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- 2017/01/21
知っているようで知らない「新自由主義」とは?大学生にもわかりやすく解説してみた
はじめに
すこし前まで、「デフレの長期化」や「年越し派遣村」などが話題になっていましたよね。
社会保障費の削減や規制緩和、雇用の自由化といった政策が主に行われていた時代の話です。その時に不況の根源として語られていたのが「新自由主義」と呼ばれる一連の経済政策でした。
しかし今、株価をはじめ地価、消費者物価指数といったさまざまな経済指標の値が改善していて、日本全国の経済は地域差はあれど「緩やかに回復している」そうです。
どうしてデフレからインフレに変わり、景気がよくなったといわれるのでしょうか。
それも、経済政策の変化と密接な関わりがあるのです。
そういった経済を知ろうとすると、ニュースでよく耳にするのは「新自由主義」というワードですが、その中身が何であるかを知らない人は意外に多いのではないかと思います。
そこで今回は、社会に出る前に知っておきたいキーワード「新自由主義」について、詳しくご紹介します!
「新自由主義」とは何か?
「新自由主義」と聞くとなんだか新しそうだという印象を持つかもしれませんが、だからといってぽっと沸いて出てきた考え方ではありません。
実は、長い経済史の積み重ねから生まれた思想なんです。それを探るために、まずは経済政策の変遷からみてみましょう!
まずは経済史を振り返る
アメリカでは、長らく「市場に全てを任せることで経済はうまくいく」という考え方が支配的で、「モノは作っただけ売れるはずで、供給が足りないから不況になるのだ」と広く信じられていました。
これを「セイの法則」といいます。
しかし、世界恐慌に始まる長引く不況は、その考えに疑念を抱かせました。市場に任せるだけでは、不況から抜け出せないのではないか?と考え、注目を浴びたのがケインズの考え方です。
ケインズは「需要が足りないから不況になるのだ」と主張し、需要を作り出すためには減税や公共投資によって社会にお金を回し、波及的な効果が幾重にも積み重なること(乗数効果)によってさらに消費が活発になるのだ、と唱えました。
その後、大統領となったフランクリン・ルーズベルトはこの考えに基づき、公共事業への大幅な支出と大規模な雇用政策を行いました。
これが、かの有名なニューディール政策です。
その結果、アメリカは第二次世界大戦を経て、「パックス・アメリカーナ」と呼ばれる繁栄の時代を迎えました。
ここで現れる新自由主義!
しかし、その政策にも問題が生まれ始めます。経済成長が続いていた時代にケインズ的政策や為替の自由化を進めてインフレが加速する一方で、1970年代のオイルショックによって経済が停滞すると、失業者が増えるようになりました。
物価が上がるのに賃金が増えないスタグフレーションと呼ばれる状態になったのです。
「この原因は、政府の規模が大きくなったことで非効率化が進み、多くの規制や税の負担が自由な経済活動を妨げていることにあるのだ」という考えが広まりました。
その頃、脚光を浴びたのがミルトン・フリードマンです。
もともとフリードマンは「リバタリアン」と呼ばれる、「人間にとって『自由』がもっとも大切だから、他人に迷惑をかけなければ何をしても『自由』にすべき」という考え方の持ち主でした。
それを経済政策に適用しようというのが彼の考え方で、ケインズのような考え方の政策を、自由を阻害するものとして批判しました。
彼はその思想に基づき、規制緩和、減税、関税の撤廃など14の提言を行いました。
その中でも、特徴的な主張は生活保護や雇用保険といった社会保障をすべて「負の所得税」によって置き換えるという提言です。
たとえばいま、生活保護の受給者を行政が決めていますが、それでは行政の負担が大きくなる上に、裁量が入ることになるので不公平が生じます。
そういえば、生活保護を受けやすい自治体に申請が集中するという社会問題が起きましたね。
もしこれを仮に、一定以下の所得に対しては負の所得税をかける、つまり所得額に応じた割合の給付金が受け取れるようにしたら、どうなるでしょうか。
確かに世帯ごとの特殊事情を考慮せずに所得額という一元的な観点から支給額を決めるのは乱暴かもしれませんが、社会保障についても一律に公平に行うことで生活の見通しを立てやすくなり、人々の生活に政府が干渉することがなくなる上に、社会保障にかかる経費そのものを圧縮できるのです。
ミルトン・フリードマンは「規制緩和」や「減税」などによって、政府からの自由が達成できると考えた!
