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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン 作者:すみもりさい

第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン

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魔王は神殿の情報を得る


 いきなりスライムに襲われ、連れ去られた場所は森の中だった。イビディリア神殿に近い森だろう。

 男が一人、ケラを見下ろしている。


 兜は付けていないが、黒い全身鎧に身を包んでいる。腰には同じく黒い剣。色は違えど見覚えがある。聖武具エルザナードに間違いない。


「ガリウス……。なぜ……?」


 ケラは上体を起こし、後じさって距離を取った。腰を抜かしているわけではないが、立ち上がれば攻撃や逃亡を警戒され、何をされるかわかったものではない。


「なぜ、か。その疑問は、俺がお前の正体を知っていたことか? それとも、俺が今ここにいる理由か?」


「両方だ。といっても、我の正体はダニオから聞いたのであろう?」


「お前の正体は、お前が飛空艇から降りたときに知っていた」


「な、に……?」


「樹木化を解いたら精神なかみのない肉体うつわだけだったからな。その場に誰かが来た形跡があったので、肉体を移し替えたのだと推測した。その匂いをアオ――ユニコーン・フェンリルに嗅ぎ分けて特定したんだよ」


「泳がせて、いたのか……」


 ケラはぎりと奥歯を噛む。

 隠れ潜んでいたつもりが、ずっと監視されていたとは。

 近々肉体を変える気でいたタイミングで現れたのも、それを見越してのことだろう。そして――。


「我を殺す術を、見つけたか」


 ガリウスは口の端を持ち上げた。それが答えだ。


「だが、こうして姿を現したのならば、我となんらかの交渉をしたいのであろう? ただ殺すだけならば、気を失っている間に終えられるものなあ」


「お前は俺たちにとっての害悪だ。苦しませて殺すため、とも考えられるぞ?」


 冷ややかな物言いにぞっとする。震えが止まらなかった。


「冗談だ。そう怯えるなよ」


「……冗談には聞こえぬな」


「なに、お前の知識をすこし分けてもらいたくてね。用が済んだら逃げるなり肉体を移すなりすればいい」


「情報の対価はこの命、というわけか」


「違うな。見逃すのは今回だけだ。次に見つけたら声もかけずに殺す」


 ケラは嘆息を吐き出した。


「そうまで毛嫌いされる理由を聞かせてほしいものだな。我の知識が必要ならば、側においておればいい。余計な口は出さぬし、それこそ我はただ見ているだけに徹しよう」


「信用できない。お前の行動指針はただひとつ、『世界を記録する』ことだ。そのためなら平気で裏切る。そもそもお前、どこかに所属するという意識がないだろう?」


「……まあ、そうであるな。否定はせぬ。だが、そこはほれ、王たる者の懐の深さをだな――いや、いい。今回はそれで手を打とう」


 ぎろりと睨まれ、ケラは肩を落とした。


「で、何が訊きたいのだ?」


「神殿の情報を知っているだけ話せ」


 ガリウスは何の説明もあえてせず、それだけ尋ねた。


「神殿? トゥルスの街近くにある、イビディリア神殿のことか?」


「……ほう? あそこはイビディリア〝遺跡〟のはずだが、神殿もあるのか?」


「この大陸には数多の遺跡が存在するが、内いくつかの最奥には、古代の神殿がある。いや、逆だな。神殿を隠す施設なりが『遺跡』のかたちで残っておる」


「イビディリアもそのひとつか」


「そうだ。神殿は全部で七つ。といっても、数は推測を重ねた末の結論だがな」


