超魔界村、ダウンタウン熱血行進曲、ロックマン、ボンバーマン。
ニコニコに懐かしゲーム実況動画を投稿して、主に同世代の男性視聴者たちから熱い人気を集めているのが「いい大人達」だ。

下ネタを言ったり、笑えない冗談を言いながら、一晩かけて昔のゲームをプレイする。動画は基本的に無編集。要はいい歳した大人達が深夜までゲームをして騒いでいるだけの動画だが、このゆるさが人気の秘訣だ。実際、見ていると楽しい。
2010年にゲーム実況を始め、昨年には5周年を迎えた。年齢は非公表だが、まあまあそれなりの歳になる。最近は人気のゲーム実況者になると、広告収入で年収がそれなりになるという話もある。いい大人達もやはりそういう話なのだろうか。
いい大人達のメンバーである、タイチョー、マオー、ノッチの3人に、いい歳してゲーム実況を続けている理由を聞いてみる。

2月に結成6周年を迎える「いい大人達」のメンバー(左からタイチョーさん、マオーさん、ノッチさん)
地元の友達が集まって遊んでるだけ
初めは単純に、仲の良い友達が集まってゲームで遊んでたんですよ。中高くらいからの幼なじみが集まって、ワイワイと。
あるときタイチョーがゲーム実況動画にハマって。「ゲームセンターCX」(バラエティ番組)を見て「あれやってみたい!」みたいな感じになったんです。
最初はほかの実況者とか有野課長をさして「面白い、面白い」と言っていたのが、そのうち「やりたい、やりたい」になってきて。それをずっと言ってたらノッチが機材環境を整えてくれたんですよね。
本当にうっとうしいんですよ。「あれ面白い、これ面白い」とか言ってきて。
あまりにもうるさいんで黙らせようと思って。一回やりゃ納得するだろと。
タイチョーはわりと飽きっぽかったので2~3回くらいやれば飽きるだろと思ったんですが、あてがはずれました。
そういう感じで、いい大人達がゲームでワイワイ遊んでる様子をただ録画して、それを投稿しようみたいなゆるさで始まりました。

収録場所は「いい大人達」のメンバー・オッサンさんの部屋。なぜか、置かれているモノのほとんどはタイチョーさんとノッチさんの私物だ。
2010年当時はゲーム実況といえばライブ配信の「ニコニコ生放送」が盛り上がっていました。いい大人達は動画から始めています。
ニコ生は触れてなかったですね。2012年に公式生放送「ニコニコゲームマスター」(ドワンゴ主催のゲームイベント)に呼んでいただいたのが初めでした。
いつでも見られるコンテンツを投稿したいという気持ちはありました。あと編集しないと放送事故が怖くて。
地元で集まってやってたので、うっかり本名を言っちゃうことがあって。
地元にしかない居酒屋とか、スーパーの名前を言っちゃったり、あと、家の外を地元にしかない販売車が通ったり……。
状況を聞くと、本当にいい大人達が地元で集まって遊んでいるだけですね。
動画を収録していたのもオッサン(メンバーの名前)の家ですからね。
でも、小学校くらいからずっとたまり場になってましたから。
オッサンの部屋は音響特性も超よかったんですよ。謎の構造で防音環境が優れていて。で、気づいたら「ここくらいしかないな」ということになったんです。
仕事から帰ってくると「まだやってるの!?」
動きが制限されるゲームが好みだったんですよ。超魔界村はアクションゲームの中でも難しい分野。それをみんなで遊びたい。いちばん難しいモードでやろうと。
苦しくてもタイチョーが「うるせーやるんだ」みたいな感じになるんですよ。
「ゲームセンターCX」で、有野課長がゲームを十数時間やりつづけるというのがあって。「あのヘニャヘニャになっていく様を撮りたい」と思ったんですよね。
みんないい大人なので、集まれる機会が少ないんですよ。集まれるタイミングで撮っちゃったほうがいいだろうと。泊まれるときはお菓子とかお弁当買ってきてやってたんですけど、もう全然クリアできなくて。
朝になって「仕事だから行ってくるね」とオッサンの家を出ていって、夜になってオッサンの家に帰ってきたとき「まだやってるの!?」ってこともありました。
仕事から帰るのが他人の家というのもすごい話ですけど。