そして生まれた、世界的な新自由主義の潮流
こういった新自由主義の政策はアメリカ、イギリスで、そして遅れて日本でも導入されました。アメリカでは共和党のレーガン政権が「レーガノミクス」と呼ばれる大幅減税と規制緩和を行い、市場原理を大幅に取り入れるようになりました。
「アベノミクス」という名前の元ネタですね。
イギリスは、1970年代から高い失業率とストライキに悩まされていました。
そこで登場したのが保守党の「鉄の女」ことサッチャーです。
彼女の進める「サッチャリズム」により、金融引き締めや財政支出の削減、規制緩和を大きく進めました。
日本で新自由主義的政策を進めたのは、中曽根政権です。
この時期に行政の民営化が大きく進みました。
NTTやJT、JRなどが独立して民営化されたのはちょうどこの頃です。
つづく橋本政権でも「金融ビックバン」と呼ばれる金融制度改革を行い、大手銀行は合併を繰り返しメガバンクが誕生しました。
少し時期は離れますが、小泉政権下では竹中平蔵と共に「聖域なき構造改革」と称された数々の規制緩和を行いました。
日本郵政や道路公団の民営化をはじめ、地方への財政委譲、そして労働者派遣法の改正が行われました。
日米英は1980年代以降、新自由主義の考え方を経済政策に取り入れるようになった!
新自由主義の良いところ、悪いところ
新自由主義的政策の成功
結局、新自由主義に基づいた政策はどういった効果をもたらしたのでしょうか?
イギリスでは、金融市場の規制緩和によって、金融の中心としてロンドンが再興を果たしました。
1970年代の「英国病」を脱し、英国の金融サービス収支はアメリカを大きく引き離して世界一の黒字国となったのです。
日本でも、民営化によってJRやNTTは黒字化され、法人税を支払うことで国家の財政に貢献しています。
また規制緩和によって参入障壁が減ったことで、自由競争が活発になりました。
たとえば航空業界ではLCCとよばれる格安航空会社が誕生し、航空運賃の値下げにより利用者は大きな恩恵を受けることができました。
コンビニでキャッシングができることも規制緩和のおかげです。規制緩和は人々の暮らしをより便利にすることにつながったといえそうです。
新自由主義による規制緩和が、人々の暮らしを便利に、より豊かにした!
新自由主義的政策の問題点
しかしながら、新自由主義的政策を導入したことで、世界中で「矛盾」も生じています。
一般的に言われるのは、格差の問題です。自由競争が促進されることで、乗数効果以上に、「持つ者」と「持たざる者」の差が開いていきました。
例えば、小泉・竹中らの規制緩和によって派遣労働が自由化されたことで、リーマンショック時に大量の派遣切りが起きました。正規労働者と非正規労働者の間の格差が固定化、拡大しています。
また、アメリカでも同様に貧富の格差が増大し、社会保障が充実していないために低所得者は満足な福祉を受けることができないという問題に直面しています。
そこで民主党のオバマ政権は「オバマ・ケア」とよばれる医療保険システムを導入しようとするなど、ケインズ主義的政策路線に揺り戻そうとしていますが、国論が二分されてまだ決まっていません。
日本ではバブル崩壊後、まだ経済が未回復の時期に消費税増税と規制緩和を同時に行ったことで、不況が長期化したともいわれています。
規制緩和で自由競争を促しているにも関わらず、減税せず、かつ財政支出の削減(いわゆる、緊縮財政)を行ったことで、市場に出回る金が減ってデフレーションにつながったと言われています。
そして新自由主義では金融の面でも裁量を排除しているため、定まっている金融政策に対して、中央銀行が恣意的に関与することは望ましくないとされています。
そのため大規模な金融緩和といった大胆な政策を打てないまま、ずるずると不況が長引いてしまったのです。
私たち大学生はまさにその不況である「失われた20年」をずっと生きている世代だと言えるかもしれませんね。
新自由主義的な政策が導入されたことで格差が固定化・拡大し、不況の原因となった!
その原因はなんだろう
新自由主義的政策がこうした矛盾を抱えだしたのはどうしてでしょうか。
これについても諸説ありますが、今回は経済政策以外の面からアプローチしてみましょう。
社会学者の宮台真司氏(以下、宮台氏)が著書「日本の難点」の中で新自由主義について述べた言葉を引用してみます。
新自由主義はもともと”「小さな政府」で行くぶん「大きな社会」で包摂せよ”という枠組だったのです。
~(中略)~その意味で、元々の新自由主義と、いわゆるネオリベとは区別しなければなりません。ネオリベ=市場原理主義は、「小さな政府」&「小さな社会」の枠組です。
「大きな社会」、すなわち、経済的につまずいたりちょっと法を犯した程度であれば路頭に迷わずに済む「社会的包摂」を伴った社会を、グローバル化の流れの中で、どうやって作り、維持するのか。~(中略)~新たな相互扶助の関係性(新しい市民社会性)を、構築し、維持するしかありません。
大きな政府とは、「政府が経済活動に積極的に介入することで、社会資本を整備し、国民の生活を安定させ、所得格差を是正しようとする考え方」です。一方、小さな政府とは「政府の経済政策・社会政策の規模を小さくし、市場への介入を最小限にし、市場原理に基づく自由な競争によって経済成長を促進させようとする考え方」です。(by デジタル大辞泉)
政府の財政に限りがある以上「大きな政府」ではやっていけないから、政府による支援のシステムを社会に戻す「大きな社会」で「小さな政府」を補完するのが本来の新自由主義的政策の役割だった、というのが宮台氏の主張です。
つまり、新自由主義政策によって生じてしまう弱者に対して、手を差し伸べるべき社会が未成熟であったということが現在、矛盾が生じている原因としているのです。
こういった社会学的アプローチによって経済問題を捉えることで、別の視点から原因を考えることもできるでしょう。
宮台氏は、新自由主義的政策の失敗を「大きな社会」の構築が不完全であったことに帰着させている!
