OVERLORD 不死者の王 彼の地にて、斯く君臨せり 作:安野雲
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それでは、どうぞ。
アルヌスの丘。
ファルマート大陸において、ヒト種、亜人種、その他の各種族全てが「聖地」と定めている地であり、あらゆる種族の「故郷の地」という伝承が言い伝えられている土地。
その地には今、日本国・陸上自衛隊によって基地及び簡易訓練場や居住施設など大規模な陣営が築かれていた。
聖地及び門の奪還の為に送り込まれた諸王国軍は、一方的殺戮に近い形で敗戦し、既に全軍が撃退されている。
そういった敵性存在が排除され、周囲の安全が確認された段階で、各施設の敷設はほぼ完了しており、要塞と呼べるような拠点が出来上がっていた。
陣中央には関連部署を束ねる中枢施設が設置され、さらにその中でも中央に位置するのが、特地方面派遣部隊指揮官指令室である。
その一室には、現在二人の男がいた。
一人は座し、もう一人は立っている。
室内奥の席に座するのは、狭間浩一郎。
特地方面派遣部隊の指揮官であり、陸将を務める男は、机に両肘を乗せて楽な姿勢をとっていた。
一方、机を挟んで立っているのは柳田明。
特地方面派遣部隊幕僚で、二等陸尉。防衛大学校を優秀な成績で卒業し、エリートを絵に描いたような男は、狭間に対して報告を行っていた。
「―――――陸将、深部偵察部隊からの報告がまとまりました」
「おお、何かわかったか?」
深部偵察部隊。
陸上自衛隊はアルヌスにて敵軍を撃退した後、1部隊12名から成る少数の部隊を六個編成し、偵察隊を特地各方面に派遣していた。
その目的は、特地の人々との交流や、動植物・地質等の環境調査を通じて、この地特有の文化・風土を把握すること。
特地は未だ紛争地域となっているので、調査は短期間かつ一部の地域に限定されていたが、柳田が持って来た報告書の分厚さはかなりのものとなっていた。
どうやら、各部隊ごとに期待以上の成果を得ることができたようだ。
「特地の民間人とは言葉の面では苦労はしておりますが、概ね平穏な一時接触ができたようです」
そう言って柳田が差しだしてきた報告書には、『深部偵察報告書(第一次)』と記されていた。
狭間は手渡された報告書の最初の項目の、特地の人間に関する記載を確認する。
「見た目はほとんどが人間タイプで、農林業などが主体となっています。生産・流通品などは資料をご覧ください」
言われて、項目末の資料に載せられた生産品・流通品の品目一つ一つに細かく目を通していく。
次に、特地における国家・民間人の生活様式・集落の存在に関しての報告に移った。
「まず、特地の覇権国家として存在しているのが『ロムルス帝国』という国家です。兵装を確認しましたが、まず間違いなく銀座事件に関与しているものと思われます。また、その帝国内の各集落には村長のような存在がいるようです。生活様式の詳細は付属の資料をお読みください。....ですが、政治体制に関しての詳しい報告は、まだありません」
言い終わってから、柳田は小さく溜息を吐いた。
柳田が言葉を濁した通り、特地の国家、ロムルス帝国の詳細な情報は未だ掴み切れていない。
戦争状態が継続しているので当然のことではあるが、人の数が多く国家との結び付きも強い都市部への接近は前もって禁止されていた。
そのため、民間人と接触しようと思っても、国の中心から離れた辺境の集落に住まう人々に限られてしまう。
そんな人々が遠く離れた帝国の詳しい情報を持っている訳もなく、加えて意思疎通に難がある状態での聞き込み調査であったのだ。
自衛隊が手に入れることができた情報は、予想以上に少なかった。
調査の行き詰まりを感じていた柳田は、渋い顔で自身の希望を口にする。
「....できれば、住人を此方に何人か招けるといいのですが」
「いや、意思疎通に難がある状況では不味いだろう。後々、拉致とか強制連行だとか言われても、困るからな」
狭間は柳田が口に出したことを即座に却下する。
