量子メモリー進化へ、核スピンをMEMSで制御
ガリウム・ヒ素の結晶を加工し、両端が固定された板バネ構造のMEMSを作成した。このバネを振動させると固定端にひずみが生じる。ひずんだ部分の原子は核磁気共鳴の周波数が影響を受ける。
実験で板バネの振動を増減させたところ、5キロヘルツほど共鳴周波数を動かすことに成功した。共鳴周波数を変化させたり、混ぜることができた研究は世界初という。このMEMSの構造は半導体素子に集積できる。NTTが素子作製と計測、産総研がデータ解析などを担当した。
【ファシリテーターのコメント】
桁違いの高速計算を実現する量子コンピューターや、絶対的な秘匿性が予想される量子鍵配送通信では、量子情報を一定時間保持できる量子メモリーが重要な要素技術として注目されています。量子状態を長時間維持する技術の候補が、原子核の回転(核スピン)を利用すること。原子の中心に位置する核のスピンは、原子の周囲を回る電子スピンに比べて1000分の1程度の大きさの磁気しか持っていないため、外部の影響が小さく、長く量子状態を保持できる可能性があります。今回の発表は、原子核の回る核スピンの周波数をMEMSで制御できることを示唆したため、量子メモリーへの応用が期待されます。
梶原 洵子