9月13日(木)午後2時、東京地裁で任天堂とコロプラの「白猫プロジェクト」特許侵害訴訟の第4回審理が行われた。私は「またまた弁論準備手続なので非公開なんだろうな」と思いつつ一応東京地裁に足を運んでみたが、やはり第3回弁論準備手続であり非公開であった。
なお、確認中に「13:30 民事第4部 貸金返還請求事件第1回弁論 原告・野茂英雄 被告・佐野重樹 405号法廷」という裁判を見つけて「超見てえー」となり急遽405号法廷に向かったのだが、終了した後であった。こちらも機会があれば是非レポートしたい。
さて任天堂とコロプラの特許訴訟はこれで第4回戦。第1回口頭弁論からいつの間にか7ヶ月も経ってしまった。なお、前回までの取材結果は以下の記事を読んでください。
第2回弁論準備手続 「任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第3回戦。遅延行為を繰り返すコロプラと怒れる任天堂」
前回の裁判は、任天堂がコロプラの遅延行為やおかしな解釈に怒りつつ、しかし隙無く反論したという内容であった。そのため今回はコロプラの反論のターンであり、「コロプラは一体どんなロジックや証拠を出して来るのか?」が焦点である。
そうして裁判資料を読み込んだところ、コロプラは任天堂の主張に対して一歩も引く構えを見せていない。全面対決の継続である。ただその内容であるが、コロプラは確かに数百ページにも及ぶ大ボリュームの反論を展開している、展開しているのだが、、、
任天堂は粛々と特許6についても隙の無い反論を展開
まず、今回(第4回戦)はコロプラの反論のターンと書いたが、任天堂も反論の書面を用意していた。
任天堂は第2回戦で特許6(特許第6271692号)を新たな特許侵害として追加している。そのため第3回戦でコロプラが認否・反論し、今回で特許1~5に1回戦遅れる形で任天堂が反論しているのだ。
内容的には特許4(特許5595991号:ユーザー間で相互フォローし、通信や協力プレイを行う)と近いので反論内容も似ているのだが、隙の無さも相変わらずであった。
任天堂の反論:原告準備書面(3) 平成30年7月20日
6. 特許第6271692号:一方的に相手ゲーム機をフォローできる(フォロー登録)
(コ)白猫プロジェクトの協力バトルは、「ルームナンバー」を入力して参戦する方式。フォローされているとか判断していない。
(任)ルームナンバーはルーム開設者が、対象者を相互フォロワーに限定して発行する番号。そのルームナンバーを判断する事は、相互フォロワーかどうかを判断している。
(コ)白猫プロジェクトのメッセージは、「専用のテーブル」で判断しているので特許を侵害していない。
(任)専用のテーブルとは何だ?特許4の反論でも主張しているが、具体的な構成を何ら明らかにしていない。任天堂は前回にも「具体的な証拠を明らかにしろ」と要求している。いつまでも証拠を明らかにしないので、そもそも本当に有るのかも疑わしい。そして、仮に有ったとしてもゲームの動作から、フォローされている事を判断しているのは明らか。
(コ)ネットワーク通信とは「同時接続」に限定されるのは明らか。メッセージは同時接続じゃ無いから特許侵害していない。
(任)「通信」で辞書引け。「郵便・電信・電話などによって意思や情報を通じること」って書いてあるだろ。
とまあ、こんな様子である。相変わらず、コロプラはタイトな解釈にねじ込むクセがすごい。
コロプラは今さらになって、任天堂の特許6件全てが無効だとの主張を追加
そして、メインとなるコロプラの反論である。被告準備書面が5章にも及び、トータル300ページはあろうかという大ボリュームであった。ここで第3回戦までのコロプラの主張を整理すると、
特許1:白猫プロジェクトの動作は特許1と異なる。さらに特許1は無効。
特許2:白猫プロジェクトの動作は特許2と異なる。
特許3:白猫プロジェクトの動作は特許3と異なる。
特許4:白猫プロジェクトの動作は特許4と異なる。
特許5:白猫プロジェクトの動作は特許5と同じだけど、特許5は無効。
特許6:白猫プロジェクトの動作は特許6と異なる。
という感じであり、特許5を除いて「白猫プロジェクトの動作は特許と異なる」である。もっとも「異なる」という主張もほとんどが「特許をそのまま〇〇と読めば白猫プロジェクトと同じ動作だけど、コロプラ的解釈によれば特許は△△であり、白猫プロジェクトは〇〇なので侵害していない」というものだ。
