「ネット上の安住の地になりたい」20年目の老舗掲示板サービスが黒字で存続できる理由

SnapchatにInstagram、少し前にはTwitterやFacebookと、インターネット上で他のユーザーと交流するサービスには新規参入が多い。しかし、今も一部のファンに愛用されているのがBBS(Bulletin Board System)=「電子掲示板」だ。

SNSという言葉が一般化する以前は、BBSを通じて新たな友人を見つけた人も少なくないだろう。BBSの登場により、連絡先がわかる特定の相手との交流だけでなく、不特定多数とのコミュニケーションが可能になった。今も複数のBBSサービスが存在するが、いまなお利用されている老舗BBSの1つが『teacup.』(ティーカップ)である。

1997年から継続されているこのサービスは、現在も黒字で運営されているという。そこで、teacup.を運営するGMOメディア株式会社を訪問し、サービスがこれまで継続している理由、そしてコミュニケーションサービスを展開する上で大切なことについて話を聞いた。

今回の取材に対応してくれたのは、GMOメディア株式会社サービス開発部の別府さん、小川さん、福本さん。現在のteacup.に携わっているのは、実質この3人のみ。

写真が別府さん。他のお2人は顔出しNGとのこと。

写真は別府さん(他のお2人は顔出しNG)

もうすぐ20年! 老舗サービスの今昔

――これまで「teacup.」の中で立ち上がった掲示板の数はどれぐらいですか?

福本:おおよそ300万あります。現在アクティブな掲示板はそのうち約60万で、一番古いものはサービスが始まった97年に立ち上がった掲示板です。

――特に盛り上がっている掲示板はどのようなジャンルですか?

福本:書き込みが頻繁にあるのは、趣味や同窓生の集まりといったジャンルですね。ここ数年は、株などの投資関連も賑わっています。あとは季節によって、夏の高校野球や春の高校サッカーなど、大きなイベントがあるとアクセスが増える傾向にあります。

シンプルな掲示板のトップ画面

シンプルな掲示板のトップ画面

現在も活発に投稿されている

現在も活発に投稿されている

――小川さんは3人の中でも一番古くからteacup.に携わっているそうですが、創業当時のteacup.はどのようなサービスでしたか?

小川:私がアルバイトのエンジニアとして入社したのが1999年で、その2年前にteacup.が誕生しました。最初は創業者がたった一人で立ち上げたサービスで、私はもともとユーザーの一人だったんです。その頃、個人でBBSを作るには多少プログラミングなどの知識が必要でした。そこで創業者は「プログラミングの知識がなくても、誰でも簡単に設置できたら面白いのではないか」と考え、それをサービスとして提供したんだそうです。ローンチ後は、口コミでユーザーが広がっていったと聞きました。

――teacup.がGMOインターネットグループ(以下、GMO)傘下になったのは2007年です。どのような価値を見出したのでしょうか?

別府:以前よりGMOはUGM(User-Generated Media:ユーザーによって制作されたコンテンツを主とするWebサイト)の重要性を理解しており、特にBtoCのサービスを多く展開しているGMOメディアでは、ユーザー同士のコミュニケーションも大事なミッションだと考えています。
teacup.以外にもブログサービスのyaplog!やメーリングリストサービスのfreemlなどを展開しているのも、それが理由です。

「監視社会にしたくない」バッグアップできる存在に

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――GMOメディアの中でも、teacup.は黒字を継続しているサービスだと聞きました。収益構造はどのようになっていますか?

別府:広告収入がメインです。その他、広告を非表示にする有料サービスからの収入もあります。黒字が続いている要因として、サーバーの低コスト化は常に意識していますが、現在は福本がメインで小川がそのサポートをしており、その他カスタマーサポートやインフラ面のサポートメンバーもいますが、実質1.5人で運用できているのが一番大きいですね。

小川:現在は黒字を継続していますが、創業からずっと上り調子ということではなく、低迷している時期もありました。GMOにジョインする直前は、経営的に厳しかったですから。

――その時期をどうやって脱却できたのでしょうか?

