貿易リスク軽減にブロックチェーン、米中摩擦で脚光

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2018/9/17 2:00
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 貿易にまつわる金融にブロックチェーン(分散型台帳)技術を生かそうと、国をまたいだ金融機関の協業が活発化している。トランプ米大統領による中国製品への追加関税発動という米中貿易戦争の余波が全世界に広がるなか、複雑化する貿易金融の処理において少しでもリスクを減らしたいとの思惑もある。保守的な金融業界が新技術の本格導入を決断できるか、正念場を迎えている。

 世界各国の銀行や規制当局は、紙の書類のやりとりなど非効率な点だらけの貿易金融業務を電子化するために協力し始めた。英大手銀HSBCやスタンダードチャータードなどが、分散型台帳技術を活用した貿易金融の実証実験を進める様々なコンソーシアムに参加している。

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 もっとも、実用化を果たすには、規制や拡張性、セキュリティーを巡る問題にも対処しなくてはならない。

 貿易金融へのブロックチェーン技術の活用が重要な理由は、貿易金融の規模が巨大なことが挙げられる。貿易金融は17兆ドル(約1900兆円)規模に上る国際貿易市場を支え、5兆~10兆ドル相当の貿易を請け負っているとされる。一方でいまだに約1.5兆ドルの需要が満たされていないという実態がある。

 そもそもなぜ今になり、ブロックチェーン活用が注目されているのか。皮肉なことに米中貿易戦争の“追い風”もある。銀行は貿易金融で買い手と売り手に融資を提供し、国際貿易を円滑化する。だが米国と中国をはじめとする各国との貿易戦争の激化を受け、各行は技術革新によるリスク削減に注目しているためだ。

 金融機関は次のような対応を進めている。短期的には、コスト削減と効率化を進めるため、手作業によるプロセスを減らし、信用状などの重要書類を電子化している。一方、ブロックチェーン技術の本格導入によるプロセス刷新をめざしている銀行もある。

 この動きは増える傾向にある。メディアが「貿易金融と分散型台帳技術(DLT)」について言及した回数は急増し、「貿易金融」だけに触れた回数を大きく上回っている。

メディアが「貿易金融」などに言及した回数

メディアが「貿易金融」などに言及した回数

 ニュースで取り上げられる機会が増えているのは、銀行や規制当局が実証実験を進めるブロックチェーン技術の大型プロジェクトが相次いでいることも関係している。

 今回の分析記事では、主なブロックチェーン・コンソーシアムのうち、「Voltron(ボルトロン)」「Marco Polo(マルコポーロ)」「Batavia(バタビア)」「we.trade(ウィートレード)」「HKTFP」の5つを取り上げ、ブロックチェーン技術の貿易金融への応用や、最近の活動、主な成果について調べる。

貿易金融のブロックチェーン・コンソーシアム

貿易金融のブロックチェーン・コンソーシアム

 貿易金融にブロックチェーン技術を活用するメリットは計り知れない。トレーサビリティー(履歴の追跡)や透明性が高まり、業務も効率化できるからだ。さらに安全性が高く、信頼できる関係者だけが参加するグループにアクセスできるため、銀行はこの技術を大いに評価している。さらに、インボイス(送り状)の追跡から書類の電子化に至るまで、あらゆる貿易取引や業務の透明性を高められる。

 この技術はまだ新しく、銀行はクローズド型の環境が好ましいと考えている。追加規制への対応コストやセキュリティーの問題もあるため、他行と提携することで貿易金融業務の効率化をめざす概念実証(PoC)の設計や実施に取り組んでいる。

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