という訳で、前回は任天堂が「何が特許は△△だ、解釈のクセがすごい。文字通り〇〇に決まってるでしょ」と隙無く反論して来たのだ。
さて、こうなるとコロプラが取るべき戦術は「見よ、これが白猫プロジェクトのソースコードだ。表面的には〇〇の動作に見えるけど、実際は□□なんだよ。だから侵害していない」と反証を提示する事だろう。
「特許は△△と解釈されるべきだ」という主張や「特許は無効だ」という主張を強化したりする方法もあるが、それは「裁判官の解釈に会社の命運を委ねる」という他力本願の、しかも相手が任天堂知財部と思えば極めて一か八かであり、リスクが高い下策だろう。
というより、1年以上前の任天堂との交渉時点から「コロプラとしては、特許侵害の事実は一切ないものと確信しております」なのだから、そもそも最初から他力本願の戦術を採っている時点でおかしいのだが。
そう思ってコロプラの被告準備書面を読んで見たところ、衝撃的な内容であった。
今さらになって「任天堂の特許は往年の名ゲーム『信長の野望』や『ファンタシースターオンライン(PSO)』や『ザ・警察官 新宿24時』などに使われている技術なので無効である」と、後出しで特許6件全てに無効主張をして来たのだ。
コロプラの切り札(?)は『信長の野望』『PSO』『ザ・警察官 新宿24時』など往年の名ゲーム達
今回のコロプラの反論を整理すると、
「特許をそのまま〇〇と読めば白猫プロジェクトと同じ動作だけど、コロプラ的解釈によれば特許は△△であり、白猫プロジェクトは〇〇なので侵害していない」
「前回までは特許1と5が無効と主張して来た。今回、さらに特許1~6の全てが無効であると主張する」
という内容だ。
前者はこれまでと全く同じであり、後者の無効主張を強化して来た。確信があるはずの「白猫プロジェクトの動作は□□であり、任天堂の特許の〇〇とは違う」という主張では無く、他力本願の主張を徹底的に強化して来たのだ。
被告第3準備書面(本件特許権1関連) 平成30年9月7日
本件特許権1 特許3734820号 「タッチパネルでジョイスティックを操作する(ぷにコン)」
コロプラは、2004年2月4日に株式会社コーエー(当時)から発売されたWindows向けゲーム「信長の野望Online」、さらに2001年12月20日に株式会社セガ(当時)から発売されたWindows向けゲーム「ファンタシースターオンライン(PSO)」のキャラクタ動作を挙げている。
「信長の野望Online」「PSO」ではマウスを左ドラッグし、その移動距離が短いとバーを短く表示し、移動距離が長いとバーを長く表示する。これが特許1(ぷにコン)と同じ動作としている。
もちろん「信長の野望Online」と「PSO」はマウスで操作する点は異なるが、「ニンテンドーDS」「hp iPAQ Pocket PC h2200シリーズ」「hp iPAQ hx4700シリーズ Pocket PC」「Panasonic CF-18シリーズ」はタッチパネルで動作するので、組み合わせれば特許1は無効であると主張している。
被告第4準備書面(本件特許権2関連) 平成30年9月7日
本件特許権2 特許4262217号「タッチパネルを長押しした後、指を離すと敵キャラを攻撃(チャージ攻撃)」
コロプラは、2003年にポケットPC向けゲームとしてリリースされた「WARFARE INCORPORATED」の攻撃動作を挙げている。
「WARFARE INCORPORATED」ではキャラクタ双方の距離が所定の範囲内にあると判別された時には、一方が他方に対して攻撃動作を行う。これが特許2(チャージ攻撃)と同じとしている。
被告第5準備書面(本件特許権3関連) 平成30年9月7日
本件特許権3 特許4010533号「スリープから復帰する時に確認画面を表示し、スリープ直前の画面から再開(スリープ機能)」
コロプラは、2000年1月12日にマイクロソフト株式会社から発売されたWindows向けゲームソフト「Microsoft Flight Simulator 2000 Professional」、そして当の任天堂が2001年3月21日に発売したGBA向けゲームソフト「スーパーマリオアドバンス」のスリープ動作を挙げている。
「Microsoft Flight Simulator 2000 Professional」のスタンバイモード、「スーパーマリオアドバンス」のポーズ画面からスリープモードに移行し、復帰すると復帰画面が表示される。これが特許3(スリープ機能)と同じとしている。
