魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム
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旅の道のり

「これは参ったな」

 カルネ村までの旅の途中で、ソウルイーター同士が、細い道で立ち往生していた。

 流石にソウルイーターとはいえ、お互いの荷物を維持して上手く通り抜ける事は出来ない。

 

「エ・ランテルから来た役人なのだが、まずは私の指示に従って通行してくれ。それとは別に、雨が降っても大丈夫なよう。簡単な工事をするつもりだが…構わないかな?」

(上手いもんだな。一度、役人として上に立った後で、相手の都合を汲み取ることで、命令ではなくしてしまった)

 上に立つことで、もめる話をスムーズにまとめた。

 下手に出ることで、不満を募らせず作業を円滑に進めることが出来る。

 思えばシャルティアとアルベド、シャルティアとアウラなど…仲裁に困る場合は上に立つ者として一定の理解を示した方が早かった気がする。

 行政に慣れないアインズとしては、自分の経験と照らし合わせつつ、色んな意味で参考になる一幕だと言えた。

 

「そうして下さると助かりますだ。オラたちも急がないとは言え、こいつら借りてる立場だしよ」

「大丈夫。道を拡げて凸凹を無くすだけだ。ソウルイーターの力なら簡単に済むレベルだろう」

 田舎ゆえに急がないから貸してくれてるが、あまり時間はかけられないし、材料も無い(村人達もソウルイーターにレンタル料を払って居る)。

 だが幸いにも、小さな崖が崩れて道が細くなっていただけだ。

 丘の斜面が緩やかになる様に削って、一区間を最低限の工事を施し終了という計画が建てられた。

 

「レイバーさんのお陰で面白い物が見れそうです。これも旅のたまものというやつでしょうか」

「足りない物が多いので色々省くつもりです。その意味では恐縮ですけどね」

 レイバーが間に入って仲裁し、今後も同じことが起きない様にするため、ソウルイーターを借り受けたのだ。

 アインズは偶然にも街道作りの一環や、レイバーの手腕を見れて、ほくそ笑む。

 

「参考までにお聞きしても?」

「構いませんが?」

 丘の斜面を削るついでに、全体を一度掘り下げてから均し、脇の部分は下げたままだ。

 アインズは道を拡げるだけなのに何故、地下まで掘るかが少しだけ疑問だった。

 特に脇の低い部分は、未来都市出身だったアインズ…鈴木悟には良く判らない。

 今はモモンの姿をしている事もあり、素直に質問できるのがありがたい。

「意味は二つあります。一つは雨の時に丘から水が流れ出ても、困らない様になる側溝という仕掛けを導入します」

「速攻? なるほど、水がさっさと消えれば往来にも便利になりますね」

 二人は微妙なニュアンスの違いには気が付かなかった。

 翻訳に失敗しては居るが、ここではそう意味の差が無い。

 村人たちに聞かせる為、モモンがあえて質問してくれてるのだろうとレイバーは思い、逆にアインズはレイバーが判り易く効果を説明したのだと誤解する。

 

「それで、もう一つの役目は?」

「通行し易く馬車の負担を減らす為の、地均しですよ」

「ここに来るまで随分と苦労してたしなあ。少しは鍛えたらどうだ?」

 来る途中で気が付いたのだが、高低差が大きいとレイバーの様に旅慣れてない物は疲労が大きい。

 それに、馬車にスプリングがあるようなモノは珍しく割と壊れ易いからだ。

 そこで地面を均すことで、歩き易く馬車は壊れにくく、交通の便が良くなるということらしい。

 旧知の仲だからか、ラケシルも普段よりは魔法に関する時の様な気易さが見受けられた。

 

「歩き慣れてないのだから仕方あるまい。それに…だからこそ判る物もあるというものだ」

 レイバーは不満から逃避するように学習効果はあったと嘯いた。

「田舎道を歩かなきゃ気が付き難いもんな。…トブの森方面に限らず辺境はどこもこんなもんさ。便利だから人が通り、人が往来して道となり、町が街になって道は街道になる」

「人が作る歴史というやつですね」

 それをラケシルはスルーしながら、浪漫をアインズと共に語って行く。

 数時間の道草ではあるが、無駄な肯定ではあるまい。

 意味のある浪費で有れば、人はそれを有意義と呼ぶのだ。

 

