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うちのヤンデレ彼女がめんどくさ可愛い件 ~俺のストーカーはお前だったのか!~ 作者:赤月ヤモリ
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ep12・ヤンデレ彼女とお呼び出し。

遅れてすいません!

ブクマ評価感謝です。


 桐谷委員長の後を追い、生徒指導室とプレートの下がった教室内に案内される。

 扉を開くと普段使われていないのか、イスと机が教室後方に積み重なっていた。


 委員長はそこから椅子を三つ引っ張り出すと、片側に二つ、反対に一つ並べ自らボッチ席へと着席。


「そこに座ってください」


「し、失礼します」


 指示に従いつつも着席。

 改めて正面から委員長の姿を視界に映す。


 肩口で切りそろえられた黒髪は良く手入れされており、化粧をしていないにもかかわらず美人と称するのに躊躇いは無い。

 マヤちゃんを可愛いと評するなら、委員長は綺麗系だ。

 因みに詩織はギャル系である。


 桐谷委員長はその鋭い双眸で俺達を睨み付ける。


 言う事を聞いているのにどうして? と思わないでもないが、原因は現在進行形でぴったりと俺にくっついて離れようとしない一人の少女である。


「えーっと、今からキミたちの不純異性交遊について聞きたいんですけど……」


 彼女の瞳は暗に『お前ら、連れてこられた意味わかってる?』と告げていた。


「は、はい」


「コウくん、他の子と話しちゃやぁ……。私だけを見ててよぅ」


 礼儀正しく返答を行うも、マヤちゃんが拗ねて甘えてくる。

 すっごいべたべたしてくる。


「……えっと、浅間さん。すこし話を聞く体制をとってくれませんか」


 僅かに気後れしつつも注意を促す桐谷委員長。

 これに対してマヤちゃんは一瞬だけ桐谷委員長に視線を向けて、一言。


「嫌です」


「えっ……!」


「ねぇ、コウくん。早く戻ろうよぉ、一緒にご飯食べよ? ね?」


 これにはさすがの風紀委員長とは言え思うところがあったのだろう。

 桐谷委員長は思わず頭を抱えていた。


「これが、あの浅間マヤさん。成績優秀、運動神経抜群、品行方正で完璧と名高い浅間マヤさん……」


 確かに俺と出会う前までのマヤちゃんの噂を聞たことのある人たちにとって、この姿はかなりショックなものに映るだろう。


 俺もこんな子だとは思わなかったしね。


 内心で同情していると、桐谷委員長はこちらへと視線を向ける。


「あなたは……えっと、コウくんで良かったですか?」


 マヤちゃんがそう呼んでいた為に出て来た言葉だろう。

 そう言えばまだ自己紹介していなかったっけ。


「俺は――」


「駄目! コウくんって呼んでいいのは私だけだもん!」


 と、その前に何かを勘違いしたマヤちゃんが言葉を遮った。


 はぁ、このままでは埒が明かない。

 そう思いつつ自己紹介を継続しようとして……。


「では、こ、コウさん、と……お呼びしてもよろしいですか?」


「え?」


 まさかあなたも愛称で呼ぶんですか? なんて言うのは失礼なので、既のところで言葉を飲み込んだ。

 俺は慌てて了承の意を示す。


「あ、はい。大丈夫ですよ」


 するとぱぁ……! と笑みを浮かべる桐谷委員長。

 しかしすぐに表情を取り繕い、おほんと咳を一つ吐いた。


 けれど、まさかこの人も愛称で呼んでくるとは思わなかった。


 詩織がコウ。

 マヤちゃんがコウくん。

 桐谷先輩がコウさん。←NEW


 この調子ならコウ殿。コウ様なども出てくるかもしれない……いや、ないか。ないない。


「それでは、こ、コウさん。マヤ……浅間さん。そろそろ本題に移りたいのですが……」


「はい」


 俺が返事をすると先輩は妙に嬉しそうな笑みを浮かべた。

 どうしたのだろうかと思っていると、マヤちゃんがクイクイと袖を引っ張ってくる。


「どうしたの?」


「……コウくんは優しいんだからぁ……ちょっとさびしいけど、そう言うところも好き……」


 言って、頬にキスされた。


「あ、ありがとう」


 思わず苦笑いを浮かべつつ、桐谷委員長へと視線を向けると……。


「ち、ちょっと! あなたたちはなぜ呼び出されたか、わかっているんですか!? そ、それに婚前前の淑女が人前で接吻など……いけません!」


