名刺自体がネタになる「次世代の紙」を生み出したベンチャー

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破れないし、濡れても文字が書ける。そんな紙があると聞いて、実際に見てみたらすごかった。

 

これは新世代の紙と言われる、LIMEX。

ポールペンのインクの乗りもいい、レーザープリンターでも印刷できる。従来の紙と同様に、用途は本やノート、名刺など。タフな性質から、野外用のポスターやパンフレットにも使える。将来的には、簡易的な傘としても活用できるそうだ。


 

耐水性も耐破損性に優れるLIMEXだが、「次世代の紙」と言われる理由は他にある。キーポイントは、日本国内でも自給率100%の石灰石を素材としたストーンペーパーである点だ。石灰石は世界各地の埋蔵量も豊富で、リサイクルの効率が高いのも特徴という。

通常、普通紙を1トン作るのに使用する樹木はおよそ20本、そして約100トンの水が必要。これに対してLIMEXは、石灰石が0.8トン、ポリエチレンが0.2トンで、1トンのLIMEXの紙を作ることができる。パルプ(樹木)を使わないことから、水も使わない。プラスチック商材の代替にもなるという「次世代素材」だ。

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普通紙を1トン作るのに使用する樹木はおよそ20本、そして約100トンの水が必要

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石灰石0.8トン、ポリエチレン0.2トンで1トンのLIMEXの紙が作れるという

開発・製造元は、2011年8月創業の株式会社TBM。4年目のベンチャーながら、すでに40億円を超える資金を調達。2015年2月には宮城県白石市に工場を落成し、量産を視野に入れている。

TBM代表取締役 山﨑敦義氏に次世代素材にかける思いを伺うと、未来予想図に「これは確かにイノベーションを起こす存在になる」という印象を深くした。

TBM代表取締役 山﨑敦義氏

TBM代表取締役 山﨑敦義氏

新素材のインフラそのものが商品になる

「ストーンペーパー」が実現した理由

すべての紙を置き換えられるとは思ってないです。我々が活躍できる分野と、やっぱり既存のパルプの紙が活躍できる分野っていうのは、分かれてくるので。LIMEXは、紙の分野で言うなら、付加価値の高いパンフレットのような紙の置き換えには適していると考えています。

例えばシールラベルは日本で5000億ぐらいの市場があって、グローバルでは8兆円規模になり、すごい大きなマーケット。そんな消費材って結構あるんですよ。

日本人って紙を1人あたり年間二百数十kgぐらい使うんです。でも、中国はまだ5~60kg、インドは20kgに満たないくらいで。人口増加でこれから産業化が進むところは、紙の代替としてニーズがあるんで、水を使わずに作れるLIMEXに切り替えれば、水資源の枯渇防止にもつながる。

–LIMEXで名刺を100枚作ると、どれくらいの水を削減できるのでしょうか?

パルプの紙で作ったときより10リッターの水が削減できます。日本にいると、あんまり水不足って体感値がないじゃないですか。でもグローバルで見たら石油より先に水が枯渇するっていうぐらい、水の問題が大きい。我々はこの日本から、グローバル目線で水資源の枯渇問題に貢献して行きましょう、と。

LIMEXで作ったクリアファイル

LIMEXの原料は石灰石とポリエチレンですが、これまでに同様のプロダクトが実現しなかった理由は?

いわゆる「ストーンペーパー」は、主原料を石灰石(原料の50%以上を石灰石)にすると均一な厚みに成型することが難しいと言われていました。弊社は機械設備や製造の知見を持った人材に重点的な投資をすることでこの課題を解決しました。開発の基本となる特許や、関連する周辺の特許を押さえているのも強みですね。


燃えるゴミの日にだせる、プラスチック代わりの製品にもなる

- LIMEX WEBサイトには、プラスチックの代用品にもなるという項目もありましたが。

需要があれば、プラスチック商材の代替品として作れます。LIMEXの主原料は石灰石だから、石油が原料の樹脂だけで作ったプラスチック製品と、LIMEXプラスチックで作った製品を比べたとき、石油の使用量も減らせる。石油資源の枯渇問題に貢献できるので、食品の容器もやっていこうと思いますね。

