この熱血校長先生がすごい! 破たん寸前の高校を復活させた秘策とは

長崎県の創成館高等学校が全国の注目を浴びている。わずか10年前までは偏差値が表記できないほど学力が低下し、年間で300件もの生徒指導を行わなければいけないほど荒れていた。当然のように生徒も集まらず、深刻な経営難に陥った。

それがいまや県内随一の人気校になっている。県下の中学3年生に行った2015年度「第一志望調査」では、前年度からの第一志望伸び率が公私立合わせて1位。5年前から197%の成長を遂げた。学校を立て直したのは、大学を卒業してまもなく先代を引き継ぎ、理事長兼校長に就任した奥田修史さん。

前回は、ときには自らコスプレして、踊って、歌って学校を盛り上げてきた奥田校長を紹介したが、今回はビジネスマンとして、そして教育者として、学校と生徒にかける思いを聞いた。

2015年、夏の甲子園で応援する“校長”ユニフォーム姿が話題になった。

2015年、夏の甲子園で応援する“校長”ユニフォーム姿が話題になった。

「ここは潰れかけた会社だ」いきなり教員の給与を40%カット

–先代である父親の後を継ぐ形で突然、理事長と校長になられた。いきなり学校の空気を変えるというのは難しいことだと思いますが。

僕が最初から言っているのは、「学校の常識=社会の非常識」。学校の先生ってやっぱり視野狭いんですよ。それは本当に忙しいから。特に部活で顧問とか監督をやっている人は土日も同じ世界の人としか会わないので、視野が狭くなっちゃうんです。

だから社会的常識がない人が多い。名刺の出し方だってわからない人もいる。そういう中で、「その考えって一般常識として通じる? 社会通念上通じる?」ということはずっと厳しく言っていきました。そこはもう歳上だろうが「あなたの考えは一般常識として通じないよ」っていうことはガツガツと言ってきました。

ビジネス感覚もそうです。うちは生徒が減ったら給料を減らすんですよ。まずこの学校に来て最初にやったのは、給与と賞与のカットです。だいたい4割もカットする学校なんて聞いたことないです。そんなことをやったら組合とかが反発しますけれども、うちはそれをしっかりと受け入れてくれたんですよね。

もちろんいまは元に戻してますけれども。理事長就任直後には、とにかく貸借対照表をわかりやすく解説して、「こんな組織だぜ? ここはもう潰れかかってる会社なんだ」と言いました。

「学校」と思わずに「会社」だと。潰れかかってる会社の社員として、どうしなきゃいけないのかという話をした。だから先生たちが自分たちでどうやったらコストをカットできるかを考えてくれた。初っ端の給与をドーンとカット。貸借対照表と損益計算書も見せる。そこはかなりインパクトが大きかったですね。

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先生たちの朝会、「すべらない話」で盛り上がる

–先生は、生徒が入学したくなるような授業をしなきゃいけないわけですね。

はい。それはいくら経営陣が頑張っていても、いくら先生たちだけが頑張っていてもダメで、これは絶対に両輪で行かないといけない。これができていない学校は本当に多いですよ。

創成館の朝礼は「元気朝礼」と呼んでいるんですけど、先生たちで爆笑しながらハイタッチしています。毎朝、持ち回りで1分間スピーチをするんです。ルールは何か元気になる話か面白い話。だって朝から「嫁とモメて……」とか言われても嫌じゃないですか。

人生って笑ったもん勝ちなんですよ。よく生徒に言うけど、「1億円を貯めようと思ったって何にもならない」と。金はそこそこでいいんです。「1億円あってもあの世にもっていけないけど、1億回笑ったらあの世に思い出は持っていける」と、私は信じています。

笑うためにはやっぱり、自分らしく生き生きとやりたいことをやる。時にはやりたくないこともやらなきゃいけないけど、基本的なコアな部分ではやりたいことを仕事として見つけなきゃいけない。そういった人生を送ろうぜ、と生徒にもよく言うんですよね。

