大衆演劇の入り口から[其之二十九] 三人語り!澤村千夜×澤村丞弥×澤村悠介 劇団天華ロングインタビュー
澤村悠介花形(左)・澤村丞弥副座長(中央)・澤村千夜座長(右)
大阪をホームグラウンドに全国で公演する劇団天華(てんか)。古典物に取り組む一方で(例:『鏡獅子』『籠釣瓶』)、二次元コスプレを取り入れるなど(例:『進撃の巨人』『刀剣乱舞』)、バラエティ豊かな舞台内容もさることながら…。チームとしてのあり方が面白い。メンバーは血縁ではない。さまざまな経歴の座員が舞台にのびのび立っていて、ベンチャー企業のような風通しの良さを感じさせる。
2017年は大きな変化の年だった。6月、長年に渡って劇団を支えた副座長(※)が独立。11月、新たな副座長・花形が誕生した。座長・新副座長・新花形にSPICEに登場いただき、今思うことを語ってもらった。<取材日12/16 堺駅前羅い舞座(大阪府)>
※澤村神龍(さわむら・じんりゅう)さんは2017年10月に劇団神龍を旗揚げ。
座長 澤村千夜(さわむら・せんや) 2008年の劇団旗揚げから10年。喜怒哀楽の振り幅が大きい芝居で、客席の涙や笑いを引き出している。座長が客席に与えたいという「感動」の真意とは?
副座長 澤村丞弥(さわむら・じょうや) 2017年11月、花形から副座長に昇進。王子様のような美貌の持ち主。丁寧に紡ぐ芝居も心を打つ。求めている「今までの自分にないもの」とは?
花形 澤村悠介(さわむら・ゆうすけ) 2017年11月、生徒会長から花形に昇進。26歳の若さながら、親分から三枚目まで「役らしさ」のある的確な演技が光る。しかし、花形になってからの悩みとは?
「2人ともわかってくれてるんだなって」
――まずは11月に丞弥さんが副座長、悠介さんが花形になられた話から聞かせてください。最初にお話が出たのはいつだったんですか?
澤村悠介花形(以下、悠介):3か月前の8月です。毎年8月は劇団としての公演はお休みで、各自が色んな劇団さんにゲストで出演させてもらっているんですけど。
澤村千夜座長(以下、千夜):たまたま3人全員がゲストで琵琶湖座(滋賀県)に揃った日があったんです。
澤村丞弥副座長(以下、丞弥):琵琶湖座の楽屋で、座長から話をしていただきました。「なる?」って。
――聞き方がカジュアルですね(笑)。どんな心境でした?
丞弥:僕は正直、複雑でしたね…。素直に喜ぶ前に不安のほうが大きかったです。副座長として人を引っ張るほどの実力が自分の中にないと思ったし、でも副座長のイメージ通りの自分にならないといけないんだろうなって、なおさらプレッシャーで。だから座長からそう言われたときも、何も返答できなかったんですよ。しーん…ってちょっと黙っちゃうみたいな。
千夜:強制ではなかったけどね。もし襲名するなら大きいところで襲名公演もしてあげたいと思って、11月の公演先がちょうど梅田呉服座(大阪府)やったから。
――じゃあ、やっぱり最終的には丞弥さんがイエスって言って決まったんですね。
丞弥:…イエスって言うたかな…。
一同:(笑)
丞弥:でもまぁ、自分だけじゃなくて劇団全体の問題ですし(笑)。
――悠介さんは花形襲名について、どんなお気持ちでしたか。
悠介:まさか自分が、っていうのが大半です。6月に神龍副座長(当時)が退団してから、7月はもう怒涛の一か月で一日一日の公演が精一杯でした。自分のことまで考える余裕はなかったので、驚きしかなかったです。
千夜:他の劇団さんでも、大きい役職を付けようとすると「無理です」って最初は断ったって話も聞くから、プレッシャーはわかるよ。特に副座長。副座長ってガイドブックもマニュアルもないし、絶対これをしなきゃいけないっていうのもない。俺も副座長やったことあるけど、人に副座長ってどういうもの?って聞かれたら答えられないし。ただ俺の認識では……劇団でNo.2の人。かつ、俺がいなくても劇団を回せる人。なおかつ、俺と同じ景色を見れる人、つまり同じ目線で座員さんを見れる人かな。
――それはご自身が副座長だった時代に心掛けていたことなんですか?