被告第6準備書面(本件特許権4及び6関連) 平成30年9月7日
本件特許権4 特許5595991号「ユーザー間で相互フォローし、通信や協力プレイを行う(相互フォロー)」
本件特許権6 特許第6271692号:一方的に相手ゲーム機をフォローできる(フォロー登録)
コロプラは、特開2002-140278号(ソニー株式会社)と特開2003-340161号(コナミ株式会社)と特開2003-036319号(株式会社スクウェア)の3つの特許公報を挙げている。
特開2002-140278号(ソニー株式会社)は「アバタを操作して、他のユーザの部屋を訪問し、チャットする」発明である。
特開2003-340161号(コナミ株式会社)は「ゲーム実行中の出会った利用者と他の利用者が総合に評価を行い合う」発明である。
特開2003-036319号(株式会社スクウェア)は「特定のユーザだけが閲覧可能な置手紙を登録。他のユーザがプロファイルサーバにアクセスし、閲覧する」発明である。
これらの特許公報単体、もしくは組み合わせれば特許4(相互フォロー)と特許6(フォロー登録)と同じとしている。
被告第7準備書面(本件特許権5関連) 平成30年9月7日
本件特許権5 特許3637031号「障害物でプレイキャラクターが隠されてもシルエットで表示する(シルエット表示)」
コロプラは、2001年11月15日にコナミ株式会社(当時)から発売されたPS2向けゲーム「ザ・警察官 新宿24時」の敵キャラクタ動作を挙げている。
「ザ・警察官 新宿24時」は1人称のシューティングゲームであるが、敵キャラクタの視界が地形オブジェクト(パトカー)によって遮られた場合でも、赤い丸で表示されたマーカーが敵キャラクタの位置を示す。
特許5はマークを表示するのではなく、「オブジェクトが被ったら座標情報を更新してシルエット表示する」発明なので異なっている。だがシルエット表示は常識的な技術であり、組み合わせれば特許5(シルエット表示)と同じ動作としている。
コロプラの時間稼ぎのクセがすごい!
このように第3回戦で任天堂に隙の無い反論をされてどうするのかと思ったところ、コロプラは第4回戦において「後出し」で「任天堂の特許は出願前に同じ発明が既に存在し、無効である」という主張を追加してきたのだ。
これには正直驚いた。余りにも時間稼ぎの姿勢が露骨であるからだ。何より『後出し』は禁じ手だ。時間稼ぎのクセがすごい!
先に書いたように、コロプラは第2回戦で「白猫プロジェクトは任天堂の特許とは異なっている」と反論したのだから、再反論されても「見よ、これが白猫プロジェクトのソースコードだ。表面的には〇〇の動作に見えるけど、実際は□□なんだよ。だから侵害していない」と反証すれば終わるはずだ。
特に、特許4と6については、
(コ)協力バトルやメッセージはゲームを操作した表面的な動作では確かに侵害している。しかし、『専用テーブル』を用いて判断しているので侵害していない。
(任)そんな『専用テーブル』が有るのならば、具体的な構成を具体的な証拠で明らかにして欲しい。第2回戦で要求したが、第3回戦でも全く明らかにしなかった。本当にそんな『専用テーブル』が有るのか、極めて疑わしい。おまけに『専用テーブル』が有ったとしても、相互フォローの情報を判断しているはず。
(コ)白猫プロジェクトはあくまで『専用テーブル』で判断している。立証責任は原告(任天堂)にある。
とコロプラは謎の『専用テーブル』を持ち出して否定しているが、なぜかその証拠は出さない。
もちろん知財訴訟において立証責任は原告に有るのだが、もしブラフで言い逃れをされては裁判が成立しない。そのため特許法により、侵害立証のための書類提出命令の制度などが設けられている。
コロプラは本当に『専用テーブル』が有るのならば、証拠として提出すれば良い。本当ならコロプラの勝利だし、嘘だとしても時間が経てば強制的に提出させられるからだ。
なおこれらの無効主張の是非であるが、私見としてはコロプラの主張が通る可能性は低いと思っている。ほとんどが2つ以上のゲームや特許を組み合わせなければ特許無効が成立しない。こういう場合は、組み合わせた技術を発明する事は「当該業者ならば容易に想起する」(訳:同じゲーム業者にとっては常識的な技術であり、わざわざ特許を受けるに値しないレベルの低い発明である)と認められなければならない。
