電通過労自殺事件などで仕事の手法やビジネスモデル自体が問われている広告業界で、ミレニアル世代はどう働き方を模索しているのだろうか?
電通イージス・ネットワークの2018年1月の発表によると、2018年、世界でデジタル広告費の割合は38.3%となり、初めてテレビ広告費(35.5%)を上回る見通しだ。
以前の常識が通用しなくなっている中、広告業界の若手はどのようにして生き残りを狙っているのか?従来の枠にとらわれず広告業界で働く「はみ出し系」クリエイター3人に話を聞いた。
イスラムマーケティングの第一人者に
- 松坂俊さん(33)/マッキャン・エリクソン
- はみ出しポイント:マレーシアと東京の2拠点生活
- 意識していること: イスラムマーケティングの第一人者になる
マッキャン・エリクソンのクアラルンプール支社で働く松坂俊さん。
1984年生まれの松坂俊さんは、外資系大手広告会社マッキャン・エリクソンに勤める。日本からクアラルンプールオフィスへと「はみだした」クリエイターだ。
いまは年に15回は東京とマレーシアを行き来し、その他多くの国で登壇や広告賞の審査などで世界中を飛び回りながら、 「日本のイスラムマーケティングの第一人者」をめざして、奮闘中だ。
転機は、2015年に参加したSWSX(サウス・バイ・サウスウエスト)。日本の広告の常識を超える展示の数々に、松坂さんは焦りを覚えたという。同時期に結婚したこともあり、これからの生活や子どものことを考え、日本にこのまま住んでいてもいいのかと悩み始めた。
世界にもっと目を向けようとこれからの世界の動きやカルチャーをリサーチしていると、松坂さんは「#MIPSTERZ」という聞きなれない言葉に出合う。
「イスラムってこんなにかっこいいんだ」
調べてみると、ムスリム人口は2015年時点で全世界で18億人を超え、世界人口の4人に1人。やがて世界人口の3人に1人まで増えていくという。
「日本人でムスリムマーケティングを理解したクリエイターになれば、唯一無二の存在になれるのでは」と、2017年、 マッキャン・エリクソンのクアラルンプール支社に異動することを直訴し、マレーシアに移住することを決めた。
「Stand Tall」とは、人が堂々と立つ、断固たる態度を取るという意味。
提供:松坂俊
しかし、日本人としてマレーシアで大きな仕事を請けるのは至難の技。そこで松坂さんは、ある社会貢献のプロジェクトを立ち上げる。それは、マレーシア人の友人が主催する、性暴力被害に関するNGOを支援するプロジェクトだった。
マレーシアでは、17歳以上で結婚していない人は、性的暴行を受けたときにそれを罰する法律がない。法律を変えるために活動している友人と共に、「Stand Tall」と名付けたキャンペーンを作ることにした。
結果、この活動は 2018年10月の発表を前に アクティビストやインフルエンサーを通じて話題に。さらに松坂さんのつながりを通じて、10月に主催するイベントには、マレーシアのワン・アジサ副首相を招聘する予定にまでなった。
このプロジェクトを通じて、松坂さんはマレーシアでのビジネスに手応えを感じている。
「マレーシアでは僕は外国人の立場なので、自分が何に貢献できるかを示さないと誰も認めてくれないと思っています。自分が何ができるかを示すことで、イスラム教の国で自分にしかできない仕事をつくっていければと思います」
「2018年にはTik Tokが来る」と予言
- 折茂彰弘さん(30)/株式会社GO
- はみ出しポイント:これから来るSNSやアプリの予言
- 意識していること:ユーザーがどうアプリを使っているかをひたすら観察
株式会社GOでプランナーとして働く折茂彰弘さん。
松坂さんと同じマッキャン・エリクソン出身で、2018年9月からは、クリエィティブエージェンシーのGOでプランナーとして働いている折茂彰弘さんは、これから「来る」アプリやSNSを予言する能力を強みにしている。
インスタグラムもまだ普及していなかった2013年頃。当時、女性たちがFacebookによくネイルの写真をあげている、という現象に気づいた。 その気づきが2年後、「ピュレグミ」のPRを担当した時に活きる。ネイルシールをつけ、SNS上で拡散させるというPRの方法を考案。この企画は、インスタグラムを使ったマーケティングの先がけ的な事例となった。
実は記者は折茂さんとは、2017年終わりに取材で会っている。「2018年に絶対に流行るもの」という企画で「Tik Tokは2018年にインスタを超えるアプリになる」とも予言している。
「だいたい『来るな』と思った1年後に、そのアプリが広告業界で使われるようになる印象です。Tik Tokも、これからもっと本格的に使われる気がします」
推しアイドルの名前を社名にしたクリエイター
- 名前:鶴見至善さん(36)/株式会社ひろろ
- はみ出しポイント:アイドル
- 意識していること:「アイドルと広告ビジネスは本質的に同じである」
株式会社ひろろの鶴見至善さん。「ひろろ」は鶴見さんの推しアイドルの名前。
「はみ出し系クリエイター」としてもっとも過激なのは、アイドルが好きすぎて博報堂から飛び出し、株式会社ひろろを立ち上げてしまった鶴見至善さんだ。
なんと社名は自分の自分の推しアイドル(9nineのメンバー、村田寛奈さん)のニックネームから名づけるほど。
中学生時代に好きになったモーニング娘。から、さまざまなアイドルを応援してきた。博報堂でも2017年の「第9回AKB48選抜総選挙」ポスターなどを手がけ、アイドル専門家として社内では知られた存在だったという。
それでも、博報堂の人間としてブレイク前のアイドルを起用するには限界がある。もっと純粋にアイドルたちに力添えをしたい ── と考え、選んだ道は独立だった。
アイドルオタクには、決して守らなければならない不文律があるという。それは「半オタ(関係者でありながらオタクでもある人たち)は刺せ」。鶴見さんも「刺される覚悟は常にある」と言い切る。
それでも 鶴見さんは、アイドルオタクだからこそできる仕事もあると信じている。
「『世の中で一見価値がないと思われているものを、プロデュースとマーケティングの力で売る』というのは、広告ビジネスとアイドルに共通する視点です。アイドルという存在から学ぶことのできる広告のエッセンスを伝えていければ」
(文・写真、西山里緒)
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