「次に…何故、草を抜いて地面を焼いて居るのですか?」

「あれは私も知らないのですが…。テオ、何でか判るか?」

 どうもレイバーは以前の仕事で都方面の道路舗装をやっていたらしく、道を焼くと言う意味に詳しく無いらしい。

「単純な理屈だよ。新しく道にした所へ下草がなければ、草食の獣が来ないしソレを狙う肉食の獣も来ない。…それに人間の臭いがする文明の領域へ頭の良い獣なら寄って来はしないさ」

 二人の疑問にラケシルは、それほど詳しいわけではないが…と肩をすくめた。

 無論、ソウルイーターの脅威は人間の脅威を超えるので、焼くほどの必要が無いのかもしれないが…とも付け加える。

「なるほど。私たちはつい獣くらいと思うが、人々にとって獣は脅威。確かに歩いてみないと判らないものです」

「そうですね。戦闘などできない人が殆ど、ソウルイーターが導入されたのも最近ですから」

 感心するレイバーに頷きながら、アンデッドはやはり優秀だなと再確認する。

 

「こっち方面はオマケで、本当は王都や帝都方面だったのですが…」

 レイバーは少しだけ言い淀んだ後、思い直して、直ぐに言葉を続けた。

「あれだけ収穫や買い付けがあるなら、こっちを先にするのも良いですね」

 食糧が足りなくなる王都の商人と、先物取引が行われている事が計画を担保しているのを、ここにいる三人は知らないのだが…。

 焼き払われた開拓村の復興と、収穫量の増大はトブの森方面の街道整備に、一定の採算性をもたらしていた。

(こっちはオマケだったのか…。でも、自分の目で見たからだけど、あれだけ取引があるなら、やっぱりこっちも悪くないよな…)

 レイバーの話に頷きながら、アインズは自分が思いついたアイデアに流されていたのを、ようやく自覚した。

 おかげで、ここで聞いておかねばならない事があるのを、徐々に思い出して行く。

 

 丁度良い感じで質問を続けているが、モモンとして確認できる内なら何の問題も無いが、アインズとしては無理だからだ。

(そうだ。今の内に費用を確認しておかなくちゃ…。王様が気にしてたらみっともないもんな)

 こう言ってはなんだがケチというのは為政者としてよろしくない。

 威厳を保ちつつなんとか予算を抑制したい。だが安価に抑える為に理屈をこねた結果が、無用な長物では逆効果だ。

 安物買いの銭失いくらいはサラリーマンとして良く知っている。

 

「まあレイバーさんもその一環であちこちを調べられるのでしょう? 成果と予算で都方面とこちら方面を天秤に掛けて、確認して見るのも良いのではないですか」

 懐と性能、双方の丁度良い範囲で探らねばなるまい。

 多少苦しいが、レイバーの話にこじつけて、費用を比べてみないかと提案することにした。

「費用か…。こちらは地均しだけでも良いですが、都方面は舗装もするからどうしても金が掛る。とはいえ効果が大きく、陛下や他国に見せても恥ずかしく無いのは都側…」

 いや、俺に遠慮しなくて良いから。

 そう思いつつも、恥ずかしい物だと困るよなと奇妙なジレンマで葛藤している自分が居る。

 アンデッドの成果を出し安価で、冒険にも使い易いのはこちら側。

 とはいえ、一目は百聞に勝ると言う。

 だが、アインズ・ウール・ゴウンを誇り、他国…いやギルドの仲間が見て居るとして、宣伝できるのは王都側なのだ。

 

 レイバーに全て任せるか? それとも、モモンとして口を出すべきか?

 どうしたものかと、出口の無い答えに陥ってしまう。

 だがそんな時、つい先ほどの光景が思い出された。

 あの立ち往生の時、レイバーはどうしていた? その光景を見ながら、自分は何に例えて居た? 