後半の部分を語るときは、狭間は特に眉間の皺を寄せていた。
実際、相互の理解が不完全であったが故に国家間の問題に発展してしまった事例は数多くある。
まさしく「歴史は語る」という言葉の通りだ。
しかも困ったことに、そういった問題に口を挟んでくるのは外部のみではない。
政府が何らかの形で関わった問題が起こる度、必ずと言っていいほど国内からは批判の声が上がる。
ニュースでは大々的に取り上げられ、国会においては野党の議員が与党の責任を追及し、場合によっては活動家らも騒ぎ立てる。
だからこそ、国内外を問わず、国家に属する組織であるからこそ、面倒な非難・追及を受けるような事態に追い込まれるのは避けるべきなのだ。
狭間も陸将を務めるに際して、そういった事情は重々承知しているが、それでも如何ともし難い感情が込み上げてくるのは抑えられるものではない。
複雑な心境が渋面となって浮かんでいる狭間の表情を見やった柳田は、そこで、報告書には記載していなかった連絡事項を報告することにした。
「―――――陸将。実は、第3偵察部隊の伊丹の隊が避難民を護送しております」
何?と驚いた狭間だったが、伊丹達が避難民を預かることになった事情と、その当時の状況報告を聞いて納得する。
「銀座の英雄」と呼ばれる以前から伊丹耀司という男を知っていた狭間は、「あいつらしいな」と思わず口元に小さな笑みを浮かべた。
「それで、どうでしょうか?難民の受け入れということならば、内外にも説明しやすいかと思われますが」
既に準備していたような柳田の提案を聞いた狭間は暫し熟考し、成る程と頷く。
昨今は国内外を問わず、世間は人権問題には過敏に反応するのが常だ。
そこで「人道上の配慮」という錦の旗があれば、表向きの批判は躱すことができる。
「....うむ、いいんじゃないか?」
納得した狭間は、今度は躊躇うことなく許可を出した。
ついては今決めた方針に従って新たな業務の追加、各種手配をする必要がある。
まず、避難民の保護・観察を担い、諸々の対策を行う者達の指揮官は、彼らとの関係性を考慮して、伊丹に任じた。
同様の配慮から、第3偵察部隊を中心に仮設テントの設営や糧食の準備、避難民の身辺調査を行わせることも決定する。
また、狭間は避難民用の仮設住居の設営も急ピッチで進めるように命じた。
その他の細々とした確認事項を相談し終わると、現場で何か問題があった場合や対処すべき課題がでてきた場合に備えた連絡網の確立も進めさせる。
狭間と柳田は、この場において現時点での対応として、そこまでを定めることにした。
そこで避難民への対応については一度区切り、狭間は再び柳田からの口頭での詳細な説明と報告書の内容確認という作業に取り掛かる。
「....む。オーステン、大陸....?」
環境についての項目を確認していた狭間は、特地の大陸に関わる報告で目を止めた。
「はい、今我々がいるのが『ファルマート大陸』で、その東側にあるのが『オーステン大陸』であるということです。中海は『ヨーショー海』と呼ばれているそうですが....先に言わせてもらった通り、何分集落でしか聴き取りができなかったので、それ以外の情報はほとんど集まっていません」
柳田が言う通り、オーステン大陸に関しての情報はほとんど記載されていない。
この世界ではファルマート大陸と並ぶ二大大陸という位置づけで、大陸の規模はほぼ同等。
しかし、ファルマートとは異なり覇権国家はおらず、幾つかの人間の国家があり、帝国はその内の一つと国家間の交易を度々行っている。
各部隊の報告を集約すると、大体その程度までの情報にしかならなかった。
「我々が今いる大陸の調査は勿論だが、オーステン大陸についても今後調査の手を伸ばしていかなければならんかもな」
ええ、と柳田も同意する。
ただ、現時点ではオーステン大陸の調査の優先度は低い位置に留めておくこととした。
それからの柳田の報告は長時間に渡って続き、狭間もその一つ一つを精査し、時には疑問点や調査が不十分な箇所を指摘することもあった。
そうして、かなりの時間が経過した後。