今までに一番つらかった収録は「超魔界村」と振り返るマオーさん。収録は数十時間に及んだ。
ほかの実況者さんは編集していて、それにあこがれたことはありました。
(ゲームセンターCXで)18面分割の画面で、有野課長が死ぬシーンがどんどん出てくるやつ、あれをやってみたいと言われたんです。でも、それをやるために編集中のプロジェクトファイルを見せてあげたら「うえー」って。
10工程中の2工程でギブアップ。じゃもう逆に、編集をしない動画をつくればいい。終始しゃべってる動画をつくろうと。
トークはグズグズ、セリフは噛む、段取りはおぼえない。
生放送に呼ばれたとき「この感じでいきますね」という打ち合わせをやるんですけどすぐ忘れて。カンペを出されると、カンペをガン読みしはじめるんです。
目がよくないからカンペを出されたときに目をじーっと近づけて。うっかり、「告知お願いします」というところから読みはじめちゃったり。
かっこいいな、なりたいなとは思うんだけど、願望だけで終わりますよね。子供が「宇宙飛行士になりたい」と言いながら鬼ごっこしてるような状況です。
みなさんからは「いなかっぺの連中がやってきた、変な動物がやってきた」みたいに思われているんじゃないかと思います。
有名作をやらないのは「誰かがもう楽しさを伝えてるから」
当時は収録した動画を分割して投稿していたんですけど、分割した動画の本数が多くなっちゃって。これは毎日上げないと話が伝わらなくなっちゃうなと。
ピーク時は上げてない動画のストックが100本くらいありました。残高にして2カ月分くらいあった状態です。
そうこうやっているうちに、せっかくなら毎日上げたいということになり、むしろストックをつくっておかなきゃ、という発想に変わってきたんです。
別に(動画の間隔が)空いたってええやんと思ってました。
ぼくがやりたいやつを独断と偏見で選んでます。中学・高校のときにおこづかいが少なかった反動で、大人になってからフリマで安いファミコンを集めてた時期があって。ファミコンソフトの所持数が多いんですよ。200~300本くらい。
オッサンのベッドの下が全部ソフトで占められてたこともありました。学生が使うようなボストンバッグに、ぎゅうぎゅうにファミコンソフトがつまってて。
そのころオッサンの部屋の総床専有面積はほとんどノッチとぼくのもので占められていて、オッサンの私物はベッドとパソコンだけになってました。
オッサンに「いいかげん(ソフトを)持ち帰れ」と言われても「やだ」って言ってましたね。「いま持って帰ったら俺の部屋のスペースがなくなるだろ!」

