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ヒッグス粒子崩壊を観測 質量の起源であることを確認

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/9/17

ナショナルジオグラフィック日本版

スイスのジュネーブ近郊にある欧州原子核研究機構(CERN)のATLAS検出器。ATLAS実験チームは今回、別の実験チームとともにヒッグス粒子の崩壊を観察した(PHOTOGRAPH BY BABAK TAFRESHI, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

 物理学者たちは数十年にわたって、「神の素粒子」と呼ばれるヒッグス粒子を探してきた。これは宇宙を満たし物質に質量を与えると考えられる粒子で、1964年にこの理論を提唱した1人である英国の物理学者ピーター・ヒッグス氏にちなんだ「ヒッグス粒子」という呼び名で知られる。2012年、ヒッグス粒子はようやく発見され、翌年ヒッグス氏は、フランソワ・アングレール氏とともにノーベル賞を受賞した。

 ヒッグス粒子は発見されたものの、さらに研究を進めるために、現在、理論上起こりうる現象の観測が行われている。今回、物理学者らが確認したヒッグス粒子のボトムクォーク(6種類あるクォークの1つ。クォークは物質を構成する要素)への崩壊もこうした観測の1つで、ヒッグス氏の理論を裏付けるものとなった。

 この研究は、ヒッグス粒子の崩壊を予測していた理論素粒子物理学にとっても、数十年がかりで実験装置を建造した欧州原子核研究機構(CERN)にとっても、非常に大きな業績だ。2018年8月24日付けで論文公開サイト「arXiv」に論文が発表され、同時に学術「Physics Letters B」に投稿された。

 「自分たちの目で確認できるのか、確信はありませんでした」と、ATLAS共同実験グループの副報道官をつとめるCERNの物理学者アンドレアス・ヘッカー氏は打ち明ける。「多くの人が今回の成果に喜んでいますが、なかでもこの実験に長年携わってきた人々の感慨はひとしおです」

 とは言うものの、ヒッグス粒子とは? ボトムクォークとは? 崩壊を確認できたことがなぜ重要? といった疑問を抱く人も多いだろう。順を追って説明していこう。

■ヒッグス粒子をおさらい

 私たちの宇宙を構成する素粒子とその相互作用について、とてもよく説明できる「標準モデル」という理論がある。ヒッグス粒子はその鍵となる粒子だ。

 1960年代、アングレール氏やヒッグス氏らが、標準モデルをアップデートして、光子(光の粒子)など質量を持たない素粒子と、質量を持つ素粒子がある理由を説明した。彼らは、現在の宇宙はヒッグス場の中に浸っており、ヒッグス場と相互作用する素粒子には2種類があるという理論を提唱した。光子などの素粒子は、そこになにもないかのようにヒッグス場を通過する。対して、ほかの素粒子は、あたかも水飴の中のようにヒッグス場の中を移動する。その抵抗が素粒子に質量を与えるというのだ。

 2012年のヒッグス粒子発見の発表はノーベル賞につながるものだが、厳密には、この粒子が標準モデルのヒッグス粒子とまったく一致すると証明されたわけではない。そこで発見以来、物理学者たちは、ヒッグス粒子が理論どおりに振る舞うかどうか検証を続けている。

■クォークとどう関係があるのか?

 寿命が数十億年もある電子とは異なり、ヒッグス粒子の寿命は驚くほど短く、10のマイナス21乗秒にも満たない。このわずかな時間が過ぎると、ヒッグス粒子は崩壊してさらに細かいほかの素粒子に変わる。2014年には、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の検出器であるATLASとCMSの共同実験チームが、ヒッグス粒子が1対のガンマ線光子へと崩壊する過程を観測したと発表している。

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