「――――さて。取り敢えず、これで先に指示していた調査の報告は終わりか」
「はい。各部隊ごとの任務報告としてはこれで全てとなります」
長時間に渡っての調査内容の確認を終え、狭間は一息ついた。
ちらりと壁時計を見ると、想像以上の時間が経過していたことに気づかされる。
各部隊ごとに、それぞれ派遣された地域で命じられた調査は多岐に渡り、比較検討の為に類似した情報でも添削せずに報告書に纏め上げられた結果、これだけの重労働になってしまった。
だが、柳田からの報告はまだ終わりではないようだった。
狭間は報告書の最後の項目を捲る。
表題には、簡潔に『特地・特記戦力保持者』と記されていた。
狭間は目を細めると、柳田の方を目線で伺う。
「....ここからは、任務外で収集した情報について報告したいと思います。今回の情報は、主に伊丹の隊、第3偵察部隊から得られたものでした」
明らかに柳田の声色が変わったことから、狭間もその情報こそが今回の報告で最も重要度が高いのだと察して、より一層気を引き締め直す。
「陸将もご存知かと思いますが、特地では我々の住む地球とは大きく異なる原理・法則や人種・動植物が幾つも発見されています」
特地が、自分達が住まう地球と異なっているのは何も思想や文化、人類の歴史といった表面的なものだけではない。
銀座事件の際、特地甲種害獣・ドラゴンと呼ばれる怪物や、人間とは異なる容貌、風体をした亜人と呼ばれる種族など、それまでの地球人の常識を覆す存在が多く確認されている。
更に先遣隊によれば、『魔法』などという非科学的な法則があることも報告された。
科学の発展した現代社会に住む人間からすれば迷信やオカルトの類いであったそれは、この世界では至極当然の原則として受け入れられている。
狭間も最初にその報告を聞いた時は「そんな馬鹿な事があるか」と俄かには信じ難く、実際に使用している様子を撮影した動画を見ても、加工を疑いたくなるほどであった。
それでも、各地の先行調査隊から同様の報告が相次ぎ、それらを証明する資料を幾つも提示されてしまっては、嫌でも認めざるを得ない。
正直、話を聞けば聞くほどに突飛で頭が痛くなってくる内容ばかりだったが、何より自衛隊にとって悩ましかったのは、それらの法則が自分達に対して一体どのような影響力を与えるのかが判らないということだ。
幸いというべきか、敵対する軍勢の中には魔法を行使してくる者はいなかったが、それも今後どうなるかはわからない。
もしかすると、追い込まれた場合の最終手段として、強力な魔法を使ってくるということも考えなければならないのだ。
未だに魔法に関しての調査は不完全で、特地でどのような扱いを受けているのかも掴み切れていない。
結局のところ、特地中心部での活動が困難な現状では手に入る情報もその程度でしかないということだった。
やはり、早急に調査範囲拡大の計画を立てる必要がある。
狭間は今後の活動方針を固めつつ、柳田の話に耳を傾けた。
「特地には、我々の世界の常識や社会通念といった、いわば原則となる事柄から逸脱した事象が数多くあります。我々もその前提の上でこれから行動していかなければなりません。其処に当たって、今後の自衛隊、ひいては我が国の特地での活動を円滑に進める為に、接触する際に厳重注意すべき対象を、判明している範囲で報告させていただきます。また、今後はこれらの存在に対しての調査を計画的に行っていくべきだと思うのですが、宜しいでしょうか?」
「あぁ、そういう事情であれば勿論進めるべきだろう。それに、伊丹らが護送してきた現地人の中にも何やら関係のありそうな人物がいるようだしな」
そう言って狭間は手元の資料に目を落とす。
資料には、奇抜な恰好をした幼い少女の写真が添付されており、人物名という欄には≪ロゥリィ・マーキューリー≫と書かれていた。
「ええ。仰る通りです。これから報告させていただくのは、彼女についてです」
それから狭間が報告を受けた内容は、やはり驚かされるものばかりだった。
