やはり俺の魔法科高校の劣等生の憂鬱はまちがっている。 作:ハチマソ
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論文コンペの発表とは別に京都で発生する事件が存在する。横浜事変で大亜連合の工作員を支援した在日華僑と思われる周公瑾という男がいる。
この男は、横浜中華街の人気料理店のオーナーというカバーを持つ米国在住の顧傑(ブランシュの総帥)の部下らしいな。四葉はこれを追っている。顧傑は四葉が破壊した崑崙何とかの生き残りで四葉に対して報復を意図していると考えているからだ。
ちなみに、流星おばさんと顧傑は盗聴仲間である。同じフリズスキャルヴのアクセス権を有しているんだな。
顧傑:ジード・ヘイグは、魔法科高校の劣等生の世界における事件のあらかたに関与している。ブランシュはこの男の支配下にあるテロ組織、九校戦で暗躍した香港系マフィア無頭竜もこの男の弟分の組織。横浜事変の工作員への協力、パラサイトドールの操作に協力した大陸系方術士を手配したのも、そして、こののち起こる本人自らの行為もである。
まあ、来年の話ではある。
周は大陸から日本に亡命してくる方士・いわゆる古典的な魔法師の受け入れ窓口を担っていて、衰退著しい日本の古式魔法師「伝統派」が彼らを受け入れている関係で、周をかくまっていると思われている。多変迷惑な話である。
「それで、京都の論文コンペの会場にも今年も事件が発生するというわけか」
「おう、トラブルに愛されている(笑)なんだぜ。単純にその期間、司波兄がコンペにかこつけて京都周辺でウロチョロしやすいから、藪蛇になる話で、論文コンペの参加者はいい迷惑なんだ」
「そう、あの男はいつもそうなのね」
「うう、あたしたちの修学旅行が台無しになったら、絶対許さないし」
そう、今日は雪ノ下の家で奉仕部の打ち合わせ中である。
「由比ヶ浜の修学旅行のスケジュールはいつまでなんだ」
「最終日が10月29日に千葉に帰るんだ」
「ピッタリではないかしら」
「ゆきのん、自由行動の時にコンペ見に行ってもいいかな」
「ええ。一緒にお昼を食べたりすると良いのではないかしら。楽しみね」
「そんなタイミングじゃないと思うけどな」
いやいや、バリバリ事件が発生するんじゃねーの。この話は、会場警備含めてモノリス優勝の第一高校の服部会頭中心に現場指揮が行われる。そのメンバーにはリタイアしている吉田幹彦を中心とする司波兄グループも参加して、それなりに活躍するんだ。大陸系方術士と戦って。
「……比企谷、ということはつまりだ」
「御明察。あいつの代わりを俺たちが担わなければならない可能性がある」
「涼宮さんの為とはいえ、少々大変ね」
すまん、雪ノ下。だが、あそこで吉田幹彦を退治しないと九校戦エンドレスエイトだろう。仕方ないよね。
論文コンペは横浜と京都、魔法協会の本部と関東支部のある場所で交互に行われる。横浜開催の時は技術的テーマ、応用というか実務的テーマが評価され、京都開催時は純理論・基礎理論的テーマが評価される。俺たちのテーマは『小さな魔法で幸せになる計画』(仮)なので、どちらでもないし、評価される必要もない。
これは、狭い魔法師の社会でくり広げられる茶番に対する宣戦布告に過ぎないからな。
「雪ノ下、発表内容は問題なさそうか」
「基礎理論とはおよそかけ離れているわね。それに、新設校がコンペに入賞するわけもないし、大学の基礎研究でも完全にあり得ないテーマでもの。
一般の社会で、非魔法師が魔法を使って介護をするなんて……今の魔法師の中に考えている者がいるとは思えないわ」
その通りです。魔法はある意味究極の理系学問なんです。こんな素晴らしいことが出来ますってだけの話。その魔法を使って何をするのかを考えていないのだろう。なので、九校戦のような展開になる。狭い領域で競い合うか、ルールの盲点を突き勝みたいな展開だな。
それって必要なのか? なんて考えない。日本人は基礎より応用が上手なんだ。大昔からね。古くは中国大陸、最近では文明開化後の西洋から新しい技術を取り入れて日本的に解釈する、応用して自分たちの生活を豊かにする。トンカツ、肉じゃがなんてそんな感じの料理だな。肉じゃがはたしか東郷平八郎が英国留学時代のカレーの具を作るところに端を発した料理だぞ。醤油とみりんを 使わずにカレー粉入れるとカレーになるだろ。
