【大相撲】稀勢、進退場所勝ち越し 昨年春以来9場所ぶりたどり着いた2018年9月19日 紙面から
◇秋場所<10日目>(18日・両国国技館) 横綱稀勢の里(32)=田子ノ浦=が西前頭3枚目の遠藤を一蹴し、優勝した昨年春場所以来、9場所ぶりの勝ち越しを決めた。鶴竜(33)=井筒=と白鵬(33)=宮城野=の両横綱は全勝をキープ。関脇御嶽海(25)=出羽海=は4敗目を喫し、大関とりへ後がなくなった。 3度の「待った」で館内がざわめく中でも、稀勢の里の心技体は揺らがなかった。立ち合いから右で張り、左をグイッと差し込む。遠藤の左腕を抱え込むと迷わず前へ。電光石火の寄り切りで、新横綱Vを果たした昨年春場所以来の勝ち越しにたどり着いた。 一瞬の勝負とは対照的に、最初の立ち合いから1分40秒近くを要した「長丁場」でも最高の集中力を発揮し続けた。2度目と3度目の立ち合いは、行司が険しい表情で遠藤の左手を指さし、手つきを促した。異様な空気にも動じず、張り差しの選択肢は曲げなかった。「集中して、しっかり相撲を取ろうと思いました」。気合を入れ直すには、これ以上ない相手だった。 遠藤とはこれまで4勝3敗。直近の顔合わせとなった昨年夏場所4日目では、引きに耐えた相手の逆襲で桟敷席まで吹っ飛ばされ、初めて金星を配給した。だからこそ、立ち合いにこだわり抜いた。取組後の支度部屋、これまでと同様に表情を変えなかったが、立ち合いには「うん」と相づちを打ち、充実感をにじませた。 1年半ぶりの給金直しに、八角理事長(元横綱北勝海)は「横綱といえども勝ち越すとホッとするだろうね。休場明けだから」と一定の評価。その上で、「全勝はいるけど、優勝争いは(横綱の)務めだからね。よくやっている。大関、横綱の対戦があるわけだから、そこでしっかり相撲を取ることだよね」と、さらなる白星の上積みに期待した。 勝ち越しの意味合いを問われた稀勢の里は「…」。代わりに、師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)が弟子の思いを代弁した。「まだこれから。勝ち越しが目標じゃないですから」 先場所までの8場所連続休場中、11日目の土俵に上がることはなかった。未知の領域を乗り越え、次に目指すのは2桁勝利。優勝争いに食らいついた先に、横綱稀勢の里の未来が開ける。 (志村拓)
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