小川:いわゆる「選択と集中」です。teacup.はかつて様々なサービスを展開していました。レンタル掲示板だけでなく、ブログやチャット、ショップサービスからプロフィールサイトまで手がけていた。しかし、このようにサービスを拡大したことで、まず人的リソースが必要になった。ところが掲示板とブログ以外は収益が厳しかったので、人件費が負担になりました。サーバー費用も同様です。そこで、収益が上がっていた掲示板とブログのみを選択し、人員やサーバーなどのコストを最小範囲に集中させた結果、黒字化を実現できたわけです。

――現在はTwitterやFacebookなど数多くのSNSがありますが、今でもBBSを使う人がいる理由は何だと思われますか?

小川:一番はID登録の必要がない点ではないでしょうか。SNSはID登録が必要なものが多く、実名制にしているものもある。掲示板にはそれがなく、その敷居の低さから、気軽にコミュニケーションができることは大きな魅力だと思います。

――2ちゃんねるなどの無料掲示板はID登録が必要ではないですよね。teacup.の独自性とは?

小川:teacup.は、ユーザーに掲示板を貸し出す「レンタル掲示板サービス」です。他の掲示板サービスとの一番の違いは、一つひとつの掲示板に固有の管理者がいて、その管理者の裁量で運用できる点ですね。

――しかし、ユーザーに管理を任せてしまうことで、コントロールできなくなることもあるのでは?

小川:はい、かつては出会い目的の掲示板も存在していて、書き込みがもとで警察沙汰になったケースもありました。現在は法律の改正もあり、出会い目的で作られたと思われるものは要監視対象に、特に未成年との出会い目的であるとわかったものは即停止にしています。あとは、違法薬物の取引などのような不適切な書き込みを自動で検知する仕組みも作っています。

――そういった不安要因を取り除くために、どのような対策をしていますか? 1つひとつの掲示板をチェックするのでしょうか。

小川:どちらかというと逆ですね。

――逆といいますと?

小川:「監視社会」にはしたくないんです。ひとつひとつ全部チェックして「これがいい」「これが悪い」と我々が判別するのは違うと思っています。teacup.の掲示板自体は管理者さんのもので、管理自体は自主性に任せたいというのが原則です。ただ、管理者さんにも手が負えなかったり、悪意のある管理者がいた場合などに備えたりして、私たちがバックアップできる体制を整えることが使命だと考えています。

福本:削除や非表示を我々が行ってしまうと、それが「teacup.の意思表示」になってしまいます。われわれとしては、特定の「良い」ユーザーだけに絞るという方法は望みません。犯罪目的はもちろんNGですが、そうではないものはできるだけ受け容れたいです。

――楽しい会話だけではなく、喧嘩をしているような掲示板もありますよね。それもある意味では正しい姿、ということでしょうか。

小川:議論が活発になればなるほど投稿は伸びるので、サービス側としてはありがたいです。ただ、感情的になることによって荒らしが発生するのは、個人的にはあまり好ましくないと思っています。

顔が見えづらい世界だからこそ、テキストコミュニケーションはなくならない

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――写真や動画などで交流するSNSも人気です。今後、ネット上のコミュニケーションはどうなっていくと思いますか?

小川:テキストのコミュニケーションはなくならないと思っています。画像だけだとなかなか気持ちが伝わりづらい部分もあります。食べ物の写真をアップしても、それを本人が美味しいと思ってあげているのか、そうではないのかの判別がつかない。でも、文章であれば、自然とその人の感情が出てくると思うんです。

――感情が出てくるというのは、具体的には?

小川:例えば、焼き肉の写真をアップした時に「お肉ひさしぶりで最高」って書けば、お肉が食べられることを喜んでいる姿が浮かんできますよね。逆に同じ写真でも「この時は楽しかったな」だったら、昔を懐かしんでセンチメンタルになっているんだな、と。

このような感情が見えてくることで、その人のキャラクターが浮かび上がります。相手の顔が見えづらいネットの空間だからこそ「テキストでキャラクターを伝える」というコミュニケーションは今後も残っていくと思います。

――teacup.は今後、どう変化していく予定でしょうか?

