魔導国の日常【完結】 作:ノイラーテム
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これまでの話と違い整合性を取って居ませんので、そうなるとは限らない流れも存在します。
また、別に他の物語でも構わない内容なので、エイプリル用のお話と御理解下さい。
エイプリル用『火薬庫の子供達』
「タニア、今日も早いね」
十歳ちょっとの少女が町のはずれ、工事現場にやって来た。
そこには何人かの若者が汗を流し、老人達が物の数を数えたり、紐の長さで道を測っている。
ここは魔導国が主導する労役の場である。
その年の行政や町村の差で週一から二日の労役が課せられはするが、規定以上の時間か休みの日に自主的に訪れると金を稼ぐことが出来た。
「はい! もうちょっとで私を買い戻せるですっ、頑張ってますよ~」
「御主人との間にはちゃんと誰か挟んで居るかい? そうか、ならば安心だなタニア」
タニアと呼ばれた少女は奴隷である。
奴隷同士の父母の間に生まれた、生まれながらの奴隷だ。
だからタニアという名前だけ。
でもちょっと寂しいので、彼女はこう名乗ることにしている。
「我こそ最後。魔導国で最後の奴隷、タニアなのです!」
「そうかそうか、頑張っておくれよ」
併合された帝国から奴隷制度が逆輸入されたが、ほぼ一瞬でそんなモノが消え去った。
なにしろ全ての人民は魔導王の貴重な財産。
主人はそれを借りて居るだけであり、奴隷が自らを買い戻す事を邪魔出来ないし、必要以上に拘束する事も出来ないのだ。
功績を数える者を買収したり、商人自身が労役代わりに計算する事も可能だが、エルダーリッチが担当の日は功績を誤魔化す事も出来ない。
もちろん無能な者や、やる気の無い者は別なのだが…。
この少女の様に、積極的な努力する者には自らを買い戻す事が難しく無くなっていた。
そして農地解放と農地改革が同時進行することで…。人々は農奴という奴隷では無い奴隷を解放する為に、魔導王が奴隷制度を一度通用させたと噂しあったのである。
実際には逆であり、金持ちから農奴を取りあげる為にデミウルゴスと言う賢者が導入したそうなのだが、大した差ではあるまい。
「タニアねーちゃん、今日はなに納める?」
「ちび達は薪を集めるですよ。お日様があっちに行くまでに持ってくるです」
身寄りのない子供達が、計算できるタニアの元に集まって来る。
孤児であったり親が病気であったり、彼女の様に時間を造って金を稼ぐ奴隷の子も居た。
ちび達を指揮して、タニアは簡単な作業を振り分ける。
「その後は日干しだね? 紐を沢山持って来る!」
「順番を間違えるなですよー」
子供達の多くは数を数えられないので、定められた紐でくくることでソレを代用している。
魔導国ではド・リョウコウという賢者の名前が単位を統一したとかで、どこでも同じ紐で良いのが助かった。
仮に紐五本分が選択労役だとするならば、六本分以上持って来れば金を貰える。
孤児はソレで日銭を稼ぎ、奴隷は自らを買い戻す為に励むのであった。
「俺達は何をすれば良いんだ?」
「おっきな子たちは日干し煉瓦を造るですよ。今日は焼煉瓦の職人が来てるので、買い取ってもらえるです」
金持ちは自分の労役を奴隷や雇い人に任せる事も出来る。
徒弟や丁稚などは親方の代わりに訪れており、彼らに交渉する事も…美味くやれば技術を学ぶ事も出来た。
もちろん、あからさまに敵対すれば商売敵として睨まれるが、大抵は開拓村に行けば良いので問題には成らない。
「タニア、またこんな所に来て…。お前ならもっと楽な場所で働けたろう?」
やがて、タニアの主人らしい身なりの良い若者が数人伴って現われる。
護衛であったり雇い人であったりするのだろうが、顔見知りらしく皆一様に笑う。
町でも名の知られた若者が、彼が成人した時のプレゼントとして買われてきたタニアには、てんで弱いことが良く知られていた。
「若旦那! もしかしてお迎えに来てくだすったのですか? でもですね、ここの方が実入りが良いのですよ」
身も蓋も無い事ながら、タニアとてボランティアで子供達の面倒を見て居たのではない。
段取りを考えたり、数を数える代わりにタニアは手数料を物納でもらって居た。
自分自身が働くことに合わせそれらを加算する事で、彼女がまだ若いながらも自分を買い戻す事が視野に入れれたのだ(若くて能力が無い頃の値段だからこそ、安かったとも言えるが)。
「タニア。そんなに私の元に居るのが嫌なのかい? お前さえ良ければ…」
「それでは若旦那の物のままなのですよ。タニアはタニアの意思で若旦那と一緒に居たいのです。それに、タニアを馬鹿にした連中にあいつは凄いと言わせて見せるのです」
惚れた弱みもあるのだろうが、若者はタニアに強く出られないで居た。
