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高校生・大学生<疲弊する大学教員>(上)現状 教育も運営も、過剰な負担
国立大の独立行政法人化などを機に大学教員の仕事が増え、過労で心身を損なう人がいる。多くは裁量労働制で、働き方は自身にゆだねられ、大学側も労働実態を正確に把握できていない。少子化対策や大学改革に伴い業務は増える一方の今、問題を二回で考える。まずは国立大教員の現状から。 「仕事が多すぎるんだよ。回せないんだ」 東北大の准教授だった夫、前川英己さん=当時(48)=が亡くなる直前に発した言葉が、今も妻の珠子さん(53)の耳に残っている。 十年任期でリチウムイオン電池の材料を研究していた。任期後も見据え、その二年ほど前から研究を加速させていた頃、東日本大震災が発生。研究室のあった建物は全壊した。 ◆入試監督や草むしり職場の片付け、膨大な報告書の作成、始まったばかりの研究プロジェクト、大学院生を含む八人の学生の指導、週三こまの授業、年四十日の国内外の出張…。そこに、草むしり、学内の駐車違反のシール貼り、入試の監督も。平日は朝八時に出掛け、深夜まで。土日も休まなかった。珠子さんが振り返る。「自宅のベッドでうつぶせで仕事をしたまま眠ることも多くて、よくパソコンをそっと引き抜いた。介護ベッドが欲しいと言っていました。リクライニングできれば寝る直前まで仕事しやすいからと」 二〇一二年一月、ようやく研究環境が整ったにもかかわらず、その環境が二年後に存続できなくなる可能性を上司から理不尽に告げられたという。「パワハラにも遭っていた」と珠子さん。直後にうつを発症し、一週間後に自ら命を絶った。 所属する東北大大学院の工学研究科は教員に出退時間の提出を求めていたが、前川さんは出していなかった。しかしパソコンの記録や部下、同僚らの証言で過労の事実が認められ、一二年秋に労災認定を受けた。 ◆弱い立場に仕事集中過労死弁護団の一人で大学の雇用問題に取り組む仙台市の土井浩之弁護士は「助教や准教授、任期付き教員は立場が弱く、過剰な仕事を強いられ、うつに追い込まれる場合は少なくない」と語る。 珠子さんは「せめて研究のために死ぬのなら本望だったと思う。教育も運営もと、超人的な仕事量が求められる大学の現場はおかしい」と訴える。 ◆「自分の研究、夜しか」 実働時間を申告しない例も大学教員には主に研究、教育、運営の三つの業務が課されている。「その働き方は分野や立場などによって全く違う」と土井弁護士は指摘する。 東海地方の理系の六十代の国立大教授は、学部長をしていた五十代後半に心筋梗塞を患った。会議などの運営業務で多忙を極めていたが、当時、過労の認識はなかった。「働き過ぎをやめようと思えばやめられたが、画期的な研究成果も出て自宅でもずっと仕事をしていた」。優秀でまじめな人にほど仕事が集まる傾向があるとみる教員は多い。 周りから口出しされたくないという気風もある。ある国立大の四十代の准教授は、月の労働時間が三百時間以上になり体調も崩した。だが、大学への申告は、産業医との面談を促されないように「二百四十時間以内」にしている。「雑務が多く、自分の研究ができるのは夜だけ」 各大学は健康管理のために教員の労働時間の把握に努めるが、その方法はまちまちで出勤簿の提出だけで済ませる大学も。来春からは働き方改革関連法が施行され、把握方法が厳密になるとされる。「全学的に管理が厳しくなると思うが、自由に仕事したいと望む教員からの反応は心配だ」と東北大の担当者は語る。 過労死遺族の会「東北希望の会」を設立した珠子さんは願う。「労働時間だけを管理しても業務量が減らないと意味がない。先生も、求められるままに働くのでなく、過労は健康を損ね、命は有限だと知ってほしい」 (芦原千晶)
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