もちろん特許登録後に無効が認められるケースも有るのだが、現実に当時のゲーム業者が誰も組み合わせたものを思いついておらず、そんなゲームが出ていない事が証明しているように思う。もちろん、この判断については次回の任天堂の反論を待ちたい。
コロプラが「実は特許侵害してるかも?」と思ってる事を確信
さらに今回コロプラは後出しで無効資料を提出したが、これはコロプラにとって不利だ。一見、特許を無効にする資料が増えれば特許侵害を回避する確率は高まるかもと思うだろう。だが、主張の後出しは最近の迅速化した裁判では「時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとして、訴訟上取り上げられなくなる可能性も有る」と、裁判所の公式サイトで忠告されているような悪手なのだ。
そもそもコロプラは裁判の開始前から「特許侵害の事実は一切ないものと確信しております」と宣言しているのだから、このような無効資料が有るのならば最初から出せるはずだ。途中で見つけたにしては、余りにも不自然で数が多過ぎる。
そう。コロプラが『専用テーブル』の証拠提出をためらったり、後出しで無効資料を提出するのは、裁判を有利に運ぶためとは考えにくい。あくまでも「時間稼ぎ」を徹底しているとしか思えない。
現に、裁判所は知財訴訟について「1年以内に事件の終結を目指している」との方針を出しているが、既に7か月が経ったのに双方の認否・反論すら出揃っていない状態になっている。
おまけにコロプラ側はに第3回戦まで代表代理人だった弁護士が離脱するなど、混乱している様子が有り有りとしている。コロプラから決して本意ではない時間稼ぎを指示されて、モチベーションが上がらないのだろうか。心配になる。
やはりこれまでの記事でも推測してきたとおり、コロプラは裁判に勝つ事ではなく時間稼ぎを目的としている、。「特許侵害の事実は一切ないものと確信しております」というのは嘘だったとの確信を強くした。それはすなわち、「引き延ばしはするが、いつかは裁判に負けて白猫プロジェクトが配信停止になる」と考えているという事である。
それはプレスリリースでユーザーに約束した「訴訟がたとえどのような結果になっても仕様変更等を通じて、サービスを継続してまいります」という宣言と違うのではないか。私は何度も主張しているように、コロプラは「勝てる可能性が低い」と言う事実を素直に認めて、白猫プロジェクトのユーザーに今後の対応を真摯に説明するべきだと思う。
しかし、裁判資料を閲覧するのはもう4回目だけど、今回は過去最大に疲れた・・・
それはコロプラの被告準備書面で、無効資料を追加した以外の箇所である。第3回戦の任天堂の反論に対して再反論しているのだが、
「任天堂が『〇〇である事は明らかである』とか反論したけど、その言い方は反論できなかったから論難してるだけ」
「任天堂の反論は暴論であり、何ら根拠にならない。そう反論するのは自らに不都合な内容だったからだ」
「表面的には侵害しているけど、実は内部の動作は違う。そしてその立証責任は原告(任天堂)にある」
「反論の趣旨が理解できない」
「スマートフォンはゲーム機では無い。タッチパネルも操作スイッチでは無い」
などという、何と言うか一方的な勝利宣言というべき内容であった。なんかツイッターのクソリプを6時間ずっと読まされたような気分であった。
さて次回の審理は12月5日午前11時30分からである。今度はツイッターのクソリプとは違う、高度な技術解釈のやり取りを見たいものである。
参照:任天堂に訴えられたコロプラが妙に強気な「真意」を分析してみた、任天堂がコロプラを訴えた裁判資料を読んだけど、コロプラの勝ち目が見えません、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第2回戦。タイトな解釈にねじ込むコロプラ、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第3回戦。遅延行為を繰り返すコロプラと怒れる任天堂、大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所・大阪府内の簡易裁判所、Wikipedia 信長の野望シリーズ、Wikipedia ファンタシースターオンライン、Wikipedia ザ・警察官、コロプラ・お客様への感謝とお知らせ