日本は「科学論文の捏造大国」とみられている

多数の良質な研究を貶める少数の不正常習者

STAP細胞をめぐる騒動は小保方晴子氏(写真・右)だけでなく、当時在籍していた理化学研究所全体を揺さぶる大事件に。ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏(写真左から3人目)が同研究所理事長を辞任する事態にも発展した(撮影:左・風間仁一朗、右・ヒラカタスタジオ)

8月17日付のアメリカの科学専門誌『サイエンス誌』に、北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」のパロディが掲載された。よくみると、襲い掛かる巨大な白い波頭は論文と思しき大量のペーパーで構成されている。船には江戸時代の船頭ではなく、呆れて見上げる世界中の白衣の研究者たち。

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TIDE OF LIES”(嘘の潮流)という記事のタイトル(tideには、「とどめようもなく、莫大な量で押し寄せるもの」という意味がある)。

記事は、日本人の論文捏造(ねつぞう)事件と、それを暴くイギリスとニュージーランドの混成チームの奮闘を報じる。告発者たちの闘いをメインに、捏造論文のもたらす誤った治療や、メタアナリシス(複数の実証データを収集・統合して、統計的手法によりより大きな見地から分析すること)の脆弱性などの問題を取り上げている。

戯画は、日本が「論文不正大国」であると印象づける。さて本当か。 また、不正者はなぜ、無益な不正論文の量産に励んだのか。

一人の人物が大量の虚偽論文を作成

まず『サイエンス』の記事の要旨を紹介する。

はたして日本は「論文不正大国」なのか?(画像:サイエンス誌のサイトより)

弘前大学医学部の元教授である佐藤能啓氏は、リセドロンという薬品により、女性脳卒中患者の骨折率が、86%も改善すると主張するなど、骨折予防に関する論文を多数書いていた。

2005年、ビタミンDの骨折予防効果を調べていたイギリスの研究者(栄養士)が、脳卒中患者とパーキンソン病患者の骨折率を論じた佐藤氏の論文2編において、患者群の平均BMI(Body Mass Index、肥満度を表す)が正確に一致しているなど、複数の不自然な点を発見した。前後してドイツの研究者が、佐藤論文には、同氏が1人で特定の疾病患者500人を数週間ごとに診察したなど、現実性のない記述があることを指摘していた。

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  • NO NAMEcf437bc90ce7
    分野によって異なるかもしれませんが、殊、自然科学において海外の研究と比較して日本の研究が劣っているとは全く思いません。
    では何故このような捏造が起こりうるのかと考えると著者の仰るような側面も関係あるのでしょうが、その背景には成果を急かす雰囲気がアカデミックの世界に流れていると感じます。短期的な成果を求める国、自己の評価を上げたい為に過度な要求を行う上司、少ないポストを成果で判断して配属する大学。
    そんな雰囲気が不正に走り易い土壌を作っていると思います。
    up33
    down7
    2018/9/19 08:54
  • うちのチームはマシなのか?ヤバいのか?dcf01da9ab21
    サンプルn=1 1回の測定で結論を出そうとするポスドク。データを疑わないボス。再現性がないと訴え続けても自分の仮説に会うポスドクのチャンピオンデータを信じ、論文投稿後rejectされデータの怪しさに気付くボス。
    うまくいかないprotocolで、前からこのやり方でやっていると言い張り改善する気がないテクがいたり…
    このチームが出す論文は信用できない…
    up24
    down2
    2018/9/19 08:33
  • NO NAME9ed73f06bd32
    小保方のようなのを未だに擁護しちゃう人がいる科学後進国日本。
    こんなんだから捏造も蔓延る。
    学校教育が間違ってるじゃないかね?
    up24
    down6
    2018/9/19 09:22
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