谷間。男なら誰もがチラ見してしまうその「ふくらみ」を、ユーモアなアートとデザインの視点からプロダクト化した「タニマダイバー」を発売しているekoD Works福澤貴之さん。
タニマダイバーは、人間や動物をかたどったキャラクター型のペンダントヘッドが胸の谷間に飛び込む、ネックレス型ウェアラブルフィギュアだ。2014年6月にクラウドファンディングの「CAMPFIRE」で製品化プロジェクトを開始。今年8月には公式写真集を発売、10月にはタニマダイバーの姉妹作「マシマロハンター」を展開するなど、ネット上で注目を集めている。
ekoD Worksはタニマダイバー以外にも、人々がこっそり思い描く妄想世界をTシャツにプリントした「妄想マッピングTシャツ」、鼻にプラグを挿してみたいという潜在的な願望を商品化した「HANAGA TAP」を手がけるなど、商品ラインナップには独自のセンスが伺える。これらのプロダクトが誕生した背景を福澤さんに聞いた。
タニマダイバー公式写真集を手に、ノリノリの福澤貴之さん。
フィギュアの「新しい居場所」を作る
—タニマダイバーの発想はどこから来たのでしょうか?
これはバラバラで考えていた3つのことがひとつになった結果なんです。
まず、タニマダイバーに至る前に、胸元がめくれて胸の谷間と下着が見えている妄想マッピングというTシャツを2012年の暮れにリリースしたんですが、それがなかなか評判が良かったんです。出す前は、こんなの白い目で見られるんじゃないかと思っていたんですが、出してみたら、男性ウケがよかったのは想定の範囲内として、女性からもおもしろがってもらえて、「なるほど、胸をモチーフにする商品ってアリだな」と。
その反面、“クレームが来たら困る”というのでお店には置いてもらえなかったんですよね。バイヤーさんや売り場の店員さんレベルでは「ぜひ売りたい!」と言ってくれて問い合わせしてくれるんですが、その後の段階でNGになるんですよ。
人々がこっそり思い描いている妄想世界をTシャツにプリントした「妄想マッピングTシャツ」。
—問い合わせが多いわりに売り場の開拓が進まなかったと。
胸をモチーフにしたのはウケたけど、露骨に出すとお店に置いてもらえないんです。じゃあ、そこをどうやったら解決できるかなって考えてたのが2013年半ばから後半にかけてですね。
時を同じくして2013年頃というと、コップのフチ子さんが流行りはじめた時期でもあるんです。もともとカプセルトイに興味があり、何か企画を提案したいなと思いアンテナを張っていたので、フチ子さんの動向はわりと早めからキャッチアップしていて、おもしろいなと思っていました。
フチ子さんって何がすごかったのかなって考えると、カプセルトイのフィギュアに新しい居場所を見つけてあげたことなのかなと。ああいう小さいフィギュアって、ストラップばっかりだったんですよね。携帯電話にぶらさげるぐらいしか用途がなかったんですよ。“フチに引っ掛ける”っていう発想ではなくて“新しい居場所を作る”っていう発想が革新的だった。なので、じゃあフチ子の次ってなんだろう?って考えたときに、「どこに引っ掛けよう」じゃなくて、「次の居場所ってどこだろう」って考えるのがセオリーだと思ったんですね。
−視点をずらそうとしたわけですね。
それと同じ2013年頃には、Google GlassとかGoPro、さらにはスマートウォッチも出揃ってきて、ガジェット好きの界隈では“ウェアラブル”がキテるねって言われてたんですよね。それで“ウェアラブル”でなんかやりたいなと思って。
それでコップのフチ子の次ってウェアラブルフィギュアが来るんじゃないのかなぁっていう発想が出てきたんです。じゃぁどこにウェアラブルするの?って考えたときに胸とつながったんですよね。耳(イヤリング)、胸(ネックレス)とか指(リング)とか、いくつか選択肢があるなかで、ネックレスで胸元に着けるフィギュアなら、着ければ背景に必ず胸の存在が見えるな、と。そうするとモノとして胸を表現しなくても、胸がテーマのモノができる、と。
「私のおっぱい使っていいよ」
というふうに、別々に3つの文脈があったところ、ひとつに結びついていって。2013年の秋くらいに最初にスケッチを書いて、こんなの作ろうと思うんだけどどうかな?って周りに言うと「何それ、おもしろいの?」ってだいたい言われたんですけど、「いや僕はおもしろいと思うから作る」って。でとりあえず自分でフィギュアを作って、胸の大きい友達に着けてもらって、カメラマンの友達に写真撮ってもらって。それで2014年にようやく準備ができてクラウドファンディングに……という流れでした。
—胸の大きい友達、よくOKしてくれましたね……。
いや、なんか妄想マッピングのTシャツをやってたっていう前フリがあったからかもしれないですけど、胸に自信のある何人かの友達が、「私のおっぱい使えることがあったら使ってね」って言ってくれてたんですよ。
—いい人すぎる。
快く引き受けてくれました。「また呼んでねー!」って。
—妄想マッピングTシャツは店頭になかなか置いてもらえなかったんですよね。にもかかわらず、胸にこだわり続けた執念はどこから?