小川:あまり大きく変えていこうとは思っていません。今のスタイルを維持しつつ、ユーザーの利便性は高めていきたいです。シニア層も多いので、ネットネイティブではないシニア層にも、使いやすいサービスでありたいし、シニア層に一番支持される存在でもありたい。

そのためにシニアユーザーの声は特に気にしています。一例を挙げると、老眼鏡をかけるような年齢の方にとって小さな文字は見えづらいですよね。そういう“見やすさ”を第一に意識しています。

また、新しいデバイスに注力するだけではなく、古いデバイスでもアクセスできるように担保することも優先事項にしています。Javaなどの技術を駆使してしまうと、少し古いパソコンだと重くなるので。あまり凝ったことはせず、レガシーな技術を使ってでも、古いパソコンで快適に使えるようにしています。

福本:レガシーな技術を使ってはいますが、セキュリティ対策はしっかりとしていきたいですね。ユーザーの危険を減らすことは必要命題なので。そのため、OSやブラウザのバージョンが古いユーザーには、最低限のバージョンへのアップデートを促すようにしています。また、古いデバイスだけじゃなくて、スマホへの最適化もやっています。あまり凝ったことをしていないからこそ、逆にスマホ対応はしやすいんですよ。

父の足跡を求めて検索した結果、まさかの……

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――teacup.のサービスは、これからも続くと考えて大丈夫でしょうか?

別府:需要はまだあると思うんです。古くからいるユーザーさんが、ここまで長く使ってくださっているというのは、やはり使いやすいと思ってくれている結果ですから。teacup.の掲示板を介して生まれたコミュニティをみなさんが大事にしてくれているので、その方々を無視して止めるのは、GMOメディアとしても今は選択肢にないですね。

――1997年から続いているネットサービスは、決して多くはありません。

別府:GMOメディアの中で古くからあるサービスを「レジェンド」と呼んでいて、teacup.もそのひとつです。しかし、レジェンドだから残しているということではありません。

今われわれが強みをもっているのは、10・20代の女性向けサービスを軸にしたコミュニティメディアとポイント系サービスを軸にしたECメディアです。女性だけじゃなくて男性も含め、ユーザーが年齢を重ねても寄り添うように、その時々に合わせたサービスを用意したいと考えています。

年齢を重ねっていった先に、自分が大切にしている趣味などを語るための集いの一つとしてteacup.のBBSがあって、言うならばネット上の「安住の地」のような存在になれればうれしいな、と。……あと、個人的にも止めたくないんですよね。

――個人的に、といいますと?

別府:私的な話で恐縮ですが、私の父が2009年にガンで亡くなったんです。父は早くからインターネットサービスを利用していたので、「もしかしたらネット上になにか足跡がないかな?」と思って調べたら、父が航空自衛隊のOBたちが集まるteacup.の掲示板に書き込みをしていて、しかも父が管理者だったんです。

その掲示板を見た時は、パソコンの前で涙が止まりませんでした。もっと早く知っていたら「これやってるの、俺の会社だよ!」って胸を張って言いたかったなって……。

私情をはさむのは良くないと分かっていますが、父の思い出が詰まっている teacup.は可能な限り続けていきたいです。在りし日の父が遺した思い出を消したくないので。

――思い出が記録になるサービスだからこその理由ですね。

別府:私がそうであるように、ユーザーさんにとって大切な存在であり続けたいです。

インターネット黎明期から続くteacup.は、徹底的なコスト削減とユーザーの利便性追求によって多くの利用者に支持され、現在は毎年黒字を継続している。わずか3人による運営ながら、人員・物量が豊富な他サービスに負けない愛情の深さ。これこそが、今後より一層激化するコミュニケーションサービス市場での競合優位性に違いない。

 

(黒宮丈治+ノオト)