前回の記事に書いたように、9月13日(木)に任天堂とコロプラの特許訴訟の取材に東京地裁を訪れたら、思いがけず「13:30 民事第4部 貸金返還請求事件第1回弁論 原告・野茂英雄 被告・佐野重樹 405号法廷」という裁判を見つけてしまった。
私は本来の目的も忘れて「超見てー。野茂って、あのトルネード投法で近鉄・ドジャースで大活躍したあの野茂英雄。佐野って、もしかして野茂の近鉄時代の盟友『佐野慈紀』の事なのか。あんなに仲良かった2人がまさか裁判を。。。」と心ここに在らずであった。
それから1週間、居ても立ってもいられなくなって9月20日(木)に裁判資料を閲覧するべく、三度東京地裁に足を運んだ。
そしてわかったのは、あの近鉄を支えた名選手であり盟友同士の野茂英雄氏と佐野重樹氏が多額の借金を巡って争っている残酷な現実だった。。。
佐野慈紀氏は東京地裁に出頭せず、裁判はあっさりと終結
まず「被告・佐野重樹」って本当に近鉄の佐野慈紀なのか?名前が違うから別人なのでは?と微かな期待を寄せて調べて見た。が、「佐野慈紀」とは2003年にオリックスに復帰してからの登録名であり、本名は間違いなく「佐野重樹」だった。
野茂英雄氏が訴えたのは、あの愛すべき近鉄の「ハゲ魔神」、そして日本プロ野球初の中継ぎ投手の年俸1億円プレイヤー・佐野慈紀氏なのである。
訴状によると、野茂氏は以下の要求をしている。
訴状 平成30年7月24日
第1 請求の趣旨
1 被告(佐野重樹)は原告(野茂英雄)に、2565万5千円と訴状が到着した日の翌日から完済日まで年間5%の金利を支払う事。
2 訴訟費用は被告が負担する事。
との判決並びに第1項につき仮執行宣言を求める。
なお、原告は証拠として野茂氏と佐野氏の2人のハンコが押された「借金証書」を提出している。
そして、東京地裁は被告に「9月6日までに答弁書を提出する事。そして9月13日午後1時30分に405号法廷に出頭する事」を8月9日に通達した。
しかし9月13日に405号法廷に現れたのは、原告である野茂氏の代理人弁護士1人だけであった。被告である佐野氏は出頭しなかったため、裁判は訴状を読み上げただけで即日結審した。
そして9月20日13時10分、同じく405号法廷で判決が読み上げられた。野茂氏と佐野氏の裁判と聞きつけてか、この判決目当てと思わしき傍聴人もちらほらいた。
そして13時10分に裁判長が登場すると、小声で超早口でボソボソって喋って一瞬で判決が終わった。私はマジで何言ってんのかわかんなかった、周りもわかんなかったようでちょっとザワザワしていた。その後もまだ喋り続けていたので「もしかして判決の詳細か?」と思って聞き続けていたら、とっくに次の裁判の判決に移っていた。。。
この裁判の取材のために判決傍聴したマスコミがいたら、今頃何を書けば良いかわからずマジで困ってそうである。幸い私は事前に裁判資料を読み込んでいたので、恐らく原告の訴状をそのまま読んでいるんだろうと辛うじて推測できた。唯一の新情報である日付もなんとか聞き取れた。
つまり、判決はこうである。
判決 平成30年9月20日
主文
被告(佐野重樹)は原告(野茂英雄)に、2565万5千円及び8月11日から完済日まで年間5%の金利を支払う事。
訴訟費用は被告が負担する事。
以上
借金は佐野慈紀氏の引退直後。野茂英雄氏は盟友だからこそ好条件でお金を貸した
近鉄で数々のタイトルを受賞し、海を渡って日本人メジャーリーガーのパイオニアとして長年活躍した野茂英雄氏が他人に数千万円を貸せるのはわかる。しかし佐野慈紀氏も近鉄でルーキイヤーの1991年から中継ぎとして大活躍し、日本プロ野球初の中継ぎ投手の年俸1億円プレイヤーになった程の名選手である。そこまでお金に困っているとは想像していなかった。
佐野氏が野茂氏からお金を借りた経緯は、裁判資料の訴状にある「請求の原因」からなんとなく見えて来た。
第2 請求の原因
(1)貸付年月日:2003年9月4日
(2)貸付金額:3000万円
(3)弁済期:2013年9月4日
(4)利息の割合:年0.3%
(5)利息の支払日:2004年から2013年まで毎年9月4日限り、年1回払い
借金の時効は、家族・友人間の場合は10年なので2008年頃の借金かと想像していたが、もっと古い15年前の借金であった。
しかし、この15年前は特別な年だ。2003年と言えばちょうど佐野氏が所属していたオリックスを自由契約になり、現役引退した年である。野茂氏は盟友として、生活に困った佐野氏を支援したのである。
そしてこの2003年は、まだグレーゾーン金利が存在している時代(廃止は2006年)である。消費者金融でお金を借りれば、年率20〜30%もの高金利を科された時代だ。
そんな時代に野茂氏は年率0.3%という超々低金利で3000万円ものお金を貸したのだ。しかも、返済は毎年9月4日に金利(9万円)さえ支払えば元金は10年掛けていつでもOKという破格の好条件である。どこの銀行でも消費者金融でも有り得ない破格の好条件だ。
しかし佐野氏はそんな野茂氏の友情に応える事が出来ず、弁済期である2013年9月4日までに434万5千円しか返済しなかった。
そのため、3000万円から434万5千円を引いた、2565万5千円の返還を求めて提訴に至ったのである。
しかし、この数字をよく見て欲しい。返還を求めた2565万5千円は10年分の金利の90万円が含まれていないのである。もっとも金利は毎年支払済で、計算に含まれてないだけかもしれない。
しかし私はこの90万円が野茂氏による温情であり、まだ佐野氏に抱いている友情の証だと信じたい。
近鉄というチームを覚えているオールドファンの願い
佐野氏は引退してから決して不遇な生活を送っている訳では無い。引退後は野茂氏が設立した社会人野球チームNOMO Baseball Clubで理事を務めていた。近年もBCリーグ・石川ミリオンスターズの取締役に就任したり、「プロ野球の有名OB(解説者)が野球について語り尽くす動画サイト」として開設された「OBTV」に出演したりとマルチに活躍している。
今年も恒例の「サントリー ドリームマッチ2018 ザ・プレミアム」で帽子を脱いでハゲ頭を披露しながら投球する「ピッカリ投法」を披露し、さらには球審・鈴木、一塁塁審・大和、元巨人・小田、元中日・和田と「ハゲ5人衆」を結成し東京ドームを大いに盛り上げている。
佐野氏は引退してもまだまだ現役の野球人だ。特にもう無くなってしまった近鉄バッファローズを思い出させてくれる数少ない人だ。オールド野球ファンにとっては欠かせない存在なのである。
元プロ野球選手だって人間だもの。借金をする事も、どうしても返済できない事もあるだろう。裁判の被告になって敗訴する事もあるだろう。私はそんな事は気にしていない。
近鉄が好きだったオールド野球ファンとして、ただただ野茂英雄と佐野慈紀にはいつまでも仲良く、盟友であり続けて欲しいのだ。
参照:Wikipedia 野茂英雄、Wikipedia 佐野慈紀、佐野慈紀を変えた盟友・野茂英雄の「説教」、野茂の親友!ハゲ魔神・佐野重樹(慈紀)!中継ぎ初の1億円プレーヤー!、【ドリームマッチ】“ピッカリ投法”佐野慈紀、帽子からはみ出るふさふさ毛に場内騒然