最近、InstagramやTwitterで「#写ルンです」というハッシュタグを見かけないだろうか? にわかには信じられないのだが、あの「写ルンです」が若者の間で密かなブームになっているという。
「写ルンです」といえば、富士フイルムが「いつでも、どこでも、誰でも、手軽に撮れる」というコンセプトで、1986年に発売したレンズ付きフィルム。「写ルンです」の販売を機に写真文化の裾野が広がり、レンズ付きフィルムの国内市場は、1997年には年間出荷本数が8960万本を突破。一大ブームとなった。
しかし、デジカメやスマホの普及に伴い、出荷本数はピーク時に比べて5%以下に激減。その姿を店頭で見る機会は減っていた。今年で30周年を迎えた「写ルンです」は、再び息を吹き返すのか。富士フイルムイメージングシステムズ株式会社 営業推進部 フォトイメージング戦略企画部 築地紀和さんに話を聞いた。
「写ルンです」でこだわりアピール
――最近、ネット上で「#写ルンです」というハッシュタグを見る機会が増えました。
あまり知られてないのですが、2000年から現像時に「写ルンです」で撮影した画像をデータ化し、CD-Rでお渡しするサービスを実施しているんです。特にここ1〜2年は、CD-Rから画像データをパソコンに取り込んでSNSにアップする方が増えた印象があります。
あとは、現像した写真をスマホで撮ってSNSに投稿する方も増えています。今はInstagramなどで写真を加工してアップする方が多いと思いますが、「写ルンです」で撮影すると、写真がフィルム独特の風合いに仕上がるので、加工せずそのまま投稿する方が多いですね。
――どんなユーザーが投稿しているのでしょうか。
SNSを見ている限りだと、20代の方が多いように思います。高校生というよりは、大学生や社会人。こだわりをもっている方が多く、スマホで撮影したシャープな写真ではなく淡い印象の写真を撮影したい、周りとは違う写真を手軽に撮りたいという方が多いですね。
――ファッションの一環として使っている。
そうかもしれません。SNSでは「写ルンですを持っている自分」の写真をアップしている方もいます。おそらくアップしている写真自体はスマートフォンで撮影しているんだと思いますが、一つのこだわりを伝えているのかなと。
「写ルンです」は現像するまで写真が見られないワクワク感があるんですよね。そこに魅力を感じていただけている方が、撮影シーンに応じてスマートフォンと併用しているようです。
スマートフォンで撮影したもの(左)と比べて、「写ルンです」で撮影したもの(右)のほうが “味がある”仕上がりになる。
再ブームの火付け役は20代に人気のカメラマン
――再ブームのきっかけは?
20代に人気のあるカメラマンの奥山由之さんやアイドルの方などが「写ルンです」が好きだとネットで公言されたことですね。それを見たファンが使い始め、その友人のSNS投稿を見た子がマネして使い出す……と横のつながりで広がっていきました。
奥山さんとGINZAとコラボした「写ルンです」
――御社からも何かプロモーションを仕掛けたのですか?
いえ、特に何もしていません(笑)本来であればメーカーから仕掛けるべきなんですが、想定外でした。若い方たちのSNS投稿を見て、「こんな使い方があったんだ」と。
――失礼ですが、一部でブームが来ているとはいえ、販売は苦戦してそうです。
市場のピークは1997年だったのですが、デジタルカメラやスマートフォンの普及もあり、需要は下がる一方でした。当社の販売本数は公開していませんが、レンズ付きフィルムの市場は、ピーク時と比べると5%以下になっていました。
時代に合わせて様々なタイプを発売していた。これはゴルフのスウィング確認用に発売された8連写タイプの「写ルンです」
とはいえ、今でもお子様やご年配の方を中心に、継続的に購入いただいています。最大の需要は小中学生の修学旅行です。高額なカメラは持たせられないということで、学校によっては修学旅行に「写ルンです」を指定していて、この需要は大きいですね。
また、2014年にオープンした原宿にある当社の直営写真店「ワンダーフォトショップ」では、「写ルンです」の引き合いが増えています。毎月20本程度だった売り上げが、去年の12月から毎月100本程度と5倍に伸びました。
――再ブームをきっかけに、新商品の発売もあるのでしょうか。
現時点でその予定はありません。まずは、若い方をはじめとしてSNSを活用した「写ルンです」の楽しみ方が広まってきているので、弊社としても新しい企画を提案していければと考えています。
1986年に発売された初代「写ルンです」
インスタのハッシュタグは4万件超
今年で「写ルンです」は30周年なのですが、先日アニバーサリーキットを発売しました。これら一連の企画を進めるにあたり社内でプレゼンをしたのですが、最初は説得が難航しまして……。
というのも、若い方を中心にこのような現象が起きているということ自体、会社になかなか信じてもらえなかったんです(笑)
――どうやって信じてもらえたんですか?
Instagramの「#写ルンです」の数値がわかりやすかったですね。Instagramは若い方に人気のツールですが、「#写ルンです」で検索すると、(去年の秋の時点では)2万件近くの投稿があり、それが説得材料の一つになりました。今ではそこからさらに増え、4万件にも達しています。
今後については、初代「写ルンです」が発売された7月1日に向けて新たな企画を検討中です。
常に持ち歩いている「写ルンです」には愛用のストラップをつけているそうだ