シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる 作:須達龍也
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今回は途中で視点が変わってます。お気をつけください。
『セバス様に裏切りに可能性があります』
その<伝言>を聞いた感想は、前にも聞いたようなメッセージだな…だった。
シャルティアに聞いていたので、これっぽっちも驚きがないのが、むしろセバスに悪いくらいだった。
「ふむ。ありえないと思うが、何か証拠はあるのか?」
ソリュシャンから証拠として提示されたのは、セバスが人間の女を拾ったことと、その事で面倒な事態になっていること、更には、それについての報告を怠っていることだった。
シャルティアに聞いていた通りではあるが、なるほど…叛意を疑うほどではないが、問題はあるな。
ソリュシャンにはよく報告をしてくれた、近いうちにそちらへ向かう…と返し、アルベドへと<伝言>を繋ぐ。
「アルベド、ソリュシャンからセバスに裏切りの可能性ありとメッセージがあった。直ちに、デミウルゴスとコキュートス、ヴィクティムに連絡を取れ。予定通り、四人で向かうことにする」
…茶番だな。
正直なところの感想がそれだった。
シャルティアに聞いていた…過程と結果のみではあるが…為、台本をなぞるだけのそのやり取りに、何の驚きも感動もなかった。
そもそもが、セバスの裏切りがないとわかっているので、報告を怠ったら駄目だぞという注意以上の意味はない。
ただ、これも縁というものだろうか。
セバスが拾った女…ツアレニーニャ・ベイロンは、かつて一時だけ旅を共にした冒険者の一人…ニニャの姉だった。シャルティアに話を聞いた時には、なぜナザリックで保護することになったのかがよくわからなかったが、その理由も判明した。
ニニャには恩がある。
生き返らせてやってもいいかと思いつつも、他のメンバーもと言われると面倒くさいので放置しているが、今後のセバスの恩賞用にそのカードは確保しておくか。
…で、ツアレが攫われたと<伝言>があった。聞いてないよーっとシャルティアに突っ込みたかった。
だが、まあ、シャルティアだしな。
それに、そういった出来事にシャルティアを関わらせていないことのほうが問題だな。関わってないことも覚えておいて欲しいが、記憶が薄くなるのもしょうがないか。
ツアレ救出部隊のリーダーにデミウルゴスを任じ、またシャルティアも関わらせるように命じておいた。
俺自身がリーダーをしたいのはやまやまなんだが、漆黒に依頼があったのだから仕方がない。うん、仕方がないよね。
「はー…」
アインズ様にわたしを関わらせるようにデミウルゴスは命じられたらしく、しぶしぶと言った感じで任せられた仕事が、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの護衛だった。
わたしの面倒をエントマに見させようという意図しか感じられず、ため息の一つくらいついても仕方がないだろう。
「シャ…おっとぉ、エリザベート様ぁ、お待たせいたしましたぁ」
八本指の麻薬部門の長の家から、そのエントマが出てくる。慌てていたのか、手におやつを持っていたままだった。
わたしはと言えば、特にすることもなかったので、その庭先でぼーっと突っ立っていただけだ。一応、正体を隠すために、白いドレスを着て、髪型を変え、髪色も金髪にし、しまいにはマスクまで付け、エリザベートという…デミウルゴスが付けた…偽名まで名乗る力の入れようだ。
もっとも、この後は<転移門>を開いて、エントマと一緒に帰るだけというつまらない仕事なんだけどね。…まあ、つまらないとか言うと、デミウルゴスに怒られるんだろうけど。
「食べないの? それくらいなら待ってあげるわよ」
「あ、食べてなかったぁ。いけないぃ。いけないぃ」
しゃくしゃくとエントマが食べているのを横目に、お客さんを待つ。気配を消そうというには、殺気が駄々漏れだ。
「よぉ、良い夜じゃねぇか」
全身金属鎧を纏った大柄な男…いや、女だった。
どっちにしろ弱い。ブレインと同じくらいの弱さだろう。全く興味が持てなかった。
「あんたに任せるわ」
護衛というのに、護衛対象に戦わせるのは問題かもしれないが、エントマが負けるレベルではないから、問題ないだろう。まあ、何かあれば、手を出せばいいだろうし。
「あんたはやらないのか?」
身の程知らずにも、そう問いかけてきた女に対し、興味ないことを示すために肩をすくめて見せた。
「その子を脅かせるくらいだったら、少しは遊んであげるけど。…まあ、悪いことは言わないわ。帰ったほうがいいわよ。今なら見逃してあげるから」
わたしってば、なんて優しいんでしょう。もっとも、そんな優しいわたしの助言を無視して、そいつはやる気まんまんだった。エントマもやれやれとかったるそうに、迎え撃つ準備をする。
こちらはのんびりと観戦させてもらおう。一対二だからと言っても、エントマの勝ちはゆるがないだろう。
男女とエントマの戦いは、終始エントマが押している。とどめかという所で、隠れていた女忍者が参戦する。
一対二になったところで、エントマの優位は変わらない。ただ、うまいこと連携をされているせいで、綱渡りのような均衡状態が保たれている。
その均衡状態を破るかのように、水晶の騎士槍が降ってくる。
その石突きに、仮面を被った小柄な女が降り立つ。
「…へぇ」
なかなか強い…まあ、他と比べてではあるが…そいつはどうやらイビルアイという名前のようだ。
戦士と女忍者よりもエントマが強く、そしてそのエントマよりも自分のほうが強いとか、そんな簡単にわかる話をしている。
「…じゃあ、私はどうかしら?」
まるで興味なさげに、壁にもたれたまま見物していただけのわたしが、急に動き出したからか、全員が一斉にこちらを振り返った。
エントマの護衛だし、更には小指の爪以上を使わせてくれそうな相手が現れたので、参戦させてもらいましょう。
「…お前…吸血鬼…か!?」
「んっ? なぜそれを…って、へー」
探知阻害の指輪をしているのに、わたしが吸血鬼であることに、そいつが気付いた理由。
「お前も、そうかー」
こちらが気付いた理由と同じ。同族故のシンパシー。
「そう、そうね。多分、いらないとは思うけど、保険はいるよね」
思わず知らず、仮面の奥でニヤリと笑ってしまう。
「ちょっと…だいぶ弱いけど、私の器(からだ)の保険として、キープさせてもらうわね」
後半はシャルティア視線でお送りしました。