日本は「科学論文の捏造大国」とみられている

多数の良質な研究を貶める少数の不正常習者

さて、捏造者の動機は何か。なぜ佐藤氏は大量の論文を捏造したのか。ノバルティスファーマ事件のような直接の経済的利益を狙ったものではない。捏造の心理は以下の3点が考えられる。

第1に、「有名になりたい」という知名欲である。この心理は珍しくない。科学者には、理由は何でもいいから有名になりたい、という者は少ないが、似非科学者となれば話は別である。雑誌のグラビアに出るような者も出てくる。

第2に、常習性である。大きな不祥事の陰には、たいてい小さなごまかしがあり、味をしめて次第に大胆になる過程が潜む。とがめられなければ、不正は常習となる。人は、何度も行っていることを「正当」と感じる。

会議で「俺は、いつもこの席だ」といってたまたま座った新参者を追い払うのは、サルにも共通する「常習心理」である。法令も占有権を所有権に優先させ、成文がない場合には慣習を法規範とするが、これも同じ原理による。 常習性はまた、「中毒症状」を生むことがある。マニアが寝る間を惜しんでゲームに励むように、得失を考えず捏造に励む者もあるだろう。

人間は客観的事実よりも「信じたいこと」を信じる

第3に、信念である。人は、「真実」(truth)を追求する。「事実」(fact)に、直観による信念を加えたものが、「真実」である。客観的事実は一つでも、真実は主観的で、人の数だけある。 真実を求める本能は、文明以前に進化しているから、これが科学と相性が悪いのはやむをえない。地動説も進化論も人の直観に反している。

人は感情に従い、事実を超えてでも信じたいことを信じる。情が理より強いことの一例である(「『理屈を言うな!』と叱責する上司への対処法」で紹介した)。ドナルド・トランプ大統領の支持者に、事実を突きつけても興味を示さないのは、真実が感情に由来するためである。天才といえども例外ではなく、アルベルト・アインシュタインは「神はサイコロを振らない」との信念で量子力学を否定している。

信念の上位に観察事実を置かなければ、希代の天才も誤る。俗物が誤った信念に踊れば、捏造や改ざんに躊躇がなくても不思議はない。

捏造型不正者の多くに、知名欲、常習、誤った信念の3点が観察される。先述のように初期の小さなごまかしを見落とさず、真理探究心の有無を見分ければ、性善説のシステムを保ちつつ、早期に発見できる。少数の特異な者たちに、日本の宝である科学研究を貶めさせてはならないと強く思う。

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  • NO NAMEcf437bc90ce7
    分野によって異なるかもしれませんが、殊、自然科学において海外の研究と比較して日本の研究が劣っているとは全く思いません。
    では何故このような捏造が起こりうるのかと考えると著者の仰るような側面も関係あるのでしょうが、その背景には成果を急かす雰囲気がアカデミックの世界に流れていると感じます。短期的な成果を求める国、自己の評価を上げたい為に過度な要求を行う上司、少ないポストを成果で判断して配属する大学。
    そんな雰囲気が不正に走り易い土壌を作っていると思います。
    up58
    down9
    2018/9/19 08:54
  • うちのチームはマシなのか?ヤバいのか?dcf01da9ab21
    サンプルn=1 1回の測定で結論を出そうとするポスドク。データを疑わないボス。再現性がないと訴え続けても自分の仮説に会うポスドクのチャンピオンデータを信じ、論文投稿後rejectされデータの怪しさに気付くボス。
    うまくいかないprotocolで、前からこのやり方でやっていると言い張り改善する気がないテクがいたり…
    このチームが出す論文は信用できない…
    up33
    down4
    2018/9/19 08:33
  • NO NAME11aedc6f1d19
    目標必達を強要された者の暴走。
    東芝、スルガ銀しかり。
    日大アメフトは文字通り暴走した。
    up23
    down1
    2018/9/19 09:45
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