タイチョーさんがフリマで買い漁ったファミカセの数々。「自宅の部屋のスペースがなくなる」という理由でオッサンさんの部屋に置いている。
そうなんですかね……いい大人達が遊びの延長ではじめた実況動画ですが、2~3年目になると徐々にヒット動画が出てきます。
初めて明確に伸びたのを実感したのは「マリオペイント」でした。
実況の環境を整えてくれるノッチに感謝をこめて、ありがとうメッセージをビデオにして送ろうと。すげえ雑だったんですけどウケて、異様に伸びたんです。
自分たちはゲラゲラ笑いながらつくってたんですけど。
やっているうちにヒットタイトルを狙うようになりませんか?
数字を気にして「このタイトルいこう」というのはなかったです。一時期こだわっていたのは「完成度の高いゲームをやってみたい」ということでした。
90~92年に出たファミコンソフトって、スーパーファミコンが出たあとだからマイナーなソフトにもかかわらず、クオリティがすごいんですよ。どうしてもスーパーファミコンに勝てなくて、マイナーになっちゃった名作がたくさんあって。
それだけすごいゲームがあるんだよというのを視聴者に知ってほしいし、ぼくらは単純に遊んでみたいというのがあったので。
再生数を考えて「みんな知ってる名作」をやりたがる人もいると思います。
ほかの方が投稿しているものは、その方々がすでにゲームの楽しさを伝えているので、うちらが伝える必要はないんですよ。たとえば「マリオ」が面白いことはだれでも知ってるでしょ。それをやっても意味がない。だから有名どころは避けてるんです。
再生数が1000とか100でも、そのタイトルでは絶対1位になれるわけですし。
そんな感じなんで、根幹にあるのは「楽しみたい」ということだけです。
うちらの世代はファミコンが出たころから成長してきた世代。そのゲームってこんなに面白いんだよって。ゲームの楽しさ・素晴らしさありきで活動してます。
「若いもんはソシャゲばっかり!」と言いつつ……
初めはファミコンをはじめとするレトロゲーム中心でしたが、2014年にはスマホゲーム「モンスターストライク」(モンスト)に手を出しています。
正直な話、どちらかというとぼく個人は否定的だったんですよ。それまでは。
ただの懐古厨です。「近頃の若いもんはソシャゲばっかり!」とか言ってて。
触ってみてわかったのは、モンストは複数人でワイワイ楽しめるのに特化してる感じなんですよね。ゲームとして楽しむ要素をうまくまとめて仕上がっていた。
1つの部屋に集まって遊んでいたころの感覚に近いですね。それにしても今年は投稿全体のほぼ半数をモンストが占めていますが、これは大丈夫ですか。
今までどおり通常の実況動画のペースも落としたくないということで、モンストの動画を上げるならお昼に上げようというふうに切り分けてはいます。やっぱりレトロゲームが大好きな視聴者の方々もいるので。
視聴者がそれまでのレトロゲーム好きと変わって、モンスト好きの若い子たちが増えるようになるんじゃないですか。
モンスト好きも一部は見てくれている、という感じです。どちらかというと、うちらが好きで見てくれてる人が、モンスターストライクも見てくれている。
正直言うと、モンスト攻略ってYouTubeとかでも見られるじゃないですか。それにほかの方々は最新情報を追ってるけど、うちらは準備が追いつかないところもあって、のらりくらりマイペースでやってる感じでして。
1~2つくらいイベント遅れても気にしないですしね。
みなさん「あんときのアレか」みたいなノリで楽しんでくれてます。
基本的に周回遅れでトレンドに乗ってるということですね。
ソシャゲのアングルでいうと致命的というか、完全にアウトなんですけどね。でもまあいいかなというのでやっていけるのがうちらの強みです。
若い人たちから「ずるい」と言われることはある
モンスト攻略をやっているYouTuberにしてもそうですけど、ゲーム実況って基本的に若い子が多いですよね。
若いですよねえ。「闘会議TV」(ニコニコのゲーム専門チャンネル)で他の実況者の方にからんだりするんですけど、みんな20代前半で、ファミコンの話とかしても通じなくて。
いつもはひどい下ネタばっかりなのに、急に借りてきた猫みたいになってね。
「どうやって話しかけたら失礼にならないかなあ……」みたいなことを一生懸命考えてるんですよ。10歳くらい年下の実況者さんを相手に。
「おい、いつものタイチョーどうした」とか言われたりして。
若い子たちが出ているイベントに呼ばれることもあると思います。
もちろん呼んでいただけるのはありがたいです。ただ、いつぞやのイベントで思ったのは、ほかの方々に比べて、ちょっと、女性ファンが少ないっていうのかな。
「このゲームやったら懐かしい」という声ばっかりで。
ぼくらくらいの男性って、イベント会場に行ってワーキャーすることがあんまりないじゃないですか。「あーやってるな」と動画で見て楽しむ世代がほとんど。だから視聴者はネットの方にはいるんだけど、会場にはほとんどいない。「うちらイベントウケしねーなー」みたいな感じでした。
ちょっと混んでるピクニック会場みたいなね。「つめなくても座れるな」みたいな。
会場を歩いてる人に呼びかけたりしてましたよね。「オーイ! 実況見ていけよー!」みたいなね。
切ないですね……逆に若い人たちからはどう思われてるんでしょうね。
「ずるい」と言われることはあります。グループでやってるからって。
ソロでやってる方々によく言われるんですよね。「ワイワイやれるものを撮りたいのに、いい大人達はすでにやってる」と。うちらはブロマガ(ニコニコのブログ機能)もみんなでやってるし。
んなこと言われてもな~と思いますけど、たしかにある程度の年齢を重ねてくると、一緒にゲームする相手を新しく見つけてくるのって難しいですからね。
お金儲けはしたくない、活動資金が欲しいだけ
実況で収入を得る「プロ」が登場してからずいぶん経ちます。ビジネスについてはどう考えていますか?
初期のころはまったく考えてなくて、単純にやりたいからやってるだけでした。
クリエイター奨励プログラム※が導入されても、やりはじめたのはけっこう最近なんですよ。「やったほうがいいよ~」みたいなことを言われつづけて「あーそうなんだ」って言って1~2年くらい放置してまして。
※クリエイター奨励プログラム:ニコニコ運営元ドワンゴが、動画の評判に応じて投稿者にお金(奨励金)を支払うシステム。再生数やマイリスト(お気に入り)数などを独自基準で点数化して支払い額を決めている。利用には登録・申請が必要。