彼女は人間ではなく、『亜神』という、この世界の―――――本当にいるのは定かではないが―――――神から力を授けられた者であるということ。
また、亜神は彼女だけでなく、他にも何人かいること。
亜神は人智を超えた力を持ち、ロゥリィも水龍との戦闘でその力の一端を垣間見せたこと、等々。
「....やはり、信じられんようなことばかりだが....伊丹達も目撃している以上、信じるしかないんだろうなぁ」
「そうですね。ただ、この世界における『神』とは何なのか、また本当に存在しているのかといった疑問点は残りますが」
柳田のその意見には。狭間も追従する。
亜神と呼ばれる者達が超常の力を持っているということは事実のようだが、かといってそれは神という全く異次元にあるものの証明にはならない。
超常の力を得られた事情にも、魔法という法則が何らかの形で関わっていることも考えられる。
「その辺りの疑問も放置しておくわけにはいかんだろうが....うぅむ、また調査すべき案件が増えてしまったな」
「そういう意味では、亜神であるロゥリィ・マーキュリーと今のところ友好的な関係を築けているのは僥倖でした。打つ手を誤って、敵対していたら不味いことになっていたかもしれません」
「その通りだ。であれば、今後も彼女と接触する時には、慎重かつ友好的な態度を維持するよう隊内に周知徹底させておくように」
「了解しました。では、担当官は伊丹に任せてもいいでしょうか?」
「勿論だとも。彼奴が連れてきたのだし、その方が此方にとっても都合がいいだろう」
そうして、ロゥリィへの対応に関する諸々の連絡事項を伝え終わると、狭間は椅子にもたれ掛かって深い息を吐く。
ようやく一仕事を終えたといった様子の狭間だったが、柳田の雰囲気を見て報告に続きがあることをわかっていた狭間は、続けるように促した。
「....実はもう一人、注視しておくべき人物がいます。同じく伊丹の隊が接触した人物で、その人物の名は――――――アインズ・ウール・ゴウン」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―――――お前さん、わざとだろ?」
アルヌスの自衛隊基地。
その屋上には、二人の男がいた。
質問をした方は柳田明、された方は伊丹耀司である。
柳田の問いに対して、伊丹は苦笑いで応じた。
頃合いは既に、夕方に差し掛かっており、今も外では第3偵察部隊の面々を中心に簡易テントの設営、糧食の用意などが行われている。
今朝、基地に帰還した伊丹達は、今の今まで、避難民受け入れの説明とその対応に追われていた。
特に伊丹は隊長ということもあり、何故無断で避難民を護送してきたのかと上司から叱責され、説明も強く求められた。
しかも、受け入れ後のほぼ全ての仕事を任されていたこともあって、碌に休息も取れていない。
避難民の護送について説明した時は、ドラゴンとの戦い以降に定時連絡を途切れされていた理由を通信不良という苦しい言い訳で乗り切ることができたが、結局こうして柳田から個人的に呼び出しを食らう羽目になっていた。
もし避難民について事前に報告していれば、放り出すように命令されていただろうが、こうして一旦基地まで連れてきてしまえば受け入れを拒否するのは「人道上の配慮」から難しいだろうという魂胆だったのだが、柳田には完璧に見破られていたらしい。
ただ、最終的に受け入れを陸将が許可してくれたのは、彼の働きかけが大きかったということも知っているので、当然感謝はしている。
エリート気質な性格の柳田のことを、伊丹は若干苦手としていたが、彼の仕事の手腕には素直に関心させられるばかりだった。
柳田は、自分の追及を愛想笑いで受け流されると、「誤魔化しやがって」と苛ついたように小さく呟いた。
伊丹はまた何か言われるのかと内心気が気でなかったが、柳田が次に発した言葉はそんな予想とは外れていた。
「――――――なぁ、伊丹。特地は宝の山だ」
苦笑を浮かべていた伊丹の表情が変わる。
柳田の口調も、真剣みを帯びたものになっていた。
特地という、人間が暮らすことが可能な、公害も環境汚染もない豊かな土地。