 最果ての森にあるイルア神殿から転移できるのは六つ。イルアを含めれば七つだ。なかなか正確だな、とガリウスは感心する。


「他の神殿はどこにある?」


「我とてすべてを把握しているわけではない。イビディリアを含めて五つ、といったところか」


「すべて話せ」


 わかったわかった、とケラは胡坐をかいた。


「まず、そなたの住まう最果ての森にひとつ。名は解明に至っておらぬ。場所もおおよそしか――」


「そこはいい。他は?」


「なんだ、せっかく近場を紹介してやろうと……ふむ、なるほど。すでに攻略済みか」


 余計な詮索はするなと言いたかったが、ガリウスは黙っておいた。ある程度の情報開示でケラが自ら持つ情報と照らし合わせ、新たな発見をする可能性があるからだ。


「では次だな。北の大海に火山島があるのは知っているか?」


「よくは知らない」


「百年ほど前に大噴火があってな。溶岩で埋まったために手つかずの遺跡がある。名は〝グリア〟だ」


 位置的に困難とは言えず、島自体も大きくはない。


「だからといって発見は容易ではなかろうな。あたりをつけて掘り起こすのは億劫だぞ? 聖剣で地表を吹き飛ばすにしてもな」


 ケラはにやりとしてから続けた。


「南方諸国のさらに南、砂漠地帯にひとつある。名は〝アカディア〟。百階もの高き塔であるらしい」


「攻略はされていないのか?」


「常に砂嵐に隠され、偶然でしかお目にかかれぬそうだ。また砂漠の民が神聖視しておってな。連中が近づくのを許さぬ」


 補給がままならない砂漠で、現地の住民から敵視されると攻略には手間がかかるだろう。


(そこは考え方次第か)


 補給線さえ確保できれば、むしろ誰も近寄らないのだから楽ではあった。


「で、最後だが……」


 ケラがわずかに言い淀んだ。


「ルビアレス教国にあると、我は睨んでおる」


「はっきりしないな。お前は連中と仲良しなのではないのか?」


「……協力関係にはある。が、信頼関係はない」


 そうだろうなあ、とガリウスが納得した顔を見て、ケラはぐぬぬと悔しそうにした。


「と、ともかくだ。彼奴きゃつらが唯一神を祭る大神殿の地下に、七神殿のひとつが隠されておると我は推測しておる」


「神殿の下に神殿があるのか」


「冗談のように思えるが、我は教国で自由に動けたからな。大神殿以外はあらかたこの目で確認した。他には考えられぬ。というわけで残念だったな。そこはすでに彼奴らが攻略済みだ」


 はたしてそうだろうか?

 神殿を完全攻略すれば他の神殿への道が開かれる。だがイルアにもイビディリアにも、他の誰かが挑戦した形跡はなかった。

 イルア神殿の制御室で表示された他の神殿の名前も、ガリウスが攻略中のイビディリア以外はみな同じく文字色が灰色で違いがないのも気にかかる。


 そもそも七神殿は、イルアを守護する精霊獣の言葉によれば『いにしえの神々《・・》が造った』ものらしい。

 唯一神のみを神と崇める彼らが、多神の存在を肯定する場所に挑むとは考えにくかった。

 むしろそれを隠さんがため、その上に自分たちの神殿を建てたのなら心理的に納得できる。


(いずれにせよ、教国はまだ攻略していないと考えてよいだろう)


 仮に攻略済みであったとしても、マスター権を奪う方法がないとも限らない。


(とはいえ目下の敵の懐だ。そちらは(・・・・)俺がどうにかするか)


 しかし、いきなり飛びこんで、は早計だろう。事前に情報を集める必要があり、そのためには内部で自由に動ける誰かを……。


「な、なんだ? なぜ、我をじっと見ている?」


「この際、お前でもいいか。ケラ、俺に雇われる気はないか?」


「雇用したい相手に面と向かって『お前でも』とは頭に虫が湧いておるのか? いや、皮肉を返しておる場合ではなかったな。我を殺す気満々のくせに、まだ便利に使おうというのか!」