千夜:いや、俺自身もできてなかったですね。今言ったような理想はあるけども。だから丞弥くんも、副座長ってどうなん?って言われてもわからんよね。
丞弥:そうですね、とりあえず朝が苦手なんで寝坊は無くしていこうかと…。今月は1回しか遅刻してないですし。
――何か起きるコツをつかんだんですか?
丞弥:いや、みんなが極力起こしてくれるんです(笑)。先日の遅刻は横断歩道を待ってて、3分だけやらかしてしまいました…。
千夜:まぁ、副座長になると遅刻した人間を怒らないといけないから、自分が怒れないような状況を作ったらいかんということですね。でも、舞台では丞弥くんは今、副座長として自覚が出てきたんだろうなって思います。たとえば11月の梅田でゲストさんがたくさん来てくれたとき、みんなで踊り合わすとかはほんとは俺がやるべきなんやけど、丞弥くんが自分から率先してやってくれて。すごい助かったし、嬉しかった。悠介にしてもね。ああ、2人ともわかってくれてるんだなって。すっごいありがたかった。そのとき言わんかったけども…。それぞれの襲名公演のお芝居に関しても全部自分で決めるように言ってたけど、2人ともほんとに良いお芝居して、ほんとに頑張ったなぁって。今2人とも変わりつつあるんだろうなって、僕にはそう見えてます。
悠介花形「対談というとこんな感じですかね?」千夜座長「それは力入りすぎやろ…(笑)」
終始和やかな雰囲気。
自己分析:どんな役者ですか?
――今回お聞きしたいと思っていたのが、三者それぞれ、自分の役者としてのカラーをどんな風に自己分析しているのかっていうことです。それでは千夜座長からお願いします。
千夜:う~ん…芝居に関しては負けたくないっていうのはありますね。
――どういったところで負けたくないですか?
千夜:芝居の評価は観る側がするものやから、俺が100点って思っても、お客様が10点って思ったら10点なんやろけど…。まず、人を感動させる芝居をしたいと思ってるんです。で、俺の中の「感動」っていうのは、みんながイメージしてるような映画観て感動した~とかっていう感動とちょっと違うんよ。「感情を動かす」と書いて感動なんで、観に来た人の感情をどれだけ動かせるか。楽しくさせるのも、悲しくさせるのも、不快にさせるのも全部含めて、どれだけ人の気持ちを動かせるか。感情の振り幅、これが大きいかどうかだと思ってます。
――お客様からどんな感想があったときに、「感動」させられたんじゃないかなって思われますか?
千夜:芝居やりながら、第三者の目で見て自分で判断しますね。ああ、めっちゃ泣いてくれてる、笑ってくれてる、スリリングなハラハラするシーンだったら息を飲むのも忘れるような緊張感で観てくれてる…そういうのをどっかで見ています。というか肌で感じます。お客様はすごいもの、良いものを観てるときは絶対真剣に観てくれますから。喋らないし、寝ないですから。
――2017年にされたお芝居の中ではいかがでしたでしょうか。
千夜:自分的には誕生日公演の『おさん茂兵衛』が良かったかな。内容もさることながら、劇団メンバーが一生懸命、なおかつ役者のプライドを持って演じてくれてた。丞弥、悠介、(沢村)静華ちゃん、(蘭)竜華さん、(喜多川)志保さん、みんな。
劇団天華女優陣。喜多川志保さん(左) 沢村静華さん(中央) 蘭竜華さん(右)
千夜:そのとき気づいたのは、みんなの芝居のレベルってちゃんと上がっとんやなと。だから、今どの芝居やっても、クオリティはワンランク上がってるって感じるかな。
一演技者としても劇団のリーダーとしても、明確に自分の考えを語ってくれた千夜座長。
千夜:(丞弥さん・悠介さんのほうを見て)でもね、本人たちは自分の成長に気づいてないと思いますよ、絶対。
丞弥:自分ではわからないですね、全然…。でも、座長の変化は肌で感じます。自分が劇団入って間もない頃の座長の芝居と、今の芝居は全然違うなって。ただ入った当時は、まず自分が芝居のこと全然わかれへんし、セリフを常に覚えていかなあかんってことが先やったんで。ようやくちょっとずつ色々覚えていくようになった頃、あぁ俺、座長のこういうとこ好きやなとか、お芝居の仕方いいなって感じられるようになって。たとえば個人的にめちゃめちゃ大好きなのは、『三人出世』(※)で座長が演じる「友」の役ですね。
※大衆演劇定番芝居の一つ。同郷の三人が江戸に出て出世比べをする。主人公の友は頭が弱いが、真心を見失わない男。
丞弥:友はお芝居っぽく「作りすぎる」感じがあると、観てる人が入り込めないんじゃないかなって。だから座長が少しずつアドリブを加えていく様子を見て、すっごい好きやなって。一緒に舞台に立ってても、友のセリフを聞いてると泣けてきます。
――先ほど座長から、丞弥さんご自身のレベルアップにも言及がありましたが。
丞弥:自分のことは見えないですね…。自分はセリフ一つにしても「あっ、今の感情の入れ方間違ってる、違う」ってすごい違和感を感じるときもあれば、言った後に「うわ、今のめっちゃセリフ言いやすかった」ってふんわり感じるときもあるし。他のメンバーがどう来るかなとか待ち構えすぎたり、色々考えすぎたりすると、入り込めないのかなって思います。
――試行錯誤されているんですね…。丞弥さんは、ご自分が主演される芝居で『喧嘩屋五郎兵衛』『遊侠三代』『下北の弥太郎』などを選んでいます。任侠ものや男らしい演目がお好きなんでしょうか?