「親の跡を継ぐなんてまったく思ってなかった」

–もし校長先生になってなかったら、いまどんな人生を歩んでいると思いますか。

親の跡を継ぐなんてまったく興味もなかったし、教育なんかも全然考えたことがなかった。別に子どもが好きなわけじゃないし、本当に校長になるなんて思ってなかったです。でも、やってみたら、本当に天職に巡り会えたんですよね。

僕は大学時代、ずっとアメリカにいて、できれば商社マンになりたいとか考えていました。そういうのが格好いい生き方というか、モテるみたいな。スチュワーデスと付き合えるみたいなのがあったじゃないですか(笑)

僕の友だちに、いい大学を出て、外資系企業に勤めて年収2000万円とか稼いでる人たちがいたんですが、いま仕事をやめて寺子屋みたいな自分の私塾を作っているんです。本当に年収2000万円が300万円や200万円になりました。でも、「いまのほうが面白いよ」って言うんです。「生きている実感がある」って。そういうやつが結構多いんですよ。だから、これってどういうことなのかなと。

もちろんお金というのはあればあるだけいいのかもしれないけれど、そこに付随する意味がないと、たぶん人間って生きていけない。お金を2000万円もらいました。すごいなと思うけど、俺は何のために働いているんだろう? やっぱりそこをしっかりと見つけないと駄目だと思うんです。

きれいごとを考える前に、まずは一人前になること

ただ逆に、最近の若い奴に僕が不満なのは、欲がないこと。最近、“きれいごと”が多いなと思う。「どう社会貢献をするか考えましょう」とか、そういうきれいなことを大人が小学生とか中学生とか高校生に求めるわけじゃないですか。そこは違うんじゃないの?って思います。

働き始めてお金も一応ちゃんと稼げるようになって、そのあとに「働くって意味は何なのかな?」とか、おそらく考え始める。社会貢献とか崇高な考えっていうのは、僕はそこから考えてもいいんじゃないかなと思う。

将来いい女と付き合いたい、将来いい車に乗りたい、将来いい家に住みたい、まずそこって人間の欲の根本の部分じゃないですか。それを求めるのは健全なことなんじゃないかなと思うんですね。

もちろん僕はうちの生徒に対して、社会貢献は大事だと言います。それこそ世界平和だとか平等だとか伝えますけど、同時にさっき言ったように、いい女と結婚するためには、幸せな家族を持つためには、いい車に乗るためには、どうやったら夢が叶うのか。そこらへんの生々しい話もしますよ。そういった欲が子どもたちに足りないなと思うんです。

「どういう人生を送りたい?」って話したら、みんな「普通」って答える。何や?普通って。もちろん、いまの時代はその普通を実現するのだって大変ですよ。でも、もっと「いまに見てろよ」みたいな気持ちがあってもいい。ぼくは本当に矢沢永吉の『成り上がり』を教科書にしたいくらいです。ああいう気持ちを持ってもらいたいなと思います。

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「あなたが言ったことは全部個性だ」何でも言える雰囲気作り

–若い人って自分の本当にやりたいこととか、欲しいものを口に出しづらいんでしょうか。つい周囲の顔をうかがってしまって。

だからそんなことを気にしないで語れる教育に力を入れています。例えばうちの学校は1年生の時に「アドベンチャーキャンプ」っていう研修をやるんだけれども、これはもう無理難題ですよ。

男女一緒のグループを9人〜10人で作ります。ここで無理難題をやらせるわけですよ。まずチーム全員で目隠しする。50メートル離れているところまで走って行って、指定する順番で並べって言うんですよね。大人でも無理。これを1分半でやらせる。

まずできないですよ。でも2時間、3時間、何回もトライする。当然のように喧嘩になる。「お前ちゃんとやれ」「なんで私ばっかり」みたいなね。でもそこにルールがあって、必ず他人の意見は尊重すること。言う人もビビらないこと。

「こう言ったらどう思われるか」とか考えない。あなたが言ったことは全部個性なんだから、全員がそれを尊重するっていうキャンプをやるわけですよ。

そうすると、おとなしそうな女の子でも、クラスで手を挙げて、こうしたい、ああしたいってちゃんと言うようになるんですよ。だから、夢を語るのが恥ずかしいとか、こう言ったらどう思われるだろうかっていうのは、うちの学校はないですよ。

変わったのは子どもではなく、社会環境

–最近の子どもと昔の子どもって違いますか?

