足助町で鍛冶体験、「レゴランドと並んだ?」いえ、それ以上でした

f:id:tmja:20170808144354j:plain

1年程前に放送されたNHK「鶴瓶の家族に乾杯」で、豊田市足助町で鍛冶をしている師匠が写っていました。師匠と呼べと言われたので「師匠」と書かせて頂いていますが、実際にお会いしたのは1-2時間だったりします。それでも、師匠の優しい人柄がテレビを通しても伝わってきたのが嬉しく、家族4人でワイワイTVに映る師匠ファミリーを見ていました。

f:id:tmja:20180917220133j:plain

足助町は愛知県東部・豊田市の中央部に位置し、山間部を流れる足助川の両岸の僅かな土地に拓けた歴史ある町です。  尾張・三河一の紅葉の名所として名高く、多くの人が訪れる香嵐渓が町南部にあります。家族旅行で愛知県を訪れ、プレオープン時のレゴランドを満喫し、関東への戻りの東名高速道路に乗る前に少し足を伸ばして足助を訪れたのでした。

f:id:tmja:20170808144400j:plain

番組の中で俳優の近藤正臣さんが訪れた「足助のかじやさん」こと広瀬重光刃物店(上の地図では赤丸印)。江戸時代より続く老舗の鍛冶屋です。コチラで鍛冶体験が子供でも(保護者の監視下で)できると聞き、予約をしてからやって来ました。スミマセ〜ンと声を掛けながら店に入ると、師匠のお母様より香嵐渓の先にある足助屋敷(上の地図の矢印先)が実際に体験できる場所だと教えて頂き、慌てて「三州足助屋敷」へと向かいました。

f:id:tmja:20170808144406j:plain

訪れたのがまだ3月だったので、景勝地・香嵐渓も緑が少なく寂しい様子。この道は紅葉のトンネル道と呼ばれ、秋には素晴らしい光景が楽しめるらしいです。右手に流れる巴川に、香嵐渓のシンボルで観光案内で必ず目にする待月橋が少し見えています。紅葉の盛り頃ならばモミジも人も凄いのだろうと考えながら街道沿いのお店から300m程進むと…

f:id:tmja:20170808144350j:plain

いきなり現れる立派な「三州足助屋敷」。足助と言ったら、日東醸造の「しろたまり」が旧大多賀小学校の校舎で作られているしか知らなかったぐらいで、足助にこの様な場所が有ると目の前にして初めて知ったのでした。この足助屋敷は明治から昭和の足助の生活が体感でき、消えゆく日本の風景と技術の伝承を目的として昭和55年に設立されました。

f:id:tmja:20170808144346j:plain

f:id:tmja:20170808144327j:plain

頂いたパンフレットの鍛冶屋さん紹介部分がコチラ。幼稚園児のうちの娘でも読めるフリガナ付きです。 鄙びた里山のような屋敷内の様子で、敷地の奥の方には足助村という貸しバンガローも有るそうです。この写真を改めてみると、右奥に師匠の尊いお姿が写っています!!

f:id:tmja:20170808144319j:plain

f:id:tmja:20170808144313j:plain

そして、こちらが子供達の鍛冶体験をお願いした鍛冶屋の建物。江戸時代の街道沿いにあったであろう作業小屋を現代にそのまま持ってきたかのような趣きあり、何処からか移築したものなのかと思ってしまいました。手前の木材は鍛冶屋隣りの炭焼き小屋で使用されるモノだとか。

鍛冶屋と言うと童謡「村の鍛冶屋」が頭に自然と浮かんできます。

暫時も止まずに槌打つ響
飛び散る火の花 はしる湯玉
ふゐごの風さへ息をもつがず
仕事に精出す村の鍛冶屋

f:id:tmja:20170808144235j:plain

入口に「ナイフ造り体験」と、うちの息子が喜びそうな案内があるも残念ながら小学4年生からとまだチト早い…。その案内の周囲には師匠の手解きで、ナイフ造りをした思われる諸先輩方の写真が飾られていました。

f:id:tmja:20170808144337j:plain

作業場に飾られている写真の中には、秋篠宮文仁親王殿下と秋篠宮紀子妃殿下のお写真が飾られていました。後ろ姿で写っているのが先代の6代目でしょうか?