丞弥:というか、泣ける芝居が好きなんですよ。明るい芝居もいいなと思うんですけど、じ~ん…と泣けるお芝居が大好きです。お客さんとして観ていたときも、そういう芝居は舞台から感情がわーっと入ってきて、いいなぁと思うことが多かったんで。
――なるほど…。それでは、役者としてのカラー、これは行ける!みたいな路線を教えてください。
丞弥:行けるという自信は一つもないです(笑)。
千夜:丞弥くんの得意ジャンルってことでしょ?
――はい。大衆演劇ファンの間では、丞弥さんはきれいな王子様っていうイメージが強いかと思います。
丞弥:もともと、きれいなものに憧れてたんです。役者になる前から美しいものが大好きやったし、役者になってからも自分がきれいやって思える役者さんばっかり研究しましたね。そういう役者さんをちょこちょこ観に行って勉強して、あぁ、この人のこういうところすっごいきれいや、とか。ずーっとそういうきれいな部分ばっかり欲しくて、目指してきたので……。逆に今、自分にないものが欲しくて。言葉が悪いですけど、汚(きった)ね!ってくらい汚い感じのものとか(笑)。そういうドロドロした感じが、この歳になって欲しくなってきたかなって思います。
――それは、どなたか参考にされたりするんですか?
丞弥:僕はそういうのは基本、座長を参考にしますね。
――身近に!それでは2018年は新しい丞弥さんが観られそうですね。
丞弥:はい、30歳を超えたので、今後は大人っぽいもの、おじさん的なものにも挑戦していきたいなと思います。
少女のような女形の丞弥副座長は大人っぽいものにも挑戦していくという。
――それでは悠介さんはいかがでしょうか。ご自分の持ち味について。
悠介:いや…もう、むちゃくちゃですね(笑)。
――むちゃくちゃですか(笑)。
悠介:これは自信がありますって言えるものがないので……。
――歌舞伎を元にしたものとか、古典物はいかがですか?「悠介祭り」の日に『源氏店』のショーをされたり、花形襲名公演では『曽根崎心中』の芝居をされていると思います。
悠介:古典は好きではありますけど…。お客様に申し訳ないですが、『曽根崎心中』のお初役にしても自分的には常にどこか落第点ですし、古典に自信がありますからやります、でもないので。今は自分の中でどれを伸ばしていこうか、どれを自分のカラーにしようかって悩んでます。まだ答えは見つからないですね。幸いなことに、劇団入ってから環境に恵まれてたんですよ。お芝居でも三枚目とか親分とか色んな役を付けていただいて、指導していただいて。だから多分、他の劇団の若手さんからしたら恵まれた立場にいると思うんですけど、それゆえか、どの持ち味を生かそうっていうのが定まらないんです。
――千夜座長から、弟子としての悠介さんを見るといかがでしょうか。
千夜:悠介は、何の役をさせてもセリフはちゃんと覚えるよ。声も出てる。ほんとにすごいと思う。だから常に平均点以上は出してくるんですけど、でも90点以上は出さんかなぁっていう感じかな。なぜかというと、まず形。
――形…ですか?体の?