「CADを使った非魔法師と今まで認識されていた、魔法師としては低レベルの人たちが、自分のため人のために魔法を使うことができる社会が現れたとき、今の少数派の魔法師どもは、どう自分の身を処すのでしょうね」
「今まで通りだろ。支配者気取りの似非貴族なんてそんなもんだ。社会の変化に取り残されるのさ。せいぜい、戦争ごっこをするがいい。
でなきゃ、涼宮に粛清されるしかないな」
「彼女はやる気なのだろうか」
――― 計画の阻害要因になるのなら、七草くらいまでは潰すだろうな。あとは大したことが無い。四葉は確定だからあえて言わないけどね。
雪ノ下の論文は完成して、既にコンペの主催者側には送付した。俺たちは京都で起こる出来事に対してどう対応するかの問題がある。司波達也は同級生を巻き込みつつ、九島烈や一条将輝と協力というか利用し周何某を追い詰めるためにあちこちうろうろするわけだ。既に10月半ばであり、四葉真夜からの「依頼」を受けて、九島の爺には接触済みだろう。
パラサイト・ドールの件の貸しがどうとか言っていた気がするけれど、貸し借り何てのはお互い様の人間関係が成立しているからこそのものであり、お前と九島の爺は単なる同じ穴の狢で、同族嫌悪な存在に過ぎない。
貸しは清算するもんじゃなくて、利子付けて返してもらうもんだ愚か者。清算するのは借りている方であって、貸している方の意思ではないだろ。
「八幡、論文コンペ今年も何か起こるのかしら」
SOS団の団室であるところの奉仕部の部室。来週の論文コンペに向け、期待するところ大である団長様からのお言葉である。ないといいけどそんなことはありえないだろう。
「去年は大亜連合が横浜の魔法師協会関東支部のデータバンクと、コンペ会場の魔法師を人質にする計画を立てていたな。大亜連合はソーサリー・ブースターの材料として、魔法師を必要としている」
「……なにそれ」
ソーサリー・ブースターは、起動式を提供するだけでなく、魔法式の構築過程を補助する機能も持つCADの一種とされるが、その実態は魔法師の脳を加工した物を中枢部品とする非人道的なものである。魔法師が本来持っているキャパシティを超える規模の魔法式形成を可能にする。
通常のCADとは異なり、ブースターは一つの特定の魔法のみに対応し、それぞれ使用できる魔法は異なる。
「とんでもないものを作るな」
「うう、ありえないし。人間の脳から作るって、生きたまま脳だけ取り出されるってこと」
「おそらく、何らかの方術でだろうな。その脳の持ち主の人格が残っているかどうかはわからん。魔法後進国と呼ばれる大亜連合だが古代から続くこうした呪法に近い道具は、現代魔法にないものがたくさんある」
「ヒッキーはなんで詳しいの」
「一つは小説既読、一つは古式魔法は大陸伝来の方術の理論を応用することもあるので、現代魔法しか知らない魔法師と比べると理解できる範囲が広い」
例えば、由比ヶ浜の脳をソーサリー・ブースター化して雪ノ下が装備しても胸のサイズは変わらないことはオフレコで頼む。
「いま、あなたから著しく不快な感情を感じたのだけれども……いいえ、なんでもないわ」
さすが想子量以外はAランクの雪ノ下雪乃だ。
「今年の京都の論文コンペには大亜連合の関係者はからんでこない。しかし、別の存在が関係してくるはずだ」
大亜連合は、横浜事変と鎮海の海軍基地消滅で戦略級魔法師まで失っていて日本にちょっかい出せる状態ではないからだ。沖縄との立て続けの敗戦で、戦略の転換を迫られているはずである。
「別の存在って何なのよ」
「大亜の工作員は国内に協力者を持っていた。そいつらは、日本に対して、日本の魔法師に対してかな、様々な妨害工作を行っている。
ジード・ヘイグという大漢の四葉に滅ぼされた崑崙方院の生き残りで、理由は仕返しだろうな。そいつが、司波兄妹の係る事件にほとんど関係している。
いうなれば、100歳近い大陸方士と四葉・司波兄妹の闘争に巻き込まれているのが今の日本の状況だな」
「はなはだしく、迷惑だし」
「それが、京都に現れるという事か」
「正確には本人ではなく、日本の支店長格の男だな。周という表向き横浜中華街の料理店オーナーの顔を持つジードの手先だ」
「つまり、ショッカーで言うところの幹部ね。ゾル大佐とか死神博士とかね‼」
