僕はフミコフミオ。普通の人の働き方に興味がある中年会社員だ。昨年夏から、とある食品会社の営業部長として働いている。会社で働く一方で、ブラックな環境で働いていた経験を活かすべくインターネットでこういった文章を書かせていただいている。
最近、僕の「働く」に対する考え方が変わってきた
突然だが、あなたにとって「働く」とは何を意味しているだろうか。「単純労働」「生活の手段」「生きる意味」「自己表現」。「特に何も考えていない」人もいるかもしれない。
労働基準法には、労働者は「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されている(第9条)。会社員の場合は、会社に使われていることが労働=働くことになる。
僕もごく最近まで、「働く」とは「労働し、その対価として賃金をもらうこと」と考えていた。その認識は間違いではない。だが今は「会社に自分の時間を捧げ、能力を貸していること」と考えるようにもしている。なぜなら時間と才能は、金額に換算できない貴重なものだからだ。
8時間労働の会社ならば、1日のうち3分の1もの時間を提供していることになる。やる気さえあれば何でもできる膨大な時間だ。労働しているとはいえ賃金だけでその時間の対価になるとは僕にはとても思えない。
端的に言ってもったいない。それならば賃金以外に、その分の見返りを会社から得なければ損であると考えるようになったのである。
「会社に使われている」から「会社を利用する」へ
「見返り」というとピンとこないかもしれない。実績や経験と言い換えればわかりやすいだろうか。そうした見返りを得るには、働いている本人が「会社に使われている」から「会社を利用している」へ意識を変える必要がある。
現代は、価値観や社会情勢の変化についていけない企業は、歴史ある企業であれ、大企業であれ、苦境に立たされたり、倒産したりする、何が起こるかわからない激動の時代だ。「会社に使われている」意識のままでいたら、何かあった時には共倒れになってしまう。
だから今、あなたが勤めている会社に多少の問題があっても、安定して働いていられるうちに有事に備えて己の爪を研いでおこう。
会社はいわば、お金(給料)をもらえるネイルサロンだ。これを利用しない手はない。
会社の看板を自分のために利用したっていい
サラリーマンでいながら爪を研ぐ手段は、大きく分けて2つだ。ひとつは会社を通じて身につけられるもの、あるいは、そこでしか身につけられないもの。もうひとつは会社以外で身につけるべきものだ。
仕事を通じて身につけられるものとは、「ビジネスマナー」や「一般常識」の類ではなく、「専門的なスキル」と「コネクション」である。「専門的なスキル」とはその職を通じてしか身につかない技術のことで、営業職の僕の場合は、企画立案やプレゼンテーションの技術となる。技術系の方ならば、今、仕事で使っている技術が「スキル」といえるだろう。
学校で学ぶスキルと仕事の現場で身につくスキルは違う。仕事の現場で得られるスキルは、たびたび変更となる納期や予算や必ずしも思い通りには動かない人間関係を通じて得られる、いってみれば「使えるスキル」である。それは仕事の現場でなければ身につくものではない。
「コネクション」とは仕事を通じて築き上げられた人間関係である。一個人ではコンタクトが取れない相手でも、法人の看板を掲げると取れることは多い。その看板をとことん利用しよう。
もちろん、「フットワークの軽さ」「組織にとらわれていると思いつかない柔軟な発想」といった個人の特性は認めるし、実際、それを武器に法人ではなしえない柔軟な交友関係を築いて大きな仕事をしている人もいる。
だが、僕の働いていた会社が取引先を法人に限定していたように、個人の付き合いに限界があるのも、また事実なのだ。会社組織にいる間に、会社の看板を利用してできるだけ多くのコネクションを持つように心がけたい。
僕は昨年の夏から今の会社で働いているが、今の仕事のベースは前の会社で築き上げた人間関係にある。会社を通じて築き上げた人間関係をそのまま自分の財産としたのだ。もし、それがなかったら……と想像するだけでぞっとする。
資格なんて生活の足しにならない。でも取ることに意義がある
仕事の外で身につけられるもので真っ先に頭に浮かぶのは、資格だ。安定した会社生活を送れているうちに何か資格を取っておくといい。僕が会社生活を通じてゲットしてきた主な資格を列挙しよう。
「社会保険労務士」「行政書士」「通関士」「ファインシャルプランナー2級」「同3級」「年金アドバイザー」「フォークリフト技能講習(修了)」「玉掛け講習(修了)」
はっきりいって一貫性もなく、滅茶苦茶である。そして現在携わっている仕事(食品関係の営業)にまったく役に立っていない。社会保険労務士などは試験合格後に地方社会保険労務士会へ登録してはじめて仕事ができるのだが、僕は、試験に合格しただけになっている。将来的に社労士として働く計画も最初からない。でもそれでいいと思っている。