最近の日本はどうなってるの?
それではもっと具体的な事例として、日本の経済がどうなっているのかを考えてみましょう。
リーマン・ショック以降、日本は数年間の不況に陥り、各種経済指標も低調だったのが、ちょうど2014年頃から円安に伴って株価の上昇がみられました。
消費者物価指数も上昇局面となり、デフレからインフレへとパラダイムが転換しました。これには金融政策が密接に関わっています。
民主党政権時、日銀トップであった白川総裁は新自由主義のメッカであったシカゴ大学で学び、フリードマンの授業を受けるなどリバタリアニズムの影響を強く受け、中央銀行は金融政策に対して積極的な介入をすべきでないという考え方の持ち主です。
金融システムの安定的な維持の功績はありますが、リーマン・ショックとそれに続く不況下でも市場に委ねていたため、適切な介入を怠ったという批判を受けています。
それに対し、自民党政権となって黒田総裁がインフレ目標を定め、積極的に金融緩和を行うという、いままでの新自由主義的な考え方とは異なる政策を実践しました。
これによって市場にカネが出回り、株価や一部不動産価格の上昇がみられています。副次的な効果として有効求人倍率の上昇や税収の改善もみられ、経済は今、少しずつエンジンがかかり始めているともいえそうです。
しかし一方で、物価の上昇の割に賃金の上昇が現れていないといった批判もあります。
日本では、白川元総裁はフリードマン派で金融政策への介入をしなかったが、黒田総裁はリフレ派で金融政策への介入を積極的に行っている。どちらも一長一短ある。
結局、これからの日本はどうすればよいのか
新自由主義の理想は確かに人々の自由な生活を保障し、政府からの恣意的・裁量的な干渉を受けないとするものでした。
市場における自由な競争は間違いなく、私達の生活を便利に、より豊かにしてきました。
しかし、新自由主義的思想はその理想が必ずしも達成されず、市場原理に偏った形で導入された上に、そこで現れる矛盾を解決する手段として、市場は弱者にとって厳しいものとなりました。
確かに自由を保障することは大切です。
しかしながら、自由競争についていけない人というのは必ず存在し、そういった人たちに対するセーフティーネットが存在するということが競争の前提となるべきでしょう。
だから大きな政府や小さな政府、そのどちらにも問題はあり、一概にどういった政策をとるのが望ましいと言うことはできません。
少なくとも今、日本を支えてきた地域コミュニティや大学、企業といった集団における連帯が「個」へと解体されていることは否めず、それは新自由主義の思想レベルにおける浸透による個人主義化、及び「冷戦」や「高度経済成長」といった万人が信じる「大きな物語」といったものの瓦解と軌を一にしています。
その一方で、上流階級の結びつきは厳然として存在し、孤立する弱者はその支配に抗うことすら難しい状況が現出しています。
だからこそ、今現実に存在する若者や貧困にあえぐ弱者がつながりを持つこと。
そして社会全体でそれを包摂できるような仕組みを持つことが求められるのではないでしょうか。
もちろんそれは範囲が広く、単なる絵空事に終わるかもしれませんが、少なくとも自分の身近な集団における連帯から復活させていくことが、自由に伴う孤立に抗う手段になるのではないでしょうか。
このように大きな政府、小さな政府といった枠組みだけでは論じ得ない「第三の道」があるということもひとつ、視野に入れて考えると見えてくるものがあるはずだ、と僕個人としては思います。
新自由主義の功罪を見極めつつ、視野を広げて社会の望ましいあり方を考えてみよう!
まとめ
新自由主義について紹介しました。いかがでしたでしょうか?
大学生となるとそろそろ将来のことを考えなくてはならない時期ですが、このようにマクロ的な視点を知った上で自分の進路選択をしていくと、新たなチャンスをつかめるかもしれません。
また、普段ニュースで見聞きする言葉をより深く自分で興味を持って調べてみることで、新たな視点が生まれてきます。そして、その調べたことに対して自分なりに意見を持って、周りの人と話してみて下さい。この記事がその一助となれば幸いです!
- 【参考文献】
ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(村井章子訳)日経BPクラシックス(1962)
宮台真司『日本の難点』幻冬舎新書(2009)
大澤真幸『不可能性の時代』岩波新書(2008)
内田樹『街場の憂国論』晶文社(2013)
池上彰『池上彰のやさしい経済学第6回』(2012)
スタンフォード哲学百科事典『Libertarianism』
最後に
t-newsの記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。
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t-newsWebライターを2015年3月から始めました。
現在は都内の大学で3年生をやっています。理系の視点から『働く』ということに着目した記事を発信していきたいと思います。趣味は読書と映画鑑賞。座右の銘は「なせばなる」です。昨日の自分よりも少しでも進化した今日の自分でありたいと思っています。よろしくお願いします。