かなり乗り気になってきた涼宮ハルヒである。危ないからね、追いかけるのは司波達也とかに任せようね。
「涼宮、論文コンペの発表が最優先だ。余計なことにかかわる場合ではないぞ」
「そんなの、わかってるわよ。前乗りしてなんて考えていないわ」
いやいや、お前絶対考えている奴の口ぶりだろそれ。
「吉田幹彦が風紀委員長であったなら、大陸系方術士の対応もそれなりに出来るはずだったんだが……」
「森崎さんよね」
「ああ、あの人の技術では現代魔法のそれなりのレベルの相手でないと無理だ」
「では、コンペ自体が危険なのね」
「そうだな。今年も派手に襲われるかもしれないな」
てことは、吉田幹彦の代わりを俺が務めなきゃってことか。でも、まあ、川崎と材木座も巻き込むしかないな。材木座は京都なら喜んでついてくるだろう。材木座にも変なものが付いてくる気がするけどな。
第一高校で新生徒会が発足したと同じように、総武魔法科高校も新生徒会が成立した。生徒会長は一色いろは。その他の役員は一般生徒から選任されている。そして、唯一の風紀委員が俺だ。え、奉仕部活動の一環だよ。
来年以降は生徒会・教員・部活連の推薦で学年各1名の9名を選出する。今年は準備期間として、第一高校含め他校との接点の多い俺が調査を含め風紀委員会設立のために委員を担当する……という依頼を雪ノ下が受けた結果である。
そして、今日は金曜日。第一高校の風紀委員本部で服部前会頭と森崎メンバーもとい委員長と一緒に、会場警備の電話会議に出席中である。
どうやら、論文コンペの開催時には警備隊が各校の有志で編成されるそうで、会場警備と論文発表者の護衛とが必要となる。また、風紀委員以外の生徒を 動員する必要がある。まあ、京都旅行を出汁に引っ張り出そうか。
『やはり、お前が出てきたな比企谷』
「おう、ほかのメンバーは論文発表と修学旅行があるからな」
『……優美子さんは修学旅行組か』
はい、ポンコツ王子ことクリムゾン一条です。関係ない話を電話会議でスンナ。今回はモノリスコードで優勝した総武は新設校ということで、経験豊富で交流校でもある第一高校の服部範蔵を中心に警備隊を編成することになる。ありがてえ。
「比企谷、総武の警備隊は編成できそうか」
「うちは第十研と古式の魔法師が多いですから。上手く編成できそうです」
範蔵先輩はあーちゃんのことだけ考えてください。まあ、メインはいそりんで、張り切っているのは爆裂地雷女なんだろうけどな。さて、帰りのキャビネットで打ち合わせするかね。
葉山を修学旅行組(由比ヶ浜・三浦)に押し付け、俺は論文コンペのチーム編成の話をする。
「……というかんじで、去年の横浜とは別の組織が動いている」
「やっぱり、SOS団に敵対する悪の組織が存在するわけね」
変なアレンジすんな涼宮ハルヒ。俺の考えているのは、以下の通りだ。
一色は生徒会長で審査委員席、雪ノ下には護衛の戸塚と涼宮を配置する。それとは別に、護衛の中の攻撃・迎撃要員として葉山とベー・ダナ・ソレナの十研トリオを配置する。古式の魔法師の場合、精霊による精神干渉の可能性もあるが、涼宮の領域干渉下で生き残れるとは思えない。
俺と材木座・川崎は会場警備として先乗りして状況確認をする。俺たちの外側と葉山の内側の防衛ライン、最終ラインは戸塚と涼宮で構成する。
「……八幡はあたしと一緒なのは嫌なのね」
「俺が古式魔法の見極めをした方が連携しやすい。伝統校には古式魔法師はほとんどいないからな。一高の吉田はモノリスで負けて折れたまんまだし、通常の攻撃魔法が効かない『化成体』も出現する可能性がある」
「なにそれ、面白そうじゃない」
全然、全然面白くないぞ涼宮ハルヒ。化成体ってのはサイオンの塊を土台に幻影魔法で姿を作り、物質に干渉する加重、加速、移動魔法などで肉体を持っているかのように見せている。
「物理的な攻撃を受けるけど、相手は物理的攻撃でダメージを受けない。サイオンの土台事吹き飛ばす必要がある」
「では、サイオン粒子塊射出で破壊できるのかしら」
「いいや、既に形成されているので効果が無い。唯一普通の魔法師で可能なのは化成体を現出させた術者を除去することだ」
「……術者が死ねば化成体もきえるんですか」
一色いろは、相手は殺す気で仕掛けてきているんだから、こちらもそのつもりでないと、お前が死ぬぞ。魔法師は兵器でもあるからな。