 

(そうだ、そんな時は王として考えアインズが動けばいい)

 似たようなことを、つい最近になって理解した所だ。

 必要な結果を導く為に、モモンとして口を出した方が良いなら口を出し、アインズの命令の方がよければ王として後から修正すれば良い。

 前提条件自体を動かして、分母と分子を入れ換える大嘘を吐けば良いだけの話だ!

(じゃあどうすべきなんだ? 恰好の良い場所を絶対に一か所は必要だよな。そこへ人を案内する。いわば魔導国としての街道モデルケースだ)

 鈴木悟であった頃の知識を総動員し、営業マンの扱う商品として捉え直す。

 いいぞ、これなら問題は無い。

 アインズはようやく出口が見え始めて来た事を理解する。

 

 ならば後は、レイバーが口出しをしても良い様に、駄目ならその前に修正する。

(そして他は…、安価ですませればいい。こっちはアンデッドの人足をアピールする場所だ。だから地均しが誰でも、簡単に済むぞ、と見せてやれば良いんじゃないか? 今こうしてるみたいに)

 やはり道を均すだけなら、それほど金が必要ないと言う話も魅力的だった。

 そして畑仕事や街道敷設に関して、サンプルという名の理論で武装する。

 

 見れば牛馬には不可能なレベルの怪力で、ソウルイーターは穴掘りを済ませて居た。

 そもそも、農夫たちは借り受けて何をするかを聞いて、少しも反対しなかったじゃないか。

 百聞は一見にしかずというが、彼らは簡単に済む…重機レベルだと、知っていたからに他ならない。

(うん、やっぱりモデルケース戦略は有効だな。アンデッドの農夫と人足…良い感じじゃないか。これなら商売の松竹梅に通じる。見栄えの松、主力商品の竹、最後に魔導国との交流が梅だ)

 実際の松竹梅なんか見た事無いけど…。

 アインズはそう笑いながら、散々叩き込まれた商売人としての基本を思い出した。

 三つあれば人は無難に真中を選び、それはそれとして見栄えを気にする者や、最低限で済ませたい者の為に段階がある方が良い。

 そして最低限の交流ですら、魔導国にとっては成果なのだ。

 

 理論が完成した段階でマインドセットで思考を元に戻す。

(完璧かはともかくとして、これなら問題無い。後はどっちで切り出すか、いつ口にするかだ)

 悩んで居るなら放置し、こちらのアイデアと同じ事を考えて居るなら、やはり放置しても良い。

 アインズとしての利益と名誉はアインズの命令で、アインズに相応しくないことはモモンで口にする。

 例えばデータを取るために、一区画だけは完全に仕上げて見ろと命令すれば良い。

 高額になる場合は、安く抑えようと言う提案だけモモンとしてすれば良いはずだ。

 あるいは、少しでも長く街道を敷設したいから、少しでも早く敷設したいから、地均しを先にと命令しても良いだろう。

 

(OK。後は流れに任せて、冒険を愉しむとするか!)

 悩みを自己解決したアインズは、早ければ明日にでも辿りつくカルネ村と、森での冒険を夢見る。

 だが、意外な事に村で歓待され、冒険譚を強請られると言う行程を、二度・三度と受けて苦笑する事になった。

「意外に時間が掛りましたね」

「あれほどの歓待と羨望を受けるとは…流石モモン殿」

「まあ仕方無いさ。村ってのは森の海に浮かぶ孤島みたいなもんだ。冬場なんかロクな娯楽が無いから、旅芸人を呼んだりするしな」

 そんな風に道草を食いながら、笑って道を進んで行く。

 

 それはこの道で、今後百年、二百年と続いて行く光景なのだろうか…。




 と言う訳で、街道に関する基本案件が完成。
後はカルネ村で何人か増えた後、簡単な冒険となります。
他国から見たら、どう見ても戦略道路とか、鉄道みたいなもんで、プレゼンテーションと言うより、デモンストレーションですが…。
まあこの場に居るメンツは気がつかないでしょうし、気が付くデミウルゴスは判っていて愉しんで居るかと。







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