でも、『旗持ち当番、やりました』とか、僕はいちいちツイートするんです。そういうことをアピールしながらベストファーザー賞を獲りにいって、実際に2016年に頂きました! 獲りに行って本当に獲った最初の人物です!
プロレスラーの世間からのイメージって、デカいとか怖いとか大食いとかじゃないですか。ベストファーザー賞は家庭的で優しくてという真逆の印象。その相反するふたつが結ばれた瞬間です。レスラーのイメージをまたひとつ良くしてしまいました(笑)。プロレス界全体が僕を表彰してもいいですよね?
—ベスト・ファーザー賞を意図的に獲りに行くのもすごいですし、ホントに獲っちゃうのもすごい(笑)
棚橋:実は絵本の読み聞かせをやっている中で、今回の映画の原作となった絵本「パパはわるものチャンピオン」とも出会っていたんです。
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—絵本に出てくるスター選手は棚橋さんそっくりですよね。
棚橋:この「ドラゴンジョージ」ってスター選手は俺がモデルじゃん、って思いながら読み聞かせしていました。
—それがまさか悪役のゴキブリマスクの方をやることになるとは…?
棚橋:思わなかった! ゴキブリマスクを実際に演じながら、10年前だったら棚橋がドラゴンジョージでもいいかもしれないけど、新日本プロレスのリング上の流れと絵本の中、どちらも時は流れたのだなと思いました。ちなみに、場外からリングインする時のゴキブリみたいな動きは、僕の案が採用されたんです。
いつまでもプロレスラーと名乗っていたい
BLOGOS編集部
棚橋:ケガが続いた時は、どこまで現役生活を出来るかなとネガティブな気持ちにもなったりしましたが、生涯現役でいいかな、いつまでもプロレスラーと名乗っていたいなと今は思っています。
—鈴木みのるさんは50歳で今回のG1に出場されていました。藤原組長(藤原喜明選手)には50歳からがレスラーとして脂がのって来る時期だと言われたそうですが。
棚橋:『週刊プロレス』に藤原組長のコーナーがあって、僕が誌上で質問したら『レスラーは50から脂がのって来るんだ』って。それを見て「そっか、俺はまだ脂がのってなかったんだな」と、反省しました(笑)
—じゃぁファンはまだたっぷりプロレスラー棚橋弘至を楽しめますね。
棚橋:まだっていうより、これから全盛期じゃないですか。棚橋弘至がボーナスタイムに入ってきたかなって感じです。
—いちプロレスファンとしては、今現在のプロレスが映画として残ったということに、とても価値を感じます。棚橋さんはどんな思いでプロレス界を引っ張り続けてきたのでしょうか。
棚橋:プロレスラーになって有名になる、という思いがあって、テレビに出るというところまではイメージしていましたけど、まさか映画の主演の話が来るとまでは思い描いていませんでした。頑張ってきたことがこういう形になったのはすごくうれしいです。
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そしてもう一つ。今回はプロレスファンも見に来て下さると思うんですけど、プロレスを見たことのない方が映画館に来られて、迫力満点の試合のシーンを見てくれる。この映画がきっかけでプロレスにも興味を持ってもらえればと思います。
プロレスというジャンルがあって、映画というジャンルがあって、その垣根を越えていく。プロモーションをずっとやってきて、そのふたつを繋げられるのが一番嬉しいことです。