f:id:tmja:20170808144413j:plain

予約した旨を伝えて通されたのが金床の前。子供にも本物の場所というのが分かるようで、普段は「めんどくさい、だるい」が口癖の息子も目をキラキラさせて「ハイ、師匠」と返事をする変わり様。鍛冶屋さんと言うとムスッとして取り付く島もない怖いオジサンのイメージが一般的なのかと思いますが、これまでお会いした刀鍛冶や野鍛冶の方々は、皆さんあたりの柔らかい方ばかりで。目の前にいる7代目も優しい顔をされていました。

f:id:tmja:20170808144504j:plain

作業場は師匠のいる場所を中心にして、鞴、炉、金床、機械式ハンマー。昨今の鍛冶屋さんは一人で作業される方が多いので、木槌をおろす役割は機械がおこなっている事が多くなりました。今回は五寸釘を叩き伸ばしてぺーパナイフを造る体験を申し込みさせて頂きましたが、子供達には気分を盛り上げる為に刀を造ると言っていました。

f:id:tmja:20170808144452j:plain

鍛冶は大きくわけて鋳造と鍛造があります。鋳造は型を拵えて、溶かした金属を注ぎ込み、その金属を求めるカタチに成形する方法。もうひとつの鍛造は熱した金属を木槌等で叩いて、求めるカタチにする方法です。まずは材料となる五寸釘を火炉に入れて熱します。飛び散る火花が如何にも鍛冶をやっている雰囲気です。

f:id:tmja:20170808144459j:plain

真っ赤に熱された五寸釘の両端をペンチでシッカリと抑え、これを金床へとソロリと移動。子供だとウッカリ落として火傷をしてしまう恐れがあるからだと思われるので、これは親の担当作業でした。

f:id:tmja:20170808144439j:plain

加熱した五寸釘を金床の上に載せて、子供達が金槌で叩く、叩く、叩く!まるで不倶戴天の敵であるかのようにガツン、ガツンと金槌を振り下ろします。五寸釘は5mm程の細さしかないので、ペンチで保持している親側も結構な握力が求められましたが、金槌を振り下ろすにも力がカナリ必要で非力な娘は直ぐにギブアップして、もうダメだ〜でした。

f:id:tmja:20170808144428j:plain

鉄が冷めて肌色が黒く鈍っていくと、師匠が炉に五寸釘を再投入して加熱。子供と親のペアで2人共に金槌を持ち、トンカントンカンと親が子供の相槌を打っていました。にわか鍛冶屋さんなので"トンチンカン"と聞こえていたことでしょう。

f:id:tmja:20170808144239j:plain

鉄より堅いと自慢の腕で、打ち出す刃物に心がこもると師匠が仕上げをしてくれました。写真下部に写っているのは平鍬の頭でしょうか? 野鍛冶なので館内には沢山の種類の刃の付いた道具があります。現代の農家は平鍬、山鍬、鎌以外での需要があるのかと聞きたかったのですが、作業途中ですっかり忘れてしまいました。

f:id:tmja:20170808144256j:plain

ペーパーナイフなので刃を付ける必要があり、研磨機で刃を入れて完成となりました。今回は子供達の鍛冶体験につき、トンカン以外の作業は全て師匠による完全サポート。子供達は足助で体験をしてから、鍛冶仕事のことを言い表すのに「ごっすんんくぎ=五寸釘」と表現する様になりました。日本刀の刀匠宅で仕事場を見せて貰った時ににも、「ここで日本刀のゴッスンクギしているの?」と訪ねる等、五寸釘はいまだ健在です。

f:id:tmja:20170808144251j:plain

完成したカタナ(ペーパーナイフ)がコチラ。試しに持っていた紙を縦に切り裂いてみるとスパッと切れ、とても満足した表情を息子は見せていました。足助での鍛冶体験は楽しかったようです。

f:id:tmja:20170808144301j:plain

預かっていてと息子から渡されたので、より近くで観察。足助と読める刻印が入っています。鉄砲鍛冶、包丁鍛冶、馬鍛冶、車鍛冶、野鍛冶と専門化されるまで発展した鍛冶屋業も廃れて長く、日本各地に僅かに残るばかりとなっています。TVで近藤正臣さんが師匠に言った「たいへんな覚悟をして家業を継がれたののでしょう」という場面で、師匠の目に涙が見えた時には、同じ2児の持つ父親として共感してしまい、テレビに釘付けになってしまいました。

f:id:tmja:20170808144323j:plain

町中にある広瀬重光刃物店の隣・村定酒店でお土産を購入した時に聞いたのですが、私達が師匠に「愛知県に来たのはレゴランドと足助での鍛冶体験」と言ったのを受けて、師匠は酒店亭主に「足助の鍛冶屋がレゴランドに並んだぞ」と冗談めかして言っていたそうです。

はい、レゴランド以上に記憶に残る体験をさせて頂きました。足助での楽しいゴッスンクギ体験、ありがとうございました。