世界経済を揺るがしかねない地下資源。
文明レベルの差は圧倒的に此方が有利で、その世界との唯一の接点が日本に開いたことの意味。
そういった、現状で把握できている事柄について柳田は語った。
「世界では、持っている者が勝者だ。だから――――――永田町の連中は知りたがってるんだ。特地は世界の半分を敵に回すだけの価値があるのか、を」
「....柳田さん。でも、それは――――――」
それまで黙って話を聞いていた伊丹は、そこで初めて口を挟んだ。
「もしそうする価値があるなら」という言葉を飲み込んだのは、脳裏に過ぎった一人の人物がいたからだった。
「わかってるよ、お前が言いたいことは」
柳田は既に伊丹の意図を察していたのか、特に拘泥することもなく「彼の人物」に話を移した。
「確かにお前の報告にある通り、本当にドラゴンを退治したっていうんなら、それはかなりのことだろうな。幸か不幸か我々もほぼ同じ規模のドラゴンと相対したことで、ドラゴンという生物の脅威の程はよくわかってる。実際にその人物が倒したというところまでは見ていないと言っていたが、要するにお前は
自分の意図するところを言い当てた柳田に、伊丹は首肯で応じた。
「何、心配しなくともちゃんと報告は上げているとも。陸将からもゴウンという男と接触する場合は最大限の注意を払うようにとの指示も入ってる。その人物の調査も最大限注意して行っていくつもりだ。それに、お前たちも表面上は友好的な一時接触ができたんだろ?なら、今のところは敵対することはないだろうし、ロゥリィ・マーキュリーのように協力関係を結べる可能性もある。今すぐ何か起こるなんてことは有り得ないだろうさ」
柳田は、伊丹が内心に抱えているモノを取り払うように言葉を尽くすが、それでも伊丹の不安は消えない。
果たして、そう上手く事が運ぶだろうか、という疑問がどうしても付いて回るのだ。
伊丹の反応を伺っていた柳田は、これ以上言っても伊丹の気は晴れそうにないとわかり、この話を切り上げることにした。
「それと、伊丹。お前は今回の調査で避難民の護送、ドラゴンとの交戦、ロゥリィやゴウンといったこの地における強者との接触等々様々な事に関わった。つまり、今のお前さんは重要情報に一番近い位置にいるんだ」
柳田は、「これがどういう意味か分かるだろう?」と言いたげな視線を伊丹に向ける。
「伊丹、お前さんには近日中に大幅な自由行動が許可される。――――精々働くことだ」
柳田はそう言うと、話はこれで終わりだという風に去って行った。
伊丹はその後ろ姿を追い、それから眼下に視線を移す
外では丁度、テントの設営が終わって、避難民たちにレーションが配給されているところだった。
空を見上げると、随分と長い間話し込んでいたのか、西に傾き始めていた日はもう遠くの山々の影に隠れそうになっている。
そんな風景を見ながら、伊丹は今後のことを考えることにした。
抱えている問題は多くあるが、やはりどうしても気になるのは、未だその影すらも掴めていないアインズ・ウール・ゴウンという人物の情報。
そして、彼以外にもこの世界の何処かにいるかもしれない強者の存在。
今後、もし仮にドラゴンを単独で倒し得るだけの力を持った複数の人物らと敵対した場合、どのような結果が待っているのか。
伊丹の胸中には、そんな不安がジリジリと広がっていく。
柳田二尉は特地を「宝の山だ」と形容していたが、本当にそうなるのだろうか。
いや、最悪の場合、或いは――――――――
「いや、まさか....な」
伊丹はそんなことまで想像してしまい、それは流石に考えすぎだと、かぶりを振って自分自身の思い付きを否定する。
しかし、それでも言い知れぬ不安感だけは消えずに残っていた。
伊丹は、徐々に暮れていく夕空を見上げながら、これから先のこと、日本や自分の未来に思いを馳せる。
「―――――――今年の冬コミ、間に合うかなぁ?」
というわけで、前編終了です。
次回の後編では、アインズ様たちナザリック側のお話になるかと思います。
それでは、次回の更新にてお会いしましょう!