実際、すでに2回の駆除が行われていても、ネズミが減ったという実感はないようだ。築地場内で働く男性が話す。
「お客さんがいるときはあんまり姿を見せないけど、人影が少ない夕方には今でもいるよ。フンはそこいらじゅうに落ちているね。階段を伝って2階にも上がるし、箱を齧って穴を開けることもある。電話線だって齧られたこともある。
場内だけで駆除しても無駄だよ。あいつらどこにだって出入りするんだから、築地市場がなくなったら、別のどこかで生きるんじゃないの」
築地市場内には鮮魚の荷捌き場があり、船が接岸できる形状になっている。ここはネズミ対策が設けられておらず、自由に出入りができそうだ。眼の前は隅田川。勝鬨橋のたもとまで行けば、橋桁を伝って対岸にも行けるし、晴海通りに上がれば、植え込みを伝って銀座方面にも移動できる。
都は隅田川沿いにカゴ罠を設置していると言うが、その数も十分とは言い難い。そしてドブネズミは、泳ぎも得意だ。
「実験では4時間ほど泳ぎ続けたというデータもあります。隅田川の流れに乗れば、向こう岸に辿り着くのは困難だとしても、岸沿いに流出範囲はかなり広がります。
ドブネズミの行動範囲は餌場から約50mと言われていますが、餌がなければ移動距離はどんどん延びます。出入りする車の荷物に忍び込んで拡散することも考えられる。広い道路を横切ることはないでしょうが、地下に配管があれば、それを伝ってどこまででも移動します。
東京都が行っている駆除方法が間違っているとは言いませんが、あれだけ大きな規模の市場全体をすべて塞いで駆除するのは、物理的に難しいのではないでしょうか」(前出・矢部氏)
10月11日には豊洲市場がようやく開場する。華々しいスタートがニュースを彩るだろう。だが、それはネズミたちの大脱出の号砲でもある。
「ドブネズミは2〜3ヵ月で成体になります。生殖機能が備わり、繁殖が可能になる。1匹が平均で8匹生むと考えれば、現実的なネズミ算の怖さがわかってもらえると思います。なにしろ推定1万匹ですからね」(矢部氏)
温暖化の影響か、ゴミが増えたためか、近頃、都内の繁華街や駅の線路などで、ネズミを見かけることが増えたと感じている人も多いだろう。今後、築地市場の解体が、それに拍車をかける。
東京五輪が開催される20年はネズミ年。ネズミだらけの都市で五輪とは笑うに笑えない。10月からの解体工事中、正門は開けっ放しになる。周囲を囲っても、ネズミの脱出は防げない。
「週刊現代」2018年10月6日号より
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