職員による定期積み金の着服や、業務目標達成のための「浮き貸し」行為が相次いで発覚した。「職員をかばう被害者も多く、事件を不法に内部処理することが常態化してしまっていた」と語る。地域と顧客との信頼関係を掲げていた信金にとって思わぬ落とし穴となった。
(日経ビジネス2018年7月16日号より転載)
稲葉直寿氏
1943年、鹿児島市生まれ。66年、鹿児島経済大学(現・鹿児島国際大学)卒業後、鹿児島相互信用金庫に入庫。営業開発室長などを経て、97年に理事に就任。2006年に副理事長。09年より現職。
鹿児島相互信金の不正の概要
鹿児島相互信用金庫は昨年12月、職員3人の着服事件について、法に定められた金融当局への届け出義務を果たしていなかったと発表した。第三者委員会の調査の結果、さらに20人が着服や不正な貸し付けに関与していたことも今年4月に判明した。こうした不正に該当する金額は2001年以降で計5億3800万円に上った。
慶応義塾大学と連携した地域おこし研究所の発足など、鹿児島相互信用金庫は超地域密着・超顧客密着を掲げ、地元に根差した経営を続けてきたと思っています。預積み金残高も九州の信金でトップクラスで、低金利にあえぐ地方の信金も多い中、まずまずの業績を上げてきました。
行政からもこうした経営体制に激励の声を頂いていただけに、皆様の信頼を失墜させる今回の不祥事は大変情けなく、申し訳なく思っています。
事件が発覚した後、ある支店で開催している若手の経営者の会合で、参加者から「我々の信金が大変なことになっている。融資先や預金者を紹介して、みんなで支えましょう」との発言がありました。
顧客の声に涙が出る思い
この方の父親である先代社長に会合について報告すると「俺の息子も成長したもんだ」と感慨深く語っておられました。地域の皆様の強固なつながりに支えられていることを強く実感し、涙が出るような思いでした。
ただ、今回の事件は、こうしたお客様からの愛情に甘え過ぎた結果だったと考えています。
今回の不祥事の中で多く見られたのが、職員がお客様の自宅を回って受け取った定期積み金を着服し、パチンコなど遊興費に使う行為でした。他のお客様からの積み金を充当して穴埋めする「自転車操業」を続け、発覚を防いでいました。
こんな不正が可能だったのも、お客様から「受取証書は来月に来た時でいいよ」と言われていたからです。不正をした職員は入金のタイミングをずらし、その間に着服金を操作する時間的な余裕が生まれてしまいました。
不祥事を金融当局へ届け出る義務を果たしていなかったことにも、同様の事情がありました。
お客様の中には、自宅に来る職員を子どものようにかわいがり、食事をふるまってくださる方が多くいらっしゃいました。そうしたお客様から、着服が発覚した後も「本当はいい子なんだから、大ごとにしないで」と要請があったのです。
こうしたお客様からのお言葉に甘え、各地域の業績や労務の管理を取りまとめている部長は、内々に事件を処理してしまったのです。理事会に報告しないまま独自の判断で被害金を補塡し、職員の処分も行いませんでした。
いただいたコメント
コメントを書く