「そうだ」


「いっそ清々しいな……。が、断る。いや、承諾しよう。そのうえで裏切ってやろうではないか!」


「まあ落ち着け。お前の話を聞いて状況が変化した。お前だって神殿の最深部に興味があるだろう?」


 ケラはむむむと押し黙る。


「ついでにお前がおそらく『記録』していないことをひとつ、見せてやってもいい」


 ほう? と興味を示したケラを見て、ガリウスは聖剣を抜いた。


「エルザナード、出てきてくれないか」


 人型の精霊は特に珍しいらしい。加えて彼女の姿を晒し、聖武具の封印が完全に解けたと信じさせる。

 そして、もうひとつ――。


『まったく……。今この場で必要なことなのでしょうか?』


 渋々といった様子で、聖剣からではなく、ガリウスの腹(聖鎧)から何かがにゅっと現れた。


「なっ!?」


 ケラは、心底驚いた。


 金髪の女だ。薄手の金のワンピースを着て、ガリウスの周囲をふよふよ飛び回る。


「どこから出てくるんだお前は」


『わたくしがどこから姿を現そうと自由です。ええ、わたくしを見世物のように扱う人に言われたくはありません』


 やれやれと肩を竦めるガリウスは目に入らず、ケラは女を凝視する。


(なぜ、だ……?)


 知っていた。

 自分はあの女を知っている。いや、当時・・あの女を知らぬ者はいなかった。


 女はケラを観察する。どこか呆れたような顔が逆に恐ろしかった。

 ついに嘆息とともに肩を落とし、ガリウスの背後に回ると、ケラに顔を向けて人差し指を唇にあてがう。『しー』と声には出さず、凍るような視線を突き刺してきた。


(そうか、そういうことか……。『災厄の魔女・・・・・』め、精霊昇華して武具に憑りつくとはな。それが『聖武具』だと? は、笑わせる)


 どうやらガリウスは女の正体を知らないらしい。知っていれば、いくらずば抜けた性能を誇る武具だろうが、使おうとはしないだろう。


(あれから二百五十年か。改心するには十分な時間ではあるが……さて、どうであるかな)


 契約者であるガリウスの行いは、かつて女がやっていたのとさほど変わらない。


 人の滅殺。

 ゆえに人々から『災厄の魔女』と恐れられた女。


 ケラはごくりと唾を飲みこんだ。

 奥歯に力をこめ、立ち上がる。


「裏切るかどうかは状況次第。対価は神殿攻略後に我を最深部に同行させること。それでよいなら雇われよう。内容は教国へ入り、神殿周りの情報収集、でよいな? 我に戦闘は期待されても困るのでな」


「……どういう心境の変化だ?」


 やけにすんなり承諾したのに疑念が浮かぶ。


「人型の精霊はお初にお目にかかる。かように面白い存在を飼っておるそなたに、一層興味がわいた」


「……なるほどな。まあいい。条件は飲もう。連絡手段は――こいつを使ってくれ」


 ガリウスは足元の袋からペンダントを取り出した。楕円をした水晶のようなものが取りつけられている。


「なんだ、これは?」


 ケラが受け取ると、水晶部分から何かが飛び出した。


「ぴゅい♪」


 爪ほどの大きさの、スライムだ。


「基本、そいつが見聞きした情報は俺に伝わる。こっちからは……そいつが教えてくれるから今は気にするな」


「今の段階で疑問が三十ほど浮かんだのだが……どうせ答えてはくれまいな。では、我は行くとするか」


 ガリウスは別の小袋を取り出すと、ケラに放り投げた。じゃらりと音が鳴る。

 ケラは無造作に拾い上げると、最後に一度だけエルザナードに目をやってから、以降は振り返らず去っていった。


『では、わたくしたちも参りましょうか』


 エルザナードが宙を舞う。

 ガリウスは冷ややかな視線で追った。


(こいつは、俺を信用していない)


 話しぶりは丁寧だがおちゃらけた風なのは、はたして彼女の本質なのか?

 そも彼女は望んでガリウスと契約したのではなかった。いまだに自身の素性を頑なに話そうとしない。


(ケラは知っている風な反応だったな。ある意味、賭けではあったが)


 この三百年で実在した人物である可能性が高い。 


(そろそろこいつとも真剣に向き合う頃合いか)


 エルザナードがガリウスに対してそうであるように。


 ガリウスもまた、エルザナードを信用していなかった――。


新作始めました→『転生したらどん底スタートの俺、唯一使える魔法が万能すぎて逆転人生を上昇中!
転生直後に捨てられた男が、実はすごい魔法を操れるために転生した異世界で無双するお話です。
こちらはコメディ寄りですが、シリアスパートとバランスよくやっていくつもりです。
ちらりとでも読んでやってくださいませ。
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