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【ゾンビ】アメリカ軍のゾンビ制圧計画「CONPLAN 8888-11」

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 アメリカ軍が本気で作った「ゾンビ襲来時の非常事態計画」

 「CONPLAN8888-11」は、アメリカ戦略軍が2010年に作成し2011年に発表した「対ゾンビ制圧計画」です。

CONPLANとは「非常事態計画」という意味で、仮にゾンビが発生し人的・経済的・資源的被害が発生している場合、どのようにして防衛対策準備を取り、ゾンビを倒し、緊急時から平常事へと回復させるかというステップがまとめられています。

発生するゾンビの特徴はどのようなものか、アメリカ軍の各部隊やアメリカの公的機関がどのような役割を果たすべきか、どのようなマイルストーンで攻撃部隊、補助部隊、医療部隊などが展開すべきか、などなどその内容は非常に細かいものとなっています。
今回、公開されているCONPLAN8888-11の全文を邦訳してみました。

全文は有料noteのほうにて公開しています。

ゾンビファンのみならず、ビジネスマンも非常に勉強になる内容となっています。

ご興味ありましたら、どうぞご覧ください。

この記事では、CONPLAN8888-11の概要について説明します。

 「この計画は冗談で作成されたものではない」

 CONPLAN8888-11はこの文章で始まります。

実際にこれは、アメリカ戦略軍のスタッフによって作成された公式文書です。

ただし、目的は本気でゾンビ脅威への対応を検討したものではなく、どちらかというと「戦略家養成のための訓練」という意味合いが強いものです。

冒頭の免責事項にはこのようにあります。

2009年と2010年の夏、JOPP(ジョイント・オペレーショナル・プランニング・プロセス)に関し地元の連隊から訓練を受けていたアメリカ戦略軍(USTTRT COM)のメンバーは、たまたま「ゾンビから生き残る計画」を検討することが、訓練としてとても有用かつ効果的であることを発見した。

アメリカ戦略軍は、核抑止力・敵ミサイル攻撃の防御・早期警戒、そのための作戦立案と指揮を負っている機関で、空軍・海軍が持っている核戦力を一括で管理しています。

そのため非常事態における計画作成が非常に重要です。

アメリカ戦略軍の若手戦略家は、一人前の戦略家になるための厳しい計画立案訓練を受けているのですが、概してシミュレーションは退屈でありきたりなものになりがちなのだそうです。

そこで「ゾンビが襲撃してきた」といったあり得ないシチュエーションの非常事態計画を作ってみると、あまりにも馬鹿げているためとっても面白く、若手戦略家は楽しみながら計画立案訓練を受けることができるのだそうです。

この計画はバカみたいだったので、学生たちは訓練を楽しんだだけでなく、基本コンセプトの策定や計画を効果的に開発(ファクト、仮説、特定のまたは暗喩されたタスク、レファレンス等を作成すること)できた。

実際に、対ゾンビ制圧計画は読んでるだけで楽しいですが、次第に「これ本当に起こったらどうするんだ」というような迫力に満ちた内容になっています。

 

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想定されるゾンビ

CONPLAN8888-11では、対応するゾンビが8種類定義されています。中にはあんまり聞いたことのないゾンビもいます。

 

病原性ゾンビ

生物がウイルスや細菌などの伝染病に感染し作られるゾンビ生命体のこと。

 

放射性ゾンビ

生物が極端な線量の電磁波や粒子線に感染し作られるゾンビ生命体のこと。

 

黒魔術型ゾンビ

「黒魔術」として知られるオカルト的実験を経て作られるゾンビ生命体のこと。

 

宇宙型ゾンビ

宇宙から来訪したゾンビ、または宇宙生物が地球に来訪し高濃度の毒素成分か有毒な放射線によって汚染され生まれたゾンビのこと。

 

兵器型ゾンビ

兵器として利用される目的でバイオメカニカル・エンジニアリングによって作られるゾンビ生命体のこと。

 

寄生型ゾンビ

生きたままの他の生命体を宿主にしたゾンビ生命体のこと。
寄生したゾンビを宿主から取り除く方法は不明。

 

菜食性ゾンビ

植物だけを食べるゾンビであり人間への脅威はないが、大量の植物を消費するため、米・トウモロコシ・大豆など人間に不可欠な植物への被害や、森林破壊を引き起こす可能性がある。一般的な肉食性のゾンビは「うう…脳みそ…」とうめき声をあげるが、菜食性ゾンビは人間を嫌い植物を好むため、「うう…穀物…」とうめき声をあげる傾向がある。