「こんなんで稼げるわけない」と自嘲気味に話すノッチさん。
面倒くさかったんですよね。「いちいちこんなんやんなきゃいけないの?」って。それで仕方なくやれるやつは全部登録しはじめたのが2年前の話で。
(クリエイター奨励プログラムを)始めたときも、お金を稼ぎたいというより、これからも楽しくつづけていくための活動資金が欲しかったという感じです。
なるほど。ところでゲームは著作物です。最近では大手メーカーが条件つきで著作物の二次利用を認める例も増えてきましたが、ゲーム実況と著作権の兼ね合いについては当時からどう考えていましたか?
100%自分たちのコンテンツという意識はまったくなくて、あくまでゲームをつくってる方々がいてこそという認識がずっとあります。
これはオッサンが言い続けてることですけど、最近、コンシューマーゲーム業界は少し元気がない。ぼくらの活動が、大好きなゲームをいろんな方々に知っていただく機会に助力できるようになればうれしいことだと。
自分たちが目立って「好きなことで生きていく」ためじゃないぞと。
チヤホヤされたいという気持ちも多少はあるからゲーム実況を始めたところはありますけどね。でも、目立ちたいからやるというわけじゃなくて、やっぱりゲームの楽しさを伝えたい。ポジショニングとしては、ちんどん屋みたいな感じです。
ゲーム実況をはじめた当時と現在で、ゲーム実況に対する意識は変わりましたか?
根幹にある「ゲームで遊びたい」というところは変わってないです。ただ、最初はただやりたいからやってたところが、いまは自分たちの活動が、こういうゲームがあるんだと視聴者の方々に広めるための機会になっている部分が増えたなと感じます。
メディアのような意識ですね。人気ゲーム実況者の方々はどう見られていますか?
ほかの方々は、自分自身でつくりだせるものが多いですよね。たとえばMSSPさんなら音楽ができたりとか。みなさんはクリエイターとしてすごいことができるけど、うちらはもうゲームだけですから。

「ポジショニングとしては、ちんどん屋みたいな感じ」とタイチョーさん。
自分たちを変えてどうこうできるほど器用じゃないんですよ。テンションの切り替えもできないし、何ができるかといわれると、ただ愚直に続けていくくらいで。
いや~、あれもなんで呼ばれてるのかな~ってくらいの感覚ですよ。
いい大人達はゲーム実況をする生き物
いつまでゲームをやっていても怒られない状況でいたいですね。
もういい大人だから、いつまでもゲームやってると、怒られるじゃないですか。でも世間様に評価されることでおおっぴらにゲームができるようになる。したいときにゲームをしていても怒られない、いい言い訳ができるわけです。
なかなかすさまじい話ですね。じゃあ、実況をやめることはないですか?
ゲーム実況のブームは一過性のものという見方もあります。
最近はPlayStation 4にシェア機能ができたり、ゲーム実況が文化として認められつつあります。これからも、なにがしかの変化はあっても続けてはいけるだろうと。
最近では将来の夢がゲーム実況者という子供もいると聞きます。その意味、いい大人達の生き方は参考に……。
ゲーム実況者になるのはけっこうですがうちらみたいになったらいけません。何から何まで正しくないですから。
コミュニティ(ニコニコ内のユーザーコミュニティ、ファンクラブのようなもの)は自分たちでつくらないわ、Twitterのアカウントも自分たちで作らないわ……。
本当にゲーム実況以外のことは何もやろうとしないんですよね。
ゲーム実況を続けたいと考えたとき「面倒なことを排除しよう」という考えをしてきたんです。動画の収録にしても、編集しなければ面倒がひとつなくなるでしょう。
動画に説明文とかが必要なんですけど、それもテンプレをつくって、タイトルをすげかえるかんじで面倒くささをなくしてます。寝る前に動画を投稿してから寝る、みたいな感じ。だから、なるべく作業量を減らして……
むかしゲームクリエイターの方が「ゲームはお風呂みたいなものだ。お風呂は入らなくてもいいけど、入らなかったら病気になる」と言っていたんですよね。うちらの場合も、ゲームがないと病気になるんです。
そのときはまた、ゲームを求めてさまよいはじめるんじゃないでしょうか。

いい大人達の公式チャンネル。地元の友達が集まって深夜まで騒いでるだけの動画だが、ゆるい感じが楽しい