OVERLORD 不死者の王 彼の地にて、斯く君臨せり 作:安野雲
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原作と同じところからスタートしますが、今後は尺の都合でカットする描写など出てくるかもしれません。
4/20 (前編)を削除しました。
―――――――楽しかったんだ...本当に、楽しかったんだ――――――――――
≪Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game≫
通称、「DMMO-RPG」
仮想世界において、まるで現実にいるかのように遊ぶことができる体験型ゲームである。
「ユグドラシル」
2126年に発売されたタイトルには、数多あるDMMO-RPGと比較しても、とてつもなく広大なマップに加えて、プレイヤーに与えられた異様なほどの自由度があった。
さらに運営側の、プレイヤーに「未知」を探り、発見していってほしいという強い意思が込められたゲーム内容になっていた。
その人気は日本国内において爆発的に上昇、一気にDMMO-RPGのトップに躍り出た。
――――――――しかし、たとえどれだけの繁栄を築こうとも、いつかは終わりが来る。
栄枯盛衰、その定めからはユグドラシルも逃れられなかった――――――――
2138年、遂にユグドラシルは最期の日を迎えた。
度重なるアップデートと広大なマップの維持費用、そしてアクティブユーザーの激減が追い打ちとなり、運営元の会社からはユグドラシルのサービス終了が告知されていた。
「過去の遺物、か...」
そう呟いたのは、ギルド≪アインズ・ウール・ゴウン≫のギルドマスター・モモンガだった。
彼は今、ユグドラシル最後の日を、ギルドホームであるナザリック地下大墳墓の第10階層、玉座の間で迎えていた。
「明日は四時起きか...早く寝ないと、仕事に差し支える...」
サービス終了まで、残り10秒。
ゆっくりと目を閉じた。
刹那、ユグドラシルでの思い出が濁流のように流れていく。
「鈴木悟」の頬に、何かが伝っていくような気がしたが、それは気のせいだったかもしれない。
そして、世界は暗転する。
斯くして、不死者の王は異世界に降り立った。
・
・
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「―――――あいつら、マジだ」
ナザリック地下大墳墓、第10階層の通路。
階層守護者たちの「忠誠の儀」を終えたモモンガは、第6階層から転移してくるなり、思わず頭を抱えそうになる。
今でこそ、NPC達が自律的に行動していることにも慣れてきているが、最初はあまりのことに相当に混乱してしまった。
挙句の果てには、アルベドにセクハラ紛いのことまでしてしまい、今でも思い出すと感情の抑制が起こりそうになる。
それでも、何とか感情を整理して今すべきことを考えようと決める。
まず、ナザリックの周囲をセバスに軽く調査させたところ、ユグドラシルの頃に合った沼地から広大な草原に変化しているということが分かった。
この時点で、ナザリックがユグドラシルとは違う場所にあるということは確認できた。
次に、階層守護者との忠誠の儀に際して、第6階層に集まった際に行った魔法の使用の実験も滞りなく成功したことから、ユグドラシルでの法則が、どの程度かはわからないものの、この世界でも通用するということも知ることができた。
最後に、最も懸念していた階層守護者を含めたNPC達の行動に関してだが、先程それぞれの守護者に尋ねた自分への印象をまとめた限りでは、かなりの忠誠を誓ってくれているように思われる。
しかし、実際彼らの本音がどうかはわからないし、もしも自分が支配者として相応しくない振舞いをした場合は、どのような行動に出るのか予測もつかない。
正直なところ、かつての友たちが造った、いわば子供とも呼べるような存在らを疑うような真似などしたくはないが、未だ右も左もわからない世界にいるのだ。
どうしても、最悪の可能性も想定して動かざるを得ないだろう。
モモンガは先行きのわからない不安を抱えながら、次の行動を開始した。
それから三日間、ナザリック内部を見回ってゲーム当時と変化がないかを確認したり、第6階層で引き続き魔法の実験を行うなど中々忙しい日々を過ごしていた。
加えて、どこへ行くにも必ず従者がついて回る。
常に誰かに見られているというは、それだけで気が休まらなくなってしまうものだ。
まして、慣れない支配者のRPもこなしながらとなると、その負担は倍以上になる。
一介のサラリーマンであった「鈴木悟」の精神が、悲鳴を上げるまでそう時間はかからなかった。
ユグドラシルの武器を装備できるかの実験を行っていた最中、モモンガは不意に傍に控えていたメイドに、追ってこない様に念押ししてから「暫く外に出る」と言い残し転移してしまったのだ。
しかも、魔法で造られた漆黒の全身鎧を纏った状態で、だ。
結局、その道中ではデミウルゴス配下の三魔将と鉢合わせたり、巡回に来ていたデミウルゴスに一発で正体を見抜かれた上に何故か「支配者に相応しい配慮」などと褒められたり、と余計に疲れが溜まりそうになってしまった。
今は、配下にデミウルゴスを連れて墳墓の第1層から外に出ようとしていた。
そして、見上げた先にあった景色に、モモンガからはつい感嘆の声が漏れる。
見上げた先にあったのは、辺り一面に広がる夜空だった。
大小、様々な大きさ、さらに多彩な色に輝く星々の景色は、まるで宝石箱のように美しい。
それは、モモンガが暮らしていた現実世界では決して見ることのできない景色だった。
もっと近くで見たいと思い、飛行(フライ)のアイテムを装備して、空へと駆け上がっていく。
斜め後ろから付いてきていたデミウルゴスも、それに続く。
満天の空に、吸い込まれそうなほどに大きな満月が浮かんでいた。
そんな絶景を眺めながら、デミウルゴスと他愛のない夢物語に花を咲かせる。
「―――――そうだな。世界征服なんて、面白いかもしれないな」
ポツリと呟いた冗談だったのだが、デミウルゴスがその言葉にピクリと反応した。
モモンガはそんなデミウルゴスの様子には気づかず、満月を見上げながら、これからのことを考える。
この世界に転移してきているかもしれない、ギルドの仲間たちのことを。
この世界にアインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせ、再び輝かしいあの日々を取り戻すことを。
終焉と共に始まった、この世界で。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――――まずい、このままじゃ...夏の同人誌即売会が中止になってしまう―――――!