奥田:その質問ってたまに聞かれますけど、全然違いはないですよ。我々が10代だった時と、いまの子どもたちって何の違いもない。親だっていま「モンスターペアレント」とか言われてますけど、そんな口うるさい親なんて昔からいましたよ。だから全然それも変わってない。

何が変わったかっていうと、やっぱり社会環境が変わった。例えば昔は、変な話、体罰はバンバンあったし、理不尽なことを先輩から命令された。そういうことに耐えてきましたけど、いまは大人自身も違う。体罰の問題がわかりやすいですけど、ルールをたくさん作りすぎて、法令遵守がすごく厳しかったりする。

テレビにしてもそうですね。「お笑いウルトラクイズ」とか昔あったじゃないですか。あんなのいま放送したら絶対駄目ですよね。不正解の人は全員海に沈めるとかあったじゃない。この前ビートたけしさんも言ってたけれども、もし今これを放送するとなると「これは芸人さんが喜んでやってます」って字幕を出さなきゃいけないそうで。「こうなってくると、(点)もうしらけるよな」ってたけしさんが言ってましたよ。それはまさにそう。

いまは縛りが多すぎる。これは教育の世界に限らず何でもそうだけれども、もうちょっと自由というか、奔放というか。「もう少し人間がいきいきと…」って言ったらベタな言い方になるし、「欲をギラギラ」って言ったら汚い言い方になるんだけれども、がんじがらめな縛りが多いのもどうかと思います。

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日本って年齢の縛りもすごくあるんですよ。22〜23歳までに大学を卒業しなきゃいけない、みたいなね。だからちょっとでも遅れると「あなた、いま何やってるの?」とか聞かれちゃう。「周りはもう働いてるよ」とか言われるわけじゃないですか。

僕はアメリカに7年半住んでいて、すごくいいなと思ったのが、リタイアするのだって自由なんです。例えば1つの企業にとらわれなくて、そこでノウハウを学んで新しく会社を建てるとかよくあります。まあ、だんだん日本もそうなってきているけど、そこらへんの社会的縛りは違うと思う。本当に資本主義に基づいているから自己責任の国だけど、僕は人間の生き方ってそっちの方が楽しいんじゃないのかなと。

だからうちはあまり生徒を縛らない。例えば生徒会が「こういう企画をやるために、カラオケの予選会をやります、授業はちゃんとやります」って言ったら、「やれば?」みたいな。あとは任せるだけです。

遊ぶときは遊んで、やるときはやる。

–そんな自由な雰囲気が校内の様子から感じられますよね。

奥田:例えば公立のバリバリの進学校さんとかだと、「無言集合」ってあるじゃないですか。例えば全校朝礼、一言も喋らずに集まってきて整列。で、校長先生が来るのをじっと待つ。

僕からしたら、「なんだそりゃ?」ですよ。何も面白くない。何でそんなに縛り付けるんだろう。そんなに縛り付けたらどこで発散するかっていったら、知らないところで発散するわけじゃないですか。

うちの全校朝会は皆ワッシャワッシャ、ギャーギャー言いながら集まってくる。僕はパイプ椅子に座っているんですけど、生徒は皆やんや言ってるんですよ。でも教務主任が「起立」と言った瞬間、その場が一気にシーンってなる。

遊ぶときは遊んで、騒ぐときはバカ騒ぎしろ、でもやるときはやれよっていう話なんですよ。要はメリハリだと。

だから休み時間、本当にうるさいですよ(笑)

取材当日の昼休み、この中庭では文化祭の事前オーディションが行われており、まるでカラオケ大会のような盛り上がりだった。

取材当日の昼休み、この中庭では文化祭の事前オーディションが行われており、まるでカラオケ大会のような盛り上がりだった。