資格というと「キャリアアップにつながるのか」「収入になるのか」という観点から慎重に考えてしまいがちだ。「生活向上に直結しないのなら」と躊躇してしまう人も多いのではないだろうか。それが常識的な考え方である。ただし一昔前の考え方だ。
あえて厳しい言い方をするなら、それがどんな資格であれ「資格さえあれば食べていける」時代はすでに終わっている。資格だけでは生きていけないのだ。月に数千円の資格手当をもらったからといって生活が大きく変わるわけでもない。それならば、直接、収入に寄与するかどうかは一度棚に上げてみてはどうだろうか。
一瞬でも興味を持った資格や技能があったら、挑戦することを提案したい。あなたが体力に余裕のある20代、30代ならば、なおのこと挑戦してもらいたい。何千円かの資格手当を目当てにするよりも、あなた自身への投資だととらえてもらいたい。
僕が提案するのは、難しい資格は外すこと、具体的には努力すれば何とかなりそうな資格を狙ってみることである。ハードルが高いから受けたくないのであればハードルを下げればいい。
僕の場合は、仕事や趣味など普段の生活を乱すことなく準備ができること、1回の挑戦で取得できる可能性を、資格取得の目安にした。幸い運がよかったので上にあげた資格はすべて長いもので数カ月の準備と1回の挑戦で取得できている。
ただ、極端にいえば不合格でもかまわない。資格を目指す過程で得た知識は間違いなく財産になる。あなたの視野は確実に広がる。それまで会社で働いている中で見えていたものとは違った視点を持てるようになる。たとえば社会保険労務士なら労働基準法、フォークリフトなら現場の作業員の目線を獲得できる。
それが生活の足しにならない資格を目指す意義である。
スーパーマンになんてならなくていい。ただ視野は広げるべきだ
スキルやコネクションを手に入れたり、資格を取得したりするといっても、スーパービジネスマンになれなんていうことを言っているつもりはないし、なる必要もない。普通の人のままでいいのだ。
大事なのは、そうしたトライを通じて自分の身を守るために視野を広げ、新しい視点を手に入れることだ。
「今、働いている会社や環境がはたして自分に合っているのか?」「仕事のやり方が正しいのか」。広がった視野、新しい視点で考え続けることだ。それによって仕事や働き方に対する判断基準がアップデートされていく。
逆にいえば同じ判断基準を持ち続けるのは危険だ。
僕がブラック環境で働き続けてしまったのも、同じ判断基準を持ち続けてしまったのが原因のひとつだ。資格や経験で視野は広げていたはずなのに、判断基準をアップデートするのを怠ってしまった。
上司の理不尽な命令に対して疑問を覚えながらも、「仕事とはこういうものだ。事実このやり方で会社は大きくなってきたではないか」という既成事実を盾に圧力をかけられ、「確かに会社が大きくなってきたという現実が目の前にあるのだから、多少無茶苦茶な方法でもしかたないのかも…」と思い込まされてしまった。
これは痛恨の極みだった。なので、会社を利用してコネクションやスキルを得て視野を広げたら、思い込みを捨てて、自分が感じ取った違和感を素直に受け入れるようにしてもらいたい。実践に役立ててほしい。
備えよ、常に。爪を研ぐのは今しかない
有事に備えて爪を研ぐ。これは安定している状態でないとできないことだ。だから、やるべきは今である。
常に自身の判断基準をアップデートすることで、今勤めている会社の昨日まで見えなかった良いところ、悪いところ、足りているところ、足りないところが見えてくるようになる。また、今の環境にとらわれない自分の立ち位置も見えてくるはずだ。「自分が世の中のどの位置にいるのか」「求められる人材なのか否か」客観視できるようになる。
その結果、より良い環境へ移りたいと考えるようになるかもしれないし、あるいは今の職場や会社の良いところが見えてくるかもしれない。自分自身のコネクションやスキルも向上しつつ、今、自分の置かれている環境をチェックできる。
大事なのは「自分は今のままでいいのか?」という視点を持ち自問自答し続けること。その先に転職や退職がある。決して転職が先にあるのではない。
そして、転職しよう、フリーになろうとアクションを起こす時には準備が完了していなければならない。爪を研ぐのは今しかないのだ。「備えよ、常に」なのだ。
これが充実した職業生活ではないかと僕は思う。会社サイドから見てもそういう人材が望まれるだろうから、現在の環境でのステップアップにつながる可能性も出てくる。
結論じみたことを言わせていただくならば、一度きりの人生、限られた時間と会社を有効活用して視野を広げてほしい。そして、会社で働いているだけの「働く」からの脱却が職業人生を豊かにする。
昨夏、再就職する際の面接で、履歴書の資格欄にごちゃごちゃ書かれた資格を見て、社長にいわれたひと言が今も胸に残っているので、締めの言葉にかえさせていただく。
「ずっと努力してこられたのですね。その姿勢をウチの連中に教えてやってください」(所要時間58分)