「SOS団団長として、会場の最終防衛ラインはお前の仕事だ」
「任せておきなさい、雪乃も他の生徒にも指一本触れさせはしないわ。八幡もせいぜい外の敵を減らして置きなさい。あたしが活躍できるようにね」
いやいや、お前ひとりでいいだろそれなら。どうぞどうぞするぞ。
「今回は何故論文コンペを襲うのかしら」
「撹乱工作だな」
「何に対してのですか?」
周何某が京都近辺で何度も目撃され、四葉の暗殺部隊と交戦しているが奇門遁甲だか何だかで、幾度となく取り逃がしているんだな。とはいうものの、司波達也もすでに現地入りしており、その包囲網は狭まってきている。
であればだ……
「論文コンペ会場で高校生が襲われる。そこに関心が集まっている間に手薄になった包囲網を突破して再び雲隠れする予定だろうな」
現時点で、七草との連絡役であった名倉さんは周に殺されているはずだ。さて、どうしたものだろうか。
「とにかく、みんな無事で論文コンペを終わらせるのよ」
まあ、家に帰るまでが論文コンペだからな。
「あーでも、結衣先輩たちは修学旅行があっていいですよね。私たちの学年からは普通の魔法科高校と同じでなくなっちゃいますよね」
そうだな。ボッチには大変ありがたいカリキュラムである。
「いいえ、あたしたちが修学旅行を作ればいいのよ。なければ、自分たちでね」
――― どっかで聞いたことのあるセリフだ。気が付いちゃったか。
「どう言う意味ですか」
「ふふ、涼宮さんは生徒が勝手に修学旅行を企画して、皆で揃って学校を休んで旅行しようと考えているのでしょう」
「流石雪乃ね。そう、なければ作ればいいのよ。『小さな魔法で幸せになる計画』と同じことヨ。それに、何日か学校休んだくらいで魔法力が変るくらいなら、誰も苦労しないわよね」
お前の青天井の魔法力からすりゃな。修学旅行も体育祭も文化祭も総武は魔法科高校になっても続けるべきだ。それが、新設校としての存在意義だと八幡は思う。京都は無理だが三高のある金沢なら理由がつけられる。落としどころだろう。
このお話の時点でいただいた感想です。感想は書いた方が随時削除できますので、ここにも残しておこうと思います。
【感想】
正直に言いますと、屁理屈や思い込みとしか言いようのない理由付けや性格改変要素を入れまくって嫌いなキャラを尤もらしい理由でとにかく貶めることが目的化している物語としか言いようがありません。
【返信】
九校戦のモノリス本戦のあたりからこのような評価が増えることは想定しております。作者スレなども拝見して、低評価をいただくパターンも理解しておりますので。
このお話は、涼宮ハルヒが作り上げた改変された世界、いうなれば涼宮ハルヒの作り上げた仮想空間である魔法科高校で、その前に見つけたSOS団のような面白いメンバー(とハルヒが思った)奉仕部メンバーと絡む話が前提です。
ラノベを読んだハルヒが作り出した「夢」の中の話なんですね。この世界では不思議の塊である魔法が「兵器」として主に利用されていることに疑問を感じて「小さな魔法でも使い方次第で」ということにヒントを得て、脳筋魔法師とは別ルートで頂上を目指す話から始まります。
ところが、脳筋ですから「力」で先ずは上か下かをハッキリさせないと話を聞かないだろうということで、八幡はあえて相手を屈服させるような展開を考えたわけです。で、折れちゃったりする人も当然いるわけです。
でも、人ごと世界を変えちゃうのがSOS団&奉仕部なので、この世界を作り上げ魔法師を利用し、日本を支配し世界を不安定にしている存在に気が付き始めているのが現状です。そして、世の中を常識的に考えて変えるには、たくさんの人の支持が必要です。なので、魔法を世の中にわかる形でよいものとして理解してもらい、魔法師と非魔法師の対立関係、十師族による魔法師の管理を崩していくという方法をとっていきます。
最初はこの論文コンペ、そして、四葉本家に乗り込み、師族会議にも年末の件で呼びつけられることをきっかけにって感じで話は転がります。対立がありますから、その時点ではヘイトが発生しますけど、問題を解決していく過程で相互理解できるんじゃないでしょうか。
なので、既読のかたは、あと30話ちょっとですが、読み進めていただけると幸いです。