千夜:そう。今日(12/16)の芝居でも、丞弥と悠介の立ち回りを後ろから見てて思いました(※)。
※12/16の芝居『喧嘩屋五郎兵衛』で、丞弥副座長演じる五郎兵衛と、悠介花形演じる下緒の伊之助の立ち回りがあった。
千夜:下緒さんのほうが二枚目役やから、立ち回りも悠介のほうが形がきれいでないといけないんです。逆に五郎兵衛は荒々しく、オラぁって感じの立ち回りをせないかんのですけど。丞弥の形がきれいすぎるのもあって、悠介はまだ無駄足が多いし、形が良くない。手は完全に合ってるんですけどね……。
――芝居を成立させるのにセリフや表情だけでなく、「形」も重要なんですね。
千夜:そうですね、丞弥の形って業界でも随一くらいにきれいやと思うんです。基本、何させてもきれいです。振り返らせても、こけさせても、走っていって止まらせるだけでも。だから動きに関しては、悠介は丞弥をすごくパクるべきやと思う。逆に、丞弥はきれいすぎるかもしれない。きれいさが身体に染み込んでて、立ち回りの荒々しさとかが出ないんよね。そのへんは殻が固いかなって。
――それぞれの課題があるんですね…。
毎日の公演でそれぞれの芸を伸ばしていく。(ショー『鏡獅子』)
千夜:ただ、悠介が今頭打ちになってるのは、ここまでの成長があまりにも早く来ちゃったからですね。自分の弟子を持ち上げるようで申し訳ないんですけど、同じ年数の他の役者さんには絶対負けないと思います、こいつの芝居は。大会にも自信持って出せるし。でも、ここまで一気に芝居が伸びすぎちゃったからこそ、それに形的なものが伴ってきてないんですよね。
――花形に昇進されたことも、悠介さんが悩まれている一因でもあるんでしょうか。
悠介:そうですね、僕のイメージですけど…花形っていうポジションはやっぱりいつもかっこいい姿を見せるものだと思います。お客様にも、あの人が花形だなって納得していただけるような。役職をいただいた以上、今までのニコニコしていた自分からは変わっていかなきゃと思ってます。
千夜:今は、悠介が自由に伸びることができる状況にはなったんです。ただ、いざ解放されてみると、思いのほか上がりたくても上がれないっていう葛藤なんでしょうね。
悠介:お芝居にしても、何にしてもそうですね。
――今は模索の日々かと思いますが、悠介さんが2018年以降、こういうのをやってみたいって描いている構想を教えてください。
悠介:古典物にはやっぱり挑戦していきたいですね。うちの劇団は『おさん茂兵衛』とか『籠釣瓶』とか、古典をアレンジしたり歌舞伎から台本を起こした芝居もやっていますし。それから僕が入団した2011年の座長の誕生日公演の芝居が『牡丹灯籠』でした。一体何年先になるかわからないけど、いつかやってみたいと思っています。
悠介花形は日々成長中。はつらつとした舞台ぶりがこれからを期待させる。
千夜座長の発言で印象的だったことがある。
千夜:僕の考えですが、やっぱり役者さんのお芝居の評価点っていうのは、どれだけ人を「感動」させられるかっていうことじゃないでしょうか。「人の心を動かす」って、僕らこういう演劇業界の人間にのみ、許されてる仕事やと思うんですよ。お客様をハラハラさせて、悲しくさせて、笑わせて……これほど人の気持ちを動かすことのできる商売は他にないと思ってます。
横で丞弥副座長・悠介花形がじっと聞き入っていた。
劇団天華は面白い。自由な空気の中を各人が走っていく。あれがやりたい、これはどうだと模索しながら。客席に泣いてもらうため、笑ってもらうため…全員の目指す先には「人の心を動かしたい」という同じ華がひらいている。
1月 やまと座(奈良県)
2月 御所羅い舞座(奈良県)
3月 七福座(和歌山県)
4月 堺東羅い舞座(大阪府)
5月 琵琶湖座(滋賀県)
6月 大江戸温泉物語ながやま(石川県)
期間:1/1(月)~1/30(火)昼の部まで
会場:やまと座 公式サイト
時間:昼の部12:00~15:00 夜の部:18:00~21:00
料金:大人1700円
問い合わせ先:0745-82-1111
奈良県宇陀市榛原萩原2445-6
●近鉄大阪線「榛原駅」から徒歩2分
●名神国道「針IC」から吉野方面へ20分
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