 おっと、クール系美人だと思ったが意外と初心だのだろうか。

 顔を真っ赤に腕をわたわたとさせる桐谷委員長。


「浅間さん! 特にあなたはそんな生徒ではなかったはずです! いったい何があったんですか!?」


「……そんなの、あなたが私のことを知らなかっただけです。私は一年生の時からコウくんに夢中で、この時をずっと夢見て来たんです」


「だ、だからって人前でキスなんて……はっ、もしかしてすでにその先も……!」


 何故うちの学校の生徒は「はっ」と口に出すのだろう。


「それはコウくんがまだ早いって……」


 しょげたような態度を見せるマヤちゃん。キミは淫獣か何かなのか。

 視線を向けるな、手を伸ばすな、生唾を飲み込むな。

 一か月以内には彼女を好きになるか、別れるか。

 それをはっきりしないと悲しい結果になるかもしれないな。


 マヤちゃんの言葉に桐谷委員長は安心したように胸を撫で下ろす。


「……よかった。そ、そうですよね、高校生でそんな――」


「コウくんほんとに頑固なんだもん。私はいつでもいいのに。手も口も足も、もちろんそれ以外も全部、コウくんのだからね?」


 口にしつつ、肢体を俺の身体に絡めさせてくるマヤちゃん。

 甘い匂いがして、女の子特有の柔らかさに脳が蕩けそうだ。


 抵抗したいけどしたくない。

 そんな男子特有の葛藤に駆られていた俺を助けてくれたのは桐谷委員長であった。


「コラー! だから駄目だって言ってるでしょ! 不純異性交遊は駄目!」


 俺からマヤちゃんを引き剥がして椅子に座らせた。

 もちろんマヤちゃんは唇を尖らせてブーイングしている。


「人の交際に口出さないでください!」


「で、でも……だ、駄目なものは駄目なんです! 高校生でそんなのは、後悔するだけなんです!」


 真剣な表情で告げられたその言葉には、今までの物とは違い重みがあった。


 桐谷委員長は後悔したのか、それとも後悔した人を見たことがあるのだろうか。


 ……わからない。


 でも、とりあえず彼女の言いたいことはわかった。


「安心してください先輩。確かにマヤちゃんは時々暴走します」


 隣で「暴走……」と拗ねたように口にするマヤちゃん。

 俺は彼女の頭に手を置いて、言葉を続けた。


「でも、彼女はちゃんと俺の言葉を尊重してくれますし、少なくとも後先考えずにそういうことをしようとはしていませんよ」


 チラリと視線を向けると、マヤちゃんがキラキラとした目で俺を見ていた。

 そのまま頭の上に載っている俺の腕を取り、ニギニギ。


「な、なに?」


「……好き」


「……っ!」


 いつも剛速球の如く好意を伝えてくるため、こんな態度は新鮮だ。

 マヤちゃんはそのまま手を握って、桐谷委員長を見た。


「私は、絶対後悔しません」


 その真剣な表情に、桐谷委員長は再び頭を抱えた後、口を開いた。


「わかりました、とりあえず今は信用します。ですが、校内で、それも公然であのような行為は控えてくださいね」


「わかりました」


「……コウくんが言うなら」


 そんな感じで、風紀委員長桐谷美知さんの呼び出しは終わった。



  †



 部屋を出ると、先輩は一人で自分の教室へと戻って行った。

 俺達も中庭に戻ろうとして、しかしその前にマヤちゃんが耳元でささやく。


「私はいつでもOKだからね」


「……まぁ、いつかね」


 ぼそりと呟いて、俺達は中庭へと戻る道をゆく。

 その途中ぼーっと考えていた。


 自分でも凄いと思う。

 あの超絶美人浅間マヤにここまで迫られて耐えているのだから。


 俺だって人並みには性欲があるので、正直したいと思う時もある。


 けれど、やっぱり好きになってからだと思うから。

「……」


 じゃあ、どうして好きになれないのか。


 それはおそらく――。


「コウくんどうしたの? 早く行こ?」


「あ、うん」


 知らぬ間に立ち止まっていたようだ。

 俺は慌てて歩き始めて――っと、マヤちゃんが腕に抱きついてきた。


 周りの目を一切気にせず、ニコニコとしている。


 俺がマヤちゃんを好きになるのを躊躇っている理由。


 それは、何時(いつ)何処(どこ)で、どうして彼女はここまでの好意を持つにいたったのか。

 これがわからないからだろう。

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