その日、伊丹耀司は夏の同人誌即売会に向かっていた。
自衛官である彼は、「仕事か趣味ならば、趣味を優先する」と公言する程の生粋のオタクであったが、職務上どうしても自分の趣味に没頭する時間を持つことが難しい。
そんな中、どうしてもこの日だけはと貴重な有休を消化して何日も前からその日を楽しみにしていたのだ。
そんな矢先のことだった、「異変」が起こったのは。
東京都中央区・銀座六丁目。
そこに、突如として出現した「
大混乱の中、異世界からの殺戮者によって多くの民間人が犠牲になっていく。
そこに救世主のごとく現れたのが、伊丹耀司その人だった。
彼は、指揮系統が麻痺し、右往左往していた現場の警察官らに協力して民間人の避難を指示し、多くの人々を保護・救出することに貢献した。
「銀座事件」
後にそう呼ばれることとなるその日のことを、彼はきっと忘れないだろう。
銀座の英雄として称えられることになったからか?
褒章を授与され、3等陸尉から2等陸尉に昇進したからか?
否、どちらでもない。
彼は、仕事より何より「趣味」を優先する男なのだ。
『―――――中止、同人誌即売会は中止です!』
伊丹耀司は、その日のことを忘れない。
彼は、そういう人間なのである。
それから3ヶ月後。
銀座事件によって命を落とした人々の慰霊の場、そのすぐ近くで陸上自衛隊の出陣式が行われていた。
銀座事件を発端とした、自衛隊による大規模作戦が開始されることになったのである。
表向きの目的は向こうの人々と交渉し、銀座事件の犯人を逮捕すること。
だが、その裏の目的は、特地での先行調査によってその存在が発覚した、大量の資源の獲得である。
その重要な作戦を担う部隊の中には、当然、伊丹耀司の姿があった。
多くの隊員が、これから先に待ち構えているであろう困難と危険を予測し、強い覚悟を決める。
伊丹も同じようにこれから先何が起こるのか、思いを馳せる。
ただ、他の隊員たちとは違い、何やら場違いなことも考えていた。
(...冬のイベントまでには、帰ってこれるかな?)
思えば、ここ最近だけで色々なことがあった。
同人誌即売会に行ったら、なぜか大量のモンスターと軍勢に出迎えられ、いつの間にか銀座の英雄などと持て囃され、正直どうしてこうなったと言いたい。
だが、今更そんなことを考えても遅い。
これまでの安穏とした日々は最早終わりを告げ、これから始まるのは今まで自分が経験したことのないような、戦場での日々なのだから。
伊丹は、そんな覚悟と共に、
どれだけの時間が経過したのか、先の見えない暗闇を進み続け、突き抜けた先へ、遂に自衛隊が到達する。
彼らを出迎えたのは、満天の夜空と、遥か上空に輝く満月。
そして、月光に照らし出された大量のモンスターの軍勢。
『―――――敵影発見!総員、戦闘準備!』
その命令に合わせて、既に武装の準備を整えていた自衛隊員らが弾かれたように車両から飛び出していく。
伊丹もまた、最大限の警戒を払って、丘の向こうの軍勢を視界に収める。
しかし、伊丹はそんな状況にも関わらず、ふと異世界の星空を見上げた。
ともすれば、気が抜けていると思われても仕方のないような態度だと思われるだろう。
それでも、伊丹は何故か見ておかなければならないような気がした。
――――そういえば、これだけの数の星が輝く夜空を見たのは、一体何時ぶりだろうか。
少なくとも、現代の日本の都会では見ることのできない景色なのは間違いない。
一瞬の間伊丹はそんなことを考えたが、また直ぐに前方へと向き直る。
もう一度、覚悟を決めて。
右も左もわからない、この異世界で、自分が何をすべきなのか。
伊丹は、ぐっと小銃を握り直した。
―――――斯くして、三つの世界が交わり、一つの物語が幕を開けた。
そして、同じ夜空を見上げた者たちは、各々の思いを胸に、戦場へと赴く。
はい、というわけで原作と全く同じ展開にも関わらず大分長くなってしまいました。
というかこのままいくと、中編、後編になる可能性が高いです...
ただ。少しだけ独自解釈でアレンジを加えているので、その辺りは原作と少し違うかもです。
次も出来るだけ早めに投稿したいのですが、予告なく不定期になるかもしれません...
取り敢えず、1週間以内を目途にしております。
4/20 内容を大幅に変更し、原作の部分をダイジェストに修正。
作者が展開上必要だと感じた箇所は、変更を加えていません。
今後は、原作と異なる展開になると思うので、どうか宜しくお願いします。