タニアの方も若者を憎からず思って居る様であるが、彼女には奴隷には似合わぬ自尊心がある。
若旦那の御相手で、一緒に計算や文字を覚えれると知った時から、彼女は諦めるのを止めた。
そこに有益な手段があるのだ、やって何が悪いと居直ったとも言う。
そんな風に、タニアは生来の奴隷としては、一風変わった女の子だった。
「先生が変なことを教えるから、タニアが変わった子になってしまいましたよ」
「元から彼女は物判りが良かった。教えなくともいつかは自分で理解したとも。私はソレを後押ししただけだ」
変わった所も悪くない。
そんな風に笑う若者に、先生と呼ばれた男は力強く頷いた。
「特殊なタレントも魔術の能力も無いが、何が必要かを理解する力がある。何をやってはいけないかを理解する力でも良いがね」
「冒険者にでもなったらどうするんですか。せっかく教えたことが無駄になるんですよ? まあ、慣れましたけどね」
才能が無いからこそ愛されるという事もあるだろう。
タニアは誰でも出来ることを、他人と一緒に汗水たらして実行するだけなのだ。
ただ諦めることなく、前を向いて実行するだけ。
あえて言うならば、それが彼女の才能だろう。
「若旦那~。アルフレッド先生を独占したら駄目なのです。みんな困ってるのですよ」
「悪い悪い。つい話し込んでしまってね。タニアが聞きたいなら、また講義に来てもらおう」
「彼女はそういうことを言ってるんじゃないと思うがね」
学校に行くと言うのは、ある種の幻想である。
貧しい者に取って時間は有限だ。
子供達でも数時間の労働で金を稼ぐことが出来るし、それが鉱山の様に特殊性があったり過酷であればあるほど時間は重要で、魔導国でなら賃金も高くなる。
学校に行っている暇があれば、子守の一つでもさせるのが貧乏人である。
その意味に置いて、労役の最中に時間を造って、判り易く教えてくれるアルフレッドと言う教師は貴重であった。
「アルフレッド先生~。先生に面会だよー。レイナースさんて言う、綺麗なメイドさん!」
「レイナース? まさかな…。今行くから待って居てもらいなさい」
一同が色々やっていると、子供の一人がアルフレッドを呼びにやって来た。
その名前が有名人の名であることも、自分が教師と言う名目で隠遁しているなど問題の覚えがあるものの、なぜその人物が呼びに来るのかが見当が付かない。
いっその事、心当たりが外れてくれれば気が楽なのだが…。
どう見ても、知っている人物にしか見えないだけに不気味である。
しかも聞いて居た通り、メイド用の服を着て居るのが混乱に拍車を掛けた。
「アルフレッドさんですね? とある方がお会いになりたいそうです」
(これは勝てんな…。以前はもっと余裕が無い感じだったが、随分と様変わりしたものだ)
アルフレッドは自分の過去の行状から、捕えに来たのかと逃げる事を考えたものの、その考えを打ち消した。
戦っても勝てず、隙を突いても揺らぎそうにない。
何より、戦って死ぬことよりも、レイナースと言う心に闇を抱えた女性が、ある種の安定を得た事に興味を覚えて居た。
帝国は魔導国の傘下に入ったものの、別に解体などはされて居ないはずなのだが…。
魔導王というのは、そんなにも影響力があるのだというのか?
「ある方? 会うのは構いませんが、私に何が出来るやら」
「その方は、この国に学校を造りたいそうですわ。その為の要請だと思います」
これはアルフレッドと言う八本指の暗殺者が、魔導国の学校建設に携わる前の出逢いである。
と言う訳で、思いついたネタをでっちあげてみました。
感想にあった事で、たまたま閃いたのですが、続きを思いつかなかったのでエイプリルフール用のネタにしてみました。
/登場人物
・タニア
諦めるのを止めた十二歳の少女。
それ以上でもそれ以下でもないが、生来の奴隷がそんな事を実行できるのが異様。
流されままではなく、自分の意思で世界を渡って行く。
夢はいつか金持ちになって、世界中の奴隷を買い取り自由にすることで、若旦那の嫁は凄いと言われること。
・若旦那
金持ちの若者。
成人の時に奴隷の子供をプレゼントされ、最初は普通に扱っていたものの、その子が変わって行く様子に惚れてしまったらしい。
・アルフレッド
暗殺者であり、これから元暗殺者になる予定の男。
精神系の魔法を用いて洗脳や教育を得意とし、『人形遣い』『チャイルドマン』『百の子を持つ者』『人間爆弾』『ワッペン・マインドクラック』などの通り名を持つ。
実際の所、タニアが異様なのは、使えると判断して加工中であったと言うだけの話で別に救いようがある裏話などは無い。
この後は放置するので、タニアは芝む―的なちょっと変な子になるだけでしょう。
・レイナース
帝国騎士。重爆。でも今はメイド。
そして使いっぱしりであり、ルプーにきっと騙されている。
でも良いのだ、彼女は目標を見付けて充実しているらしい。