 

チキンゾンビ

チキンゾンビは実際にその存在が確認できた唯一のゾンビ。

2006年12月4日にジョナサン・M・フォレスターによってオンラインの記事となったもので、もはや卵を産むことのできない老いた鶏が、一酸化炭素を使用して家禽農場によって安楽死された場合に発生する。鶏の死骸はまとめられ山と積まれるのだが、不可解なことに、生き返り仲間の死骸を掘り返し表面にまで達する鶏が発生する場合がある。その後、最終的に内部器官の破壊のために息を引き取るが、それまでしばらくよろめきながら生きる。

 

チキンゾンビは実際に確認されている唯一ということで名前が挙がっていますが、我々の想像するゾンビとはちょっと違います。これ以降も、「チキンゾンビは人間に対する直接的な被害はない」など安全牌扱いになっています。

 

どのようにしてゾンビを倒すか

CONPLAN8888-11では、「現代科学ではゾンビに関する有用なデータはほとんどない」ため、「未確定情報」という扱いになっていますが、いくつかのゾンビ退治方法が提示されています。

まず、唯一効果がありそうなのが「全ての火力を頭部に集中させ、特に脳みそを破壊すること」とあります。そして最終的に殺すのは「ゾンビの体を焼くこと」

ですが、黒魔術ゾンビは「物理攻撃や炎攻撃が効かない可能性がある」が、「司祭からなる祈祷部隊は唯一対抗できるかもしれない」。その上で、「無神論者は黒魔術ゾンビに対して脆弱である」としています。

 

また、ゾンビはもともと人間であるため、「適切な水分補給がなければ、30~40日以内にゾンビ病原体もろとも死ぬであろう」ともあります。

この方法が安全で確実に思えますが、30~40日もゾンビの攻撃に耐えうるための防御を作り、市民の食と水の安全を確保し、内部崩壊を起こさないように法と秩序を維持し、行政機関と緊密に連絡を取り続けるという体制を構築するのが最も難易度が高いと思われます。

 

あと、いかにもアメリカ人らしいんですが、

アメリカ戦略軍はゾンビに対する特定の戦闘の役割はないが、核兵器を管理する唯一の司令部であり、これは死なないゾンビに対しては最も効果的な武器になりそうだ。

とあります。

シンゴジラの描写はあながち間違ってないのかもしれません。

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作戦のマイルストーン

ゾンビ発生監視への監視から、ゾンビ発生時の初動作戦、本格的な制圧作戦、そして制圧後の復興支援までのマイルストーンは以下の通りです。

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いつ、誰の指示の下で、どのように、何を行うか、という指示が明確になっています。

このような事態の対応策の考え方は、僕たちみたいな普通のビジネスマンにもかなり参考になるんではないかと思います。

実際、翻訳してみて関心させられることが多かったです。

 

 ゾンビに法は適応されるか

CONPLAN8888-11の中で個人的に面白かったのが、果たして「ゾンビに法は適応されるか」という考察。

なぜならゾンビは元々は人間だったわけで、攻撃することは法的には問題ないのか。

これに対するアメリカ戦略軍の回答は以下の通り。

アメリカ法と国際法は、人間と動物の生活に関わる事柄について、軍事作戦を制限している。病原性の生命体、ロボット生命体、または「伝統的」ゾンビによる敵対的行動に対し、軍事力を活用した防御的対応または攻撃的対応を採ることについてはほとんど制限がない。「人間が生き残る」ためすべての脅威を除去する可能性を考えると、この計画はアメリカ合衆国本土(CONUS)およびアメリカの主権が及ぶ地域の戒厳令の宣言と並行して実行される可能性が高い。

ゾンビは人間や動物ではなく、敵対的行動を行う存在に対しては法が適応されないという見解のようです。

 ただし、アメリカの法律・国連憲章・アメリカが締約する国際条約および協定・武力紛争法(LOAC)・慣習国際法および適応可能な交戦規定(ROE)には法的追加をする必要があるともあります。

 

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まとめ

 単に対ゾンビ作戦のマニュアルという形で楽しめるだけでなく、軍が非常事態計画をどのような形で展開していくか、そのための準備と考慮すべき事項、どのような組織と連携し、例外措置はどのように考えるか、といったことが事細かに書かれており、大変勉強になります。

約24000文字もあってかなり長いものなのですが、非常に興味深いので、興味る方は是非ご覧ください。 こちらからご覧になれます。

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