-例えば牛乳パックや豆腐のケースになったりとか。

そうね。ありとあらゆるところで使ってもらわないとね。うちの工場から湯気出るぐらいまで機械動かさんと(笑)

去年は生産性に課題があったんですけど、品質としてはそれなりのものになった。実際にミラノ万博では協賛企業として参加し、LIMEXで作った紙袋とポスターを提供させて頂いたんです。僕らが何十億かけて工場作って、初めて製品できて、宮城で作ったポスターが実際にミラノで使われてる姿を見たら、そらやっぱ嬉しいですよ。

ミラノ万博で提供したノベルティグッズ

ミラノ万博で提供したノベルティグッズ

LIMEXは東京都のゴミ袋と配合比率が違うだけで、素材としては一緒なんですよ。だから廃棄した時の環境負荷もそんなに高くないっていうのもある。

じゃあ、普通に燃えるゴミに出せるんですか?

出せますね。日本には「容器リサイクル法」って法律があって、容器包装をやった時の原材料の仕入れとは別に1キロあたり47円っていうのを、容器リサイクル協会ってところに収めるようになっているんですけど、うちのLIMEXやと「プラスチック製容器」ではなくて対象外ですってのはもう協会のホームページにも書いて頂いたんです。将来的には僕らが回収のスキームを作って、リサイクルの仕組みを作るっていうのをやっていきたいですね。

-既に印刷された素材であっても、リサイクルはできるのですか?

リサイクルの定義をどう置くか、なんですけどね。リサイクルって「再資源化」なんで、別にこの名刺をもういっぺん白い紙にすることだけがリサイクルではないんですけども、色んなアプリケーションに作り変えていくっていうことは、印刷したものでもやれますね。

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水の少ない内地でも工場が作れるメリット

-日本以外の先進国でも期待されるものでしょうか。

アメリカなんかも水が無茶苦茶不足していますし、工場の多い中国も本当に水が不足していますし……。僕らのビジネスは小さい工場をどこででも作れるんで、中国とかアメリカとかの内陸部でも作っていけるのは非常にニーズがあります。だから紙を売っていくっていうよりは、それを作る工場インフラを輸出していって、向こうで産業作って雇用を生むのを僕らがやっていきたいと思ってます。

-インフラそのものを販売すると。

実際に話を進めてるんですけど、中近東の国なんかは、水がなくて紙が作れない。だけど人口増加で紙のニーズがあると。砂漠だから木もないし、水もない。でも石灰石は無茶苦茶ある。だからこそ、LIMEXを作る技術とかインフラを輸出するのが一番いいんだっていうのは、もう明確にわかってるんです。水不足のことに対して体感値の強い国っていうのは結構多いんですね。

とはいえ、日本もバーチャルウォーター(仮想水)の量は世界で一番なんですよ。食べ物を輸入するということは、その食材を育てるのに使った水も輸入していることになるのですが、その水のことをバーチャルウォーターっていうんです。だから日本は一番の水の輸入国やって言われてて。このこと、大きい食品メーカーや飲料メーカーは分かっているので、僕らができることは沢山あると思ってるんですけど。

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LIMEXの工場外観イメージ

まずは名刺で普及

-この1年、日本ではどのような展開をされていくんでしょうか。

今年はパイロットブランドである程度の製品を出すので、とにかく1人でも多くの人にLIMEXを使ってもらう・知ってもらう、どうやって浸透させていくか。まだ生産量も少ないんで、小さいアプリケーションに分けていきながら、いろんな人に行き届くように営業展開していきたいと思っています。

-例えば名刺100枚を作るとして、おいくらぐらいになるのでしょうか?

だいたい両面カラー100枚で1800円くらいで販売させて頂きます。また普通の紙と価格が変わらないかたちで提供もさせてもらってます。ストレスなく使っていただけるようにするにはどうしたらいいのかっていうのは考えないとね。

-名刺交換の時、絶対ネタになりますもんね。

そうですね。僕はいつも石屋さんですって言うてますけど(笑)