胸モチーフの商品だけを出してるわけじゃないんですけど、妄想マッピングを出したときに、すごいバズったんですよ。自分の中でバズった経験ってそれがはじめてで。というか、バズるという言葉もそのときまで知らなかったくらいで。「おっぱいと赤ちゃんと動物はウケるモチーフの定番」なんて言われることがあるんですけど、妄想マッピングの反響を見てみるとその定説にも納得がいって。実際、おっぱい関係のネタってウェブメディアでも取り上げられやすいと思いますし、TwitterやFacebookでもちょくちょく見かける気がします。
そもそも妄想マッピングで胸をモチーフにしたのも、「うわさのリボンブラ」(ワコール)というブラジャーのCMや、株式会社人間の「Kinect 巨乳」という作品がネットで話題になっていたのを目にして、自分でも胸をモチーフにした面白い作品を作りたいと思っていたことがきっかけなんです。胸をモチーフにしながらも、こういうみんなを楽しませるやり方ってあるんだなって思いましたね。
店頭よりもネットで売れる
—自然とおっぱいの情報が飛び込んできたと。
最初から胸をモチーフにすればウケる、と思っていたわけではないんです。むしろ怒られるかな、くらいに思っていて。でも恐る恐る作ってみた妄想マッピングで手応えを感じたんです。店頭での導入はなかなか進まず、取り扱いが始まるまでに時間がかかったんですけど、その間にもオンラインショップでは良く売れていたので。タニマダイバーも店頭よりオンラインの方が反響が大きいように思います。
タニマダイバーはネックレスとして胸元に付けることで初めて意味を成すわけですが、小さなパッケージではそのあたりの利用シーンを十分に見せることが難しいんですね。一応箱の裏面には小さく胸につけた写真を載せていますが、店頭ではPOPなどを置いてもらわないかぎり目立たない。そのためお客さんが店頭で見ると、なんだかわからないおっさん型のフィギュアにしか見えないかもしれません。
その点、ウェブだといろんな写真を載せられるので、買ってもらいやすいんだと思います。
—おっぱいが大きくない方からクレームが来たことは?
タニマダイバーって商品名から誤解されやすいんですけど、巨乳専用の商品では決してないんです。僕自身は、胸の大小に関わらず使用して欲しいという意図を持って制作しました。
タニマダイバーの一番魅力的なポイントは、パンチラもそうだと思うんですけど、ちょっとチラっと見えるときの「あ、見えた、ラッキー」っていう気持ちだったり、「あ、見えた。でもまじまじと見れない」という背徳感とか、そういうものをくすぐるところかなと思っているんです。
タニマダイバーのおかげで、胸元をまじまじと見れる口実になればいいなと思っていて。「あ、おしゃれなネックレスだね」って言いながら、実際には胸を凝視しているみたいな。
「巨乳専用の商品では決してない」と福澤さん。
で、それって胸が大きくないといけないのかというと、そういうわけではない。
控えめな人にこそ、このネックレスをつけて欲しいんですよね。そういう人ってむしろ普段そんなに胸元をアピールしないじゃないですか。胸に自信がある子って深い襟の服を来たりして、バーンって揺らしながら歩いてたりするんですけど、胸にそんなに自信を持ってない方は普段そんなに見えるような服をそもそも着ない。だからこそ、そういう人が逆にちょっと襟の広い服を着て前屈みになったときに「あ、見えそう」ってなった時のラッキー感はたまらないんですよね!と僕は個人的には思ってます(笑)。
—ラッキー感。
胸が小さいコの胸元が見えたときのラッキー感ってすごいので、そういう人が逆にタニマダイバーを着けて胸が開いてる服とかを着てくれたら、男の方はラッキーチャンスが広がるし、それで女性も意中の男性の下心を鷲づかみできるかもしれない……とか(笑)。
ちなみに、第二弾でマシマロハンターっていうキャラクターを増やしたんですけど、それは胸の小さいコにも付けて欲しいなっていう思いからです。タニマダイバーが巨乳専用みたいなイメージになっちゃったので、それとはちょっとストーリーの違うキャラクターが欲しいなと思って、“胸の谷間に飛び込みたい”タニマダイバーと、“ふくらみを追い求めている”マシマロハンターっていう2カテゴリーで展開しています。
胸に飛び込ませたい、いや挟みたい—チェーンの長さに苦心
—発想から商品化まで順調に進んだように見えますが、開発で苦労した点は?
