自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が、同性カップルを念頭に「生産性がない」などと主張し人権侵害の批判を受けた問題で、杉田氏の寄稿を掲載した月刊誌「新潮45」が9月18日、批判への反論を掲載した10月号を発売した。
Twitter上では杉田氏や新潮社に対する批判が再度殺到しているが、同社が運用する公式SNSアカウントの一つ、「新潮社出版部文芸」の公式Twitterは、18日の発売後から批判の意見を、多数リツイートしている。
同社のアカウントポリシーでは「情報発信の全てが、必ずしも新潮社の公式発表・見解を表しているものではありません」と書かれているが、内部からの抗議とみた人々による応援の声が「新潮社出版部文芸」に対して挙がっている。
新潮45に掲載された「再反論」
9月18日に発売された「新潮45」の10月号で掲載されたのは「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と、題された企画。
編集部は企画の中で批判について「見当外れの大バッシング」「主要メディアは戦時下さながらに杉田攻撃一色に」と切り捨てた。
そして、「LGBT当事者の声も含め、真っ当な議論のきっかけとなる論考」だとして、教育研究者・藤岡信勝氏、文芸評論家・小川榮太郎氏、元参院議員の松浦大悟氏らの寄稿を掲載している。
小川氏は「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」とする寄稿の中で以下のように書いている。
「LGBTの生き難さは後ろめたさ以上のものなのだというなら、SMAG(編注:サドとマゾとお尻フェチと痴漢を指す小川氏の造語とのこと)の人達もまた生きづらかろう。ふざけるなという奴がいたら許さない。LGBTも私のような伝統保守主義者から言わせれば充分ふざけた概念だからである。
満員電車に乗った時に女の匂いを嗅いだら手が自動的に動いてしまう、そういう痴漢症候群の男の困苦こそ極めて目深かろう。彼らの触る権利を社会は保障すべきではないのか。触られる女のショックを思えというか。それならLGBT様が論壇の大通りを歩いている風景は私には死ぬほどショックだ、精神的苦痛の巨額の賠償金を払ってから口を利いてくれと言っておく。」
(文芸評論家・小川榮太郎氏「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」より、一部中略)
こうした新潮45の特集の内容に対しては、著名な作家たちからも「慄然とする」「どうしてあんな低劣な差別に荷担するのか」「論理が破綻している」の批判が多数挙がった。さらに「不買運動」に言及したツイートもあった。
「がんばれ」「新潮社の中の人がんばれ」
一方で、新潮社社内からの抗議とみられる動きもあった。
「新潮社出版部文芸」は発売された9月18日以降、公式Twitterで新潮45に対する批判のコメントをリツイート。同日深夜までにいったん削除されたが、19日朝には公式リツイートが再開されていた。
19日午前には「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事(佐藤義亮)」と同社の創業者の言葉もツイートしている。
「新潮社出版部文芸」の公式Twitterは、普段は主に新刊の告知などに関わるツイートをしており、自社への批判を含む怒涛のリツイートは異例の事態だ。
この動きに対しても、作家を含む多くの人から「がんばれ」「社内でつらい目に遭いませんように」とする応援のコメントが寄せられている。
かつて職員として「NHK広報局 @NHK_PR」で公式Twitter運用を手がけた「中の人」で、その後新潮社から作家デビューした浅生鴨さんも「中の人などいないけどがんばれ。あなたを応援する者はたくさんいるから。本当にたくさんいるから。」と声援を送っている。
安倍首相は擁護
杉田水脈氏の寄稿を巡って、自民党は8月に「個人的な意見とは言え、問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実であり、本人には今後、十分に注意するよう指導した」とのコメントを掲載している。
さらに、自民党総裁選でも討論の俎上に載せられている。
17日に放送されたTBSの「ニュース23」に出演した石破茂氏は「(杉田氏の発言は)『生産性』の理解が足りてない」と指摘。
杉田氏が衆院選比例中国ブロックで、比例単独候補の中では最上位だったことに言及し、杉田氏擁立の経緯を党が明かすべきだとの考えを示した。
一方で、安倍晋三首相は「(杉田議員は)まだ若いですから、そういったことをしっかり注意しながら仕事していってもらいたい」などと述べ、擁護する姿勢を示している。