チェーンの長さは紆余曲折しましたね。最初はちょっとゆったりめくらいの設定で、19インチのチェーンを採用したんです。(14〜15インチで首元にぴったりで、19インチだと少しゆったりする)
タニマダイバーは胸元に向かって今まさに飛び込む瞬間を表現したかったので、胸より少し高めの位置で付けてもらうことを想定していたんです。
でも、実際この商品を胸の大きい人につけてもらうと「胸に挟ませたい」って言うんですよ。要するに、この長さだと挟めないじゃないかと。19インチだと胸に届かなくて胸と鎖骨の間くらいに来るのが嫌だと。「なるほど、そこまで考えていなかった……」と。
「胸に挟ませたい」という熱い要望に応えるために、長さを調整するアジャスター付チェーンを特注したという。
そういうフィードバックを得ましたので、19〜23インチの間で長さを調整できるアジャスター付チェーンを特注で作り、現在はそれを標準仕様としています。付ける人の体型によっても必要なチェーンの長さは異なりますし、さらには付けるキャラクターによってもベストポジションは様々なので、結果的にこのアジャスター付チェーンにしてよかったですね。
—確かに色んなキャラクターがいるので、それぞれの調整は大変そうです。
そうですね。サラリーマンっていうのは最初のアイディアであったんですよ。胸に飛び込む人の象徴っていうのはやっぱりおっさんだろうと。
そのほかのキャラクターを考えたとき、タニマダイバーのコンセプトは“胸元に飛び込む男たち”だから、飛び込むことに関するスペシャリストが良いのではないかと。そこからスクーバダイバーとかハイダイバーとかスカイダイバーが出てきました。
他に潜るものとか飛び込むものとかないかなと考えて、動物キャラクターを入れたいなと思い、ムササビとかマッコウクジラが出てきたんです。
クジラってモチーフ的にはシロナガスクジラがよく使われるんですけど、潜るという点でより象徴的なのはマッコウクジラなんですね。マッコウクジラは血液中に酸素を多く蓄えることで水深3000m近く潜れるそうなんですよ。だからマッコウクジラの方がタニマダイバー本来のコンセプトに合致してるなって。
クジラのモチーフとして一般的なシロナガスクジラではなく、マッコウクジラをセレクトした福澤さんの思い入れは強い
ほかにも商品化できていないキャラクターがいくつもあります。例えば “アストロナウト(宇宙飛行士)”っていうのもあって、「夢を求め悠遠の二重惑星乙81へ、乳面着陸を試み幻の秘宝マシマロを追う。」というストーリーなんですが……!
—もう十分です(笑) タニマダイバーや妄想マッピングTシャツに限らず、「鼻にプラグを挿してみたい」という潜在的な願望を商品化した「HANAGA TAP」など独特のセンスを感じる商品が多いですが、プロダクトのアイディアを出すときには何か共通のコンセプトはあるんでしょうか?
ルネ・マグリットっていう画家がいて、彼が作り出す“日常の中に溶け込んだ違和感”が好きなんですけど、そういうものを作りたいなというのが根っこにあると思います。それがユーモアのあるものか、おもしろいか、笑えるかということですかね。「エコードワークス」のブランドで出すときは、そういうブランディングをしていきたいです。
「おっぱい」「きのこ」次は「マネキン」?
—今後はどういった作品を作っていきたいですか?
キャラクターを育てていきたいと思ってはいます。今のところはポイズンきの子っていうキャラクターがあるんですが。
—これもフィギュアですか?
プロダクトとしてはカプセルトイ用のフィギュアです。実はこのプロダクト、きのこ好き界隈では話題なんですよ。カプセルトイのリリースは2014年秋だったのですが、評判が良かったため何度か追加生産され、2015年秋には第二弾もリリースされました。
きのこモチーフには特定のファン層が存在しているようで「きのこ」ってツイッターでつぶやくだけで、全然知らない人からフォローされたりリツイートされたり。きのこ好きクラスタというものが確実に存在していて、そういう人たちの中では響いたらしいんですよね。
年明けには新しいキャラクターが登場する作品を発表します。マネdeキンという“人間にはマネできないポーズをとるマネキン”っていう設定のキャラクターで、“人間”と“人間の形をした意志のある物体”とのユーモラスな掛け合いを表現していきたいと考えています。こちらはカプセルトイとして発売する他、ショートムービーなども含めたミクストメディアでの展開を構想しています。
追記:新作「マネdeキン」が発表されました。詳細はekoD Worksさんのプレスリリースをご覧下さい。
—キャラクターものをヒットさせてやりたいことはあるんですか?もっといろんな展開をするとか?
そうですね。人気のキャラクターを育てて、いろいろなコラボ企画とかも展開できたら楽しいだろうなと思っています。
カプセルトイをやっての実感なんですけど、安定してヒットが見込めるのはやはり人気キャラクター等のライセンスものなんですよね。人気キャラクターのライセンサーともなれば安定した収益も見込めますし、定期的にコラボとかの話があるとそれでまたちょくちょくメディアに露出する機会があるし。ビジネス面を考えると人気キャラクターを育てることには是非チャレンジしたいですし、単純に、「みんなから愛されてるキャラクターの生みの親が私です!」って言えるのって楽